■調査背景
当研究所が2019年11月26日に発行したレポートで、従業員エンゲージメント向上の鍵はミドルマネジャーにあることが示された。では、ミドルマネジャーの強化には何が必要なのか。当社で実施しているミドルマネジャー対象のサーベイ(マネジメントサーベイ)結果を分析し、スコアの高いミドルマネジャーが何を有しているのか、定量的に把握し、強化に向けたヒントを探った。
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■調査概要
【マネジメントサーベイの概要】
マネジャーのマネジメント状態を診断するためのサーベイ。質問項目は、全体的な満足度を問う「総合満足度(※1)」と、「マネジャーに求められる『4機能』」(※2)から構成されている。サーベイでは全40の質問項目に対し、マネジャーの上司、マネジャーの部下が「何をどの程度期待しているのか(=期待度)」、「何にどの程度満足しているのか(=満足度)」について「非常に期待(満足)している(5)」から「全く期待(満足)していない(1)」までの5段階で回答する。回答結果は、期待度×満足度の2軸で整理された「4eyes®Windows(※3)」で編集され、期待度と満足度が共に高い右上の象限を「強み」とし、期待度は高いが満足度は低い左上の象限を「弱み」とする。今回はマネジメントサーベイの結果をスコア化し、スコアの高い順にA・B・Cの3段階に分け、スコアAとCの「強み・弱みの出現率」の傾向を分析した。
【調査対象】
2015年1月~2019年9月にマネジメントサーベイを実施した198社、のべ23,632名。主に日本国内で事業を展開している企業の、課長クラスのマネジャー。
■調査結果
【上司回答版サーベイ分析結果】
①スコアが高いミドルマネジャーと低いミドルマネジャーの差は「決断の早さ」と「全社視点」にある。
上司から見たミドルマネジャーの強み (スコアAとCの比較)
上司回答版の強み出現率上位10項目のスコアAとCの比較を表1に示す。
共通する項目には「8. 問題の即時報告」「22. 自部署使命の重視」 「23. 業務クオリティーの重視」「27. 短期的な成果の追求」 「28. 業務の進捗管理」 「30. 発言の実行と成果の追求」「32. 部下の業務サポート」「40. 困難な状況の解決姿勢」があがった。
一方、スコアAのミドルマネジャーだけに出た強みは、「14. 自社課題の確認」「24. 業務スピードの重視」でありスコアCのミドルマネジャーだけに出た強みは、「20. 指摘への誠実な理解」「39. 周囲へのオープンな態度」となった。
上司から見たミドルマネジャーの弱み (スコアAとCの比較)
上司回答版の弱み出現率上位10項目のスコアAとCの比較を表2に示す。
共通する項目には「1. 市場変化の伝達」「2. 業界動向の伝達」「3. 顧客ニーズの伝達」「5. 将来構想の報告」「25. 全社視点で役割を担う姿勢」「26. 中長期的な成果の追求」「29. 業務フローの改善」があがった。
一方、スコアAのミドルマネジャーだけに出た弱みは、「4. 競合動向の伝達」「9. 顧客評価の伝達」「35. 部下の挑戦機会の創出」であり、スコアCのミドルマネジャーだけに出た弱みは、「6. 目標達成方法の伝達」 「24. 業務スピードの重視」「31. 模範行動の実践」となった。また、スコアAのミドルマネジャーでは強みとして出ていた「24. 業務スピードの重視」はスコアCのミドルマネジャーでは弱みとしてあがった。
総じてスコアAのミドルマネジャーは目の前の業務遂行から脱し、中長期、全社的な課題と向き合っている様子が読み取れた。こうしたことからスコアAのミドルマネジャーは、業務スピードを下支えする「決断の早さ」、自部署だけではなく会社全体を捉える「全社視点」を有していると推察される。
【部下回答版サーベイ分析結果】
②スコアが高いミドルマネジャーと低いミドルマネジャーの差は「決断の早さ」「全社視点」に加え
「意味付け力」にある。
部下から見たミドルマネジャーの強み (スコアAとCの比較)
部下回答版の強み出現率上位10項目のスコアAとCの比較を表3に示す。
共通する項目には「13.部下の強みや持ち味の把握」「15. 上位役職者からの要望把握」「19. トラブル状況の確認」「20. 部下の成果の確認」「26. 即時の意思決定」「31. 部下への支援行動」「37. 部下の意見の傾聴姿勢」「38. オープンでフランクな姿勢」があがった。
一方、スコアAのミドルマネジャーにしか出ていない強みは、「4. 自社の戦略や方針の伝達」「6. 自部署の組織的使命の明示」であり、スコアCのミドルマネジャーにしか出ていない強みは「14. 職場への要望や希望の把握」「25. 部下に対する公平な評価」となった。
部下から見たミドルマネジャーの弱み (スコアAとCの比較)
部下回答版の弱み出現率上位10項目のスコアAとCの比較を表4に示す。
共通する項目には「4. 自社戦略や方針の伝達」「5. 戦略遂行の具体策の明示」「14. 職場への要望や希望の把握」「23. 評価基準の提示」「32. 業務ノウハウ伝授」があがった。
スコアAのミドルマネジャーの弱みの出現率は5%を下回っているため参考値ではあるもののスコアCのミドルマネジャーにだけに出た弱みは「8. 自部署の定性目標の明示」「22. 部下の成長の方向性提示」「26. 即時の意思決定」「27. 率先垂範行動」 「28. 対立時の葛藤解消行動」となった。また、スコアAのミドルマネジャーでは強みとして出ていた「4. 自社の戦略や方針の伝達」「26. 即時の意思決定」はスコアCのミドルマネジャーでは弱みとしてあがった。
総じてスコアAのミドルマネジャーはメンバーや職場の対立や葛藤を乗り越え、自社の戦略や自部署の組織的使命などより上位の目的でメンバーを束ねようとしている様子が読み取れた。こうしたことからスコアAのミドルマネジャーは「決断の早さ」「全社視点」に加えて組織全体の目的に向けた動機付けができる「意味付け力」を有していると推察される。
■結論
ミドルマネジャーに求められる要件は、「決断の早さ」「全社視点」に加え「意味付け力」である。
これらを高めるためのポイントは、個別のスキル開発だけでなくマネジメントを担うというスタンスの醸成にある。
当研究所が行った分析で、従業員エンゲージメント向上の鍵はミドルマネジャーにあることが示された。それでは、ミドルマネジャーの強化には何が必要なのか。弊社で実施しているミドルマネジャー対象のサーベイ(マネジメントサーベイ)結果を分析し、スコアの高いミドルマネジャーが何を有しているのか、定量的に把握し、強化に向けたヒントを探った。
今回の調査結果から見えてきたことは、スコアの高いミドルマネジャーは「決断の早さ」と自部署だけではなく会社全体を捉える「全社視点」、さらには自社の戦略や自部署の組織的使命を明示し動機付けできる「意味付け力」を有していることである。
そもそもミドルマネジャーが葛藤するのは、51%のメリットと49%のデメリットが拮抗する状況である。こうした状況における重要なポイントは、全社視点に立ち返り、いち早く決断を下し、メンバーを鼓舞しながらその決断を正解に変えていくことだ。時に反発を受けながらも、何とか組織を束ね成果を創出しようと模索するその姿に、上司・部下双方からの信頼が集まり、結果としてスコアの高いミドルマネジャーの元では組織成果の極大化と個々人のモチベーションの極大化が実現されているのではないだろうか。そうであるとするならば、ミドルマネジャーの強化は「決断の速さ」「全社視点」「意味付け力」という個別のスキル開発だけでは難しい。組織で起こる葛藤をすべて引き受け、成果を創出するというマネジメントを担うスタンスの醸成が必要になってくる。
働き方改革、コンプライアンスの遵守など、ミドルマネジャーを取り巻く環境は厳しさを増す一方だ。そうした中、課せられた目標達成とメンバーのモチベーション向上の同時実現は、並大抵のことではない。目の前の業務遂行で手一杯になり、意味や役割認識が薄れがちだからこそ、マネジメントを担うというスタンスを節目ごとに醸成することが重要になってきているのではないだろうか。
(執筆者:モチベーションエンジニアリング研究所 山本 恵美)
■現場責任者のコメント
「目指す姿を示し、結果を出す」。今回の調査から見えてきたミドルマネジャーの理想像です。メンバーはこうしたミドルマネジャーを通して「掲げたことが信頼できる」「組織全体とつながっている」「やっていることに意味がある」と確信を抱き、それが従業員エンゲージメントを高めることにつながるのは実感値とも重なります。こうしたミドルマネジャーの育成が喫緊の課題であることは言うまでもありませんが、実際の現場では「働き方改革」「コンプライアンス」「ハラスメント」「KPI達成」など様々な役割が重なり、業務負荷が増加傾向となっている企業が大半だと感じています。
そのような環境の中で短期的に成果を出すためには、ミドルマネジャー自身のプレイング比率を高めざるを得ず、「プレイングマネジャー化」しているケースも多いと思います。これが常態化してしまうと、メンバーからの期待が「マネジメントをすること」ではなく「最前線でプレイングをしてくれること」に変わります。その期待をメンバーが持っている中でミドルマネジャーがマネジメントに集中していくのは困難です。
組織は要素還元できない協働システムであることを考えると、ミドルマネジャー育成のためには、関係性視点を持って職場全体のミドルマネジャーの役割認識を変えていくことも必要になってくるのではないでしょうか。
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