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人的資本経営の実現にはデータの活用が不可欠/金融資本主義から人的資本主義へ

いま「人的資本経営」が注目を浴びている。人という見えない資産の情報をいかにデータとして活用し、組織の活性化につなげるのか。慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授の岩本隆氏、日本ユニシス執行役員の白井久美子氏、リンクアンドモチベーション取締役の川内正直氏の3人がその重要性について語った。

※本記事は、2021年2月10日『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2021年3月号』にPRとして掲載されたものです。

【プロフィール】
リンクアンドモチベーション 取締役 川内 正直 Masanao Kawauchi
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 特任教授 岩本 隆 Takashi Iwamoto
日本ユニシス 執行役員 人事部長 白井 久美子 Kumiko Shirai

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川内 そもそも「人的資本経営」とは、どのような経緯で出てきた概念なのでしょうか。

岩本 大きく二つの流れがあります。一つはリーマン・ショックの原因として財務諸表の数字に偏重した金融資本主義(Financial Capitalism)が批判されたこと。投資家からは、中長期の投資判断の材料として、非財務諸表、特に人材の指標を設定して開示すべきだという圧力が高まりました。金融資本主義(Financial Capitalism)から人的資本主義(Human Capitalism)へという方向性です。

もう一つの流れは2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)やESG投資で、これら二つの流れの中で、18年にISO(国際標準化機構)も人的資本レポーティングに関する指標のガイドライン(ISO 30414)を出版、さらに20年11月には米SEC(証券取引委員会)が人的資本レポートの開示を義務化しました。先進国ではサービス業の割合が高く、人が競争優位の源泉になってきているという背景もあります。

川内 リーマン・ショックとSDGsを契機に、企業を見る視点が「金」から「人」へと移ったのですね。

岩本  「人」のマネジメントは煩雑ですが、企業経営は今後確実にヒューマン・キャピタリズムに移るでしょう。

人が競争優位の源泉
見えない資本を有効活用

川内 サービス業においては人が競争優位の源泉だという岩本先生のお話がありましたが、日本ユニシスは早くからそのことを認識して改革に着手されました。その経緯についてお聞かせください。

白井 2000年代に入って、当社を含むIT業界はディスラプト(破壊)される危機に直面していました。そんな中、16年に代表取締役社長に就任した平岡昭良が、さまざまな業界のお客様やパートナーと共に、社会課題の解決に向けたビジネスエコシステムⓇの創出と、知の探索と知の深化(サステナブルとディスラプティブ)の両方を追求する「両利きの経営」への変革を打ち出しました。さらに従来のSIer(システムインテグレーター)事業領域に加え、ディスラプティブ領域を創発できる企業変革や、ビジネスモデル変革にもつながる風土改革を始めました。以来、変革への取り組みを続けています。

 ESG経営では人的資本など「見えない資本」をどう有効活用しているかが厳しく見られていますが、当社は早くから従業員エンゲージメントに注目し、データを取り、診断し、改善するサイクルを回しています。

川内 当社はそのお手伝いをしているのですが、さまざまな切り口でデータを取って、企業変革の進捗や成果を見える化されていますね。

エンゲージメントの高さと
企業の業績はリンクする

白井 一つの成果として、エンゲージメントスコア(従業員の会社に対する貢献意欲を表す指数)の向上に従い、営業利益、営業利益率、ROE(自己資本利益率)も上がっているというデータがあります(図1参照)。統合報告書でも18年から人的資本に関する投資について開示しています。日本企業で人財投資について見える化したケースはまだそう多くはありません。

川内 従業員エンゲージメントとROEが見事に連動して上昇し、12年から20年で株価は5倍になっていますね。

岩本 いまや世界中でエンゲージメントと業績に相関があるというエビデンスが蓄積されています。日本では、私の研究室がリンクアンドモチベーションと共同研究しました。経済産業省の人的資本の研究会でもエンゲージメントは注目キーワードで、私たちの研究も取り上げられています。

白井 相関があるという話は、当初は半信半疑でしたが、実際にファクトとして具現化されたことを実感しています。風土改革自体は15年から開始し、人事戦略、働き方、ダイバーシティ、業務プロセス、マネジメント改革など全部で30以上の施策を打ってきました。全部門の現場力と、モチベーションアップなどの働きかけ、組織変革とが相まって、最初の弾み車が回るまでが一苦労でした。社長の平岡も社内外で常に変革推進の経営メッセージを発し続け、データを積極的に開示してきました。

川内 いろいろな声があったと思いますが、経営陣が強い信念を持ち、全面的にコミットしてやり抜いた結果ですね。これまで数多くの大手企業様のエンゲージメント向上支援をさせていただきましたが、経営陣のコミットの有無が成否を分かつと言っても過言ではありません。日本ユニシスでは、人事制度で、個人が複数の役割を持つROLE“S”という試みも始められましたね。

白井 ROLESは、多様な人々という多様性だけでなく一人の中の「個」の多様性を広げ組織やコミュニティとしての「知」のシナジーを生む試みです。個のスキルやコンピテンシーが多いほど、他者との関わりでイノベーションを起こし社会課題解決の活動に貢献しやすくなります。

川内 日本で導入が取り沙汰されるジョブ型の働き方では、一つの専門性に特化するのが一般的ですよね。

白井 専門力特化も大事ですが、個別技能間に壁を作らず、日本人の特長を活かし複数の役割や能力でつながり助け合い、社会的包摂性(ソーシャル・インクルージョン)を高めながら社内外の人と協働するイメージです。

川内 日本ユニシスの「多能工」としての能力開発が、働きやすさ、働きがいの拡充、ひいては従業員エンゲージメントの向上につながっているんですね。他の日本企業も、ようやくエンゲージメントの重要性に気づき始めています。

岩本 企業と従業員はこれまでいわば親子の関係でした。企業が従業員の面倒を全面的に見る代わりに、従業員は企業に一生を捧げ働く。高度成長期はそれでよくても、今後は対等の関係でなければやっていけない。そのときに従業員エンゲージメントが重要になります。エンゲージには婚約の意味もありますが、甘え合うのではなく、結婚前のワクワク感や、コミットし合うエネルギーが互いになければならない。企業と従業員の関係は、親子から恋愛関係に変わる大転換期だといえるでしょう。

川内 とはいえ日本企業にとって従業員との「対等」な関係というのは難しいですよね。

岩本 ただ、超有名企業でも人を採用しにくくなってきているので、変わらなければという危機感はあります。企業はこれまで以上に従業員をよく知り、ワクワクさせ、やる気を出させる施策を打たなくてはならない。それでこそ従業員も思い切りやる気を出せます。

川内 企業と従業員は、互いに努力し続けることで、維持・発展することができる。日本ユニシスの変革は6年で終わらず、やり続けている。「継続」は一つのカギですね。そして変わらなくてはならないという義務感より、ワクワク感をうまく醸成することも不可欠です。

「ワクワク感」と「継続」が
変革のキーワード

白井 まさに「ワクワク」は社長の平岡が頻繁に使う言葉です。ワクワクするビジネス、関係性、未来というような形で。MustではなくWant、どうすれば「ワクワクしてやらずにいられない」という内発的動機づけにつながるかを常に考え、議論しています。

川内 システム構築は失敗が許されない事業であるが故に、風土改革では難しさがあったのではないですか。

白井 システムが本番で稼働しないということは万に一つもあってはなりません。SIerが生業の企業では、重箱の隅をつつくようにバグを徹底的に見つけ出す組織風土が普通でした。いわゆる「レビュー文化」です。ただその価値観では、ワクワク感を持って新しいことに挑戦し、失敗を恐れずビジネス創出にチャレンジするのは難しい。

 この風土を改革するために「失敗の数は成功のKPI」と社長の平岡は言い続けてきました。失敗が多いほどその先に成功がある、どんどんチャレンジしなさい、失敗しても失敗から学びチャレンジし続ける勇気を賞賛する、というメッセージは社員に浸透しつつあります。レビュー文化から褒めてリスペクトする文化への変革は苦労しました。そうした背景もあってエンゲージメントスコアが上がってきたのです。

川内 いろいろな施策を実行していくと、良い影響と良くない影響、薬に例えれば効能と副作用が併存するものです。本来は日本ユニシスのように、データを取り、細かく見て調整すべきなのですが、経験と勘だけでやると失敗してしまう。

 GAFAなど、他社の成功事例をまねるのが全く駄目なわけではありませんが、日本企業ならではの事情もあり、自分たちの成功事例を創っていかなくてはならない。しかし多くの日本企業は、人的資本経営においてデータを活用しきれていないように見えます。岩本先生は、日本企業がどんなことに取り組むべきだとお考えですか。

岩本 ISO 30414にはシンプルな計算式の項目が58あります。それをデータ化するだけでいろいろ見えてきます。自社にとって重要な項目が見え、強化するポイントもわかりやすくなりますし、項目同士や施策との掛け算で、人的資本のROI(投資利益率)としての定量データがそろう。そうすれば、ROIを介してCHRO(最高人事責任者)がCFO(最高財務責任者)と議論できる。人材については定性的な情報だけだとなかなか議論が発展しませんが、「経営は人なり」が国際標準の裏付けのある数値で語ることができれば、経営会議や取締役会で、人事戦略についての議論をし、それを経営判断の根拠として使えるようになる。

 経産省でもエンゲージメント、ダイバーシティ&インクルージョン(受容)、リスキル(学び直しやスキルギャップをどう埋めるか)の三つの要素を中心とした人材活躍度調査に着手し、人的資本経営を根付かせる構えです。

データ起点の人的資本経営こそ
日本企業が生き残る道

川内 日本ユニシスは先陣を切って改革を進め施策を打ってこられたわけですが、今後もっと強化したい点はありますか。

白井 データによる実効性の把握、相関関係の把握をさらに進めたいと考えています。ESG経営は全世界で推進されていますが、人の成長への投資と企業の持続的な成長がリンクし、実際にビジネスとして成立させている企業がどれほどあるでしょうか。どんなKPIが進捗するとビジネスがうまくいくのか、人的資本・資源とビジネスとの相関を実践で検証していきたいです。

 業績とエンゲージメントには正の相関がありました。組織単位で測ったストレスとエンゲージメントは逆相関にあるのではないか、という仮説を検証中です。一般的にストレスは、仕事や残業過多などの社会的要因のみではなく、環境/身体/心理的要因や人間関係などさまざまな因子が複雑に関係し合って生じるものではありますが。

 業務組織とは別に、社内外で社会課題を捉え「共感」を軸とするさまざまなコミュニティが存在します。コミュニティでの感謝や賞賛のやりとりを定量的に把握し、関係性分析・改善を考察する実証実験を進めています。コミュニティの原動力やソーシャルインパクトとエンゲージメントとの相関など、多様な人的資本・資源についても見ていきたいです。

川内 エンゲージメントを高めるために感情面の結びつきをどう構築するかがポイントということですね。

岩本  「経営は人なり」は漠然としていますが、いまおっしゃったような実質的な「人的資本経営」によって、実証されていくでしょう。

川内 ここまでお話しいただいたとおり、人的資本経営を実現するためには、ビジネス、データ、ナレッジをリンクさせることが重要で、そのツールとして当社はモチベーションクラウドを提供しています。国内最大級のデータベースを基に、偏差値や比較分析ができることや、20年以上の経験によるナレッジ提供が強みです。実際にお使いいただいてみた感触としてはいかがでしょうか。

白井 モチベーションクラウドで年に何度もデータを測り、さまざまな視点からスコアの変化を観察してきました。組織診断のツール、定点観測、変革の方向性に関する仮説の策定やその検証に有効です。担当者/管理者/経営層それぞれの立場でも活用でき、組織・人財の活性化、人を活かす経営のためのプラットフォームとして必要な存在です。

岩本 HRテクノロジーという言葉を15年に発信した後、リンクアンドモチベーションと話す機会があった際に、創業時からデータを使ってエンゲージメントの向上をやっている御社こそ、HRテクノロジーの先駆けじゃないかと言ったことを思い出しました(笑)。

川内 資源のない国である日本だからこそ、人的資本で勝っていく必要があると考えます。信念はありながらも苦労している企業に、これからもデータ活用によって実質的に変革していく力を提供し続けたいと思っています。ワクワクする組織を増やすために当社は、人的資本の分野におけるデータ活用をさらに進化させて参ります。

 岩本先生、白井さん、本日はありがとうございました。

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