【前編】KECグループ どん底からの躍進 エンゲージメントを重要指標にして実現した組織変革 ベストモチベーションカンパニーアワード2023(中堅・成長ベンチャー)レポート

「ベストモチベーションカンパニーアワード」は、リンクアンドモチベーションが毎年開催している、エンゲージメントスコア(企業と従業員のエンゲージメントを表す指標)が高い企業を表彰するイベントです。

2023年度も「大手企業部門」「中堅・成長ベンチャー企業部門」の2部門制で表彰をおこないました。「中堅・成長ベンチャー部門」受賞企業の中から、2社をゲストにお招きしてトークセッションを開催。株式会社メッセホールディングスから専務取締役の宮本茂氏と、KECグループから代表取締役の小椋義則氏にご登壇いただき、「モチベーションカンパニーづくりの秘訣」をテーマにお話しいただきました。

【イベント実施日】
2023年3月3日

【スピーカープロフィール】
・株式会社メッセホールディングス 専務取締役 宮本茂 氏
・KECグループ 代表取締役 小椋義則 氏

【モデレーター】
・株式会社リンクアンドモチベーション MCRカンパニー マネジャー 依光宏太

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社員全員で理念について深く考え、明文化した

リンクアンドモチベーション依光:早速ですが、「モチベーションカンパニーづくりの秘訣」というテーマで、KECグループの小椋様にお話を伺ってまいります。KECグループ様は奈良県を中心に学習塾を展開されていらっしゃるほか、保育園の運営、プログラミング教材やオンライン英会話教材の開発などを推進されている企業様です。

熱気あふれる企業様ですが、小椋様が入社された時期は今とはまったく違った「どん底期~混沌期」だったと伺っています。まず、当時の会社の状況から教えていただけますか。

KECグループ 小椋氏:僕自身、二代目社長候補として入社したのですが、幹部・スタッフから歓迎されていないのは明らかでした。当時の会社はお客様の満足を図るものもなければ、各教室の売上や利益も非公開。各教室は責任を持たない個人塾の集まりのようになっていてお客様からのクレームも少なくありませんでした。また、従業員のモラルも低く、堂々と会議に遅刻してくる社員もいましたし、社長の前で寝ている社員もいるような状況でした。

そんな中、会社に不満を持つ当時の社員の独立騒ぎがあり、多くの生徒がその塾に転塾。当然、業績は急降下しました。売上9億円ほどの会社でしたが、1年で1億近くのマイナスを出し、社員の給与も2年連続で10%カットされるような厳しい状況でした。退職者も増え、当時64名いた社員の4割くらいが1年で退職するという危機的な状況で、本当に胃が痛い時期が続いていましたね。

リンクアンドモチベーション依光:そのような状況を脱するため、どのようなことに取り組まれていたのでしょうか。

KECグループ 小椋氏:弊社は「人間大事の教育」という企業理念を掲げています。当時から社員には「人間大事」ということは伝えていたのですが、「じゃあ、私の権利はどうなるんですか?」と大事にする対象が自分自身の権利主張に向いているスタッフが多くいました。そこで、「そもそも、人間大事の教育って何なのか?」ということを社員全員で考えて、それをミッション、ビジョンという形で明文化することに着手しました。

また、当時はPCを貸与されていない社員もいましたので、全社員にPCを導入すると同時に、売上や生徒数などをすべて可視化し、それを賞与などのシステムと連動させました。これにより、頑張っている社員は「活躍できている」ということを実感できるようになり、逆に、そうでない社員は危機感を感じるような環境になっていったと思います。

リンクアンドモチベーション依光:全社員で理念を整備し直すのは、ともすれば様々な意見が出てまとまらないリスクもあると思いますが、あえて全社員で取り組んだのにはどのような意図があったのでしょうか。

KECグループ 小椋氏:当時、私には会社を束ねる影響力が全くなかったですし、社員全員で決めていかないと自分事になってくれないと思っていました。理念はついつい自分に良いように捉えてしまいがちですが、そうではなく、「まずお客様に幸せになっていただいて、その対価として僕たちはお金をいただく」ということだけは徹底して理解してもらうようにしました。全社員を巻き込んで取り組むことで、結果的に「自分たちで決めたことだから」というように、ある意味、言い訳のしようがない共通認識ができたかなと思っています。

半年後から逆算して計画を立てることで行動力やスピード感が高まった

リンクアンドモチベーション依光:混沌期から抜け出した2012年以降、2015年くらいまでを「動乱期」と位置付けていただいています。この時期の会社の状況を教えていただけますか。

KECグループ 小椋氏:2012年に先代社長が亡くなり、僕が社長になったのですが、この社長交代を心の内では認めていない社員は多かったと思います。また、ちょうどその時期に大手の塾が奈良県に進出してきて、塾業界の競争が激化していきました。

どれだけ良い戦略を立てても、それが現場で実行されなければ意味はありません。ですから、この時期は、会社が決定したことを社員が即時実行できる組織文化をつくることに努めました。まずはトップダウンできちんと動ける組織をつくろうということです。その一環として、あらためて理念を整備して、「生徒に対してどのような価値を提供していくのか?」ということをさらに深掘りしていきました。

理念浸透と言えば、多くの企業で朝礼時間に自社の行動規範のなかで自分が心がけていることを発表し合う、といったことをされていると思います。しかしながら、弊社においてはそれでは本当の意味で理念が浸透することはありませんでした。ですから、「この業務をすることで、生徒に対して提供したい価値が提供できている」となるように、お客様のサービスや仕事のフローの中に理念を落とし込むように仕組み化しました。

また、トップダウンだけでは社員の気持ちが入りません。「いかに参画意識を持てるか」「いかに目標や役割を自分ごとにできるか」が重要だと考え、各チームで、半年後から逆算したチームづくりに取り組みました。「チームとして半年後に、どのような状態になっていたいのか?」ということから逆算して計画を立て、さらに、社員全員に配布している手帳に自分自身の計画を書き込んでもらいました。ここまで徹底したことで、理念や方針が浸透していき、結果として社員の行動力やスピード感が高まったと思っています。

社員数の増加とともに、意思伝達がうまくいかなくなった

リンクアンドモチベーション依光:その後、会社は「躍進期~多角期」に入り、エンゲージメントサーベイのレーティングはAAAランクに達しています。この時期の会社の状況を教えていただけますか。

KECグループ 小椋氏:組織として完成したと言えるくらい、組織状態は良くなりました。会社に不満を感じている社員が2%くらいしかいないという、異例の状態だったと思います。

組織状態が良いと、生徒数も増え、業績も上がり、すべてが良い方向に回り始め、会社の規模はどんどん大きくなっていきました。近隣学習塾さんから事業譲渡をしていただいたこともあり、社員数は倍増し、BtoBの事業も含め様々なチャレンジをし始めた時期でした。

そうなる中で、僕自身の仕事の負荷が上がり、今までの仕事のスピードでは追いつかなくなってきました。「それなら、2倍でも3倍でも働いてやろう」とがむしゃらに仕事をしていましたね。ですが、そのことで無理がたたって体調を崩してしまい、幹部に仕事を任せることにしたものの、うまくいきませんでした。成長したことによる歪みが生まれ、組織状態が悪化した時期だったと思います。

リンクアンドモチベーション依光:エンゲージメントサーベイのスコアを見ても、AAAランクを記録した2016年以降、落ち込んで、2020年にはAランクまで下がっています。なぜ、組織状態が悪化してしまったのでしょうか。

KECグループ 小椋氏:それまで、様々な仕組みをつくってきましたが、それらは自分が中心になってつくった仕組みであり、逆に、僕が得意なところは仕組み化していませんでした。体調を崩して、幹部に仕事を任せることにしましたが、幹部は自分と同じように仕組みを使いこなせず、結果として感性や経験に頼った経営になってしまいました。社員数が増えるとともに意思伝達がうまくいかなくなり、悪循環に陥っていったのかなと思います。

リンクアンドモチベーション依光:この時期、社員数が200名まで増えていますが、この規模になると、自分のマンパワーだけではなかなか動かせないという感覚はありましたか。

KECグループ 小椋氏:そうですね。たとえば、月に1回コミュニケーションをとっていた会社が、社員数が2倍になり、コミュニケーションを2ヶ月に1回にしたとします。単純に考えれば、コミュニケーションの量は半分になるわけですが、社員が感じる経営との距離感は2倍ではなく、4倍にも8倍にも開いていきます。このように、社員と経営陣との乖離が大きくなっていった時期だったと思います。

リンクアンドモチベーション依光:2021年、2022年と再び組織状態が上向きになっていますが、ここではどのような取り組みをされていたのでしょうか。

KECグループ 小椋氏:このときは、社内で情報が混乱していたので、情報を整備することから着手しました。たとえば、自分がやっていた仕事も、ゴールから逆算して月次・年次のスケジュールに落とし込んだうえで幹部に引き継ぐようにしました。また、会社全体の情報をきちんと管理していくために、経営戦略部や財務部での情報の下ろし方、特に数字面の情報の下ろし方を整理していきました。

退職者が増加傾向にあったので、人事部の強化に取り組んだ時期でもあります。社員のフォローを各所属長だけに任せるのではなく、会社としてフォロー体制を仕組み化して、人事部主導で一人ひとりの社員の状況を可視化していきました。モチベーションクラウドのエンゲージメントサーベイも、それまでよりも小さいチーム単位でエンゲージメントスコアを管理していくようにしました。

お互いのことが分かってはじめて懐に飛び込める

リンクアンドモチベーション依光:たとえば、人事部主導で導入した仕組みの一つに「スキルマップ」があったと伺っていますが、目的や運用方法について教えていただけますか。

KECグループ 小椋氏:スキルマップは人材育成を目的とした仕組みで、入社から3年程度で「習得していてほしいスキル」を細かくリスト化したものです。スキルをいくつかのカテゴリに分けていて、それぞれ卵から始まり、雛がかえり、幼稚園に行き、成人になってというようにキャラクターで進捗を表しています。

各社員の現在の状況を、全社員が見られるように可視化しているので、「自分はちょっと成長が遅れている」というように危機感を持てますし、スキルマップを見せ合いながらお互いを高め合うこともできます。進捗が悪い部分にすぐに指導を入れられる体制を整えているのが、一つの特徴ではないでしょうか。

生徒たちにも同様にスキルマップを活用しています。細かく可視化することで、単に成績の良し悪しだけでなく、見えにくい部分にも光が当たり、「もっと頑張ろう」「次はこうしよう」といった気持ちを引き出すことができます。事業で生徒たちにやっていることと、組織で自分たちがやっていることがリンクしているので、それが納得感につながっているのではないでしょうか。

リンクアンドモチベーション依光:「個性」というテーマでお話を伺いたいのですが、社員の個性を育むために意識していることはありますか。

KECグループ 小椋氏:自社で開発した「性格テスト」をおこない、社員全員がその結果をオープンにしています。これによって、「あの人はこういう性格だから、こういうアプローチをしたほうが共感を得られやすいよね」というように、相互理解やコミュニケーションの促進につなげています。

お互いのことが分かってはじめて懐に飛び込めるので、社員同士がお互いの個性やバックボーンを知ることは重要だと思っています。ですから、研修でも自分の過去の話をしてもらったりして、相互理解を促しています。

エンゲージメントスコアは売上以上に大事な指標

リンクアンドモチベーション依光:弊社のモチベーションクラウドを導入いただいていますが、どのように活用していただいているのか教えていただけますか。

KECグループ 小椋氏:エンゲージメントスコアは弊社にとって重要なKPIだと認識しており、年に2回、サーベイを実施しています。サーベイの結果をもとに各チームにアクションプランを立ててもらい、実行してもらっています。

弊社の場合ですが、エンゲージメントスコアが60以下のチームは、アラートが出ていると捉えています。ですから、人事部や経営戦略部が入って、改善に向けたアクションプランをチェックして、実行後も進捗管理をするようにしています。

エンゲージメントスコアが50以下のチームは明らかに組織状態に問題があると判断して、人事部が入り、具体的に考えていることや不満などをヒアリングするようにしています。ヒアリングの内容を受けて、会社が改善できるところは改善したり、上司に改善を促したりして、組織状態が安定するように努めています。

また、サーベイは無記名なので、具体的に「どの社員が」というところまでは分かりません。ですから、サーベイ以外に年2回、ブロック長以上が集まってお互いに気になる社員の情報を共有する機会を設けています。そこで、悩んでいる社員に対して誰がどのようにフォローしていくのかということを整理して、きちんとコミュニケーションをとれる体制をつくっています。

我々は教育業であり、どれだけ生徒に愛情をかけられるかがすごく大事なのですが、愛情のかけ方は社員のエンゲージメントに大きく左右されると思っています。どれだけ良い仕組みがあっても、そこに愛情がないとうまくはいきません。その意味で、エンゲージメントスコアが高いかどうかは、売上と同じくらい、もしくはそれ以上に大事な指標だと捉えています。

リンクアンドモチベーション依光:最後に、今後の展望をお聞かせいただけますか。

KECグループ 小椋氏:教育というのは、やはり、将来につながる力を身に付けることが本来の目的だと思います。しかし、今の教育の在り方は、志望校に合格することだけが目的になってしまうなど、将来につながりきらないと感じることが多々あります。ですから、我々はきちんと将来につながる、つなげる教育をしていきたいと思っています。

Amazonが流通の在り方を変えたように、事業を通して社会の在り方を変えることができるのだと感じることが多くなりました。我々も、事業を通して教育の在り方を変えられる存在になっていきたいという思いがあります。僕一人では到底実現できないことなので、今後、リーダーをたくさん生み出していかなければいけません。多くのリーダーや子会社を生み出していくなかで、リーダー自身に自己実現をしてもらいながら、教育の在り方を変えていけるような組織にしていきたいですね。

リンクアンドモチベーション依光:以上をもちまして、本日のトークセッションは終了とさせていただきます。小椋様、本日はありがとうございました。

KECグループ 小椋氏:ありがとうございました。

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