パラレルキャリアとは?企業のメリットや導入する方法について徹底解説
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かつては1つの会社で定年まで勤めるのが一般的でしたが、若い世代を中心に注目を集めているのが「パラレルキャリア」という考え方です。
もともとは経営学者のピーター・ドラッカー氏が著書で提唱した概念ですが、本業とは別に、余暇の時間を使って別のキャリアを築く「パラレルキャリア」は、現在では新たな働き方の方法として多くの人が参考にしています。
「副業」とも似ているように見えるパラレルキャリアですが、どんな違いがあるのでしょうか。ここではその違いや、パラレルキャリアが広がっている理由、パラレルキャリアのメリットや注意したい点ついてご紹介します。
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パラレルキャリアとは
「複数の職業を持つ」という意味では、パラレルキャリアも副業も同じですが、この2つの働き方の大きな違いはその「目的」です。
<パラレルキャリア>
経営学者のピーター・F・ドラッカーによって提唱された言葉で、本業を持ちながら第二の活動をすること。
第二の活動に明確な定義はなく、別の企業への就職や自営業のみならず、ボランティア活動など、「キャリアアップやスキルアップ、本業では得られない経験」などを目的としている。
ひとつの仕事を本業ととらえず、すべての仕事、活動に本業と同じように取り組むことがあるため「複業」ともいわれる。
<副業>
副業は、「報酬」を目的に、本業とは別の仕事を行うことを指す。パラレルキャリアとは違い、必ず収入を伴う活動のため、スキルアップや自己実現を必須としない。
パラレルキャリアが広まっている理由
何故、現代においてパラレルキャリアが広まっているのでしょうか?ここでは、ワークスタイルへの意識の変化や企業寿命の変化など、パラレルキャリアが広がっている背景について触れていきます。
■企業寿命の短命化
企業寿命の短命化は、パラレルキャリアが注目されるひとつの理由です。定年退職をするよりも前に企業に寿命が訪れ、再就職先を探さなくてはいけないというリスクが高まりつつあります。
そうなったときに困らぬよう新しいワークスタイルを確立させておくべき、という考え方が広まりつつあります。
■ワークスタイルへの意識の変化
終身雇用や年功序列など、従来の日本型雇用システムがなくなりつつあり、フレックスタイム制度や転職の一般化など、ワークスタイルの多様化が進んでいます。
それぞれが人生設計をするにあたってさまざまなライフスタイルが生まれ、同時に働き方も多様化しており、そのひとつとして、パラレルキャリアへの取組みも注目されています。
■企業側のメリット
パラレルキャリアによる、個人の意欲向上やマネジメント能力向上といったスキルアップを実現させることは、企業にとってもメリットがあります。そのため、パラレルキャリアを推進する企業も増え、「専業禁止」を唱える企業も出てきています。
個人の経験や利益のみならず、企業にも有益だという意識は今後さらに広まっていくでしょう。
そもそも副業に興味がある人の割合は?
パラレルキャリアと目的は異なるものの、本業とは別の仕事を行うという意味では「副業」も同じですが、そもそも現状はどうなのでしょうか。
総務省統計局「平成 29 年就業構造基本調査」によると、全就業者のうち副業をしている就業者は約267万人(4.0%)、副業を希望する就業者は約 424万人(6.4%)でした。
参考:総務省統計局 平成 29 年就業構造基本調査
また、マイナビが2020年10月に発表した「働き方、副業・兼業に関するレポート(2020年)」によると、副業・兼業を認めている企業は49.6%だった。
また、将来的に認めたり拡充したりする予定の企業は57.0%に上った(「現在認められており、将来的にも拡充する予定」「現在一部認められているが、将来的には拡充する予定」「現在は認められていないが、将来的には認められる予定」の合計)。
また、業種別にみると、現在副業・兼業を認めている割合が最も高いのが「医療・福祉・介護」で57.2%で、「サービス・レジャー」(56.2%)、「IT・通信・インターネット」(55.6%)と続いた。
参考:マイナビ 働き方、副業・兼業に関するレポート(2020年)
企業側にとってのメリット・デメリットとは?
パラレルキャリアによって得られる「企業側のメリット、デメリット」にはどんなことがあるのでしょうか。
<メリット>
- 本業との相乗効果
- 人材育成のコスト削減
- 個人の生産性向上
- 離職防止
企業側にとっては、従業員がパラレルキャリアを積むことで、自社で身につくスキル・経験以外の能力をもち、フィードバックしてもらえるというメリットがあります。
従業員は複数の企業で多様な業務を行い、日々成長していくため、見方によっては、企業側がコストをかけることなく、人材は育成されていきます。
こうした従業員の質向上は、本業との相乗効果も生まれ、企業にとっては大きな利点といえるでしょう。
また、パラレルキャリアの構築を推奨することで、優秀な人材の離職を防ぎ、従業員のモチベーションを高める効果も期待できます。
無理に自社に縛りつけて忠誠を求めるのではなく、自己成長を求める従業員に対して、パラレルキャリアを認め労働力を確保することで、生産性の向上や離職防止に繋がることも考えられます。
<デメリット>
- 本業への支障や離職リスク
- チームワークの乱れ
- 就業規則の改正
- 情報漏えい
メリットに「離職防止」とある一方で、リスクも孕んでいます。前述のように、パラレルキャリアは本業との相乗効果を期待できると同時に、バランスが崩れると支障を来す可能性があります。
また、第二の活動が軌道に乗れば、本業から離れて腰を据えて活動したいと思うパラレルワーカーもいることでしょう。そうしたパラレルワーカーの感情は他の従業員にも伝播するもの。そこでチームワークが乱れ、パフォーマンスが落ちることも予測されます。
また、パラレルキャリアを認めるように就業規則を改正する必要があり、手間がかかるという点もデメリットでしょう。
そして最後に情報漏えいです。従業員が複数の企業で仕事をするのは、他社のノウハウを吸収して自社で活用してもらえる反面、自社で得たノウハウを他社で使われることと表裏一体です。
とくに、自社存立の核となるようなナレッジやスキルが他社に流出してしまうと、経営上、大きなリスクを追います。
従業員側にとってのメリット・デメリットとは?
続いて従業員におけるメリット、デメリットも見ていきましょう。
<メリット>
- スキルアップ、キャリア形成
- 人脈の拡大
- 収入アップ
主体性のある活動は、何らかの知識やスキルを与えてくれます。また、本業で身に付けたスキルの市場価値に気付くこともあり「自分の活かし方」を学べるところも利点です。
そして、新しい世界には新しい出会いにあふれています。この人脈拡大は本業でも活かすことができるため、所属企業でのキャリアアップにも役立つかもしれません。
また、副業と違って収入が主目的ではないものの、パラレルキャリアによって本業以外の活動からも収入を得られることも、メリットの一つでしょう。
<デメリット>
- 本業への支障
- スケジュール、健康管理の難易度向上
- 他の従業員からの不理解
パラレルキャリアの生活に慣れるまでは、うまく自己管理できないことが予測されます。忙しさのあまり体調を崩すリスクもあり、本業に支障を来す可能性は否めません。また、企業の業務でトラブルが生じて時間外勤務が必要となったときに、対応できないケースも出てくるでしょう。
上記のような一連の勤務形態から、他の従業員は「本業に身が入っていないのではないか」と思うこともあるかもしれません。パラレルキャリアの理解や認知度が高くない職場においては、人間関係における悩みを抱えるパラレルワーカーが出てくることも危惧されます。
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企業がパラレルキャリアを取り入れる方法
企業がパラレルキャリアを導入する際には、どんな点に着目すべきでしょうか。
■就業規則の変更と、背景やルールの浸透
就業規則の変更は、具体的に副業・兼業の許可、秘密保持義務のガイド策定、就業スタイルに合わせた就業ルールの策定などが挙げられます。
就業規則変更時には従業員への周知は必須ですが、その際には「パラレルキャリアを何故認めるか」という背景や、「パラレルワーカーに求めることは何か」という内容も、きちんとと伝えることが大切です。
■評価指標の明確化
また、本業に支障をきたしていないかを判断する指標を作ることも重要です。客観的で公平な評価制度は従業員同士の信頼関係の維持にもつながります。パラレルキャリアのメリットを享受し、職場内で納得感を醸成させ円滑に進めるには、欠かせない要素です。
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パラレルキャリアの導入事例
さて、従業員・企業に様々なメリット・デメリットがありながらも、パラレルキャリアを認めることで従業員と企業の双方がメリットを享受しているという企業事例を紹介します。
<ロート製薬株式会社>
ロート製薬は2016年に「社外チャレンジワーク」「社内ダブルジョブ」という制度を策定。「社外チャレンジワーク」は副業を認める制度で、就業時間外に収入を伴う仕事をすることが可能となり、「社内ダブルジョブ」制度は就業時間の一部を利用して、他部署での仕事を経験するというものです。
同社では「自立した人」を輩出することが企業の役割だと考えており、ベンチャー精神のような「興す」気概と行動力を持つ人材を育てる目的で、これらの制度を設計。2016年は「社外チャレンジワーク」に60名強の応募があり、薬剤師の有資格者がドラッグストアで店員として働くほか、地ビールの製造・販売会社を設立した従業員も現れました。
<株式会社DeNA>
DeNA は2017年に「フルスイング」と題した人事プロジェクトを開始。
プロジェクトには、社外の副業を認める「副業制度」のほか、従業員と他部署の本部長が合意すれば直属の上司を通さなくても異動が実現する「シェイクハンズ制度」や、他部署の仕事を兼務できる「クロスジョブ制度」などが含まれます。
同社がプロジェクトを実施した背景には、パラレルキャリアを望む従業員を尊重することで、仕事へのモチベーションを高め、本業へ寄与してもらう狙いがありました。
これまで「シェイクハンズ制度」を利用して異動した従業員は30組にのぼり、「副業制度」を利用した従業員のひとりはファッション関連アプリの支援をするなど、さまざまな働き方が実現しています。
参考:
・東洋経済 ロート製薬の「副業解禁」が示す本当の意味
・日本経済新聞 DeNAが副業解禁、社内外でパラレルキャリアを推進
記事まとめ
いかがでしたでしょうか。
パラレルキャリアのメリット・デメリットを理解した上で、いま企業として推進すべきかどうかは企業によって異なるでしょう。また社会環境の変化によって、今後は今以上にパラレルキャリアが普及していくかもしれません。
しかし、重要なことは、自社でパラレルキャリアの導入を決めた場合、その制度改訂の背景やルールが従業員に正しく浸透するには一定の時間がかかります。
そのため、できるだけ早く組織人事のインフラ構築に取り組むことが肝要でしょう。そうすることで、制度の活用がスムーズに進み、従業員の「働きがい」はさらに高まることでしょう。
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