■調査背景
当研究所の前回のレポート(※)では、従業員エンゲージメント向上の鍵はミドルマネジャーにあることが示された。では、その主人公たるミドルマネジャーにはどのような特徴があるのだろうか。当社で実施しているミドルマネジャー対象のサーベイ(マネジメントサーベイ)結果を分析し、日本のミドルマネジャーに共通する課題を考察した。
※参考:「従業員数と従業員エンゲージメントの関係」に関する研究結果を公開
▼マネジャーの育成ポイントをまとめた資料「マネジメント育成の手引き」ダウンロードはこちらhttps://www.motivation-cloud.com/whitepaper/no_19/
■調査概要
【マネジメントサーベイの概要】
マネジャーのマネジメント状態を診断するためのサーベイ。質問項目は、全体的な満足度を問う「総合満足度(※1)」と、「マネジャーに求められる『4機能』」(※2)から構成されている。サーベイでは全40の質問項目に対し、マネジャーの上司、マネジャーの部下が「何をどの程度期待しているのか(=期待度)」、「何にどの程度満足しているのか(=満足度)」について「非常に期待(満足)している(5)」から「全く期待(満足)していない(1)」までの5段階で回答する。回答結果は、期待度×満足度の2軸で整理された「4eyes®Windows(※3)」で編集され、期待度と満足度が共に高い右上の象限を「強み」とし、期待度は高いが満足度は低い左上の象限を「弱み」とする。
【調査対象】
2015年1月~2019年9月にマネジメントサーベイを実施した198社、のべ23,632名。
■調査結果
①日本のミドルマネジャーは専門性が高く、厳格性が低い傾向にある。
ミドルマネジャーの総合満足度
マネジメントサーベイの上司回答版の総合満足度平均を表1、部下回答版の総合満足度平均を表2に示す。この結果より、日本のミドルマネジャーは専門性が高く、厳格性が低い傾向にあることがわかる。
②日本のミドルマネジャーの多くは、上司から「短期的な成果追求」「業務管理とサポート」が強みと考えられている一方、「外部環境の伝達」「中長期的視点と業務改善」は弱みと考えられている。
上司から見たミドルマネジャーの強みと弱み
マネジメントサーベイの上司回答版の強み、弱みの出現率上位8項目を図3、4に示す。
強みの出現率の上位には、「1位:短期的な成果の追求」「2位:自部署使命の重視」「3位:発言の実行と成果の追求」「6位:問題の即時報告」「8位:自社課題の確認」があり、「自部署の使命を重視し、短期的な成果を追求できている」とまとめることができる。他には、「4位:業務の進捗管理」「5位:部下の業務サポート」「7位:業務クオリティーの重視」があり、「業務クオリティーを重視し、進捗を管理しながら部下をサポートできている」とまとめることができる。
一方、弱みの出現率の上位には、「1位:顧客ニーズの伝達」「4位:市場変化の伝達」「5位:業界動向の伝達」「8位:競合動向の伝達」があり、「外部環境の変化に関心が薄く、自部署に伝えることが出来ていない」とまとめることができる。他には、「2位:中長期的な成果の追求」「3位:全社視点で役割を担う姿勢」「6位:目標達成方法の伝達」「7位:業務フローの改善」があり、「中長期的視点、全社視点で目標達成の方法を考えることができておらず、業務フローの改善ができていない」とまとめることができる。
③日本のミドルマネジャーの多くは、部下から「状況把握と支援行動」「トラブル確認と意思決定」が強みと考えられている一方、「部下の成長促進」「戦略提示と意識統合」は弱みと考えられている。
部下から見たミドルマネジャーの強みと弱み
マネジメントサーベイの部下回答版の強み、弱みの出現率上位8項目を図5、6に示す。
強みの出現率の上位には、 「1位:部下への支援行動」「2位:オープンでフランクな姿勢」「5位:部下の意見の傾聴姿勢」「6位:上位役職者からの要望把握」「7位:部下の成果の確認」「8位:部下の強みや持ち味の把握」があり、「親しみやすく、上位役職者・部下の意見・状況を把握した上で、部下の支援ができている」とまとめることができる。他には、「3位:トラブル状況の確認」「4位:即時の意思決定」があり、「トラブル状況を確認し、即時の意思決定ができている」とまとめることができる。
一方、弱みの出現率の上位には、「1位:評価基準の提示」「5位:部下の成長の方向性提示」「7位:業務のノウハウ伝授」「8位:率先垂範行動」があり、「基準を提示・体現できておらず、部下の成長を促しきれていない」とまとめることができる。弱みの項目には他に、「2位:戦略遂行の具体策の明示」「3位:対立時の葛藤解消行動」「4位:自社の戦略や方針の伝達」「6位:職場への要望や希望の把握」があり、「自部署の戦略を明示できておらず、部下の要望や希望を踏まえた上で意識を統合できていない」とまとめることができる。
④日本のミドルマネジャーは、上下の結節点として板挟みの葛藤を抱える存在である。
ミドルマネジャーの上司と部下のギャップ
マネジメントサーベイ上司回答版の期待度と満足度の乖離が大きい上位8項目を表7、部下回答版の期待度と満足度の乖離が小さい上位8項目を表8に示す。
この結果より、上司回答版の「6位:部下の挑戦機会の創出」の期待度が高く、満足度は低いことがわかる一方、部下回答版の「1位:部下への権限委譲」の期待度が低く、満足度は高いことがわかる。これは、上司からは「部下に挑戦させよう」と要望されている一方で、部下は「もう十分任されています」と認識していることを表し、ミドルマネジャーは、上下の結節点として板挟みの葛藤を抱える存在であることを示唆している。
■結論
日本のミドルマネジャーは専門性が高く、厳格性は低い傾向にある。ミドルマネジャーは、専門性を武器としたプレイングマネジャーではなく、時には厳格性も発揮し、部下の主体性を引き出すモチベーションマネジャーであることが重要だ。
当研究所の前回のレポートでは、従業員エンゲージメント向上の鍵がミドルマネジャーにあることが示された。では、その主人公たるミドルマネジャーにはどのような特徴があり、如何に成長していけばよいのだろうか。
今回の調査結果から見えてきたことは、日本のミドルマネジャーは専門性が高く、厳格性は低い傾向にあるということである。そして、日本のミドルマネジャーの多くは、短期的な成果追求が強みである一方、中長期的な視点で部署の戦略を立て、部下一人ひとりの成長を導けていないことが弱みであることが分かった。
この結果から考えられることは、日本のミドルマネジャーの多くは自らの専門性を武器として組織をマネジメントしているということだ。短期的な目標達成に向けて、場合によってはプレイングマネジャーとなっていることもあるのではないだろうか。オープンでフランクな姿勢で部下の支援を的確に行い、一人ひとりに寄り添っている様子も見て取れる。一方でミドルマネジャーには、中長期的な視点で逆算的に目標や基準を示し、必要に応じて厳格性を発揮することも必要であるが、そこが弱いのが日本のミドルマネジャーの特徴のようだ。
では、日本のミドルマネジャーは如何に成長していけばよいのだろうか。
日本のミドルマネジャーの特徴から読み取れる根底にあることは、成果を上げるために自ら動く、もしくは、目の前の課題解決をサポートするという方法しか取れていないことだ。上下の結節点として板挟みの葛藤がある中でも、部下を課題に向き合わせ成長させることで、自分自身は動かずに目標達成するという方法を取れていないのではないだろうか。
自ら動かずとも部署が目標達成している状況を作る。そのためには部下一人ひとりの動機付けが重要になる。目標達成と部下の動機付けの両立ができるマネジャーを私たちは「モチベーションマネジャー」と呼んでいるが、この「モチベーションマネジャー」になることこそ、日本のミドルマネジャーの成長の方向性だと言えよう。
昨今の、個人に対するきめ細やかなマネジメントが重要だと言われている時代において、ミドルマネジャーが部下に寄り添っていくことは必要である。しかし、ただ寄り添うだけではいけない。会社と部下をつなぐ結節点として、部下に寄り添いながら会社と統合していく役割を果たすべきであり、そのために自ら「モチベーションマネジャー」として部下の主体性を引き出すことが必要なのではないだろうか。
■現場責任者のコメント
「目指す姿を示し、結果を出す」。今回の調査から見えてきたミドルマネジャーの理想像です。メンバーはこうしたミドルマネジャーを通して「掲げたことが信頼できる」「組織全体とつながっている」「やっていることに意味がある」と確信を抱き、それが従業員エンゲージメントを高めることにつながるのは実感値とも重なります。こうしたミドルマネジャーの育成が喫緊の課題であることは言うまでもありませんが、実際の現場では「働き方改革」「コンプライアンス」「ハラスメント」「KPI達成」など様々な役割が重なり、業務負荷が増加傾向となっている企業が大半だと感じています。
そのような環境の中で短期的に成果を出すためには、ミドルマネジャー自身のプレイング比率を高めざるを得ず、「プレイングマネジャー化」しているケースも多いと思います。これが常態化してしまうと、メンバーからの期待が「マネジメントをすること」ではなく「最前線でプレイングをしてくれること」に変わります。その期待をメンバーが持っている中でミドルマネジャーがマネジメントに集中していくのは困難です。
組織は要素還元できない協働システムであることを考えると、ミドルマネジャー育成のためには、関係性視点を持って職場全体のミドルマネジャーの役割認識を変えていくことも必要になってくるのではないでしょうか。
リンクアンドモチベーショングループの概要