労働生産性とは?計算式や労働生産性を高める方法を紹介
政府が「働き方改革」を掲げた事も追い風になり、昨今は業務効率化や長時間労働に対する課題意識がますます高まっています。これからますます「社員の労働生産性を向上する企業と「そうでない企業」の二極化は進んでいくと思われます。
では、社員の労働生産性を向上するために企業は何ができるのでしょうか?そのポイントを一緒に見ていきましょう。
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目次[非表示]
- 1.生産性の定義とは
- 2.労働生産性とは
- 3.労働生産性の数値を出す計算式
- 4.労働生産性の種類と計算方法
- 5.労働生産性の測定方法の使い分け方
- 6.労働生産性を上げるメリット
- 7.労働生産性が高い国
- 8.労働生産性の判断基準
- 9.業界で生産性の違いはあるのか
- 10.労働生産性が低い原因と向上させる方法
- 11.生産性向上施策をする前の注意点
- 12.生産性向上を成功させた企業事例5選
- 13.記事まとめ
- 14.労働生産性に関するよくある質問
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生産性の定義とは
生産性にはいくつかの定義がありますが、EPA(ヨーロッパ生産性本部)が定義する「生産性とは、生産諸要素の有効利用の度合いである」と認識しておくのが良いでしょう。有形であるか無形であるかにかかわらず、何かを生産する際には、機械設備や土地・建物、原材料やエネルギー、人(労働力)などの「生産要素」が必要になります。生産性とは、生産要素を投入することによって得られる産出物(製品・サービスなど)の割合のことです。
■生産要素とは
生産要素とは、生産活動の本源的な要素のことで、一般的には「土地」「資本」「労働」を生産の3要素と言います。製品などを生産するには、鉱物や水などの天然資源も含め土地が必要です。さらに、工場や設備機器などの資本も不可欠です。従業員などの労働力も必要になります。なお、生産の3要素のうち、土地と資本は「生産手段」と呼ばれることもあります。
■生産性の計算方法
生産性とは、企業が有している労働力や設備機器、原材料などの「投入」と、そこから生み出される製品・サービスの「算出」の割合のことを言い、以下の算式によって求められます。 生産性 = 産出(Output)/投入(Input) 生産性を算出することで、労働力や機械設備、原材料がどれだけ効率的にアウトプットを生み出しているかを知ることができます。
労働生産性は、仕事における生産性であり、労働量に対してどのくらいの生産量が得られたかを示す指標です。労働生産性を高める方法は大きく3つあります。より多く生産すること(分子を増やすこと)、投入する人数や時間を減らすこと(分母を減らすこと)、もしくは投入する人数や時間を増やしながら、増やした労働量以上に生産量を増やすこと(分母も分子も増やすこと)の3つです。
■労働生産性、資本生産性、全要素生産性の意味の違い
労働生産性は、投入した労働力や労働時間に対して、どれだけ効率的に成果を生み出せたかを測る指標です。資本生産性は、保有している土地や工場、設備機器などが、どれだけ効率的に成果を生み出せたかを測る指標です。全要素生産性(TFP)は、主に生産量を、労働や資本、中間投入などの全生産要素で割ったものです。全生産要素を数値化するのは難しいため、TFPを求めるには複雑な数学的テクニックが必要になります。
■「労働生産性が向上する」の意味は?
労働生産性が向上したということは、労働量に対して生産量が伸びたということです。労働量が変わらぬまま生産量が伸びたか、生産量が変わらぬまま労働量が減ったか、いずれかの可能性が考えられます。いずれにしても、業務効率化などの効果だと言えるでしょう。
労働生産性とは
普段何気なく会話の中に出てくる「労働生産性」ですが、その定義は何なのでしょうか?労働生産性を一言で言うと、「従業員1人当たり、または1時間当たりに生み出す成果」を表している数値の事です。
理解を深めるためにも、まずは「生産性」の概念を見ていきましょう。
生産性とは「投入資源(インプット)と産出(アウトプット)の比率」を意味します。また、「投入資源(インプット)に対して産出(アウトプット)が大きい」場合は「生産性が高い」ことになり、「投入資源(インプット)に対して産出(アウトプット)が小さい」場合は「生産性が低い」ということになります。
上記の生産性の定義に則ると、労働生産性とは「労働成果(アウトプット)」を「労働量(インプット)」で割ったものにとなります。この指標をモノサシとすることにより、「労働成果の向上」と「投入資源の縮減」を行うために業務の標準化や従業員のスキルアップを実現することが出来るようになるでしょう。
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■「生産性向上」と「業務効率化」の違い
ちなみに、「生産性向上」と混同して使われやすい用語に「業務効率化」があります。業務効率化とは、より効率的な業務遂行を目指す取り組みです。
例えば、新たなツールを導入して業務遂行のスピードを速めることなども業務効率化の取り組みのひとつです。つまり、業務効率化は成果物の質・量を減らさずに時間やコストを削減することと言い換えることができるでしょう。
「労働量(インプット)」の方を改善するアプローチ手法だと言えます。業務が効率化すれば、生み出せる成果も自然と増えるため、生産性向上にもつながります。当然、企業全体の業績も向上させられます。
一方で「生産性向上」は、事業や会社全体の「労働成果(アウトプット)を高める」という観点から、事業の再構築やM&Aの実施などドラスティックなアクションが対策として入り込んできます。
▼【生産性向上】に関する記事はこちら
生産性を向上させるためのポイントとは?生産性向上のためのポイントや事例を解説
労働生産性の数値を出す計算式
そもそも生産性とは、投入資源と産出の比率のことを言います。生産性を式で示すと以下のようになります。
生産性 = 産出(Output)/投入(Input)
投入した資源に対して、産出の割合が大きいほど生産性が高いということになります。労働生産性もまったく同じ考え方で、労働量(投入量)と労働成果(産出)の比率のことです。労働生産性を式で示すと以下のようになります。
労働生産性 = 労働成果(Output)/労働量(Input)
分かりやすく言えば、労働者一人あたりが生み出す成果、あるいは労働者が1時間あたりに生み出す成果が労働生産性です。
労働生産性の種類と計算方法
労働生産性の種類と計算方法についてご説明します。労働生産性は、労働成果(Output)を何で表すかによって、「物的労働生産性」と「付加価値労働生産性」の2つに分けることができます。
■物的労働生産性
物的労働生産性とは、労働成果(Output)を「生産量」や「販売金額」で考えたときの指標です。物的労働生産性は、以下の式によって算出します。
一人あたりの物的労働生産性 = 生産量/労働者数
もしくは
一人あたりの物的労働生産性 = 生産量/労働者数×労働時間
■付加価値労働生産性
付加価値労働生産性とは、労働成果(Output)を「付加価値額(新たに生み出した金銭的な価値)」で考えたときの指標です。付加価値労働生産性は、以下の式によって算出します。
一人あたりの付加価値労働生産性 = 付加価値額/労働者数
もしくは
一人あたりの付加価値労働生産性 = 付加価値額/労働者数×労働時間
なお、付加価値額は粗利益(=営業利益+人件費+減価償却費)で計算するのが一般的です。
労働生産性の測定方法の使い分け方
生産量が物理的に可視化できる場合(生産量が数量や大きさ、重さなどで表される場合)は、物理労働生産性が指標として活用されます。代表的なのは製造業です。物的労働生産性を求めることで、生産している物の個数や重さに対してどの程度の労力がかかっているのかが分かります。
一方、生産したものが物理的に測定不能な場合(生産したものが商品・サービスに対する金額の場合)は、付加価値労働生産性が指標として活用されます。代表的なのはサービス業です。付加価値労働生産性を求めることで、売上に対してどのようなコストがどのくらいかかっているのかが分かります。
■付加価値額の計算方法
付加価値額の計算方法は「控除法」と「加算法」の2つがあります。控除法(中小企業庁方式)では、売上から、外部より取り寄せた価値を差し引いて付加価値額を求めます。
付加価値額 = 売上高-外部購入価値
外部購入価値は、材料費や購入部品費、運送費や外注加工費などが挙げられます。
加算法(日銀方式)では、生産のプロセスで発生した価格を加算して付加価値額を求めます。
付加価値額 = 人件費+経常利益+賃借料+営業外費用+租税公課
■国家規模の労働生産性の測定方法
国際社会における労働生産性は、GDP(国内総生産)を付加価値として算出します。算式は以下のようになります。
労働生産性 = GDP/労働力
なお、国際社会のなかで見ると、日本は労働生産性が低いのが現状です。企業レベルで労働生産性が上がっても、必ずしも国レベルの労働生産性が上がるとは限らず、実際に国際社会から見ると、日本の労働生産性は低い水準にあります。
労働生産性を上げるメリット
前述の通り、日本は国家レベルで労働生産性の向上に力を入れていくような舵取りをしています。そのような経緯もあり、企業が「労働生産性」を向上する取り組みをすることで、政府から優遇措置を受けることができます。
例えば以下の通りです。
■金利の引き下げ
日本政策金融公庫からの設備資金の借入の際に、0.9%金利が引き下げられる
■法人税と所得税の控除
中小企業経営強化税制との組み合わせにより、法人税と所得税について即時償却または取得価額の10%の税額控除を受けることができる
■固定資産税の控除
設備投資にかかる固定資産税が、3年間半額になる
■IT導入補助金
ITツールを導入した時にコストの一部を補助してもらえる
また、労働生産性が高まる事で企業成長が加速します。成長しているという事は新たな機会が得られる可能性が高まるので、採用面でも離職率の改善という意味でも良い効果が出ると思われます。
労働生産性が高まる事でワークライフバランスも改善ができる事もあるでしょう。少ない時間で大きい成果が出る為、空いた時間を自己研鑽に活用したり家族や友人に使う事もやり易くなるでしょう。
労働生産性を高めることは、自社を発展させるメリットを多方面から得られると言えます。その前提を置いた上で、経営の最優先マターとして捉えられると良いでしょう。
▼労働生産性や持続的な企業成長に直結するエンゲージメント向上のための仕組みとは
労働生産性が高い国
実は「労働生産性」は個人や企業だけではなく、国家にも適用可能な概念です。安倍前総理大臣の方針でもあった「働き方改革」では、日本の労働生産性の向上にも折を見て触れられていました。
何故かと言うと日本は人口減少が進み、労働人口も今後減少することが見込まれています。だからこそ中国やインドなどのように労働人口の数で勝負するのではなく、1人当たりの生産性を高めることが喫緊の国家課題対策として求められているのです。
では、国際的に労働生産性が高い国はどこなのでしょうか?まず前提として、国際的には労働生産性は「付加価値労働生産性」で測られることが多くなっています。また、国家の付加価値は「GDP(国内総生産)」の事を示しています。ですので、国家レベルでの「労働生産性」とは「GDP / 労働人口」で算出されます。
そして「労働生産性の国際比較(※)」という調査によると、世界で最も労働生産性が高い国は「アイルランド」とのことでした。一方で日本は、OECD加盟36カ国の中で「21位」と平均以下の順位になっています。
※引用:労働生産性の国際比較2020
年間労働時間では労働生産性が高い国と比較して約2,000時間ほど長く働いているのが日本人。「日本人は勤勉である」と海外から称される事も多い日本ですが、ただ一生懸命働いているだけでは「あるべき状態」とは言えません。労働時間ではなく、労働時間当たりの付加価値、即ち「労働生産性」に目を向けていくべきでは無いでしょうか。
また、これらの数値からもまだまだ日本における「労働生産性」には伸びしろがあることが分かると思います。最近ではデジタル庁が開設されるなど、デジタルトランスフォーメーションによって国家レベルでの生産性向上を高める動きも始まっています。
更には、コロナ渦において国家や企業のIT化が10年進んだとも言われています。これらの背景も理解しながら、国民全員で日本の労働生産性向上に取り組んでいく意識を持っておけると良いでしょう。
労働生産性の判断基準
では、そのような「労働生産性」のマネジメントを行いたいと思った場合、どのような数値を見れば良いのでしょうか?
実は労働生産性の値は、会社の規模や業種、景気によって大きく異なります。ですので「〇〇の数字以下はNG」という絶対的な基準値は存在しません。データを「相対値」で見ていく事が重要です。例えば、以下のような比較方法があります。
■「経年比較」
定期的に自社や特定部門の数値を記録して、その数字の変化を追っていきましょう。段階的に比較する事で向上しているのか、後退しているのかを確かめることができます。
■「他社比較」
自社と同業界、同ビジネスモデルの会社の労働生産性を産出するやり方です。この場合は従業員数を分母、売上や営業利益を分子にするなど他社の分かるデータをもとに自社の数値と比較する事になります。
■「属性比較」
自社の中でも、部門やチームによって労働生産性は大きく異なるもの。部門ごとの数値、チームごとの数値を算出する事によって経営課題が特定できる可能性もあります。
また、各組織の管理者に対して労働生産性の数値目標を示す事も1つの手法でしょう。
またKGIが労働生産性の向上とした場合、施策の効果を測る為のKPIを設定することも重要です。
主なKPIとして「年間総労働時間」や「1人あたりの売上高」「コスト削減率」のほか、「残業時間」「年次有給休暇取得率」などが挙げられます。
最近では「長時間労働」に対して採用応募者も敏感になっている為、残業時間の削減や有給休暇取得化は企業としては必須科目とも言えるでしょう。
生産性向上の取り組みを通して、従業員の心身の健康や採用ブランドの強化、離職率の改善など多くの果実を得られるようにしていきましょう。
業界で生産性の違いはあるのか
実は労働生産性は業界ごとに大きく差があります。そしてそれを分かつ最も大きな要因は「ビジネスモデル」にあると言えます。「ビジネスモデル」をもう少し分かりやすく言うと「資本集約型」か「労働集約型」かという区分です。
「機械や設備や仕組み」がアウトプットを出す主体である資本集約型産業は、労働生産性が高くなっています。具体的には「鉱業、金融・保険業、電気・ガス・熱供給・水道業、不動産業、物品賃貸業」などが該当します。
このような資本集約型産業の業界では、設備投資の度合いや生産技術の改善を経て大きく生産性向上を実現する事を検討するのが良いでしょう。
一方、「人」がアウトプットを出す主体である労働集約型産業は、労働生産性が低くなっています。具体的には「飲食サービス業、医療・福祉業、教育・学習支援業、宿泊業、生活関連サービス業、娯楽業、小売業」などが該当します。
このようなサービス業を中心とした労働集約型産業の業界では、従業員のスキルやエンゲージメントの高低が大きく生産性に響いてきます。
育成の仕組みを整える事はもちろん、エンゲージメント向上における施策を導入する事で生産性向上を実現する事を検討すると良いでしょう。
また、近年では労働集約型産業のデジタルトランスフォーメーションも大きく進んでおり、長期的には労働生産性の底上げが実現できると思われます。
■大企業と中小企業での生産性の違い
すべての企業に当てはまるわけではありませんが、一般的な傾向として、大企業のほうが中小企業より生産性が上がりやすいと言われます。大企業は通常、専門的な部署や業務フローを有しており、一人ひとりの従業員の役割や職務が明確です。それゆえ、専門化・分業化が進み、スケールメリットが生まれ、生産性が上がりやすくなります。
一方、中小企業は一人の従業員が多様な役割を果たすケースが多く、一人あたりの生産性は低くなりがちです。また、中小企業は資金的な制約からテクノロジーの導入が遅れがちで、それゆえに業務効率化が進んでいないケースも少なくありません。
■国内企業と外資系企業での生産性の違い
企業や業界によって状況は異なるので一概には言えませんが、国内企業に比べると外資系企業のほうが高い生産性を発揮している傾向にあります。一般的に、外資系企業は国際的な経営スタイルで効率的な業務運営をしている会社が多く、生産性を高めやすい環境にあると言えます。一方、国内企業は地域の慣習に基づいた昔ながらの経営スタイルの会社も多く、業務効率に課題を抱えている会社も少なくありません。
また、外資系企業はグローバルなネットワークを有しており、生産性を高めるためのノウハウやベストプラクティスを適用しやすい状況にあります。加えて、外資系企業は国内企業に比べるとITをはじめとする最新テクノロジーを積極的に導入しており、業務効率化によって優れた生産性を発揮しています。
労働生産性が低い原因と向上させる方法
労働生産性が低い原因にはある程度の法則があります。
ここではフレームワークを活用しながら説明をしていきます。
下記はリンクアンドモチベーションが「企業」を網羅的に捉える為のフレームワークです。企業を構成する要素を5つに分類し、それぞれの要素の頭文字5つがMである事から「5M(ファイブエム)」という名称をつけています。
- 上段左が「Message」。これは企業の中でも「事業戦略」に関する部分です。商品サービスなど事業面に関する要素が該当します。
- 上段右は「Motivation」。これは企業の中でも「動機形成」に関する部分です。従業員エンゲージメントに関する要素が該当します。
平たく言うと事業と組織なのですが、この2つがバランスしている事(どちらかに偏り過ぎていないか、整合性は取れているか、好影響を及ぼし合っているか)が大切になります。
また、そのバランスを取る為の操作変数が下の3つだと考えてください。
- 下段左は「Membering」。これは人材開発に関する箇所であり、人材採用、人材育成、人材配置が該当します。
- 下段真ん中は「Mission」。これは役割編成に関する箇所であり、理念浸透、階層設計、機能設計が該当します。
- 下段右は「Monitoring」。管理制度に関する事であり、等級制度、評価制度、報酬制度が該当します。
上記の前提のもと、それぞれにおける労働生産性の課題と対策を見ていきましょう。
■事業戦略面(Message)での課題と対策
労働成果は労働生産性の算出の際の分子になる為、事業成果が芳しくない場合は当然ながら労働生産性は下がります。
事業成果が芳しくない状態が長く続くようなら、顧客ターゲット、商品サービスのメッセージ、アプローチ方法などを今一度検討し、成果の最大化に注力する事が大切です。
■動機形成面(Motivation)での課題と対策
慶應義塾大学との共同研究の結果、従業員エンゲージメントが低下すると労働生産性も低下する事が分かっています。
集中力、連携意識、成果へのコミットメントの低下が生じる事がその理由ですが、エンゲージメントを高い状態に保つ事に注力する事が大切です。
■人材開発面(Membering)の課題と対策
従業員のスキルやマインドが十分でない場合にも、労働生産性は下がってしまいます。
そもそも自社の方針に共感している人間を採用しているか?スキル面、マインド面の教育は十分か?適材適所の配置を行い、全員のポテンシャルを活かせているか?などを見直し、脆弱な箇所に対策が打てると良いでしょう。
■役割設計面(Mission)での課題と対策
会社の目指す方向である理念や判断基準となる行動指針の浸透が十分でない場合、適切な数の階層間での意思疎通が十分でない場合、関連部署間の連携が十分ではない場合などは労働生産性に悪影響を与えます。
理念の策定や浸透施策の実施、効果的な組織図の設計、部署間同士のコミュニケーション強化などを実施できると良いでしょう。
■管理制度面(Monitoring)での課題と対策
等級と人材レベルの不整合、評価に対する不納得感、インセンティブやペナルティ設計の未整備などが起きている場合は「頑張っても報われない」という心情になり、労働生産性が下がってしまいます。
等級制度の再設計、評価基準、手順、項目の具体化、金銭報酬や感情報酬(承認欲求、親和欲求、成長欲求、貢献欲求という社会人に備わっている欲求を満たすためのコミュニケーション報酬)を提供する為のルール整備に取り組んで「頑張りたい」という気持ちを呼び起こす事が効果的です。
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■長時間労働も生産性低下の原因に
長時間労働が常態化している会社では、従業員がリフレッシュする時間を確保するのが難しく、ストレスや疲労が溜まりやすくなります。そうなると、集中力や注意力の低下を招き、一つひとつの仕事に時間がかかったりミスが増えたりして、生産性が低下します。
また、長時間労働が続くとワークライフバランスが悪化し、従業員がモチベーションを維持できなくなります。その結果、生産性が下がるケースも少なくありません。最悪の場合、従業員の健康が損なわれ、欠勤や休職によって生産性が著しく低下することもあります。
■マルチタスクの常態化も改善が必須
マルチタスクを抱えている人は頻繁にタスクを切り替える必要があるため、集中力を維持しにくいと言われます。その結果、一つひとつのタスクにかかる時間が長くなったりミスが増えたりして生産性が低下します。また、タスクを切り替えるたびに脳をリセットして、次のタスクに適応する時間が必要になるため、効率的な作業が妨げられてしまいます。
昨今はテレワークを導入する企業が増えていますが、テレワークにおける生産性の低下も問題になっています。テレワークで生産性を向上させるポイントは以下の記事で詳しく解説しています。
>> テレワーク (リモートワーク) で生産性を向上させるには?課題や改善策を解説!
生産性向上施策をする前の注意点
前述のような生産性向上の取り組みをする際に、押さえておくべき前提があります。それは組織の構成要素(HR・Communication・Rule)です。生産性向上に向けた組織変革を行う前に、土台となる組織の構成要素(WHY/WHAT)を理解しておくと施策浸透(HOW)がスムーズに進みます。
■組織は個々の人間の集合体である
組織は第一に、個々の構成員が自身の役割を果たすことで初めて機能します。
個々をつなぐコミュニケーションツールや統制をとるためのルールや制度が整っていたとしても、個人が機能しない限り、組織にはなり得ません。また、仮に構成員がそろったとしても、自立できていない個人の集合体では、互いに責任転換をしたり、何か不満が出てきたときに提案ではなく不満や愚痴をこぼしたり、組織としての力を発揮することはないでしょう。
そのため個人には自身の役割に対して、自らの責任で自立的に意思決定・行動していく姿勢、何か問題が起きたときには「どうしたらいい方向に進むのか?」と変えられるものに目を向ける姿勢が求められます。
■組織はコミュニケーションの集合体である
第二に、個々人をつなぐ機能(結節点)が組織には必要です。
生産性向上施策をリリースした所で、それだけで勝手に全員が実施してもらえるわけではありません。
かといって経営者や人事が全社員に逐一指示をする事も不可能なので、各組織の長である管理者に生産性向上施策の意図や背景を伝え、モチベーションが湧くコミュニケーションを取ってもらう必要があります。
このように組織の「意思決定の調整コスト」や「方向性の収束コスト」を大幅に低減してくれる存在を「結節点」と呼びます。結節点はただ情報を右から左へ流すだけでなく、現場からの情報を的確に取集し、経営に伝達する機能、経営からのメッセージを現場の状況や役割に合わせて翻訳する機能を担っています。そのため、どのようにコミュニケーションを取れば従業員の貢献意欲を引き出せるかなどは、事前に管理者とすり合わせておけると良いでしょう。
それでも実行が覚束ない組織がある場合は、管理者の優先度が下がっていないか?上手く情報編集・情報圧縮して経営の意図を部下に結節(繋いでいる)しているか、を確認する仕組みがあると良いでしょう。
■組織はルールの集合体である
最後に、組織には全体が上手くまとまって機能していくためのルールが必要です。
生産性向上の仕組みや施策を導入した際に、合わせて仕組みや施策運用に必要なルールも提示をすると思います。一方、ルールには幾つかの宿命がある為、その内容を理解した上でルールを扱う事が大切です。
まずは「硬直性」。一度定め、運用させたルールはそう簡単には撤回する事が出来ません。環境変化が激しい企業活動に置いて、一度決めたルールに思考や行動が縛られる事を念頭に、ルールの発信や運用後の検討を行うことが必要です。
次に「不透明性」。あらゆるケースを想定しルールを作るとルールの文言が多くなり過ぎて機能しない事態が生じます。だからこそルールには適度に解釈が残る不透明な余地はどうしても残す必要があります。
最後に「非効率性」。出来るだけ精緻なルールを作ろうとして複雑なものにすると、そのルールを遵守、運用する際に爆発的なコストがかかるため、適度な精緻さに抑える必要があります。
そしてこれらの宿命を乗り越えるには日頃から「信頼感を醸成」しておく事が大切です。上司⇄部下、会社⇄従業員の中で信頼感が醸成出来ていれば「きっとやってくれる」「必ず意味があるはず」とポジティブな判断でルールを運用してもらえるもの。
そのような信頼インフラの構築なきままのルール運用は上手く行かないため、生産性施策の成功の為には大事な要素になります。
【参考資料のご紹介】
日本一働きがいのある会社の秘訣をご紹介!
生産性向上を成功させた企業事例5選
厚生労働省が発行している「生産性向上の事例集」「生産性向上のヒント集」をもとに、生産性向上を成功させた企業の事例をご紹介します。
※参考:生産性向上の事例集|厚生労働省
※参考:生産性向上のヒント集|厚生労働省
A社(介護事業)の生産性向上事例
奈良県で介護事業を営むA社では、従業員が個々に勤怠入力していたためミスが多く、労働時間の集計に時間がかかっていました。そこで、社長以下幹部に対して、業務プロセスの見直しと労務管理に関するポイントを習得するためのコンサルティングを実施するとともに、労務管理ソフトウェアを導入しました。
その結果、労働時間に対する従業員の意識が高まり、時間外労働が削減されました。また、以前は2日間かかっていた労働時間の取りまとめ業務が無くなり、生産性の向上につながりました。
B社(小売業)の生産性向上事例
大阪府で小売業を営むB社では、軽減税率に対応するため、消費税8%と10%の商品・サービスの一覧をそれぞれ手書きで書き留めてレジ業務をしていたためミスが多く、売上集計時に誤差が発生していました。そこで、POSレジを入れ替えるとともに自動釣銭機を導入しました。
その結果、レジ業務の時間は30%削減、日次の売上集計の時間は50%削減と生産性向上につながり、ホール担当などへの配置転換も可能になりました。また、売上集計時の誤差は無くなりました。
C社(総合工事業)の生産性向上事例
高知県で総合工事業を営むC社は、設計書と積算書の食い違いによって入力・確認ミスが起きることや、過去の工事単価データの参照に時間がかかることなどが課題となっていました。そこで、新型の土木工事積算システムを導入しました。
その結果、過去のデータの検索や適切な単価データの抽出が容易になり、入力・確認ミスも少なくなり、積算時間は25%削減と生産性向上につながりました。加えて、以前は2名でおこなっていた総務・経理業務を1名で対応できるようになりました。
D社(飲食業)の生産性向上事例
神奈川県で飲食業を営むD社は、一度に大量の調理ができないことや、厨房の動線が悪いために料理の提供に時間がかかることなどが課題となっていました。そこで、スチームコンベクションオーブンを導入するとともに厨房のレイアウト変更をおこないました。
その結果、パンの焼成時間は約6分の1になり、野菜の茹で時間は約3分の1になりました。また、壁の撤去やレイアウト変更によって厨房の動線が改善され、業務時間は5~10%削減と生産性向上につながりました。
E社(食品製造業)の生産性向上事例
和歌山県で食品製造業を営むE社では、餅の製造や運搬を手作業でおこなっていたため時間がかかっていました。また、外国人従業員に対して写真を使って身振り手振りで作業を教えており、教育効率が悪いという課題もありました。そこで、餅つき機、ベルトコンベア、視聴覚機器、翻訳機を導入しました。
その結果、以前は4人必要だった作業が2人でできるようになり、商品製造時間は15%削減と生産性向上につながりました。また、外国人従業員の理解度が向上したことで、教育時間は約半分になりました。
記事まとめ
いかがでしたでしょうか?労働生産性の概要や労働生産性を向上させるためのポイントについてご紹介しました。労働人口が減る日本にいる我々だからこそ、労働生産性は常に重要度が高いテーマ。
労働生産性を軸にした企業経営をする事で、成果に拘る風土や従業員エンゲージメントへの意識、人材育成やルール面でもクオリティが上がるものも多いと思います。この記事が皆様の労働生産性向上に向けて1つでもヒントになったのであれば幸いです。
従業員エンゲージメントを可視化・改善するモチベーションクラウドはこちら
労働生産性に関するよくある質問
Q:労働生産性はどうすれば上がる?
労働生産性を上げるには、労働生産性の算式の分母を減らすか、分子を増やすかのいずれかです。具体的な方策としては、リストラをおこなう、業務を効率化する、より良い製品・サービスを開発する、原価を下げる、売上を落とさない範囲で値上げをする、といった方法が考えられます。
Q:労働生産性向上とは業務効率化のこと?
業務効率化とは、日々の業務のなかで無駄を省き、時間やコストを削減することを言います。業務効率化ができれば、労働量や労働時間が減ったり生産量が増えたりする結果、労働生産性が向上します。つまり、業務効率化は、労働生産性を向上させるための手段の一つだと言えます。
Q:なぜ、生産性向上が必要なの?
急速に少子高齢化が進んでいる日本では、労働人口の減少が社会問題になっています。すでに多くの企業が人手不足に悩んでおり、この先はさらに人手不足が深刻化すると考えられています。そこで、企業に求められるのが生産性の向上です。これまでのように労働力を増やすことで生産量を増やすのではなく、従業員一人あたりの生産性を高めることで生産量を増やしていかないと、厳しい競争を勝ち抜いてはいけないでしょう。これからの企業には、今まで以上に労働生産性の高い、少数精鋭の組織への変革が求められます。