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ラグビーW杯成功を支えた運営組織「TEAM NO-SIDE」のチームづくり

日本初開催のラグビーワールドカップ(RWC)は、日本代表の活躍で国中を沸かせ、ワールドラグビーのビルボーモント会長は大会終了後の総括会見で、「もっとも偉大なワールドカップとして記憶に残る大会となった」と評価されました。

大会組織委員会が目標に掲げていた「全会場満員」はほぼ達成され、横浜国際総合競技場での決勝では7万103人の観客を記録し、2002年サッカーワールドカップ決勝を上回りました。

ラグビーW杯が大成功に終わったことは疑う余地はありませんが、その成功を支えた裏側には、1万3千人のボランティア、組織委員会の職員、コントラクターと呼ばれる業務受託の企業の方々たちを取りまとめた「TEAM NO-SIDE」の存在がありました。

ラグビーワールドカップ2019組織委員会でトレーニングマネジャーを務め、「TEAM NO-SIDE」のチームづくりを牽引した佐藤氏にその成功の要因を伺いました。

【プロフィール】
公益財団法人ラグビーワールドカップ2019組織委員会 
人材戦略局人事企画部 主任 トレーニングマネージャー 佐藤 洋平氏

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ワールドカップ運営を支えるチーム NO-SIDEをつくる要の仕事 トレーニングマネジャー

– 改めて今携わっていらっしゃるお仕事の内容についてお伺いできますでしょうか?

佐藤 洋平氏(以下、佐藤氏):元々小学校から大学までずっと体育会でラグビーをやっていて、新卒でリンクアンドモチベーションに入社しました。引退して社会人になった2009年の夏、ラグビーワールドカップ2019の日本開催が決まりました。

その2009年の時点で「リンクアンドモチベーションで10年間キャリアを積んで一人前のビジネスパーソンになって、ラグビーワールドカップに必ず貢献する」と強く決意しました。

また、2015年のラグビーワールドカップ2015イングランド大会をプライベートで観戦に行ったのですが、会場の雰囲気が素晴らしくて、「これが日本に来るんだ!」と感銘を受けました。

同時に、「本当にこの雰囲気が日本で実現できるのか」と危機感も覚え、「何とかしなければ」と感じましたね。

その後は、縁あって希望通り組織委員会で働くことになりました。私は、ワークフォーストレーニングマネージャーという仕事をしています。ワークフォースというのは日本にはあまり馴染みの無い言葉だと思いますが、グローバルなスポーツイベントだと一般的な考え方です。

ワークフォースには3種類の属性が集まっています。1つ目が私たち組織委員会の職員、2つ目が業務受託の業者さん(コントラクター)、そして3つ目がボランティアの皆さんです。この三位一体を実現しないと大会運営はうまくいかないと考えています。

これはグローバルスポーツの中のスタンダードな考え方です。私は、このワークフォースのトレーニングを一括してやっています。

わかりやすく言うと、お客さまのお出迎えや、スタジアムでの運営が上手くいくというところから逆算して、そこをボランティア、職員やコントラクターが役割を全うできるように事前のトレーニングを設計していくというのが、私の去年の4月からの仕事でした。

チームの状態をよく理解して、トレーニングを設計した

– 実現しなければいけないことは色々あったかと思いますが、最初はどんなことから取り組み始めたんでしょうか?

佐藤氏:私が組織委員会に入ったときは、プログラム名称を「NO-SIDE」、ボランティアの名称を「TEAM NO-SIDE」と呼び、まずボランティアを1万人集める(最終的には1万3千人を採用)、ということだけが決まっているという状態でした。

決まっていないことが多い中で、何から始めるべきか、そのプランを立てるときには前職であるリンクアンドモチベーションでの経験がものすごく活きました。

私が前職のときにコンサルタントとして組織創りに関わる時に大切にしていたのは、組織の目的を定めることです。今回すごく恵まれていたと思うのは、組織委員会の仲間の中で、理想とするゴールイメージが明確に共有できていたことです。

組織委員会の仲間は私と同じように前回のラグビーワールドカップ2015イングランド大会を観ていて、「イングランド大会のような最高の大会にしたい」と思えていました。

また、ワールドカップにおけるボランティアの位置づけを、「Face of Tournament(トーナメントの顔)」としていて、ワールドカップの特別な雰囲気を生み出すのがボランティアだと、皆の意識が統一されていたことも良かったですね。

ゴールイメージを感覚的に共有できていたことはとても大きく、高い基準を共有できたと思います。また、「日本の常識」に囚われずに進めることができたと思います。

例えば、日本の他の団体や競技運営の方の話を聞いていると、「ボランティア」という活動や人に対する認識も外国とは異なっている部分がありました。

いわば「人件費を減らすために使う」というような意識がある場合があって、今回はそういった意識もなく、最初からゴールイメージを皆で共有できていたのはすごく大きかったです。

そうしたゴールイメージを元に、皆で議論しながらトレーニングの全体像を設計して進めていきました。

1万人のボランティア募集に3万8,000人が殺到

– 日本は、イングランドやニュージーランドなどのラグビーが生活に浸透している国とはまた異なった雰囲気だったと思いますが、ボランティアの方を集めるのは大変ではありませんでしたか?

佐藤氏:そもそも、今回のボランティア採用目標人数の1万人は過去最高の人数でした。前回が6000人、前々回は5000人程度の規模。「本当に1万人も集まるのか」ということが一番不安でした。

しかし、蓋を開けてみたら、応募者は全国合計で3万8000人も集まりました。首都圏では、2020年のオリンピック前哨戦ということでモチベーションが高く、また東京マラソンなども定期的に開催されており、スポーツボランティアに対する熱量が非常に高かったのは、嬉しい誤算でした。

また、関東圏以外でも、こんなイベントはなかなか無いぞということで地元の人たちが沢山集まってくれました。組織創りの入り口の段階で、こちらの想像を上回るぐらい熱気がありましたね。日本におけるスポーツへの関心の高さをすごく感じました。すごく有り難かったです。

ボランティアの応募者選考では、採用イベントを全都市で開催しました。2018年8月末から12月末まで開催都市を順番に巡り実施しました。5、6チームに分かれて、1日5回転×4日間×12都市のような形で、とにかくたくさんの人に直接会うことを大切にしました。

– ボランティアの方の選考基準は何だったんでしょうか?

佐藤氏:まずやったのはラグビーワールドカップの世界観をお伝えることです。実現したい世界観や雰囲気、それを実現するために一人一人が心がけることをお伝えしながら「ボランティアの皆さんが Face of Tournament(トーナメントの顔)」「ボランティアの皆さんが大会の特別な雰囲気をつくるんです」と説明会の段階から話していました。

あとは、「ワールドカップの前回大会って、世界で何人がテレビで観たか知っていますか?1億人や2億人ではありません。40億人です。」のような話をしながら、日本ではいまいち認知されていないラグビーワールドカップの規模感を、この採用の入り口時点でかなり念入りに伝えました。

やはり、組織やチームをつくるにあたって、最初の入り口は何よりも大事なんです。最初の入り口を間違えてしまったら、その後にどんな施策を実行しても、取り返しきれない。採用で全てが決まるという気迫で説明会には臨んでいました。

「思想」にこだわり、1万3千人のボランティアを動かす

– TEAM NO-SIDE全体で、大切にしたいことを“プリンシプル”としてまとめられたそうですね。そもそも、今回なぜプリンシプルをつくろうと考えられたのでしょうか?

佐藤氏:前職のリンクアンドモチベーションで学んだ考え方の1つに、“思想、型、形”というものがあります。「形」、つまり「◯◯のときには、✕✕せよ」という細かいルールも大事ですが、それ以上に「思想」、つまり「なぜその『形』を実践しなければいけないのか」ということを伝えることが大事だという考え方です。

良くも悪くも、ボランティアの方は「形」にこだわる傾向があります。

例えば、「このスタジアムでは、ゲートに飲み物を持ってくるお客様がいたら、コップに移し替える。ラグビーワールドカップではどうするのか。」など、このレベルで1つ1つ指示する、疑問に答えるというトレーニングをしていると、莫大な量の質問が委員会に届くことになります。

なので、「形」を伝えるのではなく根底にある「思想」や方向性を具現化した「型」を伝えることで、ボランティアの方一人ひとりが、どんな状況でも自分で判断して動くことができるようになることを目指しました。

具体的に伝えた「思想」としては、先程お伝えしたような「Face of Tournament ボランティアは大会の顔であり、大会の付加価値を生み出す存在である」ということや、ボランティアプログラムとして達成したいGOAL、その実現に向けてひとりひとりが実践して頂きたい行動やマインド、これらの「思想」や「型」をまとめたのが“プリンシプル”です。

“プリンシプル”で、「思想」や「型」をしっかり設計した上で「①オリエンテーション」「②Eラーニング」を通じて伝えていきました。コントラクターの方も組織委員会の職員も熱心に取り組んでくださったので、この段階である程度成功の予兆を感じることができました。

逆に、入り口の設計が肝になることはわかっていたので、①オリエンテーションが始まる2019年の年明けぐらいは、夜も眠れないぐらいしんどかったのは強く覚えていますね。

ボランティアの方が自発的に動く組織に

– 開幕してからの手応えを感じられた出来事は何かありますか?

佐藤氏:実際に開幕して現場に行ってからはボランティアの方の休憩室にいることが多かったのですが、ボランティアの方が休憩室に戻ってきたとき、活き活きと楽しそうな様子だったのが何よりも嬉しかったです。

それに加えて、「あれしたい」「これしたい」「こうした方が良い」と、ボランティアの方がかなり自発的に動いてくださっていて、トレーニングの成功を感じることができました。

また、ボランティアの方はどんどん自分たちで進めてくださるのですが、しっかり統制は取れていました。勝手に動いてしまって、「どうなっているんだ」というようなクレームもほとんど有りませんでした。

釜石の試合を観に行ったのですが、釜石での試合終了後の帰り道で見た光景が今も忘れられません。

試合後、ボランティアの方が並んでお客様をお見送りするのですが、皆全力で手を振ってくださっていて。観客の方も日本人も外国人も、皆さんがハイタッチで応えて下さっていました。本当に素晴らしかったです。

最初にゴールとして目指していた、イングランドのワールドカップを超える光景が釜石にはありました。

ラグビーを通して、日本のホスピタリティの素晴らしさを世界に伝えられた

– 今回のW杯を通して、日本にもたらされたものは何でしょうか?

佐藤氏:いくつかありますが、まず、今回の日本大会は、ラグビーの新時代を切り拓くきっかけになれたんじゃないかと思っています。

ワールドラグビーでは、強さによって階級を設けていて、強豪国をティア1、中堅国をティア2、発展国をティア3としています。

日本はティア2の国として今回ワールドカップ史上初めて開催国として選定され、試合成績がティア1と互角だったことも勿論、大会としてもここまで成功を収めることができました。

そのおかげで、今まさにティアの垣根を越えた議論が起きていて、新しい時代を築くことに貢献できたのではないかと感じます。

また、日本のホスピタリティを世界に示すことができたのは、本当に良かったことだと思っています。TEAM NO-SIDEとしてずっと言っていたのは、ボランティアの方がFace of Tournament、要するに大会の第一印象はボランティアの方で決まるということです。

観客の方がどこかの駅に着いて、「バス乗り場はどこかな」と思ったときにサポートできるのはボランティアの方ですし、バスを降りてスタジアムを探すときにサポートできるのもボランティアの方。節目節目で印象を決めるのはボランティアの方に必ずなるんです。

そこでの立ち振舞いが大会の印象や評価に直接つながりますとずっと伝えてきました。

大会が開幕してからはSNSなども見ていましたが、国内外からボランティアの方のホスピタリティがとても良かったと声をたくさんいただくことができ、私個人の力では決してありませんが、今回のトレーニングを通したチームづくりが、大会の評価に繋がったんじゃないかと感じられて、とても嬉しかったですね。

大変なこともたくさんありましたが、自分の大好きなラグビーを通して、そして今回のラグビーワールドカップを通して、日本の良さを世界に発信することができたのは、私自身とても誇りに思っています。

– 本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

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