
服部教授×大和ハウス工業×川崎重工業 人材獲得競争の発想の転換〜関係世界観で捉える、新卒の未来とは〜「HR-X 2026」イベントレポート
AIの進化、不安定な国際情勢、激化する人材獲得競争により、企業には部分的な改善ではなく、経営そのものの構造転換が求められています。私たちは、人と組織の価値が今後さらに経営の競争力を左右すると考え、日本企業の変革を後押しするため、株式会社日本経済新聞社 人財・教育事業ユニットと共催で「HR-X 2026(HR Transformation Summit)」を開催しました。
「組織変革を、社会変革へ」をテーマに、「世界との相対化」「人事の再定義」「変革の加速」という3つの視座から、実務の最前線に立つ実践者と有識者が議論を交わしました。
Session9では、神戸大学大学院経営学研究科 教授の服部 泰宏氏、大和ハウス工業株式会社 本社経営戦略本部人事部長の上田 あきは氏、川崎重工業株式会社 人事本部 リクルーティング部長の山脇 昭彦氏が登壇。
「エントリーマネジメント」をテーマに、「人材獲得競争の発想の転換〜関係世界観で捉える、新卒の未来とは〜」と題してトークセッションを行いました。
【イベント実施日】
2026年9月3日
【スピーカー】
・神戸大学大学院経営学研究科 教授 服部 泰宏 氏
・大和ハウス工業株式会社 本社経営戦略本部人事部長 上田 あきは 氏
・川崎重工業株式会社 人事本部リクルーティング部長 山脇 昭彦 氏
【モデレーター】
・株式会社リンクアンドモチベーション 常務執行役員 川内 正直
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人事管理の歴史と、採用を捉える3つの観点
リンクアンドモチベーション 川内:本セッションは「人材獲得競争の発想の転換〜関係世界観で捉える、新卒の未来とは〜」というテーマで進めてまいります。服部先生、上田様、山脇様のそれぞれからのプレゼンテーションの後、トークセッションに移ります。それでは服部先生、よろしくお願いいたします。
神戸大学大学院 服部氏:私からは、これからの議論の補助線となる人事管理の歴史と、採用を捉えるための3つの観点についてお話しします。
私は、人事管理の歴史を、効率やコントロールを重視する「クールアプローチ」と、人間性や多様性に配慮する「ウォームアプローチ」が、中身を少しずつ変えながら循環し、進化してきたものだと捉えています。人事管理はまず、工場の現場を最適化するために、会社が人をコントロールしようとするクールなものとして始まりました。その後、人々のモチベーションは一様ではないことが分かってくると、福利厚生を含む温情主義的なウォームな人事管理が生まれました。こうした循環はその後も繰り返され、現代はウォームが中心の時代にあります。この時代を特徴づけるのが、「人と人との間は違う」という前提を認める「多様性」と、「一人の人間の中にもいろいろな側面がある」ことを拾い上げる「全体性」です。一人ひとりがこれほど違うなかで、どうすれば一つの組織としてまとまれるのか。その答えとしてパーパスや理念が掲げられ、一人ひとりに寄り添う1on1のような手法も広がってきました。こうしたウォームな流れに加えて、近年はITやAIというクールな技術が加わってきています。

こうした時代の流れを踏まえ、ここからは今日の主題である採用についてお話しします。1つ目は「能力の初期値」という観点です。優秀な社員の能力を分解してみると、採用時点ですでに備えていた能力、つまり関数でいう切片に、会社の育成努力や本人の学習による伸びが加わったものだと捉えられます。採用はこの切片の高さと種類を決めるという、経営学的に言えば「デフォルト値を決める」役割を果たしています。
この観点から見ると、いま2つの変化が起きています。1つは、最初から高い能力や知識を持ち、切片が昔よりも高く見積もられる「スター社員」的な人材が出てきたことです。こうした人材は一律の採用条件ではなかなか採用できないため、特別扱いも含めてどうマネジメントするかが課題になっています。もう1つは、インターンシップの普及です。インターンシップは見極めや惹きつけの場であるだけでなく、うまくいけばその過程で人が育つ場にもなります。そう考えると、採用と育成は前の走者から次の走者へバトンを渡すリレーではなく、同時に同じ目的を達成する裏表の関係になり得ますし、私はそうあるべきだと考えています。
2つ目は「組織らしさ」という観点です。採用には、その会社らしさを規定する役割もあります。産業心理学者のベンジャミン・シュナイダーはASA理論の中で、組織文化や風土は、人事管理(採用・選抜・離職)の積み重ねの結果として作り出されると述べています。そこでは、ある種の人々を集め、それ以外を排除する「惹きつけ(Attraction)」、ある種の人々を選び、それ以外を選ばない「選抜され(Selection)」、ある種の人々を中心化し、それ以外を周辺化する「自然淘汰(Attrition)」という3つのメカニズムが働いているとされています。たとえば惹きつけによって、応募の段階ですでに偏りのある集団になっているはずですが、これは悪いことではありません。惹きつけが働くことを前提にすれば、どのような人を惹きつけるかを意図的に選択することも可能です。

この観点で近年私が注目しているのは、「私たちはこうありたい」という自己定義だけでなく、「これは私たちがしないことだ」という境界線をあえて示す企業が少なくない点です。こうしたメッセージによって誰を惹きつけ、誰を惹きつけないかを考える発想が、今後大事になると考えています。
3つ目は、私が長年研究してきた「心理的契約」という観点です。心理的契約とは、法的な雇用契約とは別に、日常の中で会社と従業員が互いに暗黙のうちに期待し合う「書かれざる約束」を指します。たとえば長期雇用は、法律で厳密に守らなければならないものではありません。それでも多くの人が長期雇用を期待しているのは、それが心理的契約になっているからです。
この約束の中身にも、2つの変化が起きています。1つは、約束の時間軸の変化です。かつての求職者は「30年間潰れない会社」のような遠い未来の約束を求めていました。それがなくなったわけではありませんが、現在の求職者は「入社数年でどんな経験ができるか」という、近い未来の約束を求めるようになりました。もう1つは、約束の個別化です。スター社員のように特別な貢献をし得る人材が入ってくると、心理的契約の中身が人によって大きく異なるようになります。そのため、全員に同じ雇用契約を提供する標準的な人事管理から、個人ごとに異なる非標準的・個別化された人事管理へのシフトも考える必要が出てきます。
ここまでお話しした人事管理の歴史や3つの観点を土台に、皆さんと一緒に議論を深めていければと思います。
「厳選採用」への転換とファンづくり―大和ハウス工業の実践事例
リンクアンドモチベーション 川内:続いて、大和ハウス工業様の実践事例を上田様からお願いいたします。
大和ハウス工業 上田氏:当社は1955年、「建築の工業化」という創業理念のもとに創業しました。「大和ハウス」という社名からハウスメーカーのイメージを持たれがちですが、戸建て住宅事業は売上高全体の約24%です。戸建て住宅に賃貸住宅やマンションなどを加えた住まい関連事業が売上の約半分を占め、残り半分は商業施設や事業施設、環境エネルギー関連事業が占めています。グループ従業員は約5万5,000人、グループ会社は海外を含め716社です。
当社は創業時から、人的資本の価値向上こそが企業価値の源泉だと考えており、社是の第1項目にも「事業を通じて人を育てる」と掲げています。人事部門としては、人財基盤をいかに強化するかが最大のミッションと考えており、その中で近年ご注目いただいているのが、新卒採用数を大幅に減らした「厳選採用」への転換です。

厳選採用に転換した背景は2つあります。1つは、本社・本部の人員を現場に再配置する「小さな本社」の取り組みです。いまは再配置をしたうえで、事業に本当に必要な人員がどの程度なのかを見極めている最中のため、新卒採用の数を抑えました。もう1つは、事業変革への備えです。当社は社会の変化に合わせてビジネスモデルを変えながら成長してきました。今後は、より一層変化が速まると考えており、事業変革に必要な人財要件の見直しをしています。
この見直しに合わせて、採用ポリシーを変えました。事業変革に適応できる強い組織となるため、「事業や思いに共感している人財から選ぶ」のではなく、「必要とする人財にファンになってもらう」ように方針を変えました。方針を変えたことで、最も大きく変わったのは採用チームの行動です。以前は、当社に関心を持つ学生の中から優秀な方を採ることに注力していました。ですが、現在では当社への関心が高まっていない学生に対して、いかに振り向いてもらえるかに時間をかけて取り組んでいます。採用の難易度は格段に上がりましたが、まずは話を聞きに来てもらうところから取り組んでいます。
また、必要とする人財にファンになってもらうため、3つの取り組みを行っています。1つ目は、「当社が何者なのかを発信すること」です。当社は建物や街をつくるだけでなく、建物や街を通じてお客様一人ひとりの課題や社会課題を解決することを事業にしています。ハウスメーカーというイメージを超えて、この事業の本質を理解してもらうことが重要だと考えています。
2つ目は、「AIと人の協働による人財の見極め」です。従来は採用プロセスのほとんどを人が判断しており、「今活躍している社員とタイプが似ている」「社風に合いそうだ」など、属人的に判断していました。しかし、ビジネスモデルが変わる中では、これまで活躍してきた人が今後も活躍するとは限りません。そこで、採用プロセスの前半は、AIが適性検査や面接を行うことで向上心や思考力を見極め、後半は人が可愛いがられる要素や人間的な魅力を見極めるという役割分担をしています。当社の仕事は、お客様や地域の方々と一緒に建物や街をつくっていく仕事です。人としての魅力があるかどうかは人にしか分からないため、最終的な見極めは人が担っています。

3つ目は、「職場での実践を重視した人財育成」です。研修はあくまでも学びの機会であり、学んだことを現場でいかに実践できるかが重要です。私も入社以来、当社の強さは「実践を通じた学び」にあると感じてきました。ただ、この点は人事としてまだやり切れていないと感じています。「成長するなら大和ハウスだ」と学生に認知される会社にすることが私の夢でもありますので、そのような認知を獲得できるよう挑戦したいと考えています。
「手段」ではなく「理念」への共感―川崎重工業の実践事例
リンクアンドモチベーション 川内:続いて、川崎重工業様の実践事例を山脇様からお願いいたします。
川崎重工業 山脇氏:当社は船舶、電車、飛行機、バイク、ロボット、エネルギープラントなど、陸・海・空から深海・宇宙に至るまでの製品を手がける総合重工業メーカーです。2030年に目指す将来像として「グループビジョン2030」を定め、「つぎの社会へ、信頼のこたえを」を掲げています。「Frontier」「New Values」「Cross Over」の3つのキーワードのもと、エネルギーや地球環境などの社会課題の解決に貢献する事業を進めています。
このビジョンを達成する手段として当社が大切にしているのが、「技術深化」と「技術探索」です。技術深化は今ある技術や専門性を深めること、技術探索は技術を組み合わせたり別の領域で試したりして新しい価値を生み出すことを指します。2年ほど前に東京エリアに開設した共創拠点「CO-CREATION PARK - KAWARUBA」も、社外の人や技術と組織の垣根を越えて出会い、深化と探索を進めるための取り組みの1つです。そのため採用でも、専門性を磨きながら新しいことに挑戦できる人財を求めています。
新卒で入社する方は、今の事業を支えるだけでなく、10年後、20年後の当社の未来をつくる存在です。そのため当社は、新卒採用を「企業価値向上の一丁目一番地」と位置づけています。未来をつくる人財には、当社がどこを目指し、どんな社会課題に向き合うのかを理解し、その方向と重なっていることが欠かせません。だからこそ、新卒採用では「理念への共感」を重視しております。

メーカーを志望する学生の多くは、学んできた専門性を活かして特定の製品や技術に携わりたいという志望動機を持っています。それ自体は大切なことですが、特定の製品や部署はあくまで「手段」です。希望と異なる部署への配属や異動もあれば、やりたかった仕事が全社の注力事業から外れることもあります。仕事内容だけを軸にしていると、こうした変化が起きたときにミスマッチが生まれ、本人の可能性も狭めてしまいます。そのため当社は、配属確約型の部門別採用だけでなく、理念や社会課題という「目的」への共感を軸にした全社採用も行っています。私自身、入社当初に携わった事業が比較的早い段階で撤退した経験があり、手段にこだわる危うさを実感しています。
「理念への共感」にこだわる原点となっているのが、創業者である川崎正蔵の「そのわざを通じて国家社会に奉仕する」という言葉です。当社にとって事業とは、単に製品をつくり利益を上げることではなく、技術や事業を通じて社会に貢献し、社会課題の解決に役立つことだと捉えています。だからこそ、今の事業や仕事の先にある目的に共感できる人財を採用したいと考えています。
こうした理念への共感を軸にした採用を、当社は3つの観点で実践しています。1つ目は魅力付けです。採用活動やインターンシップでは職種や仕事内容の説明が中心になりがちですが、当社はそれに加えて、その仕事がなぜ必要で、どのような社会課題の解決につながるのかという背景まで伝えています。2つ目は見極めです。「なぜこの会社に入りたいか」という所属動機だけでなく、「何を実現したいか」という実現動機を見極めることを大切にしています。その取り組みの1つが「セルフミッションの言語化」です。学生の皆さんに、大切にしている価値観やこれから実現したいことを言語化してもらい、当社の理念や事業とどう重なるかを考えてもらっています。内定者向けの社員座談会でも、社員が会社紹介ではなく、なぜこの会社で働いているのか、どんな価値を生み出したいのかを自分の言葉で語っています。

3つ目は育成施策です。理念に共感して入社した人も、会社が一律に指示するだけでは本当の挑戦にはつながりません。そこで、本人が自ら目標を掲げてコミットすることで育つという考えのもと、「チャレンジ&コミットメント制度」を導入しています。社員が自ら挑戦的な目標を掲げ、その達成度を評価や処遇に反映する制度です。また、2025年に刷新した「HRポリシー」では「ともに挑み続け、ともに成し遂げる」を掲げ、人事が社員一人ひとりの挑戦を後押しし、伴走する姿勢を全社に示しています。
事業のあり方も必要な技術も、これからも変わり続けます。その中でも、理念に共感して入社した人財は、会社の目指す方向を理解しながら自分なりの挑戦を続けられると考えています。こうした個人と企業のWin-Winを多くの企業が実現していけば、当社のみならず、日本全体の「適所適財」にもつながっていくと考えています。
なぜ採り方を変えたのか―事業戦略からの逆算と現場の巻き込み
リンクアンドモチベーション 川内:皆様、ありがとうございます。ここからはトークセッションに入ります。両社とも過去最高の業績を上げる中で、人財の採り方を大きく変えています。求人が学生の数を上回る売り手市場では、企業も学生から選ばれる立場にあり、採り方を変えれば選ばれなくなるリスクもあったはずです。それでもなぜ変えたのか、何を変え、何を変えなかったのかを、上田様からお伺いできますか。
大和ハウス工業 上田氏:当社が変えたのは、採用人数の決め方です。以前は、事業が今のまま続くことを前提に採用計画人数を決めていました。変えるきっかけは、事業側と「事業は今のままなのか、もっと変わるのではないか」という議論を深く重ねたことです。収益モデルが変われば、求める人財も変わります。求める人財が変われば、その人財をいきなり多く採ることはできません。そこで、将来に向けて本当に必要な人財という切り口で人数を決め直し、新卒採用の数を抑えました。かなり冒険的な判断でしたが、即戦力はキャリア採用で年齢の幅も含めて補い、全体の採用計画を組んでいます。
一方で変えないのは、「人として愛される人物かどうか」を必ず人が見極めることです。当社のお客様は、法人であってもその先にいるのは人です。人と人とのコミュニケーションが当社の事業の根幹である以上、人としての魅力は人にしか見極められません。だからこそ、この見極めは人が担い続けています。
川崎重工業 山脇氏:当社が変えたのは、採用で伝える中身です。以前は、会社紹介や仕事の魅力を中心に伝えていましたが、変えるきっかけになったのが7年前から掲げている「カワる、サキへ。Changing forward」というコーポレートメッセージです。既存事業を深めながら新たな領域に挑戦する以上、事業や仕事内容は変わり続けます。そのため、これまでどおりの人財を集めていては、その変化についていけません。変化を実現する軸として大事にしたのが、「そのわざを通じて国家社会に奉仕する」という企業理念への共感です。
「飛行機がやりたい」「ロボットがやりたい」など、特定の仕事にこだわると、その仕事がなくなったときに社内での居場所を失ってしまいます。たとえ仕事や業務が変わっても、その理念に共感し、活躍する人財を採用するために、理念をしつこく語り、共感を育むことに注力しています。

神戸大学大学院 服部氏:お二人のお話を伺いながら、人事の存在価値は2つあると考えていました。1つ目は、時間的なスパンの長さです。現場は数字を追う立場上、どうしても「今すぐ成果を出せる人」を求めますが、人事や経営はもっと長い目で見る必要があります。2つ目は、スコープの広さです。現場は自然と自部門の足元に目が向きますが、人事や経営は会社全体を俯瞰して見る必要があります。今回の2社の取り組みは、方向性は微妙に異なるものの、いずれもこの長いスパンと広いスコープで、会社がどこへ舵を切るべきかを考えた結果だと感じます。ただ、こうした判断は、目の前の成果を求める現場とぶつかることもあるはずです。お二人は現場をどう巻き込み、説得されたのでしょうか。
大和ハウス工業 上田氏:まず、事業側と話す機会がかなり増えました。HRBPというほどの体制ではありませんが、人事のメンバーを事業経営に近いところへ送り出し、事業の今後を一緒に考えるところまで入り込もうとしている最中です。説得については、正直に言うとまだ完全にまとまったわけではありません。ただ、当社はもともと世の中の変化に合わせて事業を変えることで成長してきた会社なので、事業側の理解は早かったと思います。事業側でも、単に建物を建てるのではなく、地域に必要な建物や機能を提案していこうという発言が増えてきていて、「それを考えられる人を採用したい」とお話しすると、皆さん納得してくださいます。
川崎重工業 山脇氏:当社では、採用は採用部門だけでするものではないと考えています。そのため、面接官やリクルーターなど学生と直接向き合う社員の意識を変えることに注力しています。具体的には、リクルーター教育や面接官教育を通じて、当社が伝えたいメッセージや、自分の志を語ることの大切さを伝えています。志を語るのは難しく、照れくささもあると思いますが、実際に社員から語られる志に共感する学生は非常に多いと感じています。このような教育の効果もきちんと示しながら、皆さんに協力していただいております。
神戸大学大学院 服部氏:お二人のお話をお伺いして感じたのは、現場の巻き込みには、説得する以上の意味があるということです。人はキャリアが始まり、自分の事業に一生懸命になるほど、自分と会社の距離を引いて眺めたり、自社がどんな価値を提供しているのかを考えたりする人事的な目線を持ちにくくなります。採用や育成に現場を巻き込むことは、社員自身が自分と会社の関係や「うちの会社の良いところは何だろう」と振り返るきっかけにもなっているのだろうと思います。その波及効果はなかなか定量化しづらいですが、非常に大きいのではと感じました。

AI時代の採用―何をAIに任せ、何を人が担うのか
リンクアンドモチベーション 川内:ここまでは、人が担う採用についてお話を伺ってきました。一方で、採用の現場にもAIが入り始めています。AI時代に企業は採用をどう変えていくのか、まず服部先生からお伺いできますか。
神戸大学大学院 服部氏:AIとの向き合い方について、3点感じる部分があります。1つ目は、AIとの関係性を人事としてどう定義するかです。AIを友達のように使う人もいれば、右腕や部下、あるいは上司のように頼る人もいて、その関係性は人によって異なります。使いすぎても使わなさすぎても良くない以上、人事としてAIをどう位置づけるかを意識的に考えることが大事だと思います。
2つ目は、その関係性によって、AIにどこまで任せるかが変わることです。経営学には、何でも外部に任せるうちに自社の能力が失われてしまう「アウトソーシング・トラップ」という言葉があります。AIも同様に、すべてを任せれば自分たちの能力が失われる可能性がありますが、使わない選択肢はありません。だからこそ、何を任せ、何を任せないかの線引きが重要となります。
3つ目は、「これはやらない」という人間の決断です。冒頭で、これからの企業には「私たちはこれをしない」という選択が大事になるとお伝えしましたが、その判断を担うのも人間です。AIは合理的に「これをやるべきだ」「こうすると人が集まる」と提案してくれますが、「それは倫理的に良くない」とブレーキを踏むことは、人を扱う人事にとって特に大事になるはずです。
大和ハウス工業 上田氏:業務の中でAIを使わない日はないほどで、私たちも考えを整理するときのたたき台として必ずと言っていいほど使っています。ある意味ではパートナーのような存在です。ただ、AIは非常にもっともらしい答えを出してくれるので、頭の整理には役立つ一方で、優先順位や企業風土、いま本当に何をしたいのかを踏まえて取捨選択するのは、人がやるべきだと考えています。
先ほどもお伝えしましたが、面接においてAIに任せる部分と人が見る部分を分けています。元々、短い時間で人を見極めるのは難しいうえに、事業の変化によっては求める人物像も変わる可能性があります。そこで、客観的な指標を見る場合はAIにも任せつつ、人柄のように人にしか分からない部分は人が見るというように分けています。

川崎重工業 山脇氏:私は、AIは目的地に早く到達するための大きな手段だと捉えています。これまで人事は、日程調整や会議の調整、議事録の作成といった業務に多くの時間を使ってきました。それをAIに任せられれば、社員に人事としての価値を届けるという本来の仕事に、より集中できるようになります。一方で、AIは責任を取ってくれません。情報が正しいかどうかを判断し、責任を取るのは人の役割であり、そこにこそ人が関わる価値があります。そのスタンスを忘れずにAIと向き合うことが大事だと考えています。
採用担当者は組織の「ゲートキーパー」
リンクアンドモチベーション 川内:お時間が迫ってまいりましたので、最後に本日のご感想をお伺いできればと思います。
川崎重工業 山脇氏:さまざまな会社がそれぞれの考え方で採用を進めていることを知り、本当に勉強になりました。これからは一社単独で取り組むのではなく、他社とも横に手をつなぎながら、皆が幸せになれる採用を実現していきたいと思います。
大和ハウス工業 上田氏:業界が違っても課題は共通していることや、研究の知見と実践企業の課題が重なる部分が多いことを学び、「帰ったらこれをやりたい」という刺激をたくさんいただきました。持ち帰って、すぐに実践したいと思います。
神戸大学大学院 服部氏:お話を伺いながらずっと浮かんでいたのは、「採用担当者はゲートキーパーだ」という言葉です。人もテクノロジーも、組織に何を入れるかを決めるのは採用であり、採用担当者はいわば組織の門番です。アメリカでのフィールドワークでは、この点に大きなやりがいを感じている採用担当者が多かった一方、日本ではまだそこまで魅力的な仕事だと認識されていないように感じています。ご覧の皆様にもこの仕事のやりがいを改めて自覚し、次に何を組織に入れるかを試行錯誤していただくことが、数年後の自社の姿につながっていくと思います。
リンクアンドモチベーション 川内:当社は以前から、エントリーマネジメントのキーワードとして「入りたい人材を選ぶのではなく、採りたい人材を口説く」とお伝えしてきました。本日伺った大和ハウス工業様の「必要とする人財にファンになってもらう」採用は、まさにこの発想の転換だと思います。そのうえで、AIをはじめとするテクノロジーの進化を生かすことと、川崎重工業様の理念のように、変えてはならない自社ならではのこだわりを持ち続けること。その両方が大切だと改めて感じる時間でした。ご登壇いただいたお三方、そしてご視聴いただいた皆様に、改めて御礼申し上げます。本日は誠にありがとうございました。

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