選ばれる組織へ~自治体の『人材確保・育成』改革~⑤自治体の組織を変える「ツボ」
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二つの組織課題
前回は多くの民間企業が注目し、組織づくりの指標として活用している「エンゲージメント」について解説した。今回は、自治体を対象にしたエンゲージメントサーベイの結果から、自治体の実態と組織づくりのポイントとなる考え方を解説する。
自治体組織の2つの課題
自治体を対象に実施したエンゲージメントサーベイの結果、自治体は民間企業に比べ、エンゲージメントが低い組織が多いことが分かった。サーベイの結果を分析すると、その要因として以下の2点が見えてきた。
①採用段階で仕事の魅力や働きがいを訴求できていない
サーベイの項目のうち、「事業内容」「仕事内容」を期待しておらず、満足度が低い傾向にあった。普段から仕事の目的や意義に立ち返る機会が少なく、コミュニケーションが業務内容に偏っていることがうかがえる。
また、これまでの自治体組織を束ねる軸となっていた「市民への貢献度」や「街づくりに対する意義」などに対する期待は下がり、今では「施設環境の良さ」や「制度や待遇の良さ」などへの期待が高い傾向にあった。つまり、「働きやすさ」を求めて入庁している人が多いといえる。
このことから、採用段階から魅力や働きがいを訴求できていない状況がうかがえる。本来訴求すべき仕事のやりがいや面白さ、組織として目指す方向性などが語られていないのではないだろうか。
②上司と部下の関係性が希薄化している
上司に関する項目のうち、「毅然とした態度を示すこと」「行動指針や考え方を示すこと」「部下の強みを把握すること」などは満足度が低い傾向にあった。一方で、部下に寄り添い、その業務や成長を支援する「支援行動」に対する満足度は高い傾向が見られた。つまり、上司から厳しいことは伝えておらず、上司が寄り添うようなコミュニケーションが多くなっている状況が見て取れる。
実際の声を聞いたところ、ハラスメント研修などコンプライアンス強化を過度に求めた結果、上司が部下とコミュニケーションを取りにくくなっているという話をよく聞く。部下に対して必要以上に気を使う上司が増え、関係性が希薄になっているといえよう。
組織を変えるポイントは「捉え方」
お伝えしてきた通り、各自治体が抱えている組織課題は共通点が多い。組織内で何らかの問題が生じたときによくあるのは、「Aさんが悪い」「Bさんのせいだ」というように、個人の責任にするケースだ。また、前述の課題においても「人事が良くない」「若手の価値観が…」と、何かに要因の押し付けたくなる気持ちも分かる。
ただ、それでは本質的な解決には繋がらない。なぜなら、組織とは様々な要素が複雑に絡み合う集合体であり、組織の問題は「個人」や「要素」に起因するのではなく、個人や要素の「間」に生じるものであるからだ。当社では、こうした組織の特性を踏まえ、組織とは「要素還元できない協働システムである」と定義している。
分かりやすく例えると、組織は機械ではなく「生き物」であるといえる。機械であれば、故障しても部品を交換すれば再び動くようになる。しかし、生き物が病気になったときは、そう簡単にはいかない。風邪を治すには、薬を飲むだけでなく、栄養をとり、身体を休めるなど、複合的に対処する必要がある。
同様に組織づくりも一つの課題に対して一つの対策を行うだけで解決するものではない。この捉え方が非常に重要である。
例えば「上司と部下のコミュニケーション不足には1on1」などのように、一つの課題に対して1つの施策を対応させるとする。しかし、組織を生き物と捉える以上、このような部分的対応では根本的な改善につながらない。
つまり、前述の組織の課題に対しても、重要なのは「採用」「育成」「コミュニケーション」「配置/異動」など、組織を構成するあらゆる要素を考慮して、施策を「全体接続」しなければ組織は変わっていかない。
中でも特に重要なのは、エントリーマネジメント(採用活動)や、管理職のヒューマンマネジメントへの取り組みだ。この二つを軸にしながら、組織変革に取り組むことがポイントである。読者の皆様には、自治体組織が抱える組織課題を踏まえ、「選ばれる組織づくり」に向けて取り組んでいただきたい。
※本稿は、『都政新報』2025年2月7日付「選ばれる組織へ 自治体の『人材確保・育成』改革 」に寄稿した記事を再編集したものです。
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