売上・利益で過去を測り、エンゲージメントで未来を創る。 ネオキャリア専務取締役加藤賢氏が語る 「成長し続ける会社の事業・組織の創り方」
組織のエンゲージメント、社員のモチベーションを企業成長のエンジンとして経営を行うモチベーションカンパニー。そんなモチベーションカンパニー創りのナレッジをシェアし、より多くのモチベーションカンパニーを創り上げていくことを掲げて開催されている「Motivation Company Session」。
業界成長率No.1企業のネオキャリア社の加藤氏に登壇頂きました。ほとんどメディアに登場することのない加藤氏が語る、ネオキャリア社の事業成長の秘訣と事業成長を支えた組織戦略。「成長を目指す」経営者に送る、圧巻の全2回シリーズ、後編。
【プロフィール】
株式会社ネオキャリア 専務取締役 加藤 賢氏
株式会社リンクアンドモチベーション
執行役員 モチベーションクラウド事業責任者 麻野 耕司
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エンゲージメントスコアは未来の業績と連動する
麻野 耕司(以下、麻野):ネオキャリアの加藤副社長をお迎えして、「業界成長率ナンバーワン企業の秘訣」というテーマでお話を伺っています。ここまで、ネオキャリアの事業戦略について非常に詳しくお話をして頂きました。
ここからは、そんな事業成長を支えた組織戦略についてお話を伺っていきたいと思います。勝機を見極め、大胆な人員配置を実現してきたネオキャリアでは、ともすると組織が混乱していくのではないかという懸念も出てきます。
そんな中、しっかりと組織を保ちながら成長されているということで、どんな施策を講じられてきたのでしょうか。
加藤 賢氏(以下、加藤氏):はい。今まさしくお話いただいたように、非常に人員が増えていく中で、組織に対しての手触り感がどんどん無くなっていく感覚がありました。
たとえば100名ぐらいのときは、全員の名前が言えて、一人ひとりの性格や仕事ぶりもわかっていた状態でした。しかし、ある一定以上の規模になってくると、会社で会ってもすぐに名前が出てこないというようなことが、現実として起きてきます。
組織を把握できていないということに非常に課題感を感じながらも、フロアが違う、エリアが違うということで、僕が見れるのは業績しかない、という状態。
しかも、エンジニアの割合が増えてきて、それまでの会社の雰囲気とも異なる中で、いろんなところでハレーションが起き始める。
加えて、業績は伸びているけれども、なかなか幹部が育ってこない、など。様々な課題が見えてきたところで、麻野さんがやられているモチベーションクラウドの導入を決めました。
麻野:ありがとうございます。今日はネオキャリア社のエンゲージメントスコアや退職率の推移なども公開して頂いていますので、そちらをもとにお話を伺いたいと思います。
2014年からご活用いただいているんですが、2016年の3月にCプラスまで落ちています。しかし、この直近の2年間ではかなりスコアを伸ばしていらっしゃっています。
数千人という従業員規模でありながら、4ポイント、5ポイントとどんどんとエンゲージメントスコアを伸ばしていらっしゃいます。また、退職率がかなり下がり、生産性が上昇してきている状況です。
加藤さん、どんなふうにモチベーションクラウドを活用してるのかということと、全社での取り組みと部署の取り組みとに分けてお話頂けますでしょうか。
加藤氏:はい。2014年や2015年頃は、正直言ってしっかり活用できていませんでした。調査をして「これぐらいなんだね」という現状把握をしていただけでしたね。
けれど2016年の急激に下がったタイミングで、非常に危機感を感じました。それまでは調査をするだけだったところから、しっかりと改善行動をとろうという風に向き合い方を変えました。
まずはしっかりと見るということから。部署ごとに見ていくと、前年まで非常に業績が良かったのに、急激に崩れるという部署がありました。そういう部署に共通していたのは、業績はよいけれど、エンゲージメントスコアが低いということでした。
業績はよいけれど、組織的な課題が潜在的に存在していて、責任者が交代したり、キーマンが異動したりすることで、組織の課題が業績という形で一気に表層化する、という。
やはり組織の状態とこのエンゲージメントスコアはしっかりと連動しているということで、僕自身がエンゲージメントスコアを経営の一つの指標として置きますということを、明確に全社に伝えています。
毎回、各事業部、各部署に結果をシェアし、僕の方でもそれぞれの部署に対して「こういったところが課題だよね」と注目ポイントを伝えるようにしています。
加藤氏:また、この直近1年ぐらいから、副部長クラス以上の責任者・役職者については、自分が担当する部署やエリアのエンゲージメントスコアは評価と連動させています。
いくら業績がよくても、エンゲージメントスコアが低ければ評価は上がらない。逆に、エンゲージメントスコアがよい場合は、加点評価するようにしています。
また、人員配置にも連動させています。弊社では、エンゲージメントスコア50以下を2回連続で取った責任者は、交代させると伝えています。弊社も3年以上このモチベーションクラウドを使っていく中で、スコアが低い部署の問題は二つしかないと考えています。
一つは責任者自身のマネジメント力不足。もう一つは組織の中に、残念ながら悪い風を送るようなメンバーがいること。この二つしか、スコアが大きく下がる要因はないと思っています。不満を言うメンバーを変えられないということも、言わば責任者の力量不足でもあります。
ですので、改善しないようであれば、それは力量が達していないということも含めて、経営として早めに対処するということで、責任者を交代させることにしています。
組織改善に必要なことは、経営者の本気
加藤氏:モチベーションクラウドや組織改善をしっかりと進めていくために必要なことは、シンプルに「経営者の本気」です。会社として徹底して運用することが大切だと思います。
導入当初は役員の中にも「これで本当に測れますか?」「自分のところは中途社員が多いからエンゲージメントが低いのは仕方がない」など言い訳をする者もいました。
そこに関しては僕自身がかなり厳しく指導をする形で、意識を揃えていきました。売上や利益という数字は、過去の行動を見るためには有効だと思います。
モチベーションクラウドのエンゲージメントスコアは、今実際に組織がどうなっているのか、ということを見る上で、非常に信頼できる指標だと思います。
麻野:多くの事業や拠点展開をされているネオキャリア社だと、部署ごとの結果や対策というのが非常に大切になると思います。部署別の取り組みについてご紹介下さい。
加藤氏:そうですね。スコアが高い部署のマネージャーと低い部署のマネージャーとを集めてミーティングをすると、はっきりと分かれました。スコアのよい部署のマネージャーはしっかりと課題に向き合って、これからのTO DOを自発的に挙げてきます。
一方でスコアの低いマネージャーは基本当事者意識が低い。「いやそれは俺の役割じゃないし」「それって部長の仕事ですよね」など。スコアと実態が非常に一致している状態でした。
まずはスコアが悪い部署に僕も入って改善していき、結果として今はコンディションのいい部署が増えてきたという状況ですね。
課題から導かれるTO DOを実行することで、必ず組織は変わる
加藤氏:具体的な事例を二つご紹介します。一つ目は新卒学生の就活支援の事業をしている部署です。ちょうどスコアを取り始めた時に、責任者の交代がありました。
拠点は東名阪、福岡もあり、200名ほどの事業部です。正社員だけでなく、アルバイトや派遣の方も多い部署です。この部署でいくと、初めはスコアが50程度でした。そこから今はかなり改善されて70弱まで伸びています。
麻野:どんな施策を実行されたのでしょうか。
加藤氏:まず、事業部ごとの結果の中でも、その組織の強みと課題がしっかりと出てきます。それをさらにグループに落とし込んで、具体的な改善行動をTO DO化し、しっかりと実行していきました。
全社としては半年に一回サーベイを実施していますが、弊社の場合は、スコアが55以下の部署に関しては、クォーターに一回実施します。サイクルを短くし、その都度TO DO化して改善していきます。
また、人事の責任者も介入をして、モチベーションクラウドの管理画面上でTO DOがしっかりと実行されているかを追っていきます。明確になった課題からTO DO化して実行する。そしてその実行度合をきちんと見守ることで、確実に変化が起きてきます。
加藤氏:またその他に取り組んだことでいきますと、組織のコミュニケーションの結節点であるべきミドル層、マネージャー陣に対する施策です。
部署の目的やサービスの価値みたいなことをしっかりと現場に伝え接続していくこと、が明確な課題としてモチベーションクラウドから導き出されてきましたので、ミドル層に対しての研修を実施しました。また管理会計を導入しグループ単位でのPL管理を進めました。
今まではマネージャーが「どうやって売上を上げよう」という意識だったのが「どうやって組織をよくしよう」という意識へと変化していきました。
弊社の場合、アルバイトや派遣社員という方々には、組織的な取り組みを行っておりませんでした。やはり雇用形態が違うことで、会社へのエンゲージメントは変わります。
改めてアルバイトや派遣社員の方々にも、自分たちが関わるサービスの価値や目的や組織の施策の意図をシェアするような機会を設けています。
加藤氏:結果として部署全体のコンディションが改善し、スコアが高まっていきました。全体として15ポイントも上がり、各項目についての改善も進んでいます。
目的を共有し、機会を提供することで、当事者意識が生まれる
加藤氏:二つ目は、HR Techを扱う新規事業の部署です。最初にスコアをとった時は20名弱の組織でした。セールスのチームはほとんどが新卒、そこに開発もいて、非常に多様性の高い組織でした。初めのスコアは45.6。非常に低い状態からのスタートでした。
加藤氏:大きく二点、注力して取り組みました。一つ目は、新規事業の目的・意図を啓蒙するということです。どういうことかと言いますと、新規事業なので当然完成された状態が最初からあるわけではありません。
少しずつ改善していくというプロセスが必要なのですが、エンジニアが必死で開発をしている隣で、セールスが「このサービスがイケてないから売れない」みたいなことを言ってしまっていたり。
営業と開発の関係がうまくいかないという課題は、いろんな会社さんが抱えてらっしゃると思いますが、弊社でも初期の頃は衝突が勃発しまくりました。
加藤氏:そういった中で改めて、僕の方からこの事業をなぜ始めたかということや、今後の展望をシェアする機会を設けました。
また、レポートラインの整備を行いました。セールスがお客様から伝えられた「こんな要望があります」ということを、そのまま開発に伝えたら、開発は必死に応えようとしてスケジュールがごちゃごちゃになってしまったり。
ちゃんとコミュニケーションのラインを整備して、ミーティングを設け、エンジニア側・セールス側への要望が伝わりやすいようにしました。
また、それぞれ立場は違うけれど、ミッションは同じはずだ、と。世の中に価値あるサービスを届けようという想いは同じはずだということで、向き合ってコミュニケーションをとる機会を増やしました。
加藤氏:二つ目は、当事者意識の醸成です。新規事業に携わる中で、やはり個人はいろんなジレンマを感じます。
既存事業で利益を生む事業がもてはやされ、新規事業はただでさえ大変なのに日の目を浴びない、と。そんな中でもう一度しっかりと「なぜ新規事業に抜擢したのか」という意図を伝えていきました。
かなり若手が多いチームでもありましたので、どんな経験が積めて、どんな見地が身につき、どんなキャリアを得る可能性があるのか、という話を伝えていくようにしました。
また、部署内で様々なプロジェクトを立ち上げ、リーダーとして抜擢していきました。新卒の2年目だろうと3年目だろうと、自分たちが新しい組織を創っているんだという感覚を持ってもらうこと。
自分たちが当事者として一緒に事業・会社を創っているんだという意識を持っていったことで、大幅に組織のコンディションは改善していきました。
拡大を続けながら、生産性を高め、退職率を抑える
麻野:ありがとうございます。私もネオキャリア社、加藤さんをこれまで側で見ていて印象的なことが二つありまして。
一つは、加藤さんが隅々までこのモチベーションクラウドのエンゲージメントスコアを把握されているということです。一つ一つの部署のデータが頭の中に入ってらっしゃるので、組織の状況をよく掴んでらっしゃって、機敏な配置転換や組織編成に活かされている。
加藤さんにとって事業の戦略と組織の戦略とこのモチベーションクラウドが繋がったのが、2016年の3月頃、スコアが下がった時だったのかな、と。
そこで、既存事業の成長率はどこかでやはり落ちてくるので、生産性を上げていかないといけない、その時にこのエンゲージメントスコアと生産性が連動しているという気づきをもとに、組織改善施策に一気に取り組んでいかれたのだなと思います。
もう一つは「成長率を維持するために退職率を下げない」という取り組みです。
「退職率はエンゲージメントスコアが連動する」という気づきのもと、様々な施策を講じられてきましたが、実際、これだけの人員拡大をしながら退職率を下げるというのは、なかなか出来ることではありません。
そういった意味でも、ネオキャリアは稀有な存在の会社だと思います。
ここで会場からの質問もお受けしたいと思います。
質問者:拡大する中で退職率も下げられているということですが、例えば入り口の採用のところで、何か変えられたことはありますでしょうか。
加藤氏:ありがとうございます。この1・2年、モチベーションクラウドのスコアの中で注意深く見ているのは、期待度と満足度の一致度合いについてです。
例えば項目の中に「オフィス環境」みたいなものがあるのですが、弊社の場合はそこに関してはもう投資しないと伝えています。そこに投資をするのであれば、その資源を新規事業に投資をする、と。
それを通じてポジションを創り、メンバーへの機会を創り出していきます、と。そういった話は採用段階から伝えていますので、会社への期待がズレないということがあると思います。
リンクアンドモチベーションさんのGINZA SIXという場所でこんなこと言うのもあれですけれど(笑)。
良いビルではなく、機会を提供する会社なので、そこに価値観が合致しているかどうかをきちんと確認してほしいということは、新卒採用ではかなりしっかり伝えていると思います。
なので、入社段階から会社に期待していることと、会社が重要視していることにおいて、ズレがなくなってきていると思います。
麻野:加藤さん、本日は貴重なお話、本当にありがとうございました。
※本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。
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