
ハロルド・ジョージ・メイ氏×三菱電機 AI・グローバル全盛の時代に、日本企業の経営者はどう在るべきか 「HR-X 2026」イベントレポート
AIの進化、不安定な国際情勢、激化する人材獲得競争により、企業には部分的な改善ではなく、経営そのものの構造転換が求められています。私たちは、人と組織の価値が今後さらに経営の競争力を左右すると考え、日本企業の変革を後押しするため、株式会社日本経済新聞社 人財・教育事業ユニットと共催で「HR-X 2026(HR Transformation Summit)」を開催しました。
「組織変革を、社会変革へ」をテーマに、「世界との相対化」「人事の再定義」「変革の加速」という3つの視座から、実務の最前線に立つ実践者と有識者が議論を交わしました。
Session5では、プロ経営者のハロルド・ジョージ・メイ氏と、三菱電機株式会社 専務執行役 CHRO、広報担当 阿部 恵成氏が登壇。
「変化する経営人財」をテーマに、「AI・グローバル全盛の時代に、日本企業の経営者はどう在るべきか」と題してトークセッションを行いました。
【イベント実施日】
2026年9月1日
【スピーカー】
・プロ経営者 アース製薬株式会社・キユーピー株式会社 社外取締役、パナソニック株式会社 顧問 ハロルド・ジョージ・メイ 氏
・三菱電機株式会社 専務執行役CHRO、広報担当 阿部 恵成 氏
【モデレーター】
・日本経済新聞社 ライフ&キャリアビジネス統括補佐 兼特命担当 上杉 栄美
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「堂々と橋を渡るニワトリ」に学ぶリーダーの条件
日本経済新聞社 上杉:本セッションは、「AI・グローバル全盛の時代に、日本企業の経営者はどう在るべきか」というテーマで進めてまいります。メイ様、阿部様のそれぞれのプレゼンテーションの後、トークセッションに移ります。まずは、お二人にお話しいただく前に、私から本セッションの背景をご紹介します。
日本経済新聞社 人財・教育事業ユニットでは、毎年「人的資本経営調査」と「CHRO100人調査」という調査レポートを発行しています。人事の実務を担う方々を対象とした人的資本経営調査において、最も強い課題感として挙げられているのは「経営人材の選抜・育成」です。

またCHRO100人調査では、次世代リーダー候補の選抜において「素養の見極め」が難しいという回答が圧倒的に多く、従業員規模1万人以上の企業ではその課題感が73%と高いスコアになっています。さらに、グローバル人材の育成においては、人事の実務担当者の間ではそれほど課題視されていませんが、CHROからはグローバルレベルで中期経営計画を推進・実現できる人材の育成が進んでいないという課題感が示されました。
このような課題感のもと、「次世代経営人材の育成」「素養の見極め」「グローバル」という3つのキーワードを軸に、「AI・グローバル全盛の時代に、日本企業の経営者はどう在るべきか」というテーマで進めてまいります。それでは、プロ経営者のハロルド・ジョージ・メイ様、よろしくお願いいたします。
プロ経営者 メイ氏:改めまして、ハロルド・ジョージ・メイです。今日はたくさんのスライドを用意しましたが、中でも最も大事なのが、このニワトリの写真です。

最初にこの写真をお見せしたのは、第一印象は一度しか巡ってこないからです。「AI・グローバル全盛の時代に、日本企業の経営者はどう在るべきか」という今日のテーマを一枚の写真で表現するとしたら、この写真になります。堂々と足を伸ばし、あやうい橋を一羽で、リスクを背負いながら見本を示して渡っていくニワトリ。一方で他のニワトリたちは「大丈夫か、あの橋」「お前が先に行けよ」と躊躇しています。これが、私の考えるリーダーシップです。
私はサラリーマンとして約40年、その半分をハイネケン・ジャパンやユニリーバ・ジャパン、日本コカ・コーラなどの外資系企業で、残り半分をサンスターやタカラトミー、新日本プロレスなどの日本企業で過ごしてきました。両方の良いところ・悪いところを体験してきたからこそ、今日はその経験に基づいてお話しします。
本題に入る前に、世界のビジネスパーソンが今何を課題と考えているのかを知るため、アメリカで毎年出版されている約1万〜1万5,000冊のビジネス書のテーマを調べてみました。あらすじやレビューを見ていくと、テーマは大きく3つに集約されます。1つ目は「戦略」です。海外でいう戦略とは、企業や事業、商品の方向性を変えるほどのものを指します。そのため、5年、10年、15年先を見据えたうえで、今の投資や組織、人材の確保が成り立っているかを見極めることが求められます。2つ目は、その戦略を実行する人材、とりわけ「リーダーシップ」です。3つ目は、商品やサービスを今の消費者やバイヤーの心に響かせる「マーケティング」です。この3つがそれぞれビジネス書の約3分の1を占めています。どの業界で、どこで戦っていても欠かせない要素だということです。
そのうえで今日は、AI・グローバル全盛の時代に経営者が取るべき行動として、私の経験から5つのポイントをご紹介します。
1つ目は「自分たちの企業や商品・サービスに対する誇りのパワー」です。これがなければ、新しい挑戦やAIへの投資に取り組もうという気持ちすら生まれません。私はこの誇りのパワーの大きさを、日本コカ・コーラに入社した際に体験しました。コカ・コーラは世界を代表する飲料メーカーです。しかし私が入社した当時は、売上も利益も低迷していました。株価も、S&P500を長年下回り続けていました。「125年も前に発明された飲料なんて、もう売れる時代じゃない」という噂まで流れ、投資家からも見放され、優秀な人材も集まらない状況でした。
この状況を変えるべく、新たに就任した米国本社の社長が最初に行ったのは、新しい方針や新商品の発表ではなく、従業員自身の「自分たちの企業や商品に対する誇り」を高めることでした。まず、本社の受付に、コカ・コーラが販売されている地域を示す巨大な世界地図を掲げました。コカ・コーラが販売されていないのは、北朝鮮とキューバの2カ国のみです。国連加盟国の193カ国を上回る208の国と地域で販売され、1日に19億杯、世界人口の約20%が毎日コカ・コーラ製品を飲んでいます。社長はそうした事実を可視化し、「そう簡単には潰れない会社で働いているのだ。一緒に復活させよう」というメッセージを伝えたのです。
さらに社長は、「125年前の商品だが、アインシュタインもビートルズも愛用していた」という歴史を語りました。こうした話を通じて、自社の社会的影響力を伝えたのです。そして、この誇りを毎日感じてもらうために、オフィスの装飾も変えました。過去の商品を否定せずに飾る一方で、まだ世にない新商品を見せ、「こういう世界を一緒につくっていこう」と訴えかけたのです。この誇りのパワーがなければ、どんな新しい投資や技術の導入も無駄になってしまうと思います。
2つ目は、「AIはあくまでツールであり、それを活かすのは人間である」という認識を持つことです。10年、20年先のことは分かりませんが、少なくとも今は、AIを活かすのは私たち人間です。そのツールを使いこなすために最も大事なのが「リーダーシップ」です。リーダーシップの要素は100も200もありますが、今日は最も重要な2つに絞ってお話しします。
まずは「Initiative」です。上から言われて動くのではなく、自ら積極的に提案し、意見を言い、自分の責任範囲で「決める」能力のことです。外資系企業では、新入社員から会長まで、1年間でどれだけInitiativeを取ったかが人事評価の項目になっています。組織がInitiativeを取れば取るほど発展しやすく、業績が上がるという調査結果が、世界各国で出ているためです。
ただし、どれだけInitiativeを取っても、もう一つの要素である「熱意」がなければ無駄に終わってしまいます。中身も大事ですが、熱量が高いほど説得力が増し、相手の腹落ち度や印象に残りやすさが高まります。問題は、熱量が伝わる過程で減っていくことです。私の熱量が100だとしても、聞き手の皆さんに伝わるのはせいぜい50です。皆さんがそれを部下に伝えれば25、さらに現場の営業や工場の担当者に届く頃には5程度しか残りません。だからこそリーダーは、オーバーだと分かった上で「300の熱量」を発信する必要があるのです。300あれば、皆さんに150、部下に75が伝わり、その部下にも50ほど伝われば御の字です。私が大げさなチャートを使い、声のトーンを変えるのも、少しでも多くの熱量を届けるためなのです。
3つ目は「長期目線」です。AIと聞くと、誰しも「雇用が失われるのでは」といった不安を抱きます。組織はみな同じ方向を向かなければ力を発揮できません。だからこそ経営者は、その不安を踏まえた上で、どのような技術・組織・人材を確保していくのかを、長期目線で語る必要があります。
長期目線で語るべきことは4つあります。1つ目は「どこへ行くのか」です。5年、10年、20年先を見据えて、今なすべきことを明快にします。2つ目は「なぜそうなのか」です。投資家や社員が不安にならないよう、理由を説明します。3つ目は「どうやってやるのか」、つまり1〜3年先のビジネスプランです。ただし、この3つに関心を持つのは、主に投資家や上司です。社員が一番聞きたいのは、意外と説明されていない4つ目の「その結果、私はどうなるのか」です。「雇用は守られるのか」「ワークライフバランスはどうなるのか」「自分自身はどうなるのか」。この問いに答えることが、リーダーの役割だと思います。
よく聞かれる「マネジャーとリーダーの違い」も、この時間軸で整理できます。マネジャーは決まったことを実行する役割で、見ているのは来月や来年といった短期です。一方リーダーは、大胆な目標を設定し、5年、10年、20年先を見据えて今やるべきことを明確にし、組織のモチベーションを上げる役割を担います。
4つ目は「失敗を恐れないこと」です。「クビになるのでは」「評価が下がるのでは」と、誰しも失敗は怖いものです。しかし、リスクを取らなければ新しいものは生まれません。私自身、飲料業界にいた頃、「飲料は冷やすか温めるか」という業界の鉄則に反して「常温で売りましょう」と提案し、白い目で見られたことがあります。冷たすぎる飲み物を好まない人や、冷えたボトルの水滴でバッグが濡れるのを嫌う女性など、常温を求める市場があるはずだと考えたのです。提案の許可は出ませんでしたが、「1店舗だけ試させてほしい」と頼み込んで実施したところ、大成功を収めました。1店舗の実績があれば、何万店舗に展開した場合の数字を示すことができます。
もちろん、挑戦がすべて成功するわけではありません。私はコカ・コーラ時代、年間250品、土日を除けばほぼ1日1品のペースで新商品を出していましたが、失敗もありました。それでも怒られたことは一度もありません。毎回聞かれたのは、「この失敗から何を学んだか」「その学びを社内や同僚にどう共有するか」ということでした。この文化があるからこそ、もう一度挑戦しようという気持ちが生まれるのだと思います。
5つ目は「仕事を楽しくすること」です。人生100年といわれますが、そのうち3分の1は睡眠です。仕事は、起きている時間の半分を占めるくらいの気持ちで向き合うものです。だからこそ、仕事は少しでも楽しくあるべきだと思います。とはいえ、毎日楽しい仕事は存在しません。そのため、少しでも楽しく働ける雰囲気をつくることがポイントです。
2期連続の赤字だったタカラトミーの社長に就任した際、社員はみな暗い顔をしていると思いました。そこで私が提案したのが、「毎月1回、1時間だけ皆で楽しいことをしよう」という「祭り」です。例えば10月には、ハロウィンにちなんで仮装をする企画を実施しました。初年度の参加者は2,500人中20〜30人でしたが、2年目には半数、3年目にはほぼ全員になりました。過去最大の損失を出したばかりの会社でしたが、マスコミにも取り上げられ、「一時的な苦境を一緒に乗り越えよう」という雰囲気が社内外に伝わりました。施策はこれだけではありませんが、4年後には過去最大の売上・利益を達成し、株価は4倍近くになりました。
現在顧問を務めているパナソニックでも、同じ考え方で取り組んでいます。幹部にも仮装に参加してもらったほか、工場の装飾も変えました。冷蔵庫を製造する草津工場には、冷蔵庫をかたどったフォトスポットを設けました。シェーバーを製造する彦根工場には、入り口にシェーバーをモチーフにした装飾を施しました。それぞれの工場が手がける製品を、社員が誇りに感じられるようにするための工夫です。誇りを持って楽しく働く雰囲気そのものが、会社の魅力になるのです。
もちろん、経営者がやるべきことは、この5つだけではありません。そのほかのことは、37のテーマに沿って私の著書『百戦錬磨』にまとめています。
サイロを壊す三菱電機の経営人財育成
日本経済新聞社 上杉:続きまして、三菱電機の阿部様、プレゼンテーションをよろしくお願いいたします。
三菱電機 阿部氏:まず、当社の概要からご説明します。三菱電機は100年を超える企業であり、9つの事業領域を事業本部として推進しています。9つの事業本部は主に、インフラ、インダストリー・モビリティ、ライフの3つのビジネスエリアにくくられ、各ビジネスエリアでは執行役が「ビジネスエリアオーナー」を務めています。直近の売上高は5兆8,947億円、営業利益率は9.1%(特別損失除く)です。国内売上高比率は約50%で、海外売上高比率をさらに伸ばしていくことが今後の成長の鍵になります。連結従業員は国内9万人強、海外6万人弱の合わせて約15万人、グループ会社は250社強にのぼり、うち海外が170社近くを占めています。
今年4月には、新たな理念「Our Philosophy」を制定しました。人財戦略では、2022年度に策定した基本理念「人と共に成長し人財の力で未来を拓く」のもと、すべての事業の基盤は人財であり、人財こそが競争力の源泉であるという考え方を全世界で共有しています。行動指針として掲げているのが「挑戦(BE BOLD)」「共創(CO-CREATE)」「誠実(WITH INTEGRITY)」です。「挑戦」は、現状を問い、素早く試し、失敗も財産に変えるという姿勢を表すものです。「共創」は、これまで事業本部の中に閉じがちだった連携を超えていくための重要な概念として打ち出しています。「誠実」は、健全な風土を維持するために欠かせないものです。

2026年度からスタートした新中期経営戦略では、人的資本への投資を前中期経営計画の330億円から500億円へ約1.5倍に拡大し、経営リーダーの育成やDX・EX人財の育成、職場環境への投資に充てていきます。
投資の柱の一つである経営リーダーの育成で、当社が向き合ってきた課題がサイロ化です。長年の事業本部制の中で、過去の成功体験への依存や、優秀な人財を自部門に抱え込んでしまう傾向がありました。各事業本部のトップになるのは、その事業本部の中で育った人財であることが当たり前になっていたのです。このサイロ化を打破するためにスタートさせたのが、経営幹部候補生の選抜・育成制度「L.E.A.D500」です。現在4年目に入っており、次期経営層候補(第1階層)約50名、次々期経営層候補(第2階層)約150名、次世代経営層候補(第3階層)約300名、合計500名程度を選抜してデータベース化し、育成しています。
サイロを破り、人財のローテーション・流動化を進めるための仕組みが、TRC(タレント・レビュー・コミッティ)です。全社TRCは社長がトップとなり、CHROである私やCDO、CSO、各ビジネスエリアのオーナーで構成されています。TRCに一度登録された人財の配置権はTRCに帰属するため、各部門が優秀な人財を抱え込むことはできません。TRCでは、①選抜、②育成、③アセスメントを1つのサイクルとして回しながら、社外知見の獲得機会(海外ビジネススクールや他社との他流試合、高度研修)も積極的に提供しています。

ここ3〜4年の取り組みを通じて見えてきた課題は、もっと早い段階から人財を鍛えるべきだということです。鍛えるタイミングが遅れると次のアサインから逆算して時間が残されていなかったり、すでに角が取れすぎてしまっていることもあります。そこで今年度から始めようとしているのが、若く粗削りだがポテンシャルの高い人財30名を選抜し、一飛び・二飛びのアサインメントで鍛える「Executive Seeds 30」です。あわせて、TRCで議論が尽くせない層の自律的な能力開発・キャリア開拓を促進すべく、現場の引き止めを一切認めない「ポスティング(社内公募)」も今年度から導入します。さらに、グローバルにポストと候補者をマッチングする「Talent mobility」を始めているほか、社内公募をグローバルベースで行う「Global Career Passport」の準備も進めています。
360度評価と「ヘルシーコンフリクト」が生む強い経営チーム
日本経済新聞社 上杉:250社強、従業員約15万人という巨大な組織の舵取りをされている阿部様の重責を実感しました。メイ様、いかがですか。
プロ経営者 メイ氏:コカ・コーラも全世界で70万人の従業員がいたので、その苦労はよく分かり、特に共感できる点が2つありました。1つは、先ほどの行動指針にあった「挑戦(BE BOLD)」、つまり「失敗が成功の元だ」という考えを経営理念として明確に打ち出されていること。もう1つはポスティングです。私も様々な企業で導入しましたが、非常に高い成果が出ます。自ら手を挙げるほどですから、その仕事への熱意も普通の1.5倍ほどになるのです。
一方で、評価制度は多くの企業で課題になっています。従業員の不満で福利厚生や給与に次いで多いのが「評価が公平・公正ではない」というものです。この不満を減らすために私が導入したのが「360度評価」です。上司が部下を評価するだけでなく、部下も上司を評価し、役員は役員同士、部長は部長同士で評価し合う。1人の判断ではなく複数人の意見によって評価が決まるため、たとえ厳しい評価であっても「5人がそう言うなら」と納得感が生まれやすくなります。
三菱電機 阿部氏:360度評価は当社でも導入しており、マネジャー以上の全階層で実施し、本人にもフィードバックしています。選抜の際にもその結果を踏まえ、特にハラスメント的な言動がないかなど、健全なリーダーシップを発揮しているかを確認しています。ただし非常にデリケートな情報のため、人事側で慎重に取り扱っています。役員への面談やコーチングも、1回30分程度では見えてこない部分を補うために、研修の場での発言や提言の内容も含めて多角的に見るようにしています。また、候補者に対してメンタリングやコーチングを行うことで、自分自身が後進を育てる役割を担っているのだと自覚してもらうことも重視しています。
日本経済新聞社 上杉:これだけビジネス環境が複雑になり先行きが見えない中、CEOがすべてを決めて道筋を示すのは難しくなってきていると感じています。経営を1つのチームとして捉え、良い意味でCXO同士が互いの領域に踏み込みながら1つの戦略を練り上げていく。そうした対話の場づくりについて、巨大な組織である三菱電機にはどのような仕掛けがありますか。
三菱電機 阿部氏:まさにこの3〜4年、そこに力を入れてきました。長年の事業本部制の中では、執行役会議でも自分の領域以外の話には誰も口を出さない状況がありました。そこでまず、27人いる役員間の壁やコミュニケーションの壁を取り払うため、年に2〜3回の「役員合宿」を実施しています。経営チームとして1つになるにはどうすべきか、複数の事業本部の技術やアセットをシナジーさせて新しい事業を生み出すにはどうすればよいかを、本社を離れた2〜3日の合宿形式で議論しています。2年目、3年目になるとコミュニケーションの壁は大きく下がりましたが、次の課題は、あえて他部門の領域に踏み込み、健全に意見をぶつけ合う「ヘルシーコンフリクト」を実践できるかどうかです。今年の合宿でも、これをテーマの1つとして議論しています。また、役員だけでなくその下の階層まで、縦の柔軟なコミュニケーションや信頼関係をどう築いていくかが、現場まで熱量を届けるための今の最大のテーマです。
プロ経営者 メイ氏:「ヘルシーコンフリクト」、まさに大事なキーワードです。外資系企業では、各役員がビジネスプランを社長にプレゼンする場に他の役員も同席し、社長はほとんど発言せず、他の役員同士が意見をぶつけ合う光景をよく目にしました。それをあえて戦わせておくのも、社長の重要な役割の一つです。
日本経済新聞社 上杉:メイ様のようにプロ経営者として乗り込まれた場合、周囲の役員が意見しにくいこともあると思います。そうした時はどうされているのですか。
プロ経営者 メイ氏:「どんどん言ってくれ」と伝えても、最初は誰も来ません。半年ほど経つと、恐る恐る一人が声をかけてくるようになります。実際に話してみると拍子抜けするほど気軽に応じてもらえたという、その最初の一人の小さな成功体験こそが大切で、それが社内で噂となって広がっていくのです。タカラトミーでも、最初の半年は誰も来ませんでしたが、そのうち昼休みに列ができるほどになりました。小さな成功体験を積み重ねることがポイントだと思います。

日本経済新聞社 上杉:これからの経営者に求められる資質について伺います。これまでの経営者と何か違いはあるのでしょうか。
三菱電機 阿部氏:TRCでの選抜においていくつかの要件を定義していますが、戦略構想力などと並んで本質的に重要なのは、失敗を恐れずに挑戦する胆力や、曖昧な状況の中でも決断できるスピード感だと考えています。下から積み上がった計画を確実に実行するだけでは大きな失敗はしませんが、進化もなく、気づけばゆでガエルになってしまう危険もあります。そうならないための経営者像を、これからどう備えてもらうかが課題です。
プロ経営者 メイ氏:もはや1人の経営者がすべてを決める時代ではないと思います。三菱電機のように15万人規模の組織では、なおさら不可能です。現場から上がってくる投資計画や戦略を取りまとめ、会社の顔としてIRや株主説明などを担うのが、今の時代の経営者の役割です。決めるというよりも、上がってきたものを選別しながら、自らの熱量をもってそれを説明できるかどうか。組織の中から意見が自然に吸い上げられるような仕組みをつくることが大切だと思います。
日本経済新聞社 上杉:個人としての戦闘力と、組織戦・団体戦の両方が求められるということですね。最後に、視聴者の皆様に、一言ずつメッセージをお願いします。
三菱電機 阿部氏:業種や業態を問わず、人事が直面している課題にはかなり共通する部分があると感じています。自社だけで抱え込むのではなく、他流試合のように一緒に取り組んだ方がより効果が上がる場面も多いはずです。グローバルに事業を展開しようとすれば、自前主義だけでは拡大できません。外から調達するもの、外と一緒にやるものを、HRの領域でもクイックに進めていくことが大切だと考えています。
プロ経営者 メイ氏:会社というのは、結局のところ人がつくるものです。リーダーだけでも、戦略だけでも、商品・サービスだけでもありません。人あってこそ実現できることだからこそ、その人のモチベーションを高め、入社したい・応募したいと思われる会社であり続けられるかどうかが、これからの世界の競争を勝ち抜くための唯一の戦略だと思います。
日本経済新聞社 上杉:ありがとうございます。戦略も、実行できなければ絵に描いた餅です。それを担うのはまさに人と組織なのだと思います。本日はヘルシーコンフリクト、パッション、リーダーシップと、キーワード満載の時間となりました。皆様が今日お持ち帰りいただいたヒントを、経営人材育成に少しでも活かしていただければと思います。それでは、以上をもちまして本日のセッションを終了とさせていただきます。皆様、ご視聴いただきましてありがとうございました。

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