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入山教授×渋澤健氏×旭化成 最新データからみる「人的資本開示」のこれから~投資家と対話し、未来をつくる~ 「HR Transformation Summit 2023」イベントレポート

人的資本経営に注目が集まる昨今ですが、人を「資本」として捉え、価値創出につなげることの重要性は過去から変わっていません。その核心は「ステークホルダーとのエンゲージメント」にあると私達は考えます。従業員に、投資家に、顧客に、自社らしさを届けて関係を築くことが、人的資本経営の実践において欠かせない要素だと捉えています。
 
この度、人的資本経営の実践を後押しする最高峰の議論をお届けすべく、「HR Transformation Summit 2023」を開催しました。Day3では、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役の渋澤健氏、早稲田大学大学院・早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏、旭化成株式会社 人事部 人材・組織開発室 課長の三木祐史氏にご登壇いただき、『最新データからみる「人的資本開示」のこれから~投資家と対話し、未来をつくる~』というテーマで基調講演・トークセッションをおこないました。
 
【イベント実施日】
2023年8月4日
 
【スピーカー】
・シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役 渋澤 健 氏
・早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール教授 入山 章栄 氏
・旭化成株式会社 人事部 人財・組織開発室 課長 三木 祐史 氏
 
【モデレーター】
株式会社リンクコーポレイトコミュニケーションズ 代表取締役社長 白藤 大仁

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シブサワ・アンド・カンパニー 渋澤社長が語る「企業の価値創造に求められる人的資本」

リンクアンドモチベーション 白藤:本日は、「最新データからみる人的資本開示のこれから」というテーマで基調講演をおこなってまいります。早速ですが、渋澤様、基調講演をお願いします。
 
シブサワ・アンド・カンパニー 渋澤氏:私は2008年にコモンズ投信という会社を立ち上げました。ひと口に投資家と言っても実に様々な投資家がいるわけですが、私どもは長期投資家の立場でございます。当然のことですが、長期投資においては財務的な価値が重要であり、これを見ないで投資をすることはできません。ただ、考えてみると、企業の財務的な価値というのは過去の取り組みが可視化された状態だと捉えることができます。そう考えると、見えているのは氷山の一角でしかありません。海面から出ているところを見ているだけで、企業価値のほとんどは海面の下の見えないところにある非財務的な価値なんです。
 
もちろん、今まで取り組んできたことが可視化された財務的な価値は重要ですが、この先10年、20年かけて可視化されてくる非財務的な価値はそれ以上に重要です。今は見えないところにある価値なので、長期投資家としてはそれをきちんと吟味して、会社を選別することが大切です。
 
見えない価値なので、当然ですが「どうやって可視化するか?」がポイントになってきますが、キーワードになるのが「対話」です。企業と投資家が対話をすることによってお互いに見えている視点を共有しながら、見えない価値を可視化していくことが重要です。
 
このように、非財務的な価値は重要なものですが、非財務的な価値のなかでも資本市場からほとんど見えていないのが「人」だと思っています。これは企業側から見ても同じで、たとえば経営企画やIRのみなさんは資本市場と接点があると思いますが、人事部のみなさんは資本市場と接点がないでしょう。人事と投資家はほとんど接点がないので、人事部は資本市場が何を求めているのか分かりませんし、資本市場側からしても、人事部がどのような考えで仕事をしているのかが見えません。人的資本経営を推進していくためには、投資家と人事がもっとセッションする機会をつくって対話を重ねていくことが大切なのではないでしょうか。



2021年10月に、岸田総理のもと「新しい資本主義」という経済政策が立ち上がり、私はその実現会議にメンバーとして参加しています。この実現会議のなかで、「もっとも見えていない価値である人的資本を可視化する研究会が必要ではないか?」と提案したところ、長年にわたって人的資本の研究をされている一橋大学の伊藤邦雄教授のもとで研究会が設けられ、以降、日本は人的資本経営フィーバーとも言える局面を迎えました。とはいえ、特に人事部のみなさんからしたら、「何を可視化すればいいの?」「どんな人的資本情報を開示すればいいの?」という疑問ばかりが湧いている状態かもしれません。人事部としての仕事を遂行するうえで「従業員に関することは内部情報だから、外に見せるものではない」というお考えの方もいらっしゃるでしょう。また、人的資本開示が求められる一方で、「わが社はまだそこまで達していなくて・・・」と開示をためらっている企業も多いと思います。人間ですから「できていないから見せたくない」という気持ちが働くのも無理はありません。
 
ただ、ここで大事なのは「我々投資家が何を求めているのか?」ということです。もちろん、人的資本情報は投資判断の材料にはなりますが、特に長期投資家は「今できているかどうか」はそれほど重視していません。それよりも「今の状態と目指す先を見せてほしい」と思っています。
 
今、人的資本経営が不十分でも、将来行きたいところを示してもらいたいんです。そうすることで現状とのギャップが見えてきます。ギャップ分析をして、行きたいところに向かう道筋を描き、定期的に歩みを測定していくことが重要です。「こういう戦略・施策でここに向かっていきます」といったマイルストーンを示すとともに、先ほどお話ししたように、積極的に我々投資家と対話をしていただきたいなと思います。
 
こうした取り組みによって将来の会社の価値向上が伝わり、期待感が高まれば、それは買い材料になります。ですから、とりあえず人的資本情報を開示して、会社が行きたいところを明確に設定して、それを資本市場に伝えていただきたいですね。そうすれば、会社にいろいろな関心が集まるようになるはずです。
 
長期投資家として私は今、かなりワクワクしています。この5年、10年くらいで日本の大企業は大きな価値を生み出せる可能性があると思っています。なぜならば、日本の人口動態が昭和のピラミッド型から、現在は逆ピラミッド型になっているからです。日本がまだ体験したことがないくらいの規模・スピードで、会社においても、社会全体においても、人の構造変化が起こっています。このような新しい時代に企業が適応していくことが、これからの進化・イノベーションにつながるのではないかという期待を持っています。
 
具体的に大企業の人員動態に目を向けたとき、もっとも多いのはバブル入社の方々で、50代に乗ったくらいの層でしょう。知人のある社長が「粘土層」と表現していたのですが、上から水を注いでも下にしみ込まず、下からも水が湧き上がってこない層という意味です。もしこの粘土層が「もう一つ、ポストが残っているかな・・・」といったことばかり考えていたとすれば、「イノベーションを起こそう」と言っても、うまくいかないでしょう。
 
ですが、5年後、10年後になるとこの層がごっそり抜けるので、大企業の水通しがすごく良くなるはずです。給与水準も高い層なので、浮いたお金を若手に回したり、将来のための投資に振り分けたりすることもできるでしょう。このような未来が、5年後、10年後に訪れることが分かっている企業と、そもそもこのような未来が見えていない企業では、価値創造という点で大きな格差が生まれるはずです。
 
イノベーションを起こすためには、今のうちから未来に適応するための人事制度をつくっていくことが重要です。特に、若い世代にいかにエンパワーメントさせるかが大事です。日本企業においても女性や外国人、障害者のダイバーシティは進んできましたが、遅れているのが年齢層のダイバーシティです。来たるべき人の構造変化に備え、年齢層のダイバーシティを推進することは一つの重要なポイントになってくるでしょう。

早稲田大学院 入山教授が語る「人的資本の重要性」

リンクアンドモチベーション 白藤:続きまして、入山先生、基調講演をお願いします。
 
早稲田大学院 入山氏:言うまでもなく今、日本企業に求められているのはイノベーションです。この大激変の時代を生き抜いていくためには、会社が長期的かつ能動的に変化して、新しい価値を生んでいかなければいけません。
 
当たり前のことですが、会社というのは人でできていて、人がもっとも重要な競争力の源泉になっています。ということは、会社がもっと成長して、業績も上がって、長期的に株価も上がるようにしていくためには人を大切にしていかなければいけません。個々の従業員が「この会社が好きだ」と思ってハッピーに働き、日々成長しながら高い能力を発揮していくことが重要です。
 
ただ長い間、日本企業は人的資本に時間もお金もマインドもあまり投資してきませんでした。理由として大きいのは、終身雇用だったことです。終身雇用は従業員を甘やかす仕組みだと思われがちですが、それよりもむしろ会社や経営を甘やかす仕組みです。なぜなら、従業員が辞めないと分かっているからです。放っておいてもずっといる人たちに投資をする必要がなかったからです。適当にOJTをやったら、その後は学習の機会も与えませんし、歯向かってくる従業員がいたらドラマの半沢直樹のように左遷するだけです。
 
しかし、終身雇用が崩れ去った今、状況は変わりました。会社がきちんと人に投資しなければ良い人材は育ちませんし、それ以前に、人に投資しない会社ならすぐに人は去っていきます。
 
もう一つ、今、人的資本経営が叫ばれる背景になっているのが、冒頭で申し上げたとおり、イノベーションが求められるようになっていることです。ひと昔前の日本企業は欧米で生まれたものを持ってきて、現場の力で「小さくつくる」「安くつくる」ことを得意としており、それが競争力の源泉になっていました。一方で、大胆な変化を生み出したり、長期的かつ能動的に新しい価値を創造したりするイノベーションは苦手でした。
 
しかし今は、イノベーションを生み出さなければ、どの会社も未来がない時代になっています。だからこそ、イノベーションの主体となる人が大事になってくるわけですが、人というのは厄介な点が2つあります。1つ目が、人は「時間がかかる」ということです。よく「部下が全然変わらないんだよ・・・」とこぼす管理職がいますが、人は簡単には変わりません。誤解を恐れずに言うなら、人を変えることはできません。ですが、「変わるきっかけ」を与えることはできます。会社としていろんな機会を提供したら、あとは本人が気付くかどうかの問題ですが、気付いて変わっていくにしても時間はかかります。僕はよく「人は石垣」だと言っていますが、本当に10年、20年という時間をかけてつくっていく必要があるのが人的資本です。
 
しかし、最近の会社は短期視点で、◯◯というシステムを入れればすぐに人材が良くなって、来年から結果が出る…というような幻想を持っているところが増えているように感じています。ですが、そんなことはあり得ません。



2つ目が、人は「見えない」ということです。たとえば、ファイナンスは効果が目に見えて出てきますが、人的資本は見えません。見えないから、これまでも十分に測定することができませんでした。最近はテクノロジーの進化によってエンゲージメントや働きがいを測れるようになってきていますが、まだ十分ではありません。人的資本開示だと言われて、慌てて女性の管理職比率や離職率を出している会社もありますが、本質はそこではなく、今可視化できていない情報をいかに可視化していくかがポイントになってくるはずです。
 
そうなると、より重要度が高まってくるのが人事です。日本企業の最大の課題は経営者ですが、ファンクションで言うならダントツで人事に課題があります。ズバリ言わせていただくなら、日本には十分に役割を果たしているといえるCHROがほとんどいません。なぜなら、これまでの日本の人事は、決められたことをこなすだけで、極めてバックオフィス的な仕事しかしてこなかったからです。しかし今後は、経営者と同じ視点で、「うちの会社はこうなっていきたいから、中長期的にこういう人材が必要だ」といったことを自分で考えられるCHROが出てこなければいけません。社長が見当違いのことを言ったら、それを諫めるくらいのCHROが必要です。
 
たしかに、CHROは育ちにくいポジションです。たとえば、CFOは優秀な方がたくさん出てきていると思います。CFOの仕事は決して簡単ではありませんが、知識がわりと汎用的なので、A社で使った知識やテクニックがB社やC社でも使えます。一方、人的資本は会社によって大きく異なるので、会社ごとにやり方をカスタマイズしなければいけません。旭化成さんでうまくいっていることを、そのまま別の会社でやってもうまくいくとは限らないので、最終的には自分の力でその会社に合った戦略・施策を考える必要があります。知識の汎用性が低いという意味で、CHROが育ちにくい傾向はあるのかなと思っています。
 
最後にまとめます。先ほども申し上げたとおり、人的資本経営は時間がかかるものです。ということは、もっとも大事なのは「会社として長期的に何をやりたいのか?」ということです。長期のビジョンやパーパスを掲げたとき、そこには現状とのギャップがあるわけで、時間をかけてそのギャップを「人」で埋めていくのが人的資本経営です。
 
ところが、日本の企業は長期視点に乏しく、ビジョンやパーパスが「つくっただけ」になっている会社も少なくありません。経営学で「センスメイキング理論」という理論がありますが、ひと言で言えば「腹落ちしてなければ意味ないよ」ということです。従業員にきちんとビジョンを腹落ちさせて、ビジョンに向かって人の成長を石垣のように積み上げていく。それが人的資本経営の本質なんだろうと思います。

旭化成の人事キーマンが語る「人的資本経営の実践事例」

リンクアンドモチベーション 白藤:続きまして、旭化成の三木様、基調講演をお願いします。
 
旭化成 三木氏:本日は、弊社の人的資本経営の取り組みを具体的に説明していきたいと思います。弊社が中計で示しているのが、以下の指標・KPIです。財務のKPIが3つ、非財務のKPIが5つあります。非財務のKPIのうち「人」に関するものが「デジタルプロ人財」と「高度専門職」の2つです。



現在、弊社が開示している人に関する主要KPIが以下の3つです。高度専門職の人数と、「KSA」という独自のエンゲージメントサーベイにおける成長行動指標、あとはDE&Iの推進ということで、ラインポスト+高度専門職における女性比率を開示しています。



実務レベルで人事の仕事をしていると、「人的資本経営」と言われてもなかなかピンときません。そこで、弊社の人事のなかで一つの指針としているのが、「隗(かい)より始めよ」です。これは、大きなことをやるときは身近なことから始めようということで、人的資本経営を推進するためにも、まずは手触り感があるもの、自分ごとでやれることから着手しようということです。
 
そこで、あらためて人事として何を重視すべきかと考えたとき、大きく2つのテーマが挙げられました。1つ目が「人と組織の課題解決」で、2つ目が「効果とプロセスの可視化」です。「人と組織の課題解決」というところでは、例えば「女性管理職比率」と「高度専門職人数」というKPIでご説明すると、いずれも任用なので、数値そのものを達成することはできます。ただ、たとえば女性管理職比率をどんどん上げた結果、女性管理職が疲弊して辞めてしまったりしたら全然サステナブルではありません。そう考えると「幸せに働く女性管理職をいかに増やすか」というところを目指すべきです。そのために環境を整備したり、男性も含めて働き方を変えたりすることで結果的に多様な人が働きやすい職場になって、それがDE&Iにつながっていくのだと思います。
 
高度専門職人数もまったく同じで、「うちには、すごい人材がたくさんいるんです」と言ったとしても、それだけではあまり意味がありません。その人たちが新規事業を生み出したり、後進を育成したりすることが大事なのであって、我々人事は、そのための環境をきちんと整備していかなければいけません。
 
人事としては、一過性の数値達成をゴールにするのではなく、「その先にある何を目指すのか?」を明確にして、そこに向けた施策を積み上げていくことが重要だと認識しています。ただ、たとえば「幸せに働くってどういうことだろう?」というのは難しい話であり、人的資本情報としてどのように表現するのかというところは、悩んでいる部分だったりします。
 
2つ目の「効果とプロセスの可視化」も進めているところで、これは独自のエンゲージメントサーベイ「KSA」を使っています。KSAは、大阪大学・開本教授の「活力と成功循環モデル」に基づいており、上司部下関係と職場環境が良くなると活力が高まり、活力が高まると成長につながる行動が増え、成長につながる行動が増えると個人と組織が成長していくという循環がベースになっています。



KSAは人材版伊藤レポート2.0の実践事例集にも取り上げていただいていますが、やっていることは一般的なエンゲージメントサーベイと同じです。弊社の場合、年に1回サーベイを実施して、結果をもとに各職場で対話をしてもらい、出てきた課題に対して解決策を講じて、再びサーベイで測定するというサイクルを回しています。
 
その一方で、「活力と成功循環モデル」自体を検証するために、3年間にわたって回帰分析をおこなっています。「活力と成長循環モデル」は世の中的に立証されているものの、旭化成で通用するかどうかは分かりませんでした。しかし、回帰分析によって下のスライドにある「上司部下関係・職場環境 → 活力 → 成長につながる行動」という右への矢印が立証されました。



また、それぞれの要素を見てみると、たとえば「成長につながる行動を増やすためには個人の心理的資本が大事」「活力を高めるためには創意工夫の奨励や職場の人間関係が大事」など、関係性が見えてきました。しかし、「具体的にどんな施策をすればいいの?」という疑問も出てきます。創意工夫を奨励したり、職場の人間関係を良くしたりするために具体的に何をすればいいのか、という話です。
 
実際に、どのくらいの人がサーベイの結果を受けて職場改善のための取り組み・計画をしているのかを調査したところ、取り組み・計画をしている人が45.9%という結果が出ました。残り54%の方が何もやっていないのは一つの課題ですし、45.9%の方たちも有効な取り組みができているとは限りません。このように、打ち手が職場任せになっていたことは課題の一つでした。
 
そこで、人事としては、職場の課題解決のために効果が高そうな施策をラインナップして、職場に提案していくことにしました。その一環としてトライアルを実施したのが1on1ミーティングです。2021年度にトライアルをおこない、KSAのサーベイで効果検証をしました。1on1を実施したグループと実施していないグループの比較を統計的に分析した結果、「1on1をするとKSAのこの項目が上がる」という傾向が見えてきました。たとえば、1on1を実施したグループでは「ワークエンゲージメント」「自信・自己効力感」「目標への道筋を立てる力」などが高まりました。つまり、活力を高め、成長行動を促す手法として1on1が有効である可能性が高いということが見えてきたわけです。
 
それならば1on1を全社に展開すればいいのですが、そんなに簡単にはいきませんでした。1on1に関するアンケートや定性インタビューをおこなった結果、4ヶ月後、70%の上司は「良い」と評価する一方で、50%の部下は「もう続けたくない」という意見でした。上司にとっては良い施策である一方で、部下にとっては負荷の大きい施策であることが分かりました。
 
1on1で効果を出している上司・部下の成功要因をひも解いていくと、「目的共有と合意」「運用の柔軟性」という2つの可能性が見えてきました。「目的共有と合意」というのは、上司がきちんと目的を設定して、部下がそれに納得したうえで1on1をおこなっているということです。「運用の柔軟性」というのは、1on1の頻度や時間、さらに1on1をやるかどうかの決定権を部下が持っているということです。このようなポイントを押さえて実施しないと効果が出ないことが分かったため、
それを踏まえて1on1のプログラムを内製化して展開しています。



最後にまとめさせていただきます。今弊社では、KSAの指標(上司部下関係・職場環境、活力、成長につながる行動)や職場対話実施率などの人的資本情報を開示していますが、その裏側では「活力と成功循環モデル」の検証をおこなったり、対話を増やすためのプログラムを提供したり、職場で実際に課題解決に取り組む従業員に向けた施策を整えたりしています。数値を達成するだけでは意味がないので、その先にある課題解決のために実効性のある取り組みをしていこうと努めているところでございます。

リンクアンドモチベーション 白藤:貴重なお話をありがとうございます。お時間になりましたので、以上をもちまして終了とさせていただきます。ご登壇いただいたお三方、ならびに視聴者のみなさま、ありがとうございました。

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