
コーチングとは?仕事における意味や効果的なやり方などを解説
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人材育成の手法として、コーチングに注目する企業が増えています。
今回は、コーチングとは何か、その定義や歴史、また活用する際のメリット・デメリットや、スキルアップ方法などをご紹介します。
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コーチングとは
■コーチングの定義
コーチングとは相手の話に耳を傾け、観察や質問を投げかけながら、ときに提案などをして相手の内面にある答えを引き出す目標達成の手法のことです。
■ビジネスにおけるコーチングの意味とは
ビジネスにおける「コーチング」とは、対象者の自主性を促し、能力や可能性を最大限に引き出しながら、目標達成に向けてモチベーションを高めるコミュニケーション手法のことを指します。企業の人材育成の場面でも活用され、「コーチング型マネジメント」と呼ばれることもあります。
大きな特徴は、「対象者の自発性を促す」ことです。目標達成に向け、行動を強制するのではなく、対話を重ねることで、対象者がポテンシャルを発揮できる状態に導き、自己成長を促します。
具体的には、
ー人間の可能性は無限であること
ー課題に対する答えは相手の中に必ずあること
ー相手が自ら答えを見つけるためのパートナーに徹すること
という3つの考え方に基づいており、それにより
ー自分自身で答えを導き出す能力
ー主体的、自主的に物事に取り組んだり考えたりする姿勢
ー新しい価値観や新しい答えにたどり着こうとする前向きな気持ち
を身に付けることができるのです。
(参考)
モチベーションとは何か?維持する方法やメリット、ビジネスでのマネジメント成功事例について解説
■コーチングとティーチングの違いについて
コーチングと似た言葉にティーチングがあります。
コーチングとティーチングでは、関係性やコミュニケーション手法に違いがあります。
ティーチングとは、指導者が知識やスキルを教えることを指します。ティーチングで教える側と教わる側には上下関係があり、指導を通じて答えを示す一方向のコミュニケーションが基本です。
一方のコーチングでは、上下関係はなく「並走する関係性」という違いがあります。また、双方向の対話によって対象者から答えを引き出すという明確なスタイルの差があります。
近年、活躍するリーダーたちに積極的に取り込まれているコーチングですが、ここからはコーチングの背景を簡単に説明した後に、そのメリットやコーチングスキルの学び方について詳しくご紹介します。
コーチングの歴史や起源
■コーチングの由来
コーチングは「コーチ (Coach)」という言葉から派生したものです。「コーチ (Coach)」という言葉の語源は「馬車」です。
その時代の馬車の役割は、「大切な人を望む場所まで送り届ける」ことでした。大切な人が希望の場所にたどり着けるようにサポートする行為が自主性を重んじるコーチングの本質と重なっているのです。
■コーチングの歴史
現在では、コーチングはマネージャーに求められるコミュニケーションスキルとして確立していますが、はじまりは、1959 年、当時ハーバード大学助教授であったマイルズ・ メイス (Myles Mace) 氏の著書『The Growth and Development of Executives』 の中に「マネジメントにおいてコーチングは重要なスキルである」として、初めて登場しました。その後、1980年代から多くの出版物の中に登場していきます。
1990年代には、米国でCoach University、Co-Active Training Instituteなどのコーチ育成機関が相次いで事業をスタートし、その後、非営利団体 International Coaching Federation (ICF,国際コーチング連盟)がコーチの質の維持を目的に設立されたのを皮切りに、その機運は世界中に広がっていきました。
現在では、組織における「リーダーシップ開発」「組織開発」などを目的として、多くの企業や組織が、コーチングを導入しています。
当初、マネジメント層やリーダーが部下の育成や1on1ミーティングといった「1対1の間」で活用する形で組織に導入されたコーチングは、今、さらに「組織開発を実現するアプローチ」として新たな注目を浴びています。
コーチングの効果やメリット
注目を浴びるコーチングですが、その効果やメリットにはどんなものがあるのでしょうか?
- 考える力を育み、自発性、主体性、応用力、再現性などを高める
- その人の内に秘めた可能性を存分に引き出す
- 学習能力を向上させる
などが効果として考えられます。
更に
- その人しか持っていない情報にアクセスしたい
- 正解を求めるのではなく、そこまでのプロセスを学習してほしい
- 反射的な答えでなく、熟考を促したい
といった場合、コーチングは効果的に機能します。
コーチングのリスクやデメリット
一方でコーチングのリスクやデメリットもあります。
- 効果が出るまでに時間がかかる
- 相手が知識や経験、能力を持ち合わせない場合は非常に効率が悪くなる
- 多人数を一斉に育成することが困難である
- 個別の対応が求められるため、マネジメントが複雑になる
などです。
そのため、多人数のマネジメントや、相手に経験や知識不足が否めないといった場合、コーチングは非効率な目標達成手法となってしまう可能性が高いのです。
(参考)マネジメントとは?定義や役割・今後必要なスキルを解説
コーチングに必要なスキルと学び方
■コーチングに必要なスキル
コーチングを効果的に行うためには、3つのスキルが必要です。
①傾聴
②質問
③承認
それぞれ見ていきましょう。
①傾聴
傾聴とは、「相手の話を深部まで聴くこと」と、「相手の話し方、表情、姿勢などに注意を払うこと」の両方を同時に行い相手を深く理解するコミュニケーション技法のことです。
傾聴には、
- 相手をありのまま受け入れる「受容」
- 相手の話を聴いて、その通りだなと思う「共感」
という2つの特徴があり、上記が適切に行われると相手は
- 自分自身で、自分の考えや自分への理解をより深めることができる
- 自主的、積極的、建設的な言動を採用することができる
上記のようになります。
一般的なカウンセリングなどのように、ただ、人の話を聞いたり、答えに直結するような質問をするのではなく、相手のそのままを理解することがポイントとなります。
そのためコーチとして必要なことは
- 相手の話に耳を傾け
- 相手の表情やしぐさを目でしっかりと観察し
- 相手の感情に心を配る
というスキルが必要となります。そうすることで
- 相手も心を開くことができる
- コーチとの信頼関係の中で、自分の道を、自ら切り開けるようになる
これらが、傾聴の最大の目的です。
▼【傾聴】に関する記事はこちら
傾聴とは?ビジネスでの活用方法やトレーニング方法を徹底解説
②質問
次に質問です。
人は比較的、相手からの指摘を素直に受け入れることが苦手です。しかし、自分自身で内省し、改善行動をおこすことには、さほど抵抗がありません。
コーチングはこの人間の特性を活用し、自らの成長を促せるような「気付き」の機会を多く持ってもらう質問が大切です。
例えば
「明日の会議アジェンダの最終確認は済んでいる?」
「何故、○○を会議アジェンダに追加しなかったの?」
「あなたが、事前に○○を会議アジェンダに追加しなかった要因は何だと思う?」
1番目の質問は、上司が会議準備の進捗確認をしているだけの質問であり、質問者が把握しておきたいことを口に出しただけです。
2番目の質問は、質問をしているようですが、真意は相手に対する非難です。これでは、相手は萎縮してしまうか、言い訳を考えるかのどちらかとなるでしょう。相手はネガティブな感情を増大させるだけで、成長のチャンスにしようといったポジティブな発想にはなりません。
3番目の質問は、問題の所在を相手の中に置いていません。相手は、ミスについて客観的に分析できる気持ちの余裕を生みだすことができるでしょう。
このように、自分の言葉で失敗を分析できるよう導く質問を、「問題の外在化」と呼びます。コーチングにおける質問では、問題の外在化を上手に取り入れ、気付きの機会を増やすのです。
③承認
承認とは相手の長所を見つけたり、言葉や態度で相手に伝わるように褒めたりするスキルのことです。
相手が持っていないものを褒めるのは「お世辞」になるので、必ず相手の良いところを見つけて褒めることが大事です。また、言葉や態度に出さなければ相手には伝わらないので、できるだけ言動で表します。
また、人は褒められると褒められた行為をまた繰り返したくなるものです。
その心理を活用し、下記も意識すると良いでしょう。
- すぐに:印象を強く残すため
- 具体的に:何を期待されているのかを具体的に理解させるため
- 一貫性を持って:褒めるに値する基準を理解してもらうため
そして、コーチングによって好ましい行動が定着してきたら、褒める頻度を減らし、ここぞというときに再び褒めると効果的です。承認によって、良かった点を褒め、相手に好ましい行動を繰り返し行わせ、定着させると、コーチングの効果が生まれます。
■コーチングの学び方
このように、スキルや知識を知るだけでは、それを十分に理解し実践することはできません。つまり、書籍や一度の研修だけでは決して身につかないということです。
ポイントは、スキル・知識をインプットしたら、アウトプットをすることです。
自分が実践したケースについて話したり、他の人の話を聞いたりすることなど、コミュニケーションを交わしながら学ぶ方法を、「コミュニカティブ・アプローチ」といいます。
コーチングは座学ではなく、このコミュニカティブ・アプローチで身につけてくことが最も効果的で成果が上がりやすい方法です。そして、自分の周囲へも学んだことを実践していくことで確実な成果につなげていくことができます。
■コーチング資格の種類
どのようなコーチになることを目指すのか、その目的によって、資格の取得方法は異なります。
①日本コーチ連盟のコーチング資格
コーチングの普及・発展を目的とした団体である日本コーチ連盟は、資格の発行のほか、コーチング技能養成校「コーチアカデミー」の運営や、大学公開講座・検定試験の実施など、幅広く活動しています。
- コーチ資格
- インストラクター資格
上記のように、コーチとして活躍するための資格(コーチ資格)と、 コーチングの技能を享受するインストラクターの資格(インストラクター資格)という、大きく分けて2種類の資格を発行しています。
一般社団法人日本コーチ連盟「コーチング資格の詳細」
②一般財団法人生涯学習開発財団のコーチング資格
1983年に設立された文部科学省所管の一般財団法人生涯学習開発財団では、コーチングだけでなく、生涯学習全般に関する情報提供や推進活動が行われています。
コーチングを活かし、仕事やマネジメントの中で部下や相手の主体性を引き出しながら、目標達成や成長を促すことのできることを証明する「コーチング型マネージャー」のための資格です。
- 認定コーチ
- 認定プロフェッショナルコーチ
- 認定マスターコーチ
の3種類の資格を取得することができ、受験資格を得るには実践経験が必要となります。
コーチ・エイ アカデミア「生涯学習開発財団認定コーチ資格とは?」
③国際コーチ連盟(ICF)のコーチング資格
世界最大規模のプロコーチ支援団体である国際コーチ連盟のコーチング資格は、国際資格です。取得すると海外においても資格が通用します。
- アソシエイト・サーティファイド・コーチ(ACC)
- プロフェッショナル・サーティファイド・コーチ(PCC)
- マスター認定コーチ(MCC)
上記3種類の資格が、ICF認定資格として用意されています。
コーチ・エイ アカデミア「国際コーチング連盟(ICF) 認定コーチ資格」
コーチングが機能しない場合の対策
コーチングが機能しない場合は、いくつかの理由が考えられます。
①トレーナーのスキル不足
②コーチングすべきでない内容の仕事にコーチングしている
①トレーナーのスキル不足
まずコーチが相手の中にある答えを導き出せるような質問をし、相手の思考を整理させ、違った角度から物事を考えたり、別の次元で気づきを促し、相手の自発的な行動変革を引き出したりします。結果、相手は自ら設定した目標を主体的に達成します。
もちろん、このような質問の手法は、一朝一夕には習得できません。トレーニングを積み、実務経験を通じて、質問のスキルを習得した者にしか成し得ない業です。
「とりあえず質問すればいい」「何でも聞けばいい」といった姿勢では、相手の内面を呼び起こし、気づきを促すことは不可能でしょう。そのため、見直すべきはまずトレーナーのスキルを高めていく事です。
トレーナーは複数のスキルが求められます。
- 相手の話し方に配慮する
- 相手と呼吸やリズムを合わせる
- 認知パターンを熟知する
など、コーチング技術について鍛錬していないマネージャーが現場でコーチングすれば、部下は何を考えればよいのか分からなくなり、混乱してしまいます。そのため、鍛錬を積んだコーチの存在が不可欠です。
②コーチングすべきでない内容の仕事にコーチングしている
コーチングを行う際の基本は「答えを教えないこと」。つまり、誰かから指摘されるのではなく、答えを自分自身の中から引き出すことにあります。
コーチングは「何となく分かっているものの、なかなか実行できない。変えることができない」といった場合に効果を発揮します。
しかし、いくらスキルを獲得したとしても、コーチングが機能しにくい状況があります。
- 目標が定まっていない
- 目標達成に対する意欲がない
- 目標を達成するだけの能力がない
上記のような場合には、コーチングすべき内容そのものが欠如しているため、コーチングをしても無駄な場合がほとんどです。
他にも、コーチングには一定の時間が必要なため、緊急を要する課題や仕事に関してコーチングを行うことは難しいでしょう。
そのため、その内容、相手の意欲、解決する期間などから、コーチングを行うに値すべき仕事かどうか、事前にしっかりと見極めることが必要です。
また、「働き方改革」が叫ばれる中、「限られた時間の中で部下の課題を解決する」ためには、より難易度が高まっていることも事実です。そのため、現在は「指導力向上」の重要度が高まっています。 また、「限られた時間の中で、コミュニケーション量を増やす」という目的のもと、管理職と部下の「1on1」の仕組み構築を行う企業も増えています。
上記のような状態を改善する為に、上司と部下のコミュニケーションの質向上に向けた考え方として、「シチュエーショナルコミュニケーション」という、状況に応じて変えるべき接し方を伝える方法もあります。
具体的には、部下の感情や抱える課題の難易度に応じて、上司がコミュニケーションを変える方法です。
上記のようなフレームを前提にすると、上司には、「コミュニケーションを取る際に、 部下の状況・課題の状況を踏まえなければ」という意識が生まれます。そのため、部下のことを見ない、一方的なコミュニケーションを少なくすることができます。
コーチングとの違いとしては、部下の中で答えがないケース=望ましい前提を知らないケースにおいても、部下の課題を解決することができます。
働き方改革によって時間の制約が厳しくなっている中では、相手に合わせた「シチュエーショナルコミュニケーション」が有効かもしれません。
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記事まとめ
今回は、人材育成の手法として、注目する企業が増えているコーチングについてご紹介してきました。
コーチングという手法自体は非常に素晴らしいものの、コーチングを行うことが目的化してしまい、課題解決しなかったり、限られた時間の中で課題解決をするという目的と、コーチングの手法がマッチしないなど、現場でうまくいっていない例も多々あります。
「コーチング」そのものを目的化させるのではなく、相手の話に耳を傾け、状況をきちんと把握しながら、課題解決できるように努めることが大切かもしれません。