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「持続的企業価値を創造する人的資本経営」 イベントレポート

激変する社会に、企業経営はどうあるべきか。これからの企業変革に求められるものは何か。

3月26日に開催されたオンラインセミナー「持続的企業価値を創造する人的資本経営」(主催:経済産業省/特別協賛:株式会社リンクアンドモチベーション)の概要をリポートする。
(登壇者の役職等は令和3年3月26日時点)

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主催者挨拶

経営戦略と人事戦略を一致させ、人的資本を可視化し、資本市場との対話を図る……。

日本の経営に一石を投じる契機となった「人材版伊藤レポート」(2020年9月、経済産業省公表)。本セミナーは、その社会実装に向けた第一歩となるものだ。

■経済産業省 経済産業政策局 産業人材政策室長 能村 幸輝 氏

開会の挨拶に立った能村氏は「企業を取り巻く環境が激変する中において、経営戦略と人材、人材戦略をどう紐づけるのか。

そして、多様な個人が活躍し、新たなビジネスモデルを創出して、経営戦略の変革スピードをどのように高めていくのかは、持続的な企業価値を創造する大きなカギとなる。

どれほど素晴らしい経営戦略や人材戦略があったとしても、組織の人々が受け身で指示待ちであっては、新しい価値やイノベーションは生まれない。人的資本経営の実践は世界中で議論される最重要テーマ。

本セミナーで紹介する、世界最先端の知見が皆さんの明日からの行動につながれば」と語り、人的資本経営の実践が世界中で議論されるテーマであることを強調した。

第1部 基調講演「持続的企業価値を創造する人的資本経営」~人材版伊藤レポートが目指す価値観~

第1部では、経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」で座長を務めた伊藤邦雄氏が登壇。「『持続的企業価値を創造する人的資本経営』~人材版伊藤レポートが目指す価値観~」と題して講演を行った。

■一橋大学CFO教育研究センター長 伊藤 邦雄 氏

伊藤氏は、同研究会の発足や「人材版伊藤レポート」の公表に至る背景には、従来のメンバーシップ型雇用によるデメリットがあったとし、従業員のエンゲージメントや離職、囲い込みに関する楽観が生まれ、人材個々の自立・自律が奪われている現状を問題視。

「将来の予測がつかないVUCA (※1) の時代、人材は価値創造のドライバーとなるもの。これまでの企業経営では人材をファジーに捉えてきた側面があるが、これからの時代はそうはいかない。今こそ、パンドラの箱を空ける時だ」と語気を強めた。

さらに伊藤氏は、「人材版伊藤レポート」でも提示された「3P・5Fモデル」をもとに、人的資本経営における重大なポイントを紹介。

「人材を管理すべき資源ではなく、伸び縮みする資本だと捉えること」「取締役会の主導で、経営戦略と人材戦略を連動させること」「従業員の体験価値を向上させることで、従業員エンゲージメントを高め、選び・選ばれる関係を実現すること」「それらの取り組みを発信し、投資家との対話を行うこと」が必要であるとした。

また、2018年の「フィンクレター (※2) 」を引き合いに出し、「パーパス経営」の重要性にも言及。企業のパーパス(理念)を個人のパーパスをすり合わせ、同期化する経営が選び・選ばれる関係をつくり、価値創造につながるとした。

伊藤氏は「パーパスを共有し、D&Iを実現した企業文化・ガバナンスを基盤に、独自の従業員体験価値を提供し、エンゲージメントが醸成され、人的資本の価値が高まる。それが、経営戦略と連動し、新たな価値やイノベーションが生まれる……。

私自身、企業の収益力(ROE)と社会性(ESG)の両面から企業を評価する『ROESG』という指標を提唱しているが、人的資本経営の実践は、持続的企業価値の創造につながっていくもの。

こうした価値観や取り組みによって、『人材で勝つ経営』を実現していただきたい」と語り、日本企業の変革と発展に期待を寄せた。

※1 VUCA(ブーカ):Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字から成る造語。ビジネス環境や市場、組織、個人などあらゆるものを取り巻く環境が変化し、将来の予測が困難な状況を意味する。

※2 世界最大の資産運用会社・ブラックロック社のCEOラリー・フィンク氏が毎年1月に、世界中の投資先企業の経営者に送る年次書簡。2018年の書簡では「社会にどう貢献するか理念を示せていない企業は、やがてステークホルダーの信頼を失い、いずれ事業に支障をきたしかねない」と発信した。

第2部 人的資本経営の着眼点(国内外の有識者からのメッセージ)

第2部では、「人的資本経営の着眼点」と題し、国内外の有識者からのビデオメッセージが披露された。

■ソニー株式会社 代表執行役 会長 兼 社長 CEO 吉田 憲一郎 氏

最初に登場したのは、ソニーの吉田憲一郎氏。

ここでは、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスをもとに、人と社会、そして地球に向き合うソニーのパーパス経営に関する取り組みが紹介された。

経営幹部はもちろん、社員から広く意見を求めるなど、策定のプロセスにこだわり抜いたこと。そのパーパスが多様な事業の起点となり、ソニーが社会にどう関わるかの基盤にもなっていることが語られた。

吉田氏は「ソニーにおいて、人は価値創造を支える最も重要な基盤と考えている。すでに『ソニーで働けることを誇りに思う』という声も多く聞かれるが、パーパスに基づいた企業文化を醸成していくためには、継続的なコミュニケーションが必要。社員が自らの働きがい・生きがいにパーパスを結びつけて考えられるようにしていきたい」と語り、人的資本経営におけるパーパスの重要性を強調した。


■ICGN CEO ケリー・ワリング 氏

続いて披露されたのは、総額54兆米ドルに及ぶ資産を運用する投資家のネットワーク・ICGN(国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク)のCEOを務めるケリー・ワリング氏からのメッセージ。

コーポレート・ガバナンスと投資家のスチュワードシップのグローバル・スタンダードの第一人者として、人的資本経営の重要性とICGN独自の取り組み、持続可能な投資を推進する世界の動きについて紹介。

さまざまな規制や投資家独自の取り組みが、サステナブル投資が主流となることを後押しし、人的資本経営の水準が高い企業に資本が集まり、持続的に企業価値を向上させるとした。

「ただし、私たちは人的資本経営のパフォーマンスを評価するための一貫した信頼できるデータを持っていない。投資家はよりよい情報の開示を企業に求めています。教育訓練投資、休業を擁する傷害や死亡率、経営層の報酬と社員の賃金の倍率、社員の離職と異動の割合、報酬、就業者の属性、それぞれの階層における性別・民族・人種の多様性、労働者とのエンゲージメント、組合活動やワークライフバランスの普及があるかどうか、これらを人材戦略とKPIを明らかにしたうえで、開示する必要がある」と話し、それが投資家の総意でもあるとした。


■オックスフォード大学 客員教授 ロバート・エクルス 氏

さらに、オックスフォード大学で客員教授を務めるロバート・エクルス氏からは

「新型コロナウイルス感染症の流行によって、より恵まれない人たちに多くの負担がのしかかり、あらゆるレベルで人的資本の重要性が前面に押し出された。サステナビリティに取り組まない企業は、ミレニアル世代を雇うことも、顧客にすることもできないだろう。その取り組みをいかに伝えるかは大きな問題。まずは、パーパス・ステートメントの策定から始めるといい」

と人的資本経営の実現に向けたアドバイスが寄せられた。

■コネクレーンズ社 社外取締役(シーメンス社 前CHRO)ヤニナ・クーゲル 氏

また、シーメンス社やオスラム社など多くの企業でCHROを務めたヤニナ・クーゲル氏からは「すべての組織は人がいて成り立っている。

だからこそ、経営戦略と人事戦略を同時に考え、連動させることが必要不可欠。

市場の可能性や成長を考えることと同時に、そこに適した人材は確保できているか。その人材を見つけることができるのか。どのようなスキルセットが必要で、それは社内で育むべきなのか。

そうした質問に『Yes』と答えることができて初めて、事業戦略の策定に取り組むべき。そして、大切なのはそれをCEO・CHROだけの閉塞した議論にせず、Cのつく経営陣が一堂に会して議論すること。

そうすれば、多様な視点とアイデアを活かして、しっかりと貢献してもらえるはず」と経営陣・取締役会が果たすべき役割が語られた。

これら国内外の有識者からのメッセージは、人的資本経営の実践が世界で注目・議論される喫緊の課題であることの証明だと言えそうだ。

第3部 先進企業の経営戦略と人材戦略(伊藤邦雄氏との対談セッション)

第3部では「先進企業の経営戦略と人材戦略」と題し、各界を代表する先進企業の経営者がそれぞれにプレゼンテーションを実施。その内容を受けて、伊藤邦雄氏とのディスカッションが展開された。

■株式会社丸井グループ 代表取締役社長 代表執行役員CEO 青井 浩 氏

丸井グループの青井浩氏は社長就任以降、最も力を入れたのは企業文化の変革であったと語り、「グループ間職種変更異動×パフォーマンス・バリューの2軸評価制度×手挙げ文化×対話の文化」によって、価値創造型の組織を実現。

2019年には無形投資が有形投資を上回り、新規事業創造に向けた取り組みも活発になっているとした。また、同社の革新的な取り組みのとして、入社2年目以降の若手社員をグループ内のIT企業に出向させ、DX人材へとリスキルする取り組みや、スタートアップ企業と価値共創を行うオープンイノベーションの取り組みが紹介された。

青井氏は、伊藤氏からの「なぜ、人材をグループ内で育てる決断をしたのか」という問いに対し、

「中途採用でも、より専門的な人材の獲得を行っているが、企業のパーパスへの共感がなければ、高いパフォーマンスは期待できない。人的資本に対する投資はすぐに結果が出ないもの。5年単位の中長期で人材を捉え、同施策に取り組んできたが、今では新たな強みを備えた200名近くの人材がグループ内の事業会社で活躍している」と話した。

このように、氷山モデルは、目の前にある出来事のみを反射的に捉えるのではなく、その根底にあるパターンや構造、前提となっている思考の枠組みをシステムとして総合的に把握して、最も解決に向け変化を起こしやすい「ツボ」にアプローチしようとするものだ。

■株式会社三菱ケミカルホールディングス 取締役会長 小林 喜光 氏

続いて、プレゼンテーションを行った三菱ケミカルホールディングスの小林喜光氏は、社会や市場の変化、事業のライフサイクルなどの時間軸の中で、エコノミクス、テクノロジー、サステナビリティの3軸から経営を行い、「Sustainability(環境・資源)」「Health(健康)」「Comfort(快適)」の評価指標からPDCAサイクルを回す「KAITEKI経営」について言及。

「世界に快適を届ける」というパーパスのもと、事業を拡大しトップラインを上げていく経営スタイルから、時代に即したポートフォリオ・トランスフォーメーション(PX)が重要になっていると語った。

さらには、外部から取締役を招聘し、DXや人事制度改革に注力していることも明かされた。特に、新たな人事制度変革にあたっては、そのすべてを若手社員に委ねているのだという。

「ありそうで、なかなかできない決断」と唸る伊藤氏に対して、小林氏は「社長をはじめ、執行部門にそれくらいの覚悟があったということ。管理することに終始し、リスクを取ろうとしない従来の人事ではできないだろう、と。カーボンニュートラルの実現、DXの推進を実現するには、これまでの常識を覆さなければならない。外部や若い人に期待するのは当然。経営陣にも共通した危機感がある」と答えた。また、大きな話題を集めた外国人CEOの登用について問われると、「情をはさまず、資質と情熱で決めた。思い切った変革を期待したい」と目を細めた。

■花王株式会社 取締役会長 澤田 道隆 氏

最後に登場したのは、花王の澤田道隆氏。

経営の中心には、企業理念があり、それを実践することはESGそのものだとしたうえで、自身が実践してきた「両立への挑戦」について言及。人的資本、研究開発、ブランド、良き企業文化など企業の革新を担う攻めの要素を極大化し、企業理念とガバナンスを中心とした守りの要素を適切に行うことの両立を目指してきたと語った。

また、人材に関する取り組みにおいては、「人を資源としてではなく、伸び縮みする資本と捉えること」「マネジメントとは管理することではなく、人の潜在能力を見出し、その発揮を支援すること」が重要であると話し、

経営戦略と人材戦略の連動の一環として中期経営計画「K25」において大きな裁量を若手社員に任せたエピソードや、経営層40%、メンバー30%の割合で人事評価にESG評価を採用する取り組み、取締役会の革新によるガバナンス強化などの事例が紹介された。

「お会いするたびに、革新的な取り組みに驚かされる」と語る伊藤氏に、澤田氏は「激変する社会において、これまでの積み上げ的な手法が通用しない。特に、ESG目標は一朝一夕で達成できるようなものではない。思い切ったチャレンジの姿勢、迫力のようなものを示す必要がある」と話した。さらに、「従来の決算報告は形を変えるべき。財務指標、ESG指標に加え、人的資本に関する指標を示す必要があると思う。それは、企業のポテンシャルを示す未来の指標になるはずだ」と断言した。


全プログラム終了後、伊藤氏は1,600名を超えるセミナー聴講者に対し、メッセージを贈った。

「心に刻まれた言葉がいくつもあった。その余韻を噛みしめ、明日からの行動につなげていただければ。このセミナーを第一歩に、経営者、CHRO、投資家が一堂に会し、奥深いテーマを議論し、学び合えるエコシステムのようなものをつくっていきたいと思っている。ニューヨーク州のクオモ知事は『Build it Back Better』という言葉で復興を唱えたが、皆さんと一緒に『Build forward Better』の世界を築いていきたいと思っている」


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