【後編】モチベーションチームアワード2022レポート サカイ引越センター エンゲージメントが高い部署をつくる仕組みとは?現場は感情に寄り添い、人事はコミュニケーション設計にこだわった
「ベストモチベーションチームアワード」は、リンクアンドモチベーションが毎年開催している、組織変革に向けた取り組みによってエンゲージメントスコア(社員の会社に対する共感度合いを表す指数)が上昇した「部署」を表彰するイベントです。
2022年度、ベストモチベーションチームアワード受賞企業のなかからゲストをお招きして、事務局・人事の皆様向けのトークセッションを開催。株式会社サカイ引越センター 八尾支社の平尾祐樹氏と、人事部 課長 (取材当時) にご登壇いただき、「エンゲージメントが高い部署をつくる仕組みとは」をテーマにお話しいただきました。
【イベント実施日】
2022年3月10日
【スピーカー】
・株式会社サカイ引越センター 八尾支社 ブロック長代行 兼 支社長 平尾 祐樹 氏
・株式会社サカイ引越センター 人事部 課長 (取材当時)
【モデレーター】
・株式会社リンクアンドモチベーション 田中 峻
従業員エンゲージメントを可視化・改善するモチベーションクラウドはこちら
▼ エンゲージメントを可視化し、組織改善を行うサービス【モチベーションクラウド】はこちら
未来の受注をつくるため組織改善に着手
リンクアンドモチベーション 田中:本日、ご登壇いただく八尾支社の平尾さんからは現場のお話を、人事部の人事課長さんからは事務局側のお話を伺っていきたいと思います。サカイ引越センター様の組織図ですが、全国に5つの事業本部があり、その下に27のブロックが、そしてその下に約200の支社があります。支社の一つである八尾支社では、35名ほどの従業員の方が働かれているということです。まずは、八尾支社について取り組み前の組織状態について教えていただけますか。
サカイ引越センター 平尾氏:業績こそ堅調に推移していましたが、お客様アンケートの結果が常に平均を下回っている状況でした。最初のサーベイでは、エンゲージメントスコアが「38.3」で、エンゲージメントレーティングは「DDD」という結果が出ましたので、組織の状態は非常に悪く、危険な状態だと感じていました。
※エンゲージメントレーティングはエンゲージメントスコアを11段階で格付けしたものです。DDDは11段階中、下から2番目のレーティングです。
リンクアンドモチベーション 田中:業績が伸びているのであれば、組織改善なんかしなくてもいいという判断になってもおかしくないと思うのですが、それでも組織改善に着手しようと思ったのはどんな理由がありますか。
サカイ引越センター 平尾氏:どれだけ目先の業績が良かったとしても、中長期的に市場を見ていったとき、このままの組織では未来の受注につながらないという危機感を持っていました。ですから、組織改善に着手することにしました。
引越業界は、もちろんマーケティングも大事なのですが、いちばんはお客様の評価、口コミで、これが未来の受注に大きな影響を与えます。また、従業員のパフォーマンスがお客様の満足度に直結する業界でもあります。ですから、お客様の評価を上げようと思ったら、その前に従業員のエンゲージメントを向上させ、高いモチベーションで働いてもらう必要があるんです。
このような背景から、「ESを向上させることでCSを向上させる」を基本的な考え方として、組織改善に取り組むことにしたという流れです。
リンクアンドモチベーション 田中:取り組みの内容について教えてください。
サカイ引越センター 平尾氏:こちらのスライドにある4点が具体的に取り組んだ内容です。
業界的に、どうしても月末に仕事が集中しやすいので、月末過多になる仕事量をできるだけ均せるように、管理者が調整をおこないました。
また、有給申請がしづらい雰囲気ができていたので、従業員が直接、責任者である支社長に申請するのではなく、支社のNo.2、No.3の人に申請してもらうようにしました。有給申請の心理的なハードルを下げるために、フローを変えたということです。
あとは、当たり前のことかもしれませんが、挨拶の徹底です。管理者には、どれだけ忙しいときでも必ず従業員の目を見て、顔と顔を合わせて挨拶することを求めました。また、従業員から成果の報告があったときは、必ず上司がそれを拾い上げ、その都度、労いや感謝の言葉を伝えるということも徹底しました。
即時での対応というのは、どんなに小さな問題でも後回しにせず、従業員から報告があったその日・その場で対応するということです。トラックのパワーウインドウの調子が悪いとか、コンテナ内の照明が切れかけているといった例が分かりやすいでしょうか。そういった従業員の声を放置せず、即時に対応することで信頼される上司であり続けようと、管理職に伝えました。
面談で挙がった不満の声から、改善の優先順位を決めていった
リンクアンドモチベーション 田中:改善施策の優先順位はどのように決めたのでしょうか。
サカイ引越センター 平尾氏:1回目のサーベイの結果を見たときに、「これはすぐに動かないとまずい」と思い、一人ひとりの従業員と膝を突き合わせて面談をしたんです。普段は言いにくい不満や意見など、全部率直に話してもらいました。そのときに挙がった声から、改善の優先順位を決めていった感じです。
「希望の休みが取りづらい」「忙しい日とそうでない日の差が激しくて疲れやすい」「上司が現場の声になかなか耳を傾けてくれない」といった声が多かったので、先ほど申し上げたような施策をおこない、改善を図っていきました。
リンクアンドモチベーション 田中:取り組みの結果、どのような成果が出ましたか。
サカイ引越センター 平尾氏:お客様アンケートは「良い」「普通」「悪い」という評価なのですが、社内では「良い率」を重要な指標にしています。これが八尾支社はずっと平均以下だったのですが、取り組みを進めた結果、過去最高の評価まで改善することができました。1月には「良い率」100%という、八尾支社始まって以来の評価もいただきました。また、受注件数もエリアTOP3に入るほど増加しました。
組織面では、従業員の不平不満の声が大幅に減少しましたね。毎日見ていても、笑顔で仕事をしている従業員が増えたなと感じています。また、助手職からドライバー職にステップアップしたいという希望者が増えたのも大きな変化です。今まではほとんどいませんでしたので、そういった変化からも従業員のモチベーションの高まりを感じています。
エンゲージメントスコアが38だったときは結構ピリピリしていましたし、上司が信頼されていないんだなと感じることも多々ありました。今はそのような雰囲気がなくなって、従業員の「楽しい職場になってきたね」というような声が聞かれるようになりました。
理念はただ唱和するだけのものになっていた
リンクアンドモチベーション 田中:続いて、人事の立場から全体の組織改善に取り組んでいる人事課長にお話を伺ってまいります。人事部の中心的なミッションとしては、理念の体現、理念の浸透といったところになるでしょうか。
サカイ引越センター 人事課長:そうですね。弊社はずっと理念経営を掲げており、経営層も理念を大事にしていこうというメッセージを発していました。弊社の理念は「社会的責任を果たし、社員の幸せを求める」というものです。
ただ、理念を大事にすると言っても、従業員が5,000名、6,000名を超えてくると、なかなか難しいものがあります。実際に、理念はただ唱和するだけのものになり、「どんな目的で作られたものなのか?」ということもなかなか伝わらない状態になっていました。そこは大きな課題として認識していましたね。
リンクアンドモチベーション 田中:組織改善のために取り組んだことについて教えてください。
サカイ引越センター 人事課長:取り組みのポイントは、コミュニケーション設計です。具体的には2つあり、1つ目が、コミュニケーションするときに組織階層を飛ばさないということです。もう1つが、影響力のある社員から発信してもらうことです。
組織改善の取り組みをしましょうと言うわけですが、これを「誰が言っているのか?」というのが社内では結構大きいんです。本社の人間が言っているのか、周囲から一目置かれるような人が言っているのかで、伝わり方はずいぶん変わってきます。ですから、事務局から発信するのはもちろんですが、社内で影響力のある人をうまく頼って、その人からも発信してもらうようにしました。
影響力があるというのは、役職的に偉いということではありません。周囲の人が「あなたの言うことだったら」と思えるような人です。我々人事は、影響力のある社員にどれだけ共感してもらえるかということに、かなり力を入れましたね。
「エンゲージメントを高めたらこうなる」ということを伝え続けた
リンクアンドモチベーション 田中:組織改善を伝えるときに意識したポイントはありましたか。
サカイ引越センター 人事課長:組織を改善し、エンゲージメントを高めることで「最終的にどうなるのか」を伝えるようにしていました。企業理念にもあるメンバーの「幸せ」に、どのようにつながっていくのかということですね。
たとえば、エンゲージメントが高まれば、生産性が上がります。生産性が上がれば、利益率が上がります。利益率が上がれば、ボーナスが増えます。ボーナスが増えたら、という具合です。そういうことを徹底的に伝えていきました。
事務局として重要なのは、折れないことだと思うんです。相手の役職が上だろうが何だろうが、絶対に伝えなければいけないことは、理解してもらえるまで伝え続ける。これが大事だと思っています。
リンクアンドモチベーション 田中:難しかったことや苦労したことはありましたか。
サカイ引越センター 人事課長:最初にエンゲージメントサーベイを導入することを決めたとき、「どれだけサーベイの意義を感じてもらえるか?」という点がもっとも苦労したところでした。今でこそ、上職者の人たちはサーベイに注目するようになっていますが、1回目をやるときに、ただ「エンゲージメントサーベイをやりますよ」と言っても、たぶん誰も反応してくれないだろうと思っていました。「こんなのやってどうなるの?」「売上が上がるの?」「利益が上がるの?」と言われるのが容易に想像できたんです。
ですから、サーベイの意義を感じてもらうための説明会をおこないました。Zoomで、約200の支社の支社長全員に「なぜサーベイをするのか?」という話をして、きっとみなさんの組織の役に立つから、ぜひ協力してもらえないかと伝えました。今振り返っても、あの説明会は非常に大事だったと思っています。
リンクアンドモチベーション 田中:平尾さんもこの説明会に参加されたんですよね。
サカイ引越センター 平尾氏:はい、もちろん出ました。何をやるかというよりも、なぜやるかということを熱い気持ちで伝えていただきました。
リンクアンドモチベーション 田中:ありがとうございます。最後に、今後の展望をお聞かせいただけますか。
サカイ引越センター 人事課長:これは対外的にも発表していることですが、弊社は2023年度末にエンゲージメントスコア60点のAランクを目指しています。非常に高い目標ではありますが、ここは一切ぶらさずに、必ずやり遂げようと思っています。
リンクアンドモチベーション 田中:お二方、ありがとうございました。以上でトークセッションは終了とさせていただきます。
従業員エンゲージメントを可視化・改善するモチベーションクラウドはこちら
▼ エンゲージメントを可視化し、組織改善を行うサービス【モチベーションクラウド】はこちら