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持続的成長を実現するための人的資本経営 ~自律的な組織をつくるには~

世界の環境変化が一段と速まっている現代。企業を持続的に発展・成長させていくためには、「人的資本」を軸にした経営と、「自律的な組織」の構築が不可欠だ。しかし、経営戦略と人材戦略をリンクさせ、成果に結びつけられている企業はまだまだ少数だろう。本セッションでは、経済産業省の能村氏、大日本住友製薬の樋口氏、リンクアンドモチベーションの川内が、人的資本経営の実践と自律した組織づくりのための人材マネジメントについて議論した。

【スピーカープロフィール】
経済産業省産業人材課長 能村幸輝氏
大日本住友製薬株式会社 執行役員/コーポレートガバナンス、コーポレートコミュニケーション、人事担当 樋口敦子氏
株式会社リンクアンドモチベーション 取締役 川内正直

※イベント開催時点(2021年5月)の役職です。

※本記事は、『日本の人事部』HRカンファレンス2021春レポートより転載したものです。

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持続的成長とは?

企業の持続的成長とは、長期にわたって企業価値を向上させ続けることを言います。
目の前の売上増・収益増を目指すだけでなく、長期継続的な競争優位性を築き、市場でプレゼンスを発揮し続けることを意味します。

そのためには、売上や利益といった財務的価値の維持・向上を図るだけでなく、社会課題の解決などを通して社会的価値を高めていくことが重要です。

昨今、世界経済は不確実性にさらされており、景気の変動や市場の変化が予測困難な時代になっています。だからこそ、以前にも増して企業に持続的成長が求められるようになっています。

社会的にも、環境への配慮など持続可能性が重視されるようになり、企業に社会的責任が求められるようになりました。

企業は財務的価値を追求していれば良いという時代は終わり、企業活動による環境への負荷を最小限に抑え、社会に貢献することが、企業の信頼性を高める時代になっています。そのため、短期的な利益追求から長期的な持続的成長への転換を模索する企業が増えています。

日本における人的資本経営の現状

本セッションは、株式会社リンクアンドモチベーションの取締役・川内氏が進行役を務めた。同社は組織・人事の総合コンサルティング会社であり、2000年の設立以来、一貫してモチベーションや従業員エンゲージメントの向上に取り組んできた。

近年注力しているのが、組織改善領域にHRテクノロジーを応用したクラウドサービス「モチベーションクラウド」だ。創業以来蓄積された7,680 社、194万人以上(2021年5月時点)の組織データベースによって、企業のエンゲージメントスコアを測定。診断結果を基に、年間2,000社以上の組織変革を支援する経験豊富なコンサルタント陣が、組織改善実行をサポートする。エンゲージメントサーベイによる現状の可視化からコンサルティングまでを一気通貫で提供できるのが強みだ。直近では、「人的資本経営こそが企業の持続的成長を実現する」という観点から、日本企業のあるべき姿についても積極的な提言を行っている。

そもそも「人的資本経営」とは、財務諸表の数字に偏重した金融資本主義への反省が出発点になっている。リーマン・ショックの経験、SDGsへの注目といった世界の動きを背景に、企業の発展性や将来性を見るには、競争力の源泉である「人」を一つの軸として考えていくべきではないかという考え方が生まれてきたのだ。

セッションではまず経済産業省の能村氏が登壇し、長く産業人材政策に関わる中で、徐々に「人的資本経営」が注目されるようになってきたことを実感していると語った。グローバル化、デジタル化、少子高齢化、さらには現在のコロナ禍といった企業を取り巻く大きなトレンドが、組織と個人の関係性にも変容を迫っているのだ。

「そうした中での大きな課題が、経営戦略と人材戦略が十分にひもづけられていない、ということ。人事領域の人へのアンケートでも、その課題感は明らかです。今後の人事は経営戦略とどうリンクしていくのかが、かつてないほど重要になってきます」

同様の課題意識を持つのは人事だけではない。世界の企業経営者、取締役会、機関投資家らも「多様性(ダイバーシティ&インクルージョン)」や「人的資本(ヒューマン・キャピタル)」にこれまで以上に注目するようになっている。今や「環境」や「危機管理」よりも重視されているというデータもあるほどだ。

こうした流れを受けて、経産省では2020年9月に、「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書~人材版伊藤レポート~」(研究会座長:一橋大学 伊藤邦雄氏)を公表した。その中心は、「持続的な企業価値の向上に向けた変革の方向性」としてまとめられた、これからの企業のあるべき姿だ。

「人材マネジメントの目的は人的資源の管理ではなく、人的資本への投資と考えるべきでしょう。人事部任せにせず、経営陣がとることとし、取締役会がしっかりとモニタリングすること。そのうえで内向きになるのではなく、経営陣が率先して従業員や投資家と積極的に対話し、人材戦略やパーパスをしっかり発信していくことが不可欠です。個と組織の関係も、相互依存から個の自律・活性化に舵を切り、専門性を土台とした『選び、選ばれる関係』へと発展していくことが望ましいと考えられます」


こうした変革に向けて、とりわけ大きな役割を担うのは経営陣だ。人材戦略と経営戦略をひもづけていくのは主にCHROの仕事だが、CEOをはじめとする経営陣全体が、この課題に対して一つのチームとなって取り組むことも欠かせない。

「もちろん個々の企業が置かれている環境は異なり、経営戦略・人材戦略は同じではありませんが、共通して言えることもあります。一つは、人材戦略は変化に合わせる動的なものであること。さらに、個人・組織の活性化も大きなカギとなります。個人・組織が受け身で指示待ちでは、経営戦略がどんなに素晴らしくてもイノベーションは生まれません。そのためにもダイバーシティ&インクルージョン、従業員エンゲージメント、時間や場所にとらわれない働き方への改革などで組織を活性化することが重要になります。これらは持続的発展を求める全ての企業が取り組むべき点だといえます」


人的資本経営において重要なポイント

川内氏は「今、最も重要なのは『良い会社の定義を変える』ことだ」という。これまでの「良い会社」は利益や資産、つまりPLやBSの内容によって判断されてきた。しかし、リーマン・ショック以降は金融資本主義の限界が表面化し、もっと長期的な成長を見るポイントとして「人的資本」がクローズアップされた。では、人的資本はどのように測っていくべきだろうか。川内氏は、その一つが「エンゲージメントスコア(ES)」であるという。

川内氏は、従業員エンゲージメントを「企業と従業員の相互理解・相思相愛度合い」と定義する。エンゲージメントスコアが高い企業では、当然、従業員の会社への愛着、仕事への情熱の度合いが高くなる。

「商品市場では、よりオリジナリティ、クリエイティビティのある商品が求められます。そうした価値を生み出すのはまさに『人』。従業員エンゲージメントが高く、従業員が情熱を持って仕事に取り組んでいる企業は、競争力のある商品を生み出す可能性が高いといえます。また、労働市場でも、求職者から選ばれる会社と選ばれない会社の差が明確になっています。終身雇用で労働者を囲い込めなくなっている現代では、優秀な人材が従業員エンゲージメントの高い企業に移動していく可能性も高まっていると言わざるをえません」

ここで気になるのは、「従業員エンゲージメント」と「従業員満足度」の違いだ。結論からいえば、従業員満足度は、企業が一方的に待遇改善などを提供した結果であって、数値が高まっても企業業績には直結しない。一方、従業員エンゲージメントには組織に対するコミット、貢献意欲を引き出す要素があり、従業員に自分も主体者であるという意識を生み出す。必然的に企業業績向上に直結する指標となる。データでも、従業員エンゲージメント向上は、業績向上や離職率低下などが深く相関していることが明らかになっている。

では、従業員エンゲージメント向上を軸とした人的資本経営を進める上で、最も重要なポイントは何か。

「それは、従業員は労働者ではなく『共創者』であるという考え方です。管理する対象ではなく、一緒に価値を生み出す存在。すると当然、採用時の候補者の見極め方や従業員の育成方針も変わってきます。終身雇用や年功序列などで従業員を組織にしばるのではなく、持株会や社内労働市場の構築などで自律を促す方向にシフトしていくべきでしょう。組織風土もトップダウンではなく、双方向のコミュニケーションが基本となります」

自律型組織においては、こうした考え方が会社全体に浸透していることが特に重要だと川内氏はいう。リンクアンドモチベーションの「モチベーションクラウド」では、企業内の双方向コミュニケーションを、従業員が会社や職場へ抱いている「期待度」と、現在の「満足度」という二軸で整理している。期待度と満足度両方で数値が高いものを見ることで、「強み」を可視化することが可能だ。「強み」が何かを明確にすることで、限られたリソースでも強い組織をつくることができる。



ちなみに、現在多くの企業で期待度と満足度にギャップがある項目は、「階層間の意思疎通」だという。階層間が疎遠になると、自分の仕事の意味がわからなくなり、従業員エンゲージメントの低下につながりやすい。人的資本経営を推進するためには、まずここに着目する必要がありそうだ。


人的資本経営の事例 自律的な組織づくりについて

最後に、樋口氏が大日本住友製薬株式会社(以下大日本住友製薬)の人的資本経営への取り組みの事例を発表した。大日本住友製薬は、2005年に合併して生まれた研究開発型企業だ。従業員数は連結6,822名、単体3,067名(2021年3月現在)。売上の60%が海外で、従業員も半分は海外にいる。

大日本住友製薬では、2006年から「みんオピ」というサーベイ活動を継続している。「みんなで変わる 変えていく DSPオピニオン」(DSP:大日本住友製薬の略称)の名称のままに、言われたことを実行するだけではなく、自分がどうしたいのかにこだわり、みんなで組織を変えていくコミュニケーションを実現する目的ではじまった。2014年からは「モチベーションクラウド」のサーベイ機能を利用し、組織の強みや課題を「全社」、「部門ごと」で把握している。

同社が「自律的な組織づくりのポイント」として挙げるのは、「(1)理念を浸透させ、会社・仕事の『意義』を伝える」、「(2)経営と従業員で『双方向』にコミュニケーションを行う」の2点だ。

大日本住友製薬の企業理念は、「人々の健康で豊かな生活のために、研究開発を基盤とした新たな価値の創造により、広く社会に貢献する」というもの。経営陣も従業員も事あるごとに全ての活動場面でこの理念に立ち戻って考えることが習慣化されている。この下にステークホルダーごとの経営理念があり、さらに行動宣言が続く。また、これら全ての基盤となる経営資源も明確化されており、その一つに「人的資本」を挙げている。経営会議とは別に、主要な経営メンバーによる「人材戦略会議」が毎月開催されていることも大きな特色だ。

「こうした理念経営を社内外に表明し、実践することが当社のCSR経営の根幹となっています。具体的な取り組みとしては、社長からのメッセージ発信を重視しています。背景には『みんオピ』のサーベイで「社長からのメッセージがほしい」という従業員からの要望が多かったことがあります」

イベントごとに社長が自らの言葉で経営の考え方や想いについて発信するほか、イントラネットでの動画メッセージ、社長ブログなど、さまざまな形で従業員とのコミュニケーションを図っている。また、社長の発信には従業員がコメントできるなど、双方向性も担保されている。

「他にも研修やイントラネットをはじめとするツールを使い、現場が理解しやすいように、工夫を凝らして理念の浸透を進めています。現状では、普段から理念や行動宣言に沿った活動ができているという回答が85%に達しています」



「みんオピ」には自由記述の項目もあり、数千単位で回答が寄せられる。そこで出された意見に対しては、担当役員ごとにイントラネットを使ってメッセージを発信する。また、全国の事業所で行われる「取締役講話」と題した従業員との対話は、コロナ禍の現在もオンライン会議ツールを使い、リモートで継続されている。こうした双方向コミュニケーションを醸成する活動が、大日本住友製薬の人的資本経営を支えているのだ。


今後の日本で人的資本経営をどう普及させればいいのか

川内:ここまで、人的資本経営の重要性と、その核になる従業員エンゲージメントを左右する、質の高い対話についてお話ししてきました。ここからは「今後の日本で人的資本経営をどう普及させればいいのか」を議論してみたいと思います。

能村:人的資本経営とは、企業価値を持続的に伸ばしていくには人材が大事だという話で、これは日本企業だけに該当することではありません。では、経営と人材が両輪としてうまく機能し、それが従業員にも十分に伝わっているか、投資家に対しても発信できているかというと、まだ道半ばではないでしょうか。また、人的資本経営の可視化も大きな課題で、どんな指標を使えばいいのか、国際的な議論もあるのが現状です。

樋口:たしかに納得性の高い指標が出てくると、とてもいいと思います。

能村:そこは非常に議論のあるところで、適切な指標は、研究開発型企業やオペレーション型企業など、それぞれの組織の特性によって変わってくる部分もあります。経産省としては、まずはそういう議論の参考になるものを出していきたいと考えています。

川内:人的資源マネジメントの国際規格「ISO30414」や、米国発の人的資本レポーティング指標はいくつかありますが、日本の実情にあったものがあればもっといいですね。

能村:いずれにしても、経営戦略と人材戦略がいかにひもづいているかを可視化できるデータが望まれていることは間違いありません。我々も、意識して前に進める取り組みをしていきます。

川内:視聴者の方から質問をいただいています。「双方向コミュニケーションを増やしても、理念が浸透しきっていないと、部分最適であれこれと要求だけが出てきてしまうのではないでしょうか。部分と全体をどう捉えればいいでしょうか」。

樋口:仕事に一生懸命になると部分最適になりがちです。そのとき、上司や役員がいかに理念に立ち返ることを示せるかでしょう。従業員一人ひとりに対して、職場内のタテ、ヨコ、ナナメのコミュニケーションで、どこまで気づきを与えられるかが大切です。サーベイをやれば、どこのコミュニケーションに課題があるか、ある程度わかってきます。課題があれば、そこに焦点を当てて対策を打っていくようにしています。

川内:最後に「人的資本経営において大事なポイント」という観点で補足してみたいと思います。人的資本経営の本質は、DXなどと同様に「風土変革」です。ハードを入れればうまくいくというものではなく、あくまでも大事なのはソフト。うまくいく企業は、「リードタイム」の概念を理解できています。施策と成果までのタイムラグは必ず発生します。種を蒔いてもなかなか芽が出ない。そこで諦めてしまっては前に進みません。芽が出るまでみんなでこらえながら進めることが重要です。

樋口:たしかに継続は非常に大切です。少々うまくいかなくても、もうだめだとは考えない方がいい。事業も環境も人も変化していくものです。変えるところ、変えないところの見極めが大事です。

川内:自律的な組織づくりには主体性を持つことがポイントになります。主体性を持つには情報が不可欠で、対話というものがますます重要です。今後も産官学の連携で人的資本経営を日本全体に広げていきたいと考えています。本日はありがとうございました。

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