
ISO 30414導入の実践ステップと企業課題
今、ステークホルダーに対する企業の情報開示がますます求められています。
その中でも今少しずつ注目されているキーワードが情報開示に関する国際規格「ISO30414」です。
少しずつ耳にする機会も増えてきた「ISO30414」について、その内容や浸透の背景などを一緒に見ていきましょう
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ISO30414とは?
ISO30414は従業員に関する人的資本の情報を定量化し、分析するための指標として国際標準化機構(ISO)によって設けられたガイドラインです。
内容は世界中のエキスパートにより作られ、「リーダーシップ」「企業文化」「生産性」「ダイバーシティ」など11からなる項目の中に、58の指標を含みます。
また、大企業のみならず、中小企業向け項目の提示や、内部向けと外部向けの項目の区分も示されているものになります。(現時点では開示が義務化されている訳ではなく、任意指標としての位置づけとなります。)
「非財務情報」と呼ばれる、これまで可視化されていなかった人的資本の情報をステークホルダーに開示するという点に意味があり、海外ではすでにISO30414がかなり浸透しています。またそれに追随するように、日本国内でも対応に向けた動きが始まっています。
ISO30414リリースの背景とは?
■『人材(組織)の価値』の定量化・可視化の傾向
企業が持つ情報には「財務情報」と「非財務情報」の2種類があります。
「財務情報」はいわゆるP/L、B/Sのように企業の利益や資産状況を可視化する指標であり、どの企業も一律で管理をしている内容です。
一方「非財務情報」は人材のモチベーションやノウハウ、ブランドなど企業の発展に大きな影響を持つにも関わらず、これまで殆ど可視化をされていませんでした。
ところが近年、商品市場においては「サービス業比率の高まり(ソフト化)」、「製品のライフサイクルの加速(短サイクル化)」などの変化からよりクリエイティブに、スピーディーに外部環境に対応するための人材活用が見直されています。
また、労働市場においても「転職インフラの充実(流動化)」「個々人の価値観の広がり(多様化)」など競争はますます激化する一方であり、人的資本の活用度は投資家にとって最も注目したい要素の1つになっています。
そのため「組織力」や「人材力」を定量化、可視化して開示する傾向が加速しており、今回のテーマである「ISO30414リリース」もその1つだと言えるでしょう。
■ITテクノロジーの飛躍的進歩と浸透
近年「HRTech」、すなわち「人材(組織)の価値」の定量化・可視化を後押しするテクノロジーが充実してきており、評価管理、勤怠管理、タレントマネジメントシステム、エンゲージメントの可視化など様々なITツールが開発・利用されています。
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また昨今の「働き方改革」の流れに加えてコロナウイルスによるリモートワークの流れも加速したこともあり、今後もその流れはますます加速していくことが予測されます。
このように労働管理のニーズの高まりと、それを下支えするテクノロジーの進歩もあいまって「人材(組織)の価値」を測定し、それを開示するという流れは更に加速していくと考えられます。
「ISO30414」の内容を、今後の経営判断や投資判断の一助にする準備が技術インフラの観点でも整い始めていると言えます。
ISO30414への対応における企業への課題
■社内組織から人的資本に関するデータを収集、集計や分析をする仕組みの構築
では、「ISO30414」への対応を進めるにあたって、企業が留意しなくてはならないことは何でしょうか?
1つ目のポイントは、データ収集、集計、分析を社内で進めていくための体制を整えることでしょう。ISO30414は各項目について開示すべきデータの意味や計算方法をガイドラインで定めており、「客観的な指標」であることが前提の条件になっています。
一方、「ISO30414」の先行取組企業の中ではISO30414の指標の3割程度しか定量的指標を算出できていない、というデータもあります。
そのため「人材(組織)の価値」の定量化・可視化を進めるために、裏付けを取るためのHRテクノロジーの導入、及びその集計、分析、編集を担うチームを社内の中に用意する必要があります。
■自社にとって最も意味がある指標の定義
2つ目のポイントは、「自社にとって意味がある指標」を定義し、その開示を行うことです。
「ISO30414」には「リーダーシップ」「企業文化」「生産性」「ダイバーシティ」など、11項目の中に58の指標が設けられているため、すべてのデータを開示したとしてもただデータを並べているだけでは投資家にとっても、自社にとっても意味がある指標にはなりづらいでしょう。
大前提、業種や業態、規模、市場の動きなど企業を取り巻く環境は千差万別であるため、「自社にとって意味のある指標」が何かを定義したうえで、意図を持った開示をすることが必要になります。
また、自社にとって意味のある指標の改善をすることは自社の経営においても大きなメリットがあります。
測定した結果思わしくない指標がある場合は社内でプロジェクトチームを立ち上げるなど改善のきっかけにも活用することが出来るため、「経営における最重要指標」として経営トップが「ISO30414」の指標にコミットすることは自社の発展の有効な手段であるとも言えるのです。
ISO30414導入の実践ステップ
ISO30414は、企業が人的資本情報を体系的に開示し、経営戦略と連動させるための国際規格です。導入から認証取得までのプロセスは以下の通りです。
1.導入準備と社内体制の構築:経営層の理解と支援を得て、プロジェクトチームを編成します。人事部門を中心に、財務、総務、IT部門との連携が重要です 。
2.現状分析とギャップ特定:ISO30414の11領域58指標に基づき、現状のデータ収集体制や情報開示状況を評価し、改善点を洗い出します。
3.データ収集と分析:必要なデータを収集し、分析を行います。HRテクノロジーの活用やデータ品質の確保が求められます 。
4.情報開示の準備:ステークホルダーにとって価値ある情報を選定し、開示文書を作成します。透明性と信頼性を確保するためのチェックが必要です。
5.認証取得:認証機関による審査を受け、認証を取得します。審査では、データの正確性や開示の適切性が評価されます 。
6.継続的な改善:認証取得後も、PDCAサイクルを回し、人的資本経営の質を高めていきます。
導入前の準備と社内体制の構築方法
ISO30414導入の成功には、経営層のコミットメントと全社的な協力体制が不可欠です。以下のステップで体制を整えましょう。
・経営層の巻き込み:人的資本の重要性を経営層に理解してもらい、プロジェクトの支援を得ます。
・プロジェクトチームの編成:人事部門を中心に、関連部門からメンバーを選出し、横断的なチームを構築します。
・目的と目標の明確化:ISO30414導入の目的や期待される成果を明確にし、全社員に共有します。
・教育と啓発活動:ISO30414の意義や導入のメリットについて、社内研修や説明会を通じて周知徹底を図ります。
効果的なデータ収集と分析の進め方
ISO30414の58指標に対応するためには、効率的なデータ収集と分析体制が求められます。
・データ収集の効率化:既存のHRシステムやタレントマネジメントシステムを活用し、データの一元管理を行います 。
・データ品質の確保:データの正確性や一貫性を保つため、定期的なチェックと更新を行います。
・分析体制の整備:データ分析の専門家を配置し、指標間の相関や傾向を把握します。
・他部門との連携:人事部門だけでなく、財務やIT部門との協力体制を築き、必要なデータを収集します。
開示情報の質を高めるためのポイント
ステークホルダーにとって価値ある情報開示を行うためには、以下の点に留意しましょう。
・開示内容の明確化:自社の戦略や方針に基づき、開示すべき情報を選定します。
・透明性の確保:データの出所や算出方法を明示し、信頼性を高めます。
・ストーリーテリングの活用:数値データだけでなく、取り組みの背景や成果をストーリーとして伝えます。
・ベンチマークとの比較:業界標準や他社との比較を行い、自社の位置づけを明確にします。
認証取得企業の共通点と成功要因
ISO30414の認証を取得した企業には、以下の共通点があります。
・経営層の強いリーダーシップ:トップダウンでの推進が成功の鍵となります。
・全社的な協力体制:部門横断的なチームによる取り組みが効果を生みます。
・データドリブンな文化:データに基づく意思決定が定着しています。
・継続的な改善活動:PDCAサイクルを回し、人的資本経営の質を高めています。
例えば、当社リンクアンドモチベーションは、人的資本経営の実践を通じてISO30414の認証を取得し、企業価値の向上を目指しています 。
ISO30414の改訂【2025年春】
2025年春、ISO30414の改訂が予定されています。主な変更点は以下の通りです。
・新規格「ISO30201」の制定:人的資本情報の開示に加え、人材マネジメントシステムの構築を求める新たな規格が導入されます 。
・公的な認証制度への移行:ISO30201は、ISO9001やISO14001のような公的な認証制度となる予定です。
・企業への影響:認証取得の要件が厳格化され、人的資本経営の高度化が求められます。
企業は、これらの動向を踏まえ、早期の対応と体制整備が求められます。人的資本経営の深化とともに、国際的な競争力の強化を図りましょう。
記事まとめ
いかがだったでしょうか?
「人材(組織)の価値」を高められている企業、すなわち「人的資本経営」に長けている企業が社内外のステークホルダーから注目をされる時代になっていると言えます。
だからこそ、「ISO30414」という指標をただの数字の羅列と見るのか、経営課題として追求していくのか。その捉え方によって、「選ばれる企業」と「選ばれない企業」の二極化がますます進んでいくのではないでしょうか?今回の記事が、皆様の人的資本経営を促進させるきっかけになれば幸いです。
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ISO30414に関するよくある質問
ISO30414は義務ですか?
現時点(2025年時点)では、ISO30414の導入や認証取得は義務ではありません。ISO30414は、人的資本の情報開示に関する国際的なガイドラインであり、あくまで任意での活用が基本です。
ただし、今後の義務化の可能性は高まっています。たとえば、アメリカではSEC(証券取引委員会)が上場企業に対し、人的資本に関する情報の開示を求める動きを進めており、EUでもCSRD(企業サステナビリティ報告指令)により、非財務情報開示の義務が段階的に拡大しています。
一方、日本ではまだISO30414に関する法的義務はありませんが、政府は人的資本の「見える化ガイドライン」などを通じて開示を推進しており、将来的に準拠が実質的に求められる可能性もあります。各国・地域で規制の濃淡はありますが、グローバル企業を中心に、国際基準に沿った開示体制の整備が求められる流れが強まっているといえます。