
日本CTO協会理事・ソフトバンク・リンクアンドモチベーションCTO AIで成果を出す戦略設計〜事業変革のスピードを高める業務・組織・人材の再設計〜 「HR-X 2026」イベントレポート
AIの進化、不安定な国際情勢、激化する人材獲得競争により、企業には部分的な改善ではなく、経営そのものの構造転換が求められています。私たちは、人と組織の価値が今後さらに経営の競争力を左右すると考え、日本企業の変革を後押しするため、株式会社日本経済新聞社 人財・教育事業ユニットと共催で「HR-X 2026(HR Transformation Summit)」を開催しました。
「組織変革を、社会変革へ」をテーマに、「世界との相対化」「人事の再定義」「変革の加速」という3つの視座から、実務の最前線に立つ実践者と有識者が議論を交わしました。
Session7では、株式会社レクター 代表取締役 広木 大地氏、ソフトバンク株式会社 常務執行役員 兼 CHRO コーポレート統括 源田 泰之氏、株式会社リンクアンドモチベーション 常務執行役員 CTOの柴戸 純也が登壇。
「AI Transformation(AX) 」をテーマに、「AIで成果を出す戦略設計〜事業変革のスピードを高める業務・組織・人材の再設計〜」と題してトークセッションを行いました。
【イベント実施日】
2026年9月2日
【スピーカー】
・株式会社レクター 代表取締役 広木 大地 氏
・ソフトバンク株式会社 常務執行役員 兼 CHRO コーポレート統括 源田 泰之 氏
・株式会社リンクアンドモチベーション 常務執行役員 CTO 柴戸 純也
【モデレーター】
・株式会社リンクアンドモチベーション 企画室 シニアマネジャー 山中 麻衣
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「理想と現実のギャップ」をどのようにストーリーで語るか
リンクアンドモチベーション 山中:本セッションは、「AIで成果を出す戦略設計〜事業変革のスピードを高める業務・組織・人材の再設計〜」というテーマで進めてまいります。広木様、源田様、柴戸さんのプレゼンテーションの後、トークセッションに移ります。それでは、広木様よろしくお願いいたします。
レクター 広木氏:私からは「AIエージェント時代の人事戦略を再設計」というテーマで、AIエージェント技術の現在地と将来像、そしてそれが組織にもたらす変化についてお話しします。
私は元々、株式会社ミクシィでSNS事業のターンアラウンド期(業績の立て直し期)に本部長・執行役員を務めていました。その後、技術と経営の両面にまたがる課題を解決したいという思いから株式会社レクターを設立し、さまざまな企業を支援しています。その他にも、一般社団法人日本CTO協会の運営や、朝日新聞社の社外CTOも務めています。昨年は、35万文字の書籍『AIエージェント 人類と協働する機械』を、AIエージェントと協働して1か月で書き上げました。この書籍では、AIが人間と協働して働く社会で、私たちは何を考えるべきかというヒントをまとめています。
考えるうえで前提となるのが、AIの変化です。AIはチャット型からエージェント型へと変化しています。チャット型が一つひとつの質問に寄り添って答える存在だとすれば、エージェント型は仕事を協働してやり遂げるパートナーだと言えます。人間自身がマネジャーとなって、多くのエージェントを従えながら仕事を進めることができます。実際、書籍の執筆では60個のAIエージェントを並列で動かし、60人の部下がいるような状態で執筆していました。ただし、60人分の仕事をうまく差配できなければ、意味のある成果物は生まれません。AIエージェントを活かせるかどうかは、使う側のマネジメント能力にかかっていると言えます。
では、AIエージェントは今どこまで進化しているのでしょうか。この1、2年でAIに任せられる作業時間は劇的に伸びています。当初は数分の仕事しか任せられませんでしたが、直近では十数時間単位まで拡大しており、この流れのまま外挿すれば数年後には週単位の仕事を任せられるようになります。同時に、同じ知能を得るためのコストは年間で10分の1のペースで下がり続けています。しかし、長時間動き続けるほどトークンの消費量は増えていくため、企業全体で見るとAI総支出はむしろ増加していきます。
ここで重要になるのが、私が「消える生産性」と呼んでいる現象です。AIによって一部の作業が効率化されても、生まれた余力が組織の慣性に吸収されてしまい、プロジェクト全体の生産性は思ったほど上がりません。これはコンピューティングの世界で言う「アムダールの法則」と同じ構造です。並列化できる部分がどれだけ増えても、判断や検証といった順番にこなすしかない部分がボトルネックとなり、全体の生産性を規定してしまいます。

しかも、この技術はほぼ世界同時に配られているため、自分自身が速くなったと感じても、それが競争優位になるとは限りません。重要なのは、他社と比べた相対的な速度です。効率化だけでは成果にならない以上、生まれた余力をどう再配置し、新たな価値創出に転化するかが問われます。
AI活用の実態には、企業間で大きな格差もあります。Anthropic社などのデータでは、上位1%の企業と中央値の企業の間に655倍もの利用格差があります。分布の裾野が非常に長いため、「他社はどうやっているか」という中央値の話は、実はあまり参考になりません。
私はこの状況を、かつての「Excel方眼紙」になぞらえています。パソコンが普及した当初、紙の稟議書をExcelで方眼紙のように再現し、印刷してハンコをもらうという運用が横行しました。新しい道具で古い働き方を模倣しているだけでは、生産性は向上しません。今はまさに「AI方眼紙」の時期であり、PowerPointやExcelの資料をAIで速く作ること自体を目的にしても意味がありません。本当に必要なのは、情報が自動的に流れて判断に届く仕組みです。私自身も資料を作る代わりに、15個以上、数十万行以上のアプリケーションを1人で開発・運用し、エージェントが働く環境そのものを整えています。
AIの自走時間が伸びるほど、人間の「正しく指示を出す力」「生成物を評価・検証する力」「文脈を作る力」が価値の源泉となります。そして、その力を高められるかどうかは情報システム部門やAI推進部門だけの課題ではなく、人事の課題でもあります。例えば、採用において重要になるのが、AIと協働する力を持つ人材かどうかを見極めることです。
私はAIという呼び方がミスリードだと考えており、「IA(Intelligence Amplifier)」、つまり知能を増幅する装置と捉えた方が、本質に近いと思っています。知能を増幅する装置である以上、その効果は使う人間の力量に左右されます。だからこそ、育成のあり方も大きく変わります。これからのメンバーは、頭のいいインターン生が10人、20人とついて回るような環境で仕事をすることになります。そこで的外れな指示を出さないためには、メンバー自身の視座を1段も2段も引き上げることが必要です。
こうした変化を受けて、CTOやCAIOがCHROを兼務する動きが、国内外で加速しています。人的資本と並ぶ経営資本として「トークン資本」をどう設計し管理するかが、新しい経営の軸になっています。今後、AI支出は人件費の10%程度まで拡大していくと予想しており、「人をどう使うか」から「人×トークンをどう設計するか」への転換が、人事の役割そのものを大きく変えていくと考えています。
人を減らすのではなく動かす―ソフトバンクの「AI社会実装」
リンクアンドモチベーション 山中:広木さん、ありがとうございました。続きまして、源田様お願いいたします。
ソフトバンク 源田氏:私からは、当社の事業戦略と人材戦略、そして全社で進めてきた生成AIの活用の3点についてお話しします。まずは事業戦略と当社の状況をお伝えします。
当社はソフトウェア流通事業から始まり、ヤフー、ADSL、携帯事業と、「情報革命で人々を幸せに」という経営理念のもと、事業ドメインを変革し続けてきました。そして現在は、事業としてAIを本命に据え、大きくシフトしています。具体的には、通信を中心とするこれまでのインフラから、AIが実装された社会に必要な「次世代社会インフラ」への転換です。3年ほど前から取り組みを始め、2030年度の完成を目指しています。
今回発表した5か年の中期経営計画(FY26〜FY30)のキーワードは「AIの社会実装(Activate AI for Society)」です。通信事業を土台に、データセンターやGPU・CPU計算基盤、ソブリンクラウド、AI-RANといったAIインフラを整備し、その上に国産LLM開発などのAIサービス、さらにPayPayやLINE、ヤフーといった既存事業のAI変革を積み重ねています。
こうした事業戦略に対応する人材戦略として、「ソフトバンクの変化を楽しみ、何事もチャンスと捉え挑戦する人」という求める人物像は変えずに、AIエンジニアやグローバル人材、AX人材、経営人材といった人材ポートフォリオのシフトを進めています。象徴的なのが、システムの脆弱性を突く攻撃への対応を担うセキュリティ人材約1,000名を、この1ヶ月で新たに配置したことです。世の中では「AIで人を削減する」ことが株価にも好影響を与えると言われ、評価される風潮もあります。しかし、当社は採用を止めていません。AIによって新たな事業が生まれているため、そこへ人を再配置することで対応しています。
こうした再配置に取り組む背景には、国内では容易に解雇できないという事情もあります。そのため当社は、社内でのリスキリングとキャリア採用・新卒採用を組み合わせながら、5年単位でポートフォリオを組み替えています。再配置の範囲も、ソフトバンク単体にとどまりません。今回のような1,000名規模のプロジェクトでは、グループ会社の力も結集して、組織を作っています。一方で、SB OAI Japanのように新たに立ち上げた会社には、ソフトバンクと同じ制度ではなく、事業に合わせた報酬設計・人事制度を導入しています。
生成AIの活用については、AIを全社で「使い倒す」ための施策を3年以上続けてきました。取り組みは段階的に進めており、ChatGPT EnterpriseやGeminiなどを、全社員が安全な状態で使える基盤を整備しました。次に、ソフトバンクAI倫理ポリシーを制定し、正しい活用の仕方を社員に啓蒙したうえで、学習機会を提供しました。管理部門のようにAIを専門としない社員向けのコースから、事業の中でAIを使っている社員がさらにスキルを伸ばすためのコースまでそろえています。そして、社員がどんどん使うための推進施策を展開しています。本日は、具体的な取り組みとして「生成AIコンテスト」と「AIエージェント作成」をご紹介します。生成AIコンテストは、生成AIやAIエージェントで何ができるか、どんな効率化や事業につながるかというアイデアを募集するものです。これまでに13回開催し、累計で約28.5万件集まりました。賞金も設けており、1位が1,000万円、2位が300万円となっています。お金を出すこと自体が良いとは思っていませんが、プロモーションのコストと考えれば安いものです。たとえば、AIのeラーニングを1,000万円で導入しても、導入そのものが目的になってしまえば意味がありません。社員一人ひとりが「自分にとってのAIエージェントとは何か」を考え、第一歩を踏み出すきっかけとして、この取り組みは非常に効果的だったと考えています。
もう1つの推進施策が、AIエージェントの作成です。昨年の6月から8月にかけて、「夏休みの宿題」として、1人100個のAIエージェントの作成を全社員共通の目標とし、計250万個のエージェントが生まれました。人事としては、社員の自律的なキャリアや自主性を重んじてきたため、これまで強制はあまりしてきませんでしたが、今回は久しぶりに義務化しました。
これらの施策で生まれた、28.5万件のアイデアや250万個のエージェントという数の良し悪しは分かりません。ただ、まずやってみること、たくさん作る中で気づきを得るという意味では、取り組んでよかったと考えています。

こうした活動の結果として、組織でも個人でも、AIの活用度が高いほど成長実感が高いことがデータに表れています。その成長実感が、エンゲージメントスコアの高さにもつながっています。
当社にとってAI時代とは、業務を効率化したり、組織を筋肉質にしたりすることだけを意味するわけではありません。AIそのものが事業になっているからです。だからこそ、どのようなスキルや経験を持つ社員がグループのどこにいるのかを把握する必要があります。そのうえで、異動やリスキリング、外部採用を組み合わせて新しい事業を推進する。それが、これからの人事に求められると考えています。
「5M」で読み解く、AIをめぐる3つの思い込み
リンクアンドモチベーション 坂口:源田様、ありがとうございました。続きまして、柴戸さん、よろしくお願いいたします。
リンクアンドモチベーション 柴戸:私はモチベーションクラウドを中心としたプロダクト開発と、グループ全体のAX・DXを担当しています。当社には、2018年に一人目のエンジニアとして入社したのですが、その以前から、クラウドやモバイルといった複数の技術革新の波を組織に適応させてきました。いくつもの波を越えてきたからこそ見えてくるのは、AI導入時に起きる組織の問題の多くが「初めて」ではないということです。過去の技術革新と同じ理由で、同じ場所で詰まります。つまり、詰まる場所は先に予測できるということです。そこで今日は、自社の事例そのものよりも、過去から今と次を読み解くための視点をお話しします。
まず、過去と同じ点です。技術を導入した後の生産性は、毎回同じ形をたどります。導入後、試行錯誤の中で期待は高まるものの、いったん停滞して生産性がへこみ、その後の再設計を経て成果につながるという形です。昨年あたりに生成AIを本格導入し、最初は期待も雰囲気も良かったのに、最近になって組織の生産性に疑問を感じ始めた方もいるかもしれません。それは気のせいではなく、まさにこのへこみの時期にいるということです。
このへこみの原因は、組織の適応コストにあります。私が社会人になった2000年頃、先輩から「メールを送ったら、届いたかどうか電話で確認しなさい」と言われました。これはまさに二重運用であり、過重レビューです。こうした適応コストは、モデルが賢くなっても消えません。したがって、へこみが落ち着くまで様子見をすることは、単に開始が遅れることを意味します。だからこそ、広木さんや源田さんのお話にもあったように、「とにかく使い倒す」ことが重要になります。
一方で、今回が過去と異なるのは、生成AIが人や組織の思考・行動そのものに入り込んでくる点です。同じ道具でも使う人・組織によって差が生まれ、しかも間違えても壊れずにそのまま動き続けてしまう。何を判断の拠り所とし、何をよしとするかという、組織の内側そのものを作り替える必要があり、見本も標準もないため難易度が高いのです。
そこで私たちが使っているのが、「5M」というフレームワークです。これは元々は組織変革のフレームワークですが、AIの話を組織の話に置き換えて考える道具として活用しています。今回は、「Membering(人材開発)」「Mission(役割設計)」「Monitoring(管理制度)」にフォーカスをして、トレンドワードを見ていきます。

1つ目は、Missionにかかわる「中間管理職はAIによって不要になる」という言説です。むしろ順序は逆で、管理職はこれまで以上に重要になります。なぜなら、生成AIが安くしたのは「実行」であり、高くしたのは「判断」だからです。実行が安くなれば成果物は増え、その中に粗悪品も含まれるため、判断する対象は急増し、詰まりも激しくなります。実際、私たちの開発組織でもAIエージェント導入直後は実装速度が上がった一方、レビューや承認を担うテックリードなどのハイパフォーマーが詰まりました。対策としては、中間管理職の業務を「中継」と「判断」に分け、情報の集約・伝達といった中継業務を徹底的にAIエージェントに寄せることで、判断のキャパシティとクオリティを高めています。人ではなく「中間管理機能」を作り替えるという発想が重要です。
2つ目は「トークンマネジメントが重要」という言説です。これは請求金額を下げる節約の話と誤解されがちですが、そこまで使い倒している企業がどれだけあるかがまず問われます。自社がAIをどこまで任せられるかという境界線は、使い倒さなければ分かりません。私たちも数十人で2,000個ほどのツールを試作し、有効に残ったのは200個ほどでしたが、残り1,800個は無駄だったのではなく、自社なりの活用地図を得るための代金だったと捉えています。地図ができて初めて、次に測るべき指標も見えてきます。
3つ目は、「AIに仕事を奪われて若手が育たない」という、いわゆる「若手がかわいそう論」です。この言説は、次のような事情から生まれています。今のシニア世代は、新人の頃に任された基礎的な業務を繰り返す中で、仕事の勘所を身につけてきました。その勘所は、今も仕事に欠かせません。ですが今は、新人が最初に任されてきた業務を、AIが代わりに行うようになりました。つまり、仕事の勘所は今も必要なのに、それを身につける機会が失われつつあるのです。
似たような議論は、以前にもありました。私自身、Excelが普及した2000年頃、Excelで計算した資料を持っていったところ、「自分で計算しないと数字の勘所が養われない」と怒られたことがあります。当時は真剣に言われていたことですが、今の「若手がかわいそう論」も、これと同じ構造です。
ただし、これは「若手がかわいそう」という話で片付けてよい問題ではありません。本当に困るのは企業です。このままでは、5年後、10年後に会社を支える中核人材が育たなくなります。では、中途採用を強化して、少数精鋭の組織でいけばよいかというと、それは危険です。少子高齢化がさらに加速する中で、優秀で技術に明るい中途人材を採り続けられる会社は、ごく一部に限られます。だからこそ、人材育成の仕組みを作り替えることが不可欠です。
私たちも、育成の仕組みを作り替える中で、うまくいかなかった経験があります。広木さんが「メンバーの視座を引き上げる必要がある」とおっしゃっていましたが、私たちは当初、若手に求める水準を従来のまま据え置いていました。その結果、「若手+AI」で容易に達成できてしまい、成長機会を奪っていたのです。そこで、求める水準を引き上げ直しました。
その一方で、うまくいった例もあります。インサイドセールスの架電業務では、従来はシニアが若手の架電内容を把握し、フィードバックしてPDCAを回していました。現在は、エージェントがすべてのログを同じ基準で確認し、すぐにフィードバックしてPDCAを回しています。その結果、ある部門の若手のアポ獲得率が、3か月で6%から12%へと倍増しました。若手が変わるのを待つのではなく、教える側、つまり育成の仕組みを変えることこそが本質だと考えています。

中間管理職はなくならず、役割が変わる
リンクアンドモチベーション 山中:ここからはトークセッションに入ります。世の中で語られている「組織のフラット化」「中間管理職不要論」「AIに任せれば人手不足は解消する」などについて、感じられていることを教えてください。
ソフトバンク 源田氏:組織のフラット化は一定程度間違いなく進むと思いますが、中間管理職が要らなくなるかは業種によって違うと思っています。たとえばデータセンターを一人で作ることはできず、社内外の多くの人やベンダーとのコミュニケーションは残ります。一人ひとりの生産性がAIエージェントで高まったとしても、チームをヒューマンスキル的にまとめ、同じ方向を向かせる役割は残ると思います。管理職というより、チームをまとめる人、人と人をつなげる人という形に役割そのものが変わっていくイメージです。また、働く動機についても、より大きな社会課題を解決したい、誰と働くかといった人間的な要素は残り続けると考えています。
レクター 広木氏:ここで注意すべきは、「フラット化する」「中間管理職がいなくなる」という予測と、「だから今なくそう」というアクションを混同してしまうことです。中間管理職のスキルによって詰まりが生じている以上、いきなりなくせば困るのは当然で、その業務をどうトークン側に寄せるか、外部化するかを段階的に考える必要があります。源田様が挙げられた「強制的に触らせる」「再配置を促す」といったトップダウンのアクションの重要性は、今後さらに増していくと感じます。人材・組織領域には一人ひとりの意志を尊重するボトムアップ信仰がありますが、これほど大きな変革の局面では、むしろ多くの人がリーダーシップを求めています。AIエージェントも人の意志を拡張することはできても、意志がない場所では無駄な生成物しか生まれません。
リンクアンドモチベーション 柴戸:お二人のお話はどちらも正しく、これらは技術的にはすべて実現可能なことです。重要なのは「そうなるかならないか」ではなく、経営として何を選択するかです。当社は、生産性を10倍にして人を10分の1にする道ではなく、優秀な人を10人集めて売上を10倍にする道を選んでいます。どんな状態を目指すかによって、選ぶべき打ち手は変わってきます。
人事は経営戦略の実現主体へ
リンクアンドモチベーション 山中:変わる部分・変わらない部分がある中で、企業が取り組むべき一手として、最もインパクトが大きい領域はどこだとお考えですか。
ソフトバンク 源田氏:採用のソーシングはAIによって飛躍的にやりやすくなりますが、その人が実際に「来たい」と思うかどうかは、依然としてカルチャーフィットや誰と働くかといった人間的でウェットな要素に左右されます。一方で評価や制度は、AIによって本当の意味での成果主義が実現できればと期待しています。「遅くまで残っているから頑張っている」といった曖昧な評価がなくなり、生産性そのもので判断できる仕組みが望ましいと思います。

リンクアンドモチベーション 柴戸:源田さんに伺いたいのですが、あれだけAIを半ばトップダウンで浸透させてこられた中で、人事という組織自体がどうトランスフォームしているのか、あるいはボトルネックになっていることはありますか。
ソフトバンク 源田氏:1つは、「人事」という仕事そのものをどう捉えるかという点があると思います。AIを全社を挙げてみんなに使ってもらうよう推進していくことは、ある意味で会社の風土改革に近い性格を帯びていて、それ自体を人事が主体となって担ってきました。生成AIコンテストやAIエージェント作成の推進がまさにそうで、そういう意味で人事の仕事の枠を少し広げて捉えているところがあります。一方で、AIを使って人事内部の業務そのものをどれだけ改革できているかというと、まだまだ道半ばです。オペレーショナルな部分は本来かなり置き換えが効くはずですが、既存システムとの連携といったシステム的な難しさが残っています。当社ではコールセンターの自動化にも力を入れていますが、それは自社の中で自動化を実現すれば、他社にもそのノウハウを展開できるという市場があるからです。人事領域はそこで得たものを外部展開しようとしてもマーケットの大きさに限りがあり、また会社として変えにくい領域でもあるため、社内の他の業務に比べてAX化の優先順位が必ずしも高くならない面があります。
リンクアンドモチベーション 柴戸:今のお話を伺っていると、オペレーションの効率化そのものよりも、制度も含めて会社がトランスフォームしていくきっかけや経路をつくることに、人事としてかなり注力されているという印象を受けました。
ソフトバンク 源田氏:そうですね。本当に事業を知らなければいけませんし、もっと言えばそこで働く人や組織を知らなければいけないと考えています。事業を知り、そこで働く人を知っているからこそ、その会社に合った人事制度が作れますし、それが分かっているからこそ「この会社をどうより良くしていくか」を考えられるのだと思います。
リンクアンドモチベーション 山中:今のお話を伺って、広木様が先ほどおっしゃっていた「現場に近いエッジで起きているゆらぎを察知する」という話と、それを束ねる強いリーダーシップ、いわば遠心力と求心力の両方が大事だという点が重なるように感じました。広木様は今のお話を伺っていかがですか。
レクター 広木氏:まさにそういったところが重要になってくると思います。「企業が変化に対して取り組むべき一手は何か」というのは、AXという言葉が独り歩きしがちなテーマだと思っています。DXの際もシステム導入自体が目的化してしまった反省がありますが、本質的な問いは「今の環境変化の中で、自分たちの企業が生き残れるか」です。もし2026年に自社を創業するとしたら一体どんな形になるか、を問い直すことが変化適応の出発点であり、採用や育成をどう変えるかという「あるべき姿」を、経営戦略と一体になったビジョンとして描く必要があります。
リンクアンドモチベーション 柴戸:これからの人事は、間接部門ではなく、人事戦略も組織戦略も事業戦略とすべて一体だと捉えています。制度を設計し会社の力学を作れる立場だからこそ、変化に適応するだけでなく、変化を自ら起こしていくリーダーシップを発揮できる仕事にしていきたいと思っています。
ソフトバンク 源田氏:「AI時代」はもう既に訪れています。その中で人事が何を大切にし、何をすべきかという正解を持っている人はまだ誰もいません。だからこそ、まず考え、その第一歩をどこから踏み出すかを実際に進めてみることが、今のフェーズで最も大事だと思います。人事の役割はこれから大きく変わり、その重要性はむしろ増していくと考えています。
リンクアンドモチベーション 山中:皆様、ありがとうございました。本日のお話を伺い、「AIだからこそ変わる」というより、これまで組織や人事において大切だと言われてきたことが、より輪郭をはっきりと持つようになったと感じました。それができる企業が変化し生き残り、そうでない企業は人が離れていく。人事の役割は、企業の成長力の源泉としてより重要になっていくのだと、大変勉強になりました。ご登壇いただいたお三方、そしてご視聴いただいた皆様に、改めて御礼申し上げます。

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