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人的資本ROIとは?計算式や目安、開示事例を紹介

人的資本ROIは、従業員への投資が企業にもたらす利益を可視化する指標です。従来の会計では費用と見なされてきた人件費を、将来の収益を生み出す「投資」と捉え、その効率性を測ります。人的資本ROIを向上させることは、従業員のエンゲージメントを高め、企業の持続的な成長に繋がる重要な取り組みと言えるでしょう。

目次[非表示]

  1. 1.人的資本ROIとは何か
  2. 2.人的資本ROIの計算方法
  3. 3.人的資本ROIの目安
  4. 4.人的資本ROIを活用するメリット
  5. 5.人的資本ROIを向上させるためのポイント
  6. 6.人的資本情報開示のガイドライン「ISO30414」
  7. 7.人的資本ROIの開示事例
  8. 8.組織変革のことならモチベーションクラウド
  9. 9.まとめ

人的資本ROIとは何か

人的資本とは、従業員が持つ知識、スキル、経験、能力といった、企業の価値創造に貢献する可能性を秘めた無形資産を指します。従来の会計では費用として扱われてきた人件費ですが、人的資本という概念では、将来の収益を生み出すための「投資」と捉えられます。

ROI(Return On Investment)は、投資利益率と訳され、投資に対してどれだけの利益が得られたかを示す指標です。一般的には、(利益 ÷ 投資額)× 100 で計算されます。

人的資本ROIは、従業員への投資(人件費、教育研修費など)が、企業の利益にどれほど貢献しているかを示す指標です。人的資本への投資効果を可視化することで、経営層は人材戦略の有効性を評価し、改善につなげることができます。

人的資本ROIの計算方法

人的資本ROIの計算式は、一般的に「(売上高-人件費を除く経費)÷人件費-1」で表されます。この式は、ISO 30414という国際規格でも定義されており、人的資本への投資効率を評価する上で広く利用されています。

計算式を分解すると、分子は「売上高-人件費を除く経費」で、これは人件費以外の費用を差し引いた後の利益、つまり人件費によって生み出された価値を示します。分母は「人件費」で、これは人的資本への投資額を表します。最後に「-1」とすることで、投資額自体を差し引いて、純粋な利益率を算出します。

人的資本ROIの目安

(出典:「人的資本ROIとは~人的資本経営の重要指標:人財への投資効率を知る~ |HRデータ解説|㈱トランストラクチャ

このグラフは、2019年から2022年にかけての各業界の人的資本ROIの推移を示しており、業界ごとに異なる動向が見られます。製造業はROIが15.6%から11.7%に低下し、技術革新に伴い人的資本の価値が減少しています。一方、情報通信業はデジタル化に伴い、22.7%まで上昇しています。卸売業は2022年に65.3%と非常に高いROIを示し、効率化が進んだと考えられます。小売業は安定しており、サービス業は人的資本への依存度の高さからROIが増加しています。

人的資本ROIを活用するメリット

人的資本ROIを活用することで、企業は様々なメリットを享受できます。ここでは、特に重要な2つのメリット、「施策の効果の可視化」と「企業価値の向上」について詳しく解説します。

施策の効果の可視化

人的資本ROIを算出することで、人材育成や福利厚生などの施策が、具体的な数値として企業の業績にどれほど貢献しているかを把握できます。従来、これらの施策の効果は定性的な評価になりがちでしたが、ROIという客観的な指標を用いることで、投資対効果を明確に示すことができます。これにより、経営層はより効果的な人材戦略を立案・実行できるようになり、無駄な投資を削減し、効率的に人的資本を活用することが可能となります。

企業価値の向上

人的資本ROIは、投資家や株主に対して、企業が人的資本を重視し、効果的に活用していることを示す重要な指標となります。人的資本ROIが高い企業は、従業員の能力開発やエンゲージメント向上に積極的に取り組んでいると評価され、持続的な成長が期待できる企業として、投資家からの信頼を獲得しやすくなります。結果として、株価上昇や資金調達力向上など、企業価値向上につながる可能性があります。

▼人的資本開示について詳しくはこちら
人的資本開示とは?義務化の対象や情報開示項目について解説 | 組織改善ならモチベーションクラウド

人的資本ROIを向上させるためのポイント

人的資本ROIを高めるには、戦略的な取り組みが不可欠です。以下では、特に重要な3つのポイントを具体例とともに解説します。

優先して投資すべき領域を特定する

人的資本は多岐にわたるため、闇雲に投資するのではなく、自社の戦略や課題に合わせて投資領域を絞り込むことが重要です。例えば、顧客満足度向上を目標とするなら、従業員のコミュニケーションスキルやホスピタリティ向上のための研修に投資することが有効でしょう。

また、技術革新が激しい業界では、最新技術に関するトレーニングや資格取得支援に投資することで、従業員の市場価値を高め、競争優位性を確保できます。人的資本ROIの計算式を用いて、投資効果をシミュレーションし、費用対効果の高い施策を優先的に実施することが大切です。

長期的な視点で戦略を立てる

人的資本への投資は、短期間で成果が出るものではありません。特に、人材育成や組織文化醸成などは、時間をかけてじっくり取り組む必要があります。例えば、リーダーシップ研修やメンタリングプログラムなどは、数年かけて参加者の成長を促し、組織全体の活性化を図るものです。

短期的な業績向上ばかりを重視すると、将来の成長を支える人材育成がおろそかになりかねません。経営層は、長期的な視点に立ち、持続的な成長を可能にする人材戦略を策定し、根気強く実行していく必要があります。

プロセスを評価する中間目標を設定する

人的資本ROIを高めるには、投資の効果を継続的に評価し、改善していくことが重要です。そのためには、最終的な目標達成だけでなく、プロセスを評価する中間目標を設定することが有効です。

例えば、従業員満足度向上のための施策を実施する場合、最終目標を「離職率の低下」とするだけでなく、「従業員アンケートの実施」「改善策の実施状況の確認」など、具体的な中間目標を設定することで、進捗状況を把握し、必要に応じて軌道修正することができます。また、従業員からのフィードバックを収集し、施策内容を改善していくことも重要です。

人的資本情報開示のガイドライン「ISO30414」

ISO 30414は、国際標準化機構(ISO)が2018年に発行した「人的資本に関する情報開示のガイドライン」です。企業が、従業員に関する情報をどのように開示すべきかを定めたもので、財務情報だけでなく、人的資本に関する情報も開示することで、企業の持続的な成長可能性を投資家やステークホルダーに示すことを目的としています。

ISO 30414では、人的資本に関する情報を11の領域に分類し、それぞれの領域において開示が推奨される指標(メトリック)を提示しています。これらの指標は、定量的なもの(従業員数、離職率など)と定性的なもの(従業員エンゲージメント、リーダーシップ開発など)の両方を含んでいます。企業は、これらの指標を参考に、自社の状況に合わせて適切な情報をまとめ、開示することが求められます。

▼ISO30414の詳細はこちら
ISO30414とは?人的資本情報開示が求められる背景や項目、導入企業を解説

人的資本ROIの開示事例

人的資本ROIを開示している企業は年々増加しており、その取り組みは多岐にわたります。ここでは、代表的な3社とその具体的な施策を紹介します。

SOMPOホールディングス

保険事業を中核とするSOMPOホールディングスは、人的資本ROIを重要業績評価指標(KPI)の一つとして明確に位置づけ、その継続的な向上に向けて戦略的な取り組みを展開しています。

同社は、従業員の自律的なキャリア形成を支援するための革新的なツールとして「Will Can Mustシート」を導入しています。このシートは、従業員が自身のキャリアビジョン(Will)、現在の能力(Can)、組織からの期待(Must)を明確化し、それらを統合的に捉えることで、個々人に最適化されたキャリアパスの設計を可能にしています。また、急速に進展するデジタル化に対応するため、全従業員を対象としたデジタルスキル向上プログラムを展開しています。このプログラムは、基礎的なデジタルリテラシーから高度なデータ分析スキルまで、幅広いレベルに対応した体系的な研修内容を提供しており、従業員のデジタル競争力強化に大きく貢献しています。

株式会社ベネッセホールディングス

教育事業を主軸とするベネッセホールディングスも、人的資本ROIの開示に積極的に取り組んでいます。

代表すべき取り組みとして、従業員の自律的な成長を促進するための包括的な取り組みがあります。特筆すべきは「自律型学習支援制度」の導入です。この制度は、従業員が自身のキャリアプランに基づいて主体的に学習し、成長することを支援するものです。具体的には、オンライン学習プラットフォームの提供、社内外のメンター制度の確立、自己啓発支援金の拡充などが含まれており、従業員の継続的なスキルアップと知識の拡大を促進しています。

さらに、同社は多様な人材が活躍できる環境づくりにも注力しています。その一環として、社内公募制度の拡充が挙げられます。この制度により、従業員は自身の希望や適性に合わせて新たな部署や職務にチャレンジする機会を得ることができ、組織の活性化と人材の最適配置が実現されています。また、副業・兼業の推進も特筆すべき取り組みです。外部での経験を通じて得られた新たな視点やスキルを社内に還元することで、イノベーションの創出や業務効率の向上につながっています。

株式会社リンクアンドモチベーション

当社、リンクアンドモチベーションでも企業の透明性と説明責任の重要性を認識して自社の人的資本ROIを積極的に開示しています。

当社では人材マネジメントを「採用」「育成」「制度」「風土」という4つの重要な領域に分類し、各領域に対して綿密に計画された投資を行っています。これらの投資は、単に資金を投入するだけでなく、各領域の相乗効果を最大化することを目指しています。

具体的な施策としては、従業員のエンゲージメント向上に焦点を当てた様々な取り組みが挙げられます。例えば、目標設定・評価制度の抜本的な見直しを行い、より公平で透明性の高い評価システムを構築しました。これにより、従業員が自身の貢献度を明確に認識し、さらなる成長への意欲を高めることが可能となりました。

また、自律的なキャリア開発支援プログラムを導入し、従業員が主体的に自身のキャリアパスを設計し、必要なスキルを獲得できる環境を整備しています。さらに、多様な働き方を許容する柔軟な制度設計を行い、ワークライフバランスの向上と個々の事情に応じた最適な働き方の実現を支援しています。

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まとめ

人的資本ROIは、企業の人材戦略の効果を測るだけでなく、投資家へのアピールや内部管理の強化にも役立ちます。ISO 30414などの国際規格も登場し、人的資本情報開示の重要性が高まる中、人的資本ROIはますます注目を集めています。企業は、自社の状況に合わせて適切な指標を設定し、継続的な改善活動を行うことで、人的資本ROIを高め、企業価値向上を目指していくべきです。


執筆者:LM編集部
執筆者:LM編集部
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