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オリックス×ANA APACから見た日本企業〜オリックス・ANAに聞く「挑戦」する組織のリアル〜 「HR-X 2026」イベントレポート

AIの進化、不安定な国際情勢、激化する人材獲得競争により、企業には部分的な改善ではなく、経営そのものの構造転換が求められています。私たちは、人と組織の価値が今後さらに経営の競争力を左右すると考え、日本企業の変革を後押しするため、株式会社日本経済新聞社 人財・教育事業ユニットと共催で「HR-X 2026(HR Transformation Summit)」を開催しました。

「組織変革を、社会変革へ」をテーマに、「世界との相対化」「人事の再定義」「変革の加速」という3つの視座から、実務の最前線に立つ実践者と有識者が議論を交わしました。

Session3では、オリックス株式会社 執行役 APAC事業部門 アジア・パシフィック事業本部長 松岡 芳晃氏と、全日本空輸株式会社 上席執行役員 アジア・オセアニア室長 高柳 直明氏が登壇。

「グローバルでの挑戦」をテーマに、「APACから見た日本企業〜オリックス・ANAに聞く「挑戦」する組織のリアル〜」と題してトークセッションを行いました。
 
【イベント実施日】

2026年8月27日
 
【スピーカー】

・オリックス株式会社 執行役 APAC 事業部門 アジア・パシフィック事業本部長 松岡 芳晃 氏

・全日本空輸株式会社 上席執行役員 アジア・オセアニア室長 高柳 直明 氏


【モデレーター】
・Link and Motivation Inc. 執行役員(グローバル統括)
 Link and Motivation Singapore Pte. Ltd. CEO 近藤 俊弥

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現地化50年、「逃げない日本企業」―オリックスのアジア展開

リンクアンドモチベーション 近藤:本セッションは、「APACから見た日本企業〜オリックス・ANAに聞く「挑戦」する組織のリアル〜」というテーマで進めてまいります。松岡様、高柳様から、それぞれの事業展開についてご紹介いただいたのち、トークセッションに移ります。それでは、松岡様よろしくお願いいたします。

オリックス 松岡氏:オリックスは1964年、日本初のリース事業会社として設立されました。現在は東京・大阪の2本社制で、東京証券取引所プライム市場とニューヨーク証券取引所に上場しており、直近の時価総額は約7.5兆円です。日本ではリース事業から多角化を進め、現在では、プロ野球球団や関西国際空港をはじめとする3つの空港の運営、大阪の統合型リゾートの開発なども手がけています。海外進出も早く、会社設立からわずか7年後の1971年に最初の海外現地法人を香港に設立しました。その後もシンガポール、マレーシア、韓国、フィリピン、インドネシア、タイと、1970年代のうちにアジア各国へ進出しており、アジア地域では50年を超える事業経営の歴史があります。

私が管掌するアジア・パシフィック事業本部は、日本を除くアジアの全地域を担当し、14カ国・地域、23法人の統括責任者を務めています。従業員は約5,000人、セグメント資産は1.8兆円です。当社の特徴は3つあります。

1つ目は、進出当初から現地企業との合弁でスタートしている点です。日本のオリックスをそのまま展開したというより、当社のリース事業のノウハウと現地企業の知見を融合させながら、それぞれの国でリース事業を育ててきました。

2つ目は、アジア通貨危機やリーマンショックといった数々の危機を経験しながらも「撤退していない」ことです。現地からは「逃げない日本企業」と評価いただいています。

3つ目は、現地に根差した経営体制です。日本からの駐在員はアジア全体で30名以内、各国1、2名程度にとどまっています。

現在特に力を入れているのが、アジア域内で約170万台を扱う自動車リース事業のブランド統合です。各国の自動車リース事業は、それぞれの市場や合弁先との関係の中で、独自に発展してきました。各国で一定のサービス品質をご提供できるよう、ブランド統合とサービス品質の向上を進めています。進め方にも特徴があります。日本の本社が日本のやり方を各国に広げるのではなく、最も優れた取り組みを行う国を選び、その国の現地法人の社長にアジア全体のブランド統合を任せています。今回のプロジェクトでは、オーストラリア現地法人の社長を中心としたチームが主導しています。

「成長を力強く牽引する真のエンジンに」―ANAのアジア・オセアニア戦略

リンクアンドモチベーション 近藤:ありがとうございます。続いて、ANA様のご紹介をお願いします。

ANA 高柳氏:私たちはアジア・オセアニアで14都市、成田・羽田を含めて21路線に就航しています。従業員は約440名で、駐在員は2割弱にとどまり、現地スタッフ中心に運営を行っています。1987年の香港就航を皮切りに、ソウル、バンコク、シンガポール(今年で35周年)と広げ、2010年代以降は台湾、ジャカルタ、マニラ、デリー、ハノイ、クアラルンプール、シドニー、パースへと拡大してきました。訪日外国人観光客数は大きく伸びており、便によっては外国人比率が6〜8割に達しています。

昨年度発表した中期経営戦略では、国際旅客事業のアジア路線を中心に2030年までの供給量約3割拡大、成田での乗り継ぎ利便性強化を掲げています。また、国際貨物事業において、貨物取扱規模の80万トンから120万トンへの拡大、アジア-欧米間を中心とする貨物需要の取り込みを掲げています。これらの実現に向けて、アジア・オセアニア室では「ANAの成長を力強く牽引する真のエンジンになろう」というビジョンを掲げ、社員一人ひとりの挑戦を後押しするとともに、チーム力と一体感の向上に取り組んでいます。

アジア・オセアニア室は旅客・貨物ともに全社で占める比率が高く、私たちの目標達成がANA全体の売上を左右します。売上面・品質面で全社を牽引することが求められているからこそ、エンゲージメントを高め、社員が自ら考えて行動する組織にならなければ、セールスや品質の向上には寄与できません。そのため、「目標はこうだ」「チームワークでやろう」ということを全体で共有しながら進めています。

「使命」としての変革―ROE15%達成に向けたオーナーシップの醸成

リンクアンドモチベーション 近藤:事業ビジョンの実現に向けて、今もっとも頭を悩ませていることは何でしょうか。

オリックス 松岡氏:前提として、当社が掲げている成長戦略をご説明します。当社は新たな経営体制のもと、2035年に税引後利益を現状の約4,000億円から1兆円へ、ROEを15%に高めるという野心的な目標を掲げています。これは、今までのやり方の延長では達成できない目標であり、「新しいやり方をみんなで考えていこう」というトップマネジメントからの強いメッセージだと捉えています。

最も頭を悩ませているのは、この変革をアジア・パシフィックレベルでどう実現するかです。例えば、「ROEを15%に高めよう」と言われても、現地社員には自分事として実感が湧きにくいものです。目標を自分事として捉えるこの意識を、私は「センス・オブ・オーナーシップ」と呼んでいます。一人ひとりが今のやり方を超え、新しいものをつくっていく組織をどう構築するかが最大の課題です。

この変革に向けて、私は現地法人の皆さんに『DESIGN THE FUTURE~ Beyond optimizing the past~』というスローガンを掲げて説明しています。過去の改善の積み重ねに感謝しつつ、それを土台に新しい未来を皆でつくっていきたいと考えています。新しい未来を作るためには、まず各国のトップ、つまり14社の社長自身が変革を実現するリーダーにならなければなりません。そこで「CEOペルソナ」を作成し、現地法人の社長に求められる資質を定義しました。グループCEOや当社の副社長、現地法人の社長へのヒアリングを重ねてまとめたもので、最初に入れたのは「変革を自らの使命として受け入れる」という一文です。

この一文に至った背景には、私自身の気づきがありました。現地法人の社長たちを集めた会議で、皆が自国のことしか話さない状況が続いていたのですが、あるとき自分自身も社内の会議体で自部門のことしか考えていないと気づいたのです。「自分ができていないから、部下も自分の国のことしか考えないのだ」という発見が、大きなパラダイムシフトになりました。だからこそ、まずトップである自分自身が変わらなければならないと考えました。

もう一つ紹介したいのが、2022年6月から進めてきた「ORIX Group Purpose Discovery Project」です。日本からは部長・課長クラス、海外からは社長の一つ下の層の社員が参加し、10人一組の分科会でボトムアップの議論を重ねました。分科会は日本だけでなくアジア、欧米、中国でも開き、そこで出た意見をより大きな単位で統合したうえで、トップマネジメントに提示しました。翻訳するとニュアンスが大きく変わるため、日本語でまとめた内容を英訳する際は5つほどの訳の候補を示し、分科会のメンバーに「これまでの議論に最も近いもの」を選んでもらいました。こうして約1年半をかけて、ORIX Group Purpose &Cultureを策定しました。現在の現地法人社長のうち約半数が、このプロジェクトの参加者です。

策定後の浸透活動においても、「出来上がったものを広める」のではなく、社員一人ひとりが自分の会社を見つめ直す機会が必要だと考えました。そこで各社が自分たちのミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を1年かけてボトムアップで作り直してもらいました。3年ほどかけた取り組みですが、今では社員に「あなたの会社のMVVは何ですか」と聞くと、きちんと答えが返ってくるようになっています。

称え合う文化がベストプラクティスを生む―ANA流エンゲージメント経営

リンクアンドモチベーション 近藤:ありがとうございます。続いて、ANA様の具体的な取り組みについても伺えますか。

ANA 高柳氏:私たちが目指す「真のエンジン」の実現に向けては、「一人ひとりの挑戦意欲とチーム力の向上~エンゲージメントのさらなる強化~」をテーマに取り組んでいます。具体的には、教育や研修機会の拡充、福利厚生の見直しなどを含む「安心と成長の土台づくり」と、一体感を育み組織を動かす「Communication Value」という2つの軸で施策を行っています。

Communication Valueについては、「Listen(各拠点に足を運び、スタッフの声に直接耳を傾ける)」「Action(声を踏まえてスピード感を持って取り組む)」「Appreciate(役職を超えてお互いの挑戦を認め、称え合う)」という3つを掲げています。各拠点を年3回ほど訪問して直接対話するほか、月1回程度のオンライン対話も実施しており、決算状況や事業計画、安全月間のテーマなど毎回異なる内容を扱いながら、指名も交えて全員に発言を促しています。

また、2カ月に1回、各地区のベストプラクティスを発表し合う場も設けています。ナレッジを共有し、称え合う文化を育むための取り組みで、毎回500名規模、参加率6割ほどで盛り上がりを見せています。さらに、従来は空港部門にしかなかった品質アワードを、総務や貨物セールス、旅客セールスにも独自に広げ、昨年度から実施しています。互いの頑張りを称え合う土壌が、次のチャレンジを生み出す起点になっています。

リンクアンドモチベーション 近藤:ありがとうございます。ANA様のお取り組みを受けて、松岡さんの方で何か聞いてみたいことはありますか。

オリックス 松岡氏:お話を伺う中で非常に感銘を受けたのは、「称え合う」という取り組みです。ベストプラクティスを紹介し合う仕掛けは考えていましたが、それを称え合う形にする発想はありませんでした。私が同じような流れをつくると、入口は「Listen(聴く)」ではなく「Inform(伝える)」になり、最後は「次の計画を考えよう」で終わってしまいます。社員の声を聴くことから始まり、最後は感謝と称賛で締めくくり、そのAppreciateが次の挑戦の起点になる。この点は、ぜひ参考にさせていただきたいです。また、2カ月に一度発表できるほどベストプラクティスがあることにも驚きました。

リンクアンドモチベーション 近藤:確かに、先ほどのListen・Action・Appreciateのお話からは、全体的に温かい風土が伝わってきます。お二人のお話を伺うに、事業戦略とコミュニケーションを、ほぼ同列に捉えていらっしゃるという印象があります。普通、事業戦略とコミュニケーションは少し離れているというか、「やることはこれで、手段としてコミュニケーションがある」という捉え方になりがちです。ですが、同列に捉えている背景には、組織の根っこにあるホスピタリティなどが関係しているのでしょうか。

ANA 高柳氏:飛行機はもともとチームワークで飛ばすものです。空港部門とセールス部門、アドミンも含めて全部が一体となって飛行機を飛ばすという、チームワークが中心にある文化なんですね。ホスピタリティのベースにあるのも、やはりコミュニケーションだと思っています。称え合い、褒め合い、感謝をしていく。そのような積み重ねで進めています。

グローバル人材をどう育てるか

リンクアンドモチベーション 近藤:ここからは、グローバル人材の獲得・育成について、それぞれの取り組みを教えてください。

ANA 高柳氏:現地スタッフを本社の部署に招き、日本の社員が多様性に触れる機会をつくる一方、日本から海外への派遣も行っています。現地化とは逆行する部分もありますが、日本の社員が実際に海外の拠点で働き、異なる文化の中で仕事をする経験は重要だと考えています。役員の中にはドイツの空港で勤務したのち、現在は国際アライアンス部門を担当している人物もいます。今後も、こうした人材を輩出していきたいと考えています。

リンクアンドモチベーション 近藤:ありがとうございます。オリックス様は逆に現地化が進んでいるスタイルですが、日本からの人材交流はあまり行わないのでしょうか。

オリックス 松岡氏:当社は海外出向者の絶対数が少なく、現在は日本の社員のグローバル人材育成に加え、現地社員がグループ全体で活躍できる仕組みづくりを課題と捉えています。約5,000人の現地社員は当社の宝です。この人材がグループ全体の戦力となり、次の経営を担っていけるよう、育成と登用を進めています。そのため、インドで働く社員が日本に来る逆出向の制度や、各国の課長・部長クラスが1カ月間東京で業務を学ぶ「グローバル・トレーニング・プログラム」を開始しました。年2回、1回10人規模で実施しており、10年続ければ、東京での研修を経験した社員が各国に200人育つことになります。また、経営人材の多様化に向けて、海外人材を本社の幹部に登用する取り組みも進めています。私が管掌する事業本部の副本部長には、自動車リース事業のブランド統合を主導するオーストラリア現地法人の出身者を抜擢しています。

日本企業ならではの強みと、これからの課題

リンクアンドモチベーション 近藤:最後に、APACの最前線で感じる日本企業の強みや課題について伺えますか。

オリックス 松岡氏:「時間を守る」「丁寧に対応する」ことは日本企業の大きな強みです。決められたことを最後までやり遂げる姿勢は、金融事業でも評価されます。また、資料を端的にまとめる力も日本人の得意分野です。欧米では長文のレポートが提出されがちですが、短時間で判断するための要約力は日本文化ならではの強みだと感じます。ただ、こうした日本流の仕事の進め方が現地法人に根付いているかといえば、まだ道半ばです。現地社員から「日本人は細かい」と思われる場面もあります。それでも、「ちゃんとやろう」という姿勢は大切にし続けています。

人事・組織の面で日頃感じるのは、雇用やキャリアに対する国ごとの意識の違いです。日本は雇用が守られ、社内ローテーションを通じて経営的な視点を養う仕組みがありますが、シンガポールなど雇用流動性の高い国では、社員が自ら上司に「私はチームに貢献できているか、何が足りないか」を確認しに来る文化があります。国や文化に応じたコミュニケーションのあり方が問われていると感じています。

ANA 高柳氏:国ごとに文化は異なりますが、ベストプラクティスを共有することで「あの国がやっているならうちも」という相乗効果が生まれています。オープンな場で出る意見も、否定的な批判というよりは「こういう考え方もあるのでは」という建設的な提案として受け止め、その場で対話につなげています。オンラインでは字幕機能を、対面ではAIによる録音の書き起こしを活用するなど、言語の壁を越える工夫も重ねています。

リンクアンドモチベーション 近藤:最後に、本日のセッションを振り返って、お互いの取り組みをお聞きになっていかがでしたか。

オリックス 松岡氏:ANA様の取り組みは非常に参考になり、自分たちに欠けていた視点に数多く気づかされました。特に印象的だったのが、Listen・Action・Appreciateという流れです。私自身は、社員への働きかけを「Listen(聴く)」ではなく「Inform(伝える)」から始めていました。社員の声を聴くことから始まり、最後は感謝と称賛で締めくくる。そして、そのAppreciateが次の挑戦の起点になる。この発想は、ぜひ当社にも取り入れたいと思います。業界は違えど、同じアジアという舞台で戦う日本企業として共通の課題や学びが多く、良い機会になりました。本日はありがとうございました。

ANA 高柳氏:松岡様のお話を伺い、ビジョンやパーパスの重要性をあらためて感じました。パーパスの策定から各社のMVVのつくり直しまで、社員自身が考えるプロセスを大切にされている点が印象に残っています。また、現地社員一人ひとりが自ら考えて動く組織をどうつくるかという点で、当社と同じ課題に向き合っていらっしゃることにも気づかされました。そのうえで最も大切だと感じたのは、「自分自身が変わっていかなければならない」という点です。トップが変わる姿を見せなければ、組織は変わりません。そのことを胸に、私自身がしっかり変化をリードしていきたいと思います。

リンクアンドモチベーション 近藤:金融と航空という異なる産業でありながら、両社のお話には、現地社員のオーナーシップをどう引き出すか、多様な文化を尊重しながら、ビジネス上合理的な日本流の強みをどう現地に浸透させるかという共通の問いがありました。本日の議論が、視聴者の皆様の次の挑戦や行動変容につながれば幸いです。本日は誠にありがとうございました。

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