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日本企業に求められる人的資本経営とは?米で人的資本の情報開示義務化

2020年8月に米国証券取引委員会(SEC)は上場企業に対して、人的資本の情報開示を義務付けました。この流れを受けて、アメリカだけでなく日本の経済界でも「人的資本経営」という考え方が注目を集めています。

「人的資本経営」とは一体なんなのか、これまでの考え方とどのように違うのかをご紹介していきます。

※参考:Human Capital Online 「人的資本の情報開示、ついに義務化! 米SECが8月末に発表」

人的資本経営とはエンゲージメント経営である

「人的資本経営」を一言で言い換えるならば、「エンゲージメント経営」と表現することができます。

エンゲージメントとは、従業員と個人の信頼関係度合い、相思相愛度合いのことを指し、エンゲージメント経営とは、従業員と組織の関係性を強めることで、事業成長を実現し、継続的な発展を目指すという考え方のことです。

このような考え方が重要視されている背景を、3つの観点から次章で説明していきます。

なぜ人的資本経営が求められるのか

人的資本経営が資本市場から求められるようになったのは、企業を取り巻く商品市場、資本市場、労働市場の3つの市場の環境変化によるものでした。

どのような環境変化が起こったのか、それぞれ説明していきます。

商品市場におけるソフト化

1つ目は、商品市場における環境変化です。

具体的には、商品市場に「ソフト化」という環境変化が起きたことで、人的資本経営が求められるようになっていきました。

上の図は、日本の産業の構成割合を年代ごとに表したグラフです。

昭和33年の高度経済成長期真っ只中の時代から現代にかけて、サービスや無形の商材を扱う第三次産業の占める割合が増加し続けています。

この産業全体における第三次産業(サービス)の比率が増えたことにより、その価値の源泉である「人材」の重要性が高まったのです。

そのため、商品市場におけるソフト化は、人的資本経営の重要性を高めた背景の一つと言うことができます。


資本市場における一般化

2つ目は、資本市場における環境変化です。

具体的には、資本市場においてあることが「一般化」されたことで、人的資本経営への注目度が高まりました。

冒頭でもお伝えしたとおり、2020年8月にアメリカの証券取引委員会(SEC)は、上場企業に対して「人的資本の情報公開」を義務付けると発表しました。

これまでの資本市場は短期的な業績を重視した投資に偏っていました。しかし、近年になってからは、資本家たちは短期的ではなく長期的に価値を生み出していける企業への投資を重視するようになり、そんな企業を見極めるための観点として、「人的資本の情報公開」が正式に義務付けられたのです。

このように各国では国際規格が長期視点になっています。

その一つとして、「人事・組織に関する情報開示のガイドライン」として国際規格のISO30414では、ダイバーシティ、リーダーシップ、企業文化など、の情報の開示を上場企業に義務付けています。自社がどれだけ人材を大切にし、事業発展のために適切な組織形成をしているかを企業は投資家たちへアピールする必要が出てきました。

また日本の大手企業でもIR指標として従業員エンゲージメントを開示するケースは増えてきています。

これらのことから、資本市場の中では、無形資産である人的資源に対する指標の公表が「一般化」しているということが言えるでしょう。


労働市場における複雑化

3つ目は、労働市場における複雑化です。

下の図のように、少子化の影響により日本の労働人口は右肩下がりで減少していくことは明らかとなっています。企業にとっては、人材獲得競争の激化が発生します。

優秀な人材ほど獲得が難しく、維持しづらくなり、適切な人材を十分に獲得できるかが、企業の未来を分けるのです。

また、ライフスタイルやワークスタイルは近年急速に変化しており、多様な価値観、働き方を持った従業員を束ねるために、企業には多様なマネジメントが求められる様になっています。

労働力の獲得の競争の激化と、多様性の増大により、企業の人材マネジメントは複雑化が進んでいるのです。

このような3つの環境変化によって組織と個人のエンゲージメントを実現する「人的資本経営」が求められる様になったのです。

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人的資本経営のポイント

人的資本経営を実現するためには、3つのポイントがあります。現状の経営をこの3つの観点で見直し、アップデートしていきましょう。

戦略のアップデート

まずは、戦略のアップデートです。

企業経営で陥りがちな状態として、事業と組織を分けて考えてしまうということがあります。しかし、本来事業と組織は表裏一体であり、どのような事業を行うかによって、どのような組織づくりをするべきかは変わるのです。

例えば、そのときどきによって流行っているマネジメント方法を取り入れるものの、結果的に運用に乗らず、失敗に終わってしまうということはよくあるあるのではないでしょうか。これも、事業によって適切な組織づくりは変わるという考え方を持っていれば、安易に最新の組織マネジメント方法を取り入れるのではなく、事業の特徴を踏まえた組織マネジメントを考えることができます。

リンクアンドモチベーションでは、事業モデルに応じた組織タイプを3つに整理しています。

<事業モデルごとに取り組むべき施策>

■オペレーター型

オペレーター型の組織の特徴は、価値の源泉が仕組みにある事業モデルを持っていることです。決められた役割を計画的に確実に遂行していくことが求められ、改良を積極的に行い、さらなるクオリティを実現することが推奨されます。

こういった組織では、決められたことを実行することが得意な性質があるため、比較的本部が戦略を立て、全社的な取り組みとして組織施策を遂行していく方法もうまくいくでしょう。

■プロフェッショナル型

プロフェッショナル型の組織の特徴は、事業は単一事業で、価値の源泉が人にある事業モデルをもっていることです。このような事業では、従業員一人ひとりが持つ技術によって製品やサービスの価値が生み出されています。

そのため、個々人のスキルを高めることが、企業の強みに直結するといえます。このような組織を目指す場合は、専門領域を決め、それぞれに特化していくようなコースの設置などが有効です。

■イノベーター型

イノベーター型が適している組織の特徴は、複数事業を展開する事業戦略をとっている企業に適しています。

複数の事業を展開するために、事業革新やイノベーションを推進するような人事施策やマネジメント方法が向いています。

例えば、自由裁量を多く現場に与えたり、新しいアイデアが出やすいようにコンペなどの競争の機会の提供や、厳格な審査基準を整備することなどが挙げられます。


哲学のアップデート

2つ目のポイントは、哲学のアップデートです。

過去の経営方法として、業績がでない組織に対して管理職を入れ替えてしまうことで解決をしていたケースがあったかと思います。しかし、これで上手くいく場合があったとしても、人の入れ替わりにより問題が再発するなど持続的ではない解決策でした。組織経営においては、人と組織の捉え方のポイントを押さえることで、効果的な解決策を打つことができます。

■人間観

~人間とは、限定合理的な感情人であり、問題は「人」と「人」の間に存在する~

戦略を実行する際、「戦略」と「行動」の間には、「感情」が生じます。100%完璧な戦略が立てられたとしても、「いやあこの戦略なんか納得いかないなあ」「あの人のやり方は嫌だな」といった「感情」が入ることによって、100%であった戦略は簡単に50%ほどの効力に減ってしまいます。

これが私たち人間に起こりうることです。行動経済学においても、人間の行動の分岐点は、「合理」ではなく「感情」であると捉えられています。

※参照:行動経済学/ダニエル・カーネマン『ダニエル・カーネマン 心理と経済を語る』、リチャード・セイラー『セイラー教授の行動経済学入門』

この考え方を前提とした上で、「人間」という単語は「人」の「間」と書きます。

問題は「人」ではなく、「人」と「人」の「間」における信頼不足や信頼崩壊から起こることが多いのです。

組織の問題を「人」個人に帰着させるのではなく、人と人との「間」にあると考え、関係性を改善することが重要なのです。

■組織観

~つなぎ目(=結節点)の重要性~

たとえば、A、B、C、D、Eから構成される5人の組織を捉える際に、普通は「5人のチームだね」という数え方をします。(参照:下図の左)

しかし、組織を協働システムで捉える考え方では、単純な足し算ではなく、組織とはそれぞれが互いに連携関係・協力関係を取り結んでいる“クモの巣”状の集合体だと捉えます(参照:下図の右)。

ここで着目すべきことはA、B、C、D、Eという個々の要素ではなく、その関係性です。

それぞれを結んでいる線が関係性であり、5人の組織の場合、5×4÷2で10本の関係性の線が存在するということです。

5人の組織を足し算で「5人である」と認識するのと「10本の関係性がある」と認識するのとでは何がどう違うのでしょうか。人が増えた時のことを考えるとわかりやすいでしょう。

5人の職場に仕事が増えて人数が10人になったとします。足し算の数え方では5人が10人になるので「組織が2倍になった」という認識です。しかし、関係性に着目する協働システムの考え方では関係性は10×9÷2で45本、10本から45本へ4.5倍になります。専門的にいえば、複雑性が4.5倍増大した組織になったと認識するのです。

たとえば意思疎通では、「組織が2倍になった」という考え方なら、単純に会議の時間や回数を倍にすれば問題が解消しそうに思えます。しかし、「関係性が4.5倍に増大した」と考えると、意思疎通も4.5倍難しくなることを意味します。会議を増やすだけでは解決せず、意思疎通のあり方を根本から見直すことが必要です。


指標のアップデート

最後のポイントは、指標のアップデートです。

どんな活動にも、効果的な活動の共通点が存在します。それは、現状を測る”ものさし”があるということです。

例えば、受験勉強であれば”偏差値”によって全国の受験生と相対化した自分の現状把握ができますし、ダイエットであれば体重計にのって”体重”を測ることで、過去の自分と比較して現状把握ができます。このように現状を定量的に把握することで、これまでの活動が効果的であったかを振り返り、修正行動をとることで、PDCAを回すことができるのです。

この考え方は、企業経営においても同じことが言えます。

企業経営には、P/Lなどが指標として当たり前に使われていますが、これは事業活動の良し悪しを測るための”ものさし”といえます。一方で、これまで事業活動を測る”ものさし”はあっても、組織活動を測る”ものさし”は、なかなかありませんでした。

この企業の組織活動を測るための”ものさし”として、先述した伊藤レポートでも触れられていたように”エンプロイーエンゲージメント”が有効だと考えられています。

このエンプロイーエンゲージメントは、従来の従業員満足度のように、会社から提供している待遇などについて、どれだけ従業員が満足しているかを測るものと異なります。

エンプロイーエンゲージメントでは、従業員が求めているものに対して、企業がどれだけ提供をできているのかを測り、組織と個人の相思相愛度合い、信頼度合いを測ることができます。

つまり、従業員満足度のような一方向的なものではなく、双方向的な関係性を数値化するものであるため、従業員の貢献意欲向上つながり、事業成果にも好影響を与えるのです。

エンプロイーエンゲージメントと業績の関係性は、慶應義塾大学のビジネススクール岩本研究室との共同結果からも見て取ることができます。

エンゲージメントスコアの向上は、売上と純利益の向上に関連性が高いという調査結果が出ています。また、エンゲージメントスコアの向上にあわせて、従業員の離職率が低くなるという調査結果もでています。


このように、従業員の貢献意欲を引き出す組織と個人の相思相愛度合いを測るエンゲージメントを組織活動の”ものさし”として取り入れることで、組織活動についてもPDCAを回し、適切な改善活動を行うことが重要なのです。

人的資本管理をする上での特に用いるべきおすすめツールは?

人的資本経営が重要視され、その情報開示も求められるようになったことから、人的資本をデータとして管理することは必要不可欠になってきています。

人的資本管理をする上で、便利なおすすめツールを、用途別にいくつかご紹介します。

エンゲージメントを可視化するツール

国際規格のISO30414が開示を求める人的資本の情報の一つに、「組織文化」があります。この可視化に有効であるのが、エンゲージメントを可視化するツールである、「サーベイ」です。

複数の企業から組織診断をするためのサーベイは提供されていますが、リンクアンドモチベーションが提供する「エンゲージメントサーベイ」は、会社や職場といった「組織」や上司の「マネジメント」に対する認識を把握し、「何をすれば生産性が高まるか」を見える化できることが特徴です。

これまで勘や経験によって改善してきたマネジメントを、課題の見える化や施策の効果測定という側面でアシストすることができます。組織改善に繋がる課題が明確になるというメリットがあるといえます。


タレント管理・評価育成をするツール

国際規格のISO30414が開示を求める人的資本の情報の中には、労働力可能性、ダイバーシティ、リーダーシップ、後継者計画、採用・異動・離職、スキルと能力などがあります。これらの情報を可視化し、効果的に管理していくためには、組織のタレント管理や評価育成を助けるツールが有効でしょう。

従業員一人ひとりのスキルや能力、評価などをデータベースに蓄積することで、これまで感覚的に行われていた人事異動や育成をデータに基づいて行うことができるため、より戦略的な人事を行うことが可能になります。


勤怠管理をするツール

国際規格のISO30414が開示を求める人的資本の情報の中には、生産性やコスト、健康経営などがあります。従業員が健康的に働きながら、組織として生み出す価値を高めていくためには、勤怠管理は欠かせない要素です。

昨今の働き方改革の動きや、新型ウイルスの流行によって、テレワークや在宅勤務などが一般的になりました。必ずしも従業員全員と対面で業務を行うことが減った今、正確な勤怠管理を行うために、ツールの導入を検討する企業も多いでしょう。

PCやタブレットから打刻ができるようなツールを導入することで、従業員の勤怠状況が把握しやすくなります。

記事まとめ

いかがでしたでしょうか。国際的によい企業の要素として、組織やエンゲージメントが注目されており、資本市場、労働市場、商品市場から選ばれる企業になるためには、人的資本経営が非常に重要になってきました。

しかし、この記事でお伝えしてきたように、人的資本経営を実践するには、人事分野だけでなく、戦略、哲学、指標といった経営全体のあり方を見直し、アップデートしていく必要があります。

企業経営における、組織の重要性を再認識し、企業が持続的に発展できる強い組織づくりをしていきましょう。

N.E
N.E

【プロフィール】 リンクアンドモチベーショングループ新卒入社。 以降、モチベーションクラウドのカスタマーサポートとして、 主に大手企業の支援に従事。

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