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前LINEヤフー会長 川邊氏×NEC×日本経済新聞社 AI時代、人は本当に必要なのか 「HR-X 2026」イベントレポート

AIの進化、不安定な国際情勢、激化する人材獲得競争により、企業には部分的な改善ではなく、経営そのものの構造転換が求められています。私たちは、人と組織の価値が今後さらに経営の競争力を左右すると考え、日本企業の変革を後押しするため、株式会社日本経済新聞社 人財・教育事業ユニットと共催で「HR-X 2026(HR Transformation Summit)」を開催しました。

「組織変革を、社会変革へ」をテーマに、「世界との相対化」「人事の再定義」「変革の加速」という3つの視座から、実務の最前線に立つ実践者と有識者が議論を交わしました。

Session8では、前 LINEヤフー株式会社 代表取締役会長 川邊 健太郎氏、NEC(日本電気株式会社)Chief Learning Officer 兼 Chief Diversity Officer 堀川 大介氏、日本経済新聞社 ライフ&キャリアビジネス統括補佐兼特命担当 上杉 栄美が登壇。

「人の価値と役割」 をテーマに、「AI時代、人は本当に必要なのか」と題してトークセッションを行いました。
 
【イベント実施日】

2026年9月2日
 
【スピーカー】

・前 LINEヤフー株式会社 代表取締役会長 川邊 健太郎 氏

・NEC(日本電気株式会社) Chief Learning Officer 兼 Chief Diversity Officer 堀川 大介 氏

・日本経済新聞社 ライフ&キャリアビジネス統括補佐兼特命担当 上杉 栄美


【モデレーター】
・株式会社リンクアンドモチベーション 特任執行役員 冨樫 智昭

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インターネットの30年とAI駆動型企業の到来

リンクアンドモチベーション 冨樫:本セッションは「日本企業の強みを活かす経営~成長を支える企業文化と変革力~」というテーマで進めてまいります。ウリケ・シェーデ様、髙橋様のそれぞれのプレゼンテーションの後、トークセッションに移ります。それではウリケ・シェーデ様よろしくお願いいたします。

前 LINEヤフー会長 川邊氏:私は6月まで、LINEヤフーの代表取締役会長とIT団体連盟の会長を務めていましたが、現在は一人で起業しています。1995年に自らスタートアップを立ち上げて5年間経営し、その会社がヤフーと合弁したことを機に、以後26年間ヤフーおよびLINEヤフーに在籍しました。昨年で私の活動開始から30年、ネット産業もおおむね30年という節目を迎えたことから、この30年間で何が起きたのかを『7つの激変』という一冊の本にまとめました。

振り返ると、この30年で起きたことは3つに集約できると考えています。インターネットによって全人類が「発信者(メディア)」になったこと、「売り手」になったこと、そしてその結果として、自らの発信や商品を広めたい「広告主」になったことです。それまで企業という主体にしかできなかったことを、60億人の個人ができるようになりました。PC時代のインターネットの恩恵を受けたのは人類の10〜15%程度でしたが、それをほぼ全人類にまで広げたのが「スマホ化」と「データドリブン化」という2つの技術です。そして現在、このデータドリブン化が急速にAI化へと移り変わっています。

ただし、この30年で全人類的にデジタル化されたのは「情報発信」と「物を売る」という領域にとどまりました。企業活動の中でより予算規模の大きい製造やR&Dといった領域には、インターネットはほとんど手をつけてこなかったのです。

これに対してAIは、技術そのものが知能・知性を持つという点で、インターネットと決定的に異なります。そのため、これまで人間の頭脳が担ってきた製造やR&Dにも入り込み、インターネットが得意としてきた情報発信や販売の領域と合わせて、ビジネスのすべてのバリューチェーンを駆動できるようになります。すべての工程をAIで駆動させる「AI駆動型企業」は、24時間365日稼働でき疲れることもないため、人間がすべての工程を管理する企業よりも高い生産性を実現するはずです。GAFAMがこの30年で時価総額の上位を占めたように、今後はこのAI駆動型企業が圧倒的な成長力を見せると考えています。

さらに、AI駆動型企業が増えれば、BtoCやBtoBに加えて、AI同士が取引をする「A2A(Agent-to-Agent)」という大きな市場が生まれます。世界の人口は推計上100億人程度で頭打ちになるとされていますが、AIエージェントはあっという間に100億を超えるはずです。そのため、やがては人間を相手にする市場よりもA2A市場の方が大きくなると見ています。

こうした変化を前に、人間も企業も変わらなければなりません。私の元上司であるヤフー元社長の宮坂氏の口癖に、「脱皮しない蛇は死ぬ」というものがありました。実際、PCインターネットからスマホインターネットへ移行できなければ、ヤフーは潰れていたと思います。AI化はそれ以上の変化をもたらすため、脱皮しなければ本当に生き残れません。

私自身、AIの技術のすさまじさに触れ、1995年に初めてWebを見た際に感じた「これを使って何かやりたい」という原点に立ち返りました。AI駆動型企業をつくるにはたった一人からやり直すのがよいと考え、LINEヤフーを退任し、6月に自分とAIだけの会社を裸一貫で立ち上げました。ネット産業での成功体験はかえってAI駆動型企業の本質を見誤らせかねないため、それをすべて忘れて試行錯誤を続けており、その過程はSNSで公開しています。

AIのインパクトはビジネスにとどまらず、産業革命を超えるサイエンス革命として、人類の進化そのものにまで波及すると捉えています。変わることを恐れるのではなく、ワクワクする局面として、ぜひ一緒に変わっていければと思います。

NECの「Empower Humanity」―AI時代こそ人材を解放する

リンクアンドモチベーション 冨樫:続きまして、NECの堀川様、お願いいたします。

NEC 堀川氏:私は入社以来30年、NEC一筋で歩んできました。現在は、AI時代だからこそ人が重要だというCHRO(最高人事責任者)時代の実感から、人材の学びと多様性の推進に特化したChief Learning Officer兼Chief Diversity Officerを務めています。入社して最初に配属されたのは、国の社会インフラを支える航空宇宙防衛部門でした。そこでの経験が私のNECへの愛着の原点であり、世の中に欠かせない会社だと思うからこそ、今もNECにいます。

当社は127年前に通信ベンチャーとして創業し、70年代・80年代には通信だけでなくPCや折りたたみ携帯電話で急成長し、半導体でも世界1位になりました。しかし90年代から2000年代にかけて、GAFAMや新興国の台頭により従来のモデルが通用しなくなり、急激に競争力を失いました。株価が100円を切るほどの厳しい経営危機の中で私たちが導き出したのが、パーパスを根本から変えて会社の構造を変える「社会価値創造型企業」への転換です。

この変革に、私は30年のうち15年にわたって携わってきました。最初に取り組んだパーパスの刷新と事業ポートフォリオの入れ替えだけでは、なかなか会社は変われませんでした。明るい兆しが見えてきたのは、カルチャー変革に着手してからです。どんなに立派なビジョンや戦略を掲げても実行するのは人であり、人が変わらない限り会社は変わりません。そこで、同質性を排除し外部人材を積極的に迎え入れ、ハイブリッドな新しいNECをつくる体質改善に取り組みました。

その成果が表れたのがここ数年で、業績は2年連続で最高益を更新しました。一方で、株価は直近で下がっています。その要因はAIであり、今の業績が良いだけでなく、AIを使って未来にどのような価値を出していくのかを示さなければ、生き残れない時代になったと捉えています。

こうした状況の中で発表した中期経営計画で掲げたビジョンが「Empower Humanity」です。127年間社会を支えてきた会社として、AIを正しく社会に実装し、安全・安心にAI時代へ貢献するとともに、まず私たち自身がAIネイティブになって模範を示すことを掲げています。AIネイティブ化とは、AIが得意とする「分析・作成」をAIに任せ、人の仕事を上流の「問い」と下流の「判断・実行」へシフトさせるという考え方です。

これを支えるのが自律型の人材です。ここ数年導入してきたジョブ型人事制度により、会社と従業員が選び選ばれる対等な関係のもと、会社から与えられた仕事をこなすのではなく、自分で仕事を選び社内を自由に動き回れる組織を目指しています。

自律型の人材を増やすうえで重要な要素が「Try & Learn」です。これまでは先輩に教わり前例に従うことにも価値がありましたが、正解のない時代には、自ら飛び込んで失敗しながら正解をつくっていく人が欠かせません。その原動力になるのが「やってみたい」という好奇心です。「Try & Error」ではエラーを恐れてしまうため、失敗から学ぶ「Try & Learn」として突き進む姿勢を目指しています。

この姿勢は、成功体験がなくアンラーニングの必要がない若手から浸透させています。入社3ヶ月目の新入社員が、自ら解決したい身の回りの社会課題を役員とともにAIで解くリバースメンタリングというプログラムを実施し、さらにその3ヶ月後には、新入社員だけでAIアプリを開発して競い合う生成AIハッカソンを開いています。

若手だけでなく全社でも、製造業として一時代を築いた頃から積み重ねてきたルールや規範の多くが、今では足かせになっています。そこで社内ルールを3分の1から4分の1程度まで削減し、パーパスとプリンシプル(行動原則)に基づいて社員が自律的に判断できる方向へ舵を切りました。まだ道半ばですが、社員一人ひとりの本能的な欲求や「変えていきたい」という気持ちを「解放」し、それを会社全体の力にしていきたいと考えています。

リンクアンドモチベーション 冨樫:堀川様、ありがとうございます。11万人規模の組織でこうした変化を起こしていくのは、大変な挑戦だと思います。川邊様は、この規模の組織変革をどう見られますか。

前 LINEヤフー会長 川邊氏:私たちもPCインターネットからスマホインターネットへ変える際、当時社員は1万人ほどでしたが、それでも変え切るのは大変でした。全世界で10万人を超える規模となると、どう変えていったらいいのか正直想像がつきません。どのように変化を進めているのでしょうか。

NEC 堀川氏:基本的にやっているのは、まずルールを大幅に減らすことです。これまで積み重なっていた社内ルールを3分の1、4分の1程度まで減らし、プリンシプル型で動けるようにしています。パーパスとプリンシプルのもとで一人ひとりが自律的に判断して動けるようにすることが、カルチャーを変えていく上で重要だと考えています。ただ、これはまだ十分にできているわけではなく、やり続けるしかない取り組みです。同時に、会社としての方向性をしっかり示すことも欠かせません。当社の社長は強い意思を持ってメディアや世界に向けて発信を続けており、そうしたトップダウンの明確な方向性があるからこそ、社員もそこにベクトルを合わせていくことができていると感じています。

海外トレンドに見る「テクノロジーとヒューマニティ」の融合

リンクアンドモチベーション 冨樫:続いて、日本経済新聞社の上杉さん、お願いいたします。

日本経済新聞社 上杉:私からは、国際カンファレンスから見た最新のトレンドをご紹介します。「ATD 2026」は、毎年5月にアメリカで開催される能力開発・人材育成の国際カンファレンスです。今年はロサンゼルスで開催され、日本からも200名近いHR担当者や教育ベンダーが参加しました。4日間で400近いセミナーが提供されますが、基調講演はその年を象徴するテーマで3人が登壇するのが通例です。今年のテーマは、テクノロジー・ヒューマニティ・リーダーシップの3つでした。

テクノロジーのテーマでは、OpenAIのGTM(Go To Market)責任者としてChatGPTのローンチを牽引したザック・キャス氏が登壇し、講演後には聴衆全員がスタンディングオベーションをするほどの熱気でした。キャス氏は、AIコストの劇的な低下が知能の民主化を実現したと述べ、その結果として人間の再定義が進み、どこまでをAIに任せ、どこを人間が担うのかという境界線が問われていると指摘しました。この境界線は企業のアイデンティティにもつながるため、一律の答えはないとのことです。

キャス氏は、未来を拓くのは主体性と楽観性であり、自律的に学んでいく姿勢が重要だとも語りました。ただし、便利な道具を手にしてどんどん成長できる人と、そこまで行き切れない人との間で、「二次関数的」に差が開いていくという懸念も示しています。また、AI世代とされるZ世代では読解力や運動能力、社会的関与が明確に低下している一方で、社会経済的な格差を超えて天才的な資質を持つ人が見いだされるようにもなったと、負と正の両面が紹介されました。

ヒューマニティのテーマでは、ニューヨークのミシュラン三つ星レストラン「Eleven Madison Park」を世界一に導いた人物が登壇し、「アンリーズナブル・ホスピタリティ(不合理なほどのおもてなし)」という考え方を語りました。象徴的だったのは、プロダクトの卓越性だけでは世界一にはなれないという話です。食事という物理的な体験は置き換えられないからこそ、強烈な顧客体験を突き詰めることが重要になります。そして、お客様の心に一生残るような体験も決して偶然の産物ではなく、店舗とのタッチポイントを可視化すれば、ある程度は再現できるといいます。ホスピタリティにも仕組み化が必要であり、そこにこそAIが圧倒的な効力を発揮するという指摘が印象的でした。

リーダーシップのテーマでは、ニューヨーク・タイムズのベストセラー『マルチプライヤー』の著者であるリズ・ワイズマン氏が登壇し、これからのリーダーには問題を解決する力よりも、問題をどう定義するかという「問いを立てる力」が重要になると語りました。

もう一点興味深かったのが、2026年にアメリカで行われた、今後20年間のAIの影響をポジティブに捉えるかネガティブに捉えるかを尋ねた調査です。最もAIに触れているはずの18歳から29歳の世代だけが、突出してネガティブな感覚を示していました。ATDでも若い世代の声として、仕事や個人利用でどこまでAIを使ってよいのか、データの出所が分からない、倫理的な使い方が気になるといった不安が挙がり、生成AIが出す情報を見極める目を持てていないという声もありました。

この点について別のセミナーでは、むしろベテラン世代の方がAIを仕事で使いこなせるのではないかという話も出ていました。AIがそれらしい結果や仮説を数多く出してきても、経験のある世代は「これはあり得ない」と感覚的に判断できます。そのため、AIの進展は企業の中でベテラン勢の強力な武器になり得るというのです。

また、AIとの向き合い方にも変化が見えています。数年前のセミナーでは教師やリサーチャーとしての位置づけが中心でしたが、最近は「フレンド」というキーワードが多く聞かれ、感情的な相談や自己開示の相手、つまりコンパニオンとしての利用が今後増えていくと見られています。私自身の実感としても、この傾向はさらに強まっていると感じています。

リンクアンドモチベーション 冨樫:上杉さん、ありがとうございました。今のお話を伺って、若い世代ほどAIにネガティブな感覚を抱いているというのは興味深いですね。川邊様、この点はいかがですか。

前 LINEヤフー会長 川邊氏:やはり、一番使いこなしているはずの世代が最もネガティブというのは注目すべきことですよね。なぜそうなるのか、疑問に思うところです。

リンクアンドモチベーション 冨樫:堀川様は、若手社員の様子を見ていていかがですか。使いこなしていても不安を感じているような場面はありますか。

NEC 堀川氏:AIそのものを使うという点では、若手は非常に詳しいんですね。ただ、「問いの立て方」という部分では、まだ経験値が足りていないところがあります。先ほどご紹介したリバースメンタリングのプログラムでも、役員が発するプロンプトの立て方に対して、若手社員が「そういう聞き方をするんですか」と驚き、そこから多くの気づきを得ている様子が見られました。それと同時に、日本からこれだけ多くの方がATDに参加されているというのも、単純に嬉しいことだと感じています。基調講演のテーマも、結局は人間そのものに行き着いていたのが面白いところでした。

日本経済新聞社 上杉:テクノロジーのセッションで責任者の方が語っていた「人間の再定義」も、まさにその通りだと思います。テクノロジーが進化するからこそ人間の定義そのものが問われますし、ホスピタリティのセッションで語られていたことも、結局はテクノロジーを活用してどう人間らしさを際立たせるかという取り組みだったと感じています。

「問いを立てる力」と「欲」―主体性の正体を掘り下げる

リンクアンドモチベーション 冨樫:ここからはトークセッションに入っていきます。「人ならではの価値や役割」について、主体性が最も重要だという声が皆さんから出ていますが、いかがでしょうか。

前 LINEヤフー会長 川邊氏:主体性が一番大事だという点は共通していますが、皆さんがおっしゃる「問いを立てる力」とは、立場によってニュアンスが違うのが面白いところです。ソロプレナーやスタートアップの場合は、問いを立てる能力というよりも「こういうことをしたい」という衝動、つまり主体性の発露そのものが重要で、リソースが少ない分、AIに思いきり頼ることが大切です。一方、LINEヤフーの会長の立場で「AI時代に何が重要か」と問われれば、恐らく衝動よりも「問いを立てる能力」の方が大事だと答えるはずです。社内には多くのリソースがあり、現場の方がより多くの情報や知識を持っているため、上に立つ者が「これをしたい」と言っても的外れになりがちだからです。リソースがあるなら問いを立てた方がよく、問いを立てても先に人がいないなら「これをしたい」とひたすらAIに言う方がよい。立場によって、力の注ぎ方が違うのだと思います。

NEC 堀川氏:川邊さんの著書を読み、動画も拝見して、AIとものすごく向き合っていらっしゃると感じました。そこで伺いたいのですが、AIと向き合う中で、自分の限界を超えていく楽しさと疲労感のどちらが大きいでしょうか。

前 LINEヤフー会長 川邊氏:AIの能力の高さには毎日驚かされています。推論力がどんどん上がり、人間でもミスをするような細かな違いまで理解して処理できるようになってきました。その一方で、AIのレスポンスは非常に速く、即レスを提唱している私でも、対応し続けるのは相当疲れます。この「驚き」と「疲労」の繰り返しを体感すること自体が、自分がAI駆動型人間に変わっていくための通過点だと捉えています。NECさんでは「とにかく使ってみろ」という方針なのでしょうか。

NEC 堀川氏:昨年は「とにかく使え」という方針でしたが、今は自分の仕事にどう使うかを各自が考えるフェーズに移っています。どこまで深く関わるべきかは仕事によって違うという考え方で、ディープダイブしたい人にはそうした部門に集まってもらう形にしたいと考えています。先ほどの生成AIハッカソンで頭角を現した人には、早くそうした部門に移ってじっくり取り組んでもらうといった活用もしています。

前 LINEヤフー会長 川邊氏:そうした「外れ値」の人材を見つけるうえで、AIは非常に威力を発揮しますよね。トークンの使用量は数値で明確に見えるからです。たとえば1カ月で突出した額を使った人がいれば、社長自らが「なぜ、どうやって使ったのか」を聞くべきですし、それが良い使い方であれば、その人をAI活用の最前線に異動させればよいと思います。

日本経済新聞社 上杉:ATDはHRに携わる方が中心のカンファレンスなので、大きな組織でAIによって人がやらなくてよい仕事が増えたとき、生まれた余剰人員をどうするのかという議論も多くありました。アメリカでは「ジョブがなくなれば終わり」という発想になりがちですが、日本企業のHRの方々は、その人材をリスキリングして不足している領域へポートフォリオを動かせるかというところで、もがいている面があります。一方で、AIを使ってやりたいことがあれば、それを後押しする体制は整いつつあります。だからこそ本当に必要なのは、「何を成し遂げたいのか」というマグマを持っている人です。やりたくてしょうがないという衝動に突き動かされる人にとって、これからの時代はバラ色です。組織のHRの中でも、こうした良い面と克服すべき面の両方が起きていると感じました。

管理ではなくリーダーシップへ―AI時代に残る人の役割

リンクアンドモチベーション 冨樫:川邊様の著書では、これからの時代に求められる人材像を「出木杉君ではなく野比のび太」という言葉で表現されています。何でも自分でこなせる優等生というよりも、「あれがしたい、これに困った、ドラえもん助けて」と欲や衝動を素直に口にできる人こそが、AIという「ドラえもん」を味方につけて成果を出せるという例えです。この点について、もう少し掘り下げていただけますか。

前 LINEヤフー会長 川邊氏:「やるプロセス」はAIとロボティクスが担うようになる以上、「何をするか」の方がはるかに重要になります。欲の強さや、したいことの大きさが大きい人ほど、AIにすがることができ、より大きな成果を出せるようになるはずです。ただしこれは二重に難しく、一つは組織に属する人の多くが、そもそも組織の一部になることを志向して入ってきているため、大志を持つこと自体に慣れていないという点。もう一つは、これから卓越したHowの能力を身につけようとしても、AIやロボティクスの方が先に高い水準に到達してしまうという点です。であれば、欲を持つことに特化した方が無理がないと考えています。

リンクアンドモチベーション 冨樫:組織のあり方について、ソロプレナーになられた立場から「組織は必要か」という点はいかがでしょうか。

前 LINEヤフー会長 川邊氏:組織はめちゃくちゃ必要です。ただし、組織の担い手が人間からAIに変わるだけです。私の会社にも法務部門や経理部門、開発部門がありますが、そこで働くのはAIエージェントで、そのAIエージェント同士が相談し合う様子をチャットツール上で可視化して確認しています。服が糸と糸の対話によって組織立っているのと同じで、企業のマテリアルが人間からAIに置き換わっても、分業や補い合いという構造そのものは変わらず重要であり続けます。人間の役割については、頭で先に定義するのではなく、AIを使い倒した結果、AIから頼まれること、AIができないことを帰納法的に見出していく方が実態に近いと感じています。実際、AIに何かを依頼すると、決済やアカウント取得など人間にしかできない作業だけが向こうから求められてくるようになります。

リンクアンドモチベーション 冨樫:人事評価のような領域についてはいかがでしょうか。

前 LINEヤフー会長 川邊氏:評価は、する側もされる側もAIに任せた方が良いと考えています。人間の上司がすべての挙動を見ているわけではなく、結果や好き嫌いで判断されている面があるため、全数データに基づいてアルゴリズムで評価された方が、される側の納得感はむしろ高まるはずです。

NEC 堀川氏:そもそも「管理職」という言葉自体がもう合わないと思います。管理という業務はAIに任せれば良く、私たちは「ピープルマネージャー」と呼んでいますが、これは部下を活用してチームの目的を「何とかする人」という意味です。これからのピープルマネージャーは、部下を自由に動かしながらチームとして新しい価値や創造性を発揮させる「伴走をする人」であり、人間力の高さが求められる役割です。

前 LINEヤフー会長 川邊氏:リーダーはどうしても必要で、その最大の役割は人をやる気にさせることです。

NEC 堀川氏:AIが極限まで合理性を追求すると、それはそれで危うさを孕みます。人間には「面倒くさいものに楽しみを覚える」という側面があり、そこに余地を残せるかどうかが重要です。AIを徹底的に使いこなしながら、人間らしさとどうバランスを取るかが今後の課題だと思います。

「How」はAIへ。欲を解き放ち、「Why」「What」を問う個人と組織に

リンクアンドモチベーション 冨樫:最後に、本日ご視聴いただいた皆様へメッセージをお願いいたします。

前 LINEヤフー会長 川邊氏:今日の話を総括すると、「Why・What・How」という仕事のプロセスのうち、これまでは「What」や「How」に重きが置かれ、特に「How」を極めることで高い給料が得られる時代でした。しかし、そこはもうAIが担ってしまうため、これからは「Why」や「What」の方が大事になっていきます。「Why」や「What」を考えられる「欲深い人間」になっていきましょう、ということに尽きると思います。私自身、その道を信じて進んでいくつもりです。

NEC 堀川氏:私は「解放」だと思います。今までの時代にやってきたことを一旦忘れ、AIの時代の中でゼロリセットして変えていくということです。当社も127年目の会社ですが、改めてスタートアップのような気持ちでAIに取り組まなければ厳しいと感じています。社員の気持ちをどれだけ変えられるか、そこにぜひ取り組んでいきたいと思います。

日本経済新聞社 上杉氏:一人ひとりにドラえもんがいる時代になれば、起業して自分で頑張りたいという人はおそらく増えていきます。そのなかで、あえて企業に属してやりがいを求める人は、「自分はどの舞台でそれを成し遂げられるのか」という視点で会社を選ぶようになるはずです。企業の最前線で奮闘されているHRの皆様には、ぜひ「選び選ばれる」関係の中で選ばれる企業・組織になっていただきたいと思います。

リンクアンドモチベーション 冨樫:起業するにせよ、組織に所属するにせよ、大切なのは自分の「欲」であり、それを解放することです。そして、その欲を実現するのにふさわしい場を、個人が企業や働き方の中から選ぶ時代になっていくのだと感じました。ご登壇いただいたお三方、そしてご視聴いただいた皆様に、改めて御礼申し上げます。


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