従業員満足度(Employee Satisfaction)とは?意味やメリット、向上させる方法について
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「ダイバーシティ経営の実現」「従業員ストレスチェックの義務化」など企業活動において、顧客満足度の追求だけでなく、従業員に対する施策の実施も求められる時代となってきている。
なぜ企業活動において従業員に対する施策が注目され、「従業員満足度」の追求が必要とされる時代となったのか、その背景や、向上するメリット、ポイントなどをまとめていく。
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従業員満足度(ES)とは?
高度経済成長期以降の大量生産大量消費の時代では、企業はいかに顧客から自社の商品やサービスが選ばれるのかという「顧客満足度(Customer Satisfaction)」が重要視される世の中であった。
一方で、少子高齢化が進み、生産年齢人口(15~64歳の人口)が7507万2000人、総人口の59.5%(2018年)と60%を割った今日、商品やサービスを提供する労働力の確保の重要性が増してきている。
そのため、企業は顧客だけでなく、企業に所属する従業員からも選ばれる「従業員満足度(Employee Satisfaction)」の追求ということも顧客満足度の追求と同様に重要視される世の中となってきている。
では、従業員満足とは何か。従業員満足に関する基礎的な理論としてはよくハーズバーグの二要因理論が用いられる。二要因理論とは、人間の仕事における満足度は、「満足」に関わる要因(動機付け要因)と「不満足」に関わる要因(衛生要因)によって構成されているという考え方である。
「満足」に関わる要因(動機付け要因):「達成」「承認」「仕事そのもの」「責任」「昇進」「成長への可能性」などより高い業績へと人々を動機づけする要因であり、これらが満たされると満足感が高まるが、不足したからと言って不満足に直接つながるものではないと考えられるもの。
マズローの欲求階層説でいえば、より高次の欲求、つまり「自己実現欲求」「承認欲求」「社会的欲求」の一部を満たすものと考えられる。
「不満足」に関わる要因(衛生要因):「会社の政策と管理方式」「監督」「賃金」「対人関係」「作業条件」など環境に起因する要因であり、これらが不足すると不満足につながる一方で、一定水準を超えて満たされても満足度の向上にそれ以上つながるものではないと考えられるもの。
マズローの欲求階層説でいえば、より低次の欲求、つまり「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」の一部を満たすものと考えられる。
※一般には、従業員満足度とは、従業員が待遇や環境、報酬に対してどれだけ満足しているかを示し、エンゲージメントとの大きな違いは、その「結びつきの方向性」と言われている。以下では従業員満足度とエンゲージメントを区別せず、従業員の結びつけの方向性として記載する。
従業員満足度が重視されている背景
近年、従業員満足度の向上に努める企業が増えている。その大きな背景として、労働人口の減少が挙げられるだろう。日本では少子高齢化の進行にともない、労働人口が減少している。あらゆる企業が人手不足に悩み、優秀な人材の獲得に苦労しているのが現状だ。厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が公表した将来推計では、将来の生産年齢人口(15~64歳)は、2032年、2043年、2062年にはそれぞれ7,000万人、6,000万人、5,000万人を割り、2070年には4,535万人まで減少すると予測している。
※参考:日本の将来推計人口(令和5年推計)|国立社会保障・人口問題研究所
https://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2023/pp_zenkoku2023.asp
ただでさえ労働人口が減少しているうえ、昨今は労働市場において流動化が加速しており、若い世代にとっては転職が当たり前の時代になっている。このような時代において優秀な人材を確保し、長く定着してもらうために、多くの企業が従業員満足度を重視するようになり、従業員満足度を高めるべく、あの手この手を尽くしている。従業員満足度を高めることで、他の企業よりも優秀な人材を引き寄せやすくなり、離職率の低減も期待できる。
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従業員満足度が企業に与える影響
従業員満足度が顧客満足度や業績に影響を与えるのではないかという仮説を持っている方は少なくないだろう。実際に従業員満足度が企業に与える影響については10年以上前から先行研究がなされている。
接客業における従業員満足度と顧客満足度の関係(小野譲司,1995,)やホテル業における従業員満足度と顧客満足度、業績との関係(鈴木 研一, 松岡 孝介,2014,)など、第3次産業を中心に先行研究は進んでおり、従業員満足度の向上が企業に様々な影響を与えることが示されている。
慶應義塾大学 大学院経営管理研究科/ビジネス・スクール 岩本研究室とリンクアンドモチベーション社の共同研究でも「エンゲージメント」の経営への影響度が営業利益率や労働生産性と相関があるということが発表されている(https://www.lmi.ne.jp/about/me/finding/detail.php?id=14)。
【ES(従業員満足度指数)と登記営業利益率との相関性】
【ES(従業員満足度指数)と労働生産性(指数)との相関性】
従業員満足度が高い場合の影響
従業員満足度が高い場合、様々なものに影響を与える。その一例が退職率の抑制だ。リンクアンドモチベーション社ではグループ会社に対する調査で、従業員満足度が高い組織ほど退職率が低くなるという傾向が見られた(https://www.lmi.ne.jp/about/me/finding/detail.php?id=10)。
(※1)各法人の略称、法人名及び事業概要は上記の通り。
(※2)ALT:「Assistant Language Teacher」の略で、小・中・高等学校の外国語指導講師を指す。
リンクアンドモチベーショングループに所属する法人のうち、以下の法人に対象を絞り分析を行った。
(※1)各法人の略称、法人名及び事業概要は上記の通り。
(※2)ALT:「Assistant Language Teacher」の略で、小・中・高等学校の外国語指導講師を指す。
図1から「ESが高いほど退職率が低い傾向にある」ことがわかった。この結果から、現在のエンゲージメントの高低に関わらず、「エンゲージメント向上は退職率低下に寄与する」と考えられる。
また、従業員満足度と階層別退職率にも一定の相関があることがみられた。
表2、表3からLMI/LAI いずれの法人でも、「メンバー層」だけでなく、「ミドル層」において強い逆相関がみられた。この結果から、エンゲージメント向上は、業務遂行を担う「メンバー層」だけでなく、管理監督を担う「ミドル層」の退職率低下にも寄与すると考えられる。
(※5)当グループにおける各階層の定義は以下の通り。
シニアマネジャー:管理監督者(管理職)として、事業部全体のマネジメントを行う。(入社10~15年目)
ミドルマネジャー:管理監督者(管理職)として、事業部内におけるグループのマネジメントを行う。(入社5~15年目)
リーダー:業務遂行者として、個人成果だけでなく、チーム成果を追求する。(入社3~7年目)
メンバー:業務遂行者として、個人成果を追求する。(入社1~5年目)
なお、母集団の数が分析精度を満たさない場合は、今回の分析対象外とする。
このように従業員満足度の向上は退職率に対しても一定の影響があるものであることがわかる。
従員満足度が低い場合の影響
では、従業員満足度が低い組織ではどのような影響があるのだろうか。リンクアンドモチベーションでは、組織を見るメガネとして、「企業が直面する3つのモード」というフレームを置いている。
事業の立ち上げに成功した企業には、「拡大モード」「多角モード」「再生モード」という3つのモードを順に辿ることになる。
「拡大モード」は、成長パターンを一気に推し進める時期であり、顧客基盤の拡充と商品サービスの標準化がテーマとなってくる。
「多角モード」は、安定成長のため事業の複線化を図る時期であり、旧事業の差別化と派生事業への進出がテーマとなってくる。
「再生モード」は、新たな価値創出を模索する時期であり、顧客の取捨選択とビジネスモデル再構築がテーマとなってくる。
それぞれのモードへのシフトチェンジ時におけるモチベーション低下症例はほぼすべて事前に想定することが可能である。各モードへのシフトチェンジに起こるモチベーション低下症例は以下のようにまとめることができる。
拡大モードにおけるモチベーション症例
組織の複雑性が増したことに起因する症状のうち、ここでは3つ紹介する。
・経営トップ依存症
従来のトップダウンによる事業成功が組織内に定着し、組織内にトップや経営幹部に対する依存心が醸成される。
中途半端な権限委譲では、結局トップが意思決定をしなければいけなくなるが拡大ステージで意思決定のスピード・量が求められる中で追いつかなくなり、結果としてメンバーのモチベーションダウンを招くケースが多い。
・マネジメント不全症
組織内の結節点を担うべきマネジャーがマネジメントに時間を割く余裕がなく、プレイヤー化してしまう。
マネジメントが機能しないことから、肥大した業務量を効果的・効率的に遂行するための組織内での役割分担が不明確な状態を招く。従業員は、業務範囲や管理範囲に関するストレスを抱えてしまう。
・業務過多疲弊症
急激な業務拡大に伴い、業務を支え遂行するリソースが慢性的に不足する。また人員を増大しても即効性は期待できず、当分の間は特定の社員に多くの業務が集中する。
そのため社内に疲弊感が蔓延し、モチベーションの低下を招く。
多角モードにおけるモチベーション症例
多様化と距離感に起因する症状のうち、ここでは3つ紹介する。
・アイデンティティ喪失症
事業、地域、職場、職種が細分化され、それに伴ってコミュニケーションも分断される。細分化されている全体を束ねる「自社の存在意義」「共通の価値観」は欠乏感が強くなる。
1人ひとりの全体に対する効力感や参画感が薄れることから、アイデンティティの喪失とそれに伴うモチベーション問題が引き起こされる。
・マネジメント画一症
多角期では、目標も多様化し、組織を構成する人員のカラーも多様化する。結節点を担うマネジャーのマネジメント技法が画一的では組織成果を極大化できない。
新たな価値観をもつ人材が、 画一的なマネジメントに対して「閉塞感」を覚え、モチベーションに 支障をきたすケースが多い。
・既存事業疲弊症
将来を見据えた新規事業への参入を支えているのは旧事業の利益である。それにもかかわらず経営トップの関心や全社での注目が新規事業に集中し既存事業を支える人材から不平の声があがる。「業務過多の割には注目されない」ことから疲弊感によるモチベーションダウンが起こる。
再生モードにおけるモチベーション症例
過去の成功体験に基づく保身やセクショナリズムに起因する症状のうち、ここでは3つ紹介する。
・セクショナリズム横行症
それぞれのセクションで個別最適・内部指向・自己組織防衛という意識が強化される。顧客満足の実現に向けた機能連関は阻害され、最悪の場合は近隣の職場間での対立が表面化する。
このような 縄張り意識と全体最適の視点の欠落が、顧客視点欠落症との合併症を引き起こす。高い視点を持った従業員のモチベーションは組織の壁によって壊される。
・既決感疲弊症
成功を導いた過去の慣性が強く、現在のパラダイムを変革することに対する恐れが従業員の中に生まれる。
これが環境に順応するための変革や新ビジネスモデルの模索を妨げ、組織内に「どうせ・・・・○○」という諦めと無力感がはびこり、進取の気持ちを持った人材のモチベーションまで下げてしまう。
・顧客視点欠落症
個別最適、内部指向が強まり、本来最優先に考えなければならない顧客の存在が後回しになる。内部組織の運営も企業戦略も、顧客優先ではなく内部優先になり現場で顧客の話が聞かれなく なる。
当然、顧客からの支持も弱まり、顧客接点を担う現場従業員のモチベーションが大きく下がる。
従業員満足度を構成する要素
従業員満足度の向上を図る際に知っておきたい理論・考え方を紹介する。
欲求5段階説
欲求5段階説とは、アメリカの心理学者であるエイブラハム・マズローによって提唱された理論であり、人間の欲求を5つの階層に分けて説明するものである。
5つの階層は次のとおり、下から「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」となっており、マズローは低次の欲求が満たされないと高次の欲求を意識するのは難しいと説いている。
・第一階層「生理的欲求」
生命維持に直結する、人間のもっとも基本的な欲求。食事、水分、空気、睡眠、体温調整などが含まれる。
・第二階層「安全欲求」
身の安全や安心して暮らすことを求める欲求。安全な住環境、仕事の安定、健康や経済的な安定などが含まれる。
・第三階層「社会的欲求(所属と愛の欲求)」
「組織の一員でありたい」「社会から必要とされたい」という欲求。友情や家族からの愛情、また組織への帰属感などが含まれる。人は他者や組織とのつながりを求め、愛情を受けることで心の安定を得るとされる。
・第四階層「承認欲求(尊重と認知の欲求)」
「人に認められたい」「尊敬されたい」という欲求。人は自分自身を尊重し、他者からの承認を得ることで自尊心が高まる。学業の成功や仕事における昇進などは、承認欲求の代表的な例だろう。
・第五階層「自己実現欲求」
「理想の自分を実現したい」という欲求。個人的な成長や達成、人生の目的の追求などが含まれる。
二要因理論
二要因理論とは、アメリカの臨床心理学者であるフレデリック・ハーズバーグによって提唱された理論で、労働者の満足や不満足を引き起こす要因に関する理論である。
二要因理論では、労働者の満足度やモチベーションに影響を与える要因を「衛生要因」と「動機付け要因」に分類している。
・衛生要因
衛生要因は、働きやすさをつくる環境要因であり、「会社の方針と管理」「監督」「監督者との関係」「労働条件」「給与」などが含まれる。
これらの衛生要因が満たされていないと、労働者は不満を抱き、モチベーションが低下してしまう。
一方で、衛生要因が満たされることで労働者は不満を感じなくなるが、モチベーションが高まるわけではない。
・動機付け要因
動機付け要因は、労働者のモチベーションや働きがいを引き出す要因で、「達成感」「承認」「仕事そのもの」「責任」「昇進」などが含まれる。これらの動機付け要因が満たされると、労働者は満足感を覚え、モチベーションが上がっていく。
ハーズバーグは、組織が労働者のモチベーションを高めるためには衛生要因を満たすだけでは不十分であり、動機付け要因を満たすことが重要であると強調している。
4P分析
目標の魅力
組織が達成したい「目標」への魅力。
その会社で大切にしている価値観や理念、将来の姿であるビジョンなどで束なっている状態。
活動の魅力
組織が行っている「活動」への魅力。
事業内容や仕事そのものや仕事を通じて得られる達成感、創意工夫による発見などで束なっている状態。
人材の魅力
組織の内部にいる「構成員」と接することで得られる魅力。
価値観や考え方が近しい仲間が多い、刺激的な同僚や尊敬できる人がいるなどで束なっている状態。
特権の魅力
組織に属することで得られる「特別な権益」に対する魅力。
ステータス・名誉の他、個人の生き方・ライフスタイルをサポートする仕組みの存在などで束なっている状態。
従業員満足度の調査方法
従業員満足度はどのような方法でとられているのだろうか。従業員満足度調査を実施する企業は年々多く増えてきているが、その多くは従業員がアンケートに回答するアンケート方式となっている。
アンケート項目については個社別にオリジナルの設問を設定するものから、全社共通のアンケート項目を設定しているものなど、様々あり、その設問数は数十問から百問超のものまで多岐にわたる。
従業員満足度アンケートの実施
従業員満足度アンケートの実施に当たっては以下の6点を考えることとなる。
<目的>
何のために行うアンケートなのか、どのような仮説を検証するために行うのか。
従業員満足度調査を取ったけれどうまくいかなかったという会社の多くは従業員満足度調査を行うこと自体が目的化してしまっているケース。
何のために行う調査なのかを明確に社内で共通認識をしておくことが重要である。
<対象>
上記目的を達成するためにはどの対象が適当なのか。
正規社員だけでよいのか、契約社員や派遣社員を含めるべきなのか。アルバイトやスタッフはいれたほうが良いのか。
例えば飲食店などの店舗型ビジネスであれば、職場の風土は正規社員のみによって創られるものではないと考えられるため、アルバイトやスタッフまで対象とした方が適当であると考える会社が増えてきている。
<役割>
従業員満足度アンケートの結果に対して誰がどのように施策に落とし込む責任を持つのか、どの階層の結果を落とし込むのが適当であるのか、などを事前に設計しておくことが重要である。
従業員満足度アンケートを行って失敗したという会社から最もよく聞く声は、結果を従業員に開示していなかったというものである。従業員満足度アンケートを行う際にはその後の活用の仕方を含め、事前に役割設計を行うことが重要である。
<方法>
従業員満足度アンケートをとる際には、設問項目だけではなく、WEBで行うのか、マークシートで行うのかという「回答方式」や「分析軸」をどのように設計するのかなどを事前に考えなければならない。
「分析軸」の検討はただ設定するのではなく、よくある傾向などをもとに仮説を立て、設計することが望ましい。
<基準>
結果を分析する際に漏れがちなことだが、従業員満足度アンケートをとる際には「回答率」の目標を設定しておくことが好ましい。結果が良かったとしても「回答率」が低かった場合は施策の重要度が伝わっていなかったり、組織内で二極化が生じている可能性がある。
「回答率」目標を設定しておくことが従業員満足度アンケートをより生かすためには重要になってくる。
<納期>
「準備期間」「回答期間」「結果集計期間」などを考えることが重要になる。
「準備期間」は通常1か月前後かかるものであるが、その期間にはただ作業をするだけではなく、先述の5つのポイントについても整理し決めておくことが重要となる。
「回答期間」は通常1週間~2週間で設定することが多い。回答期間の長さに回答率が比例するわけではないため、長期休暇期間などを除けば回答期間は1週間~2週間程度に設定することが望ましい。
「結果集計期間」は翌営業日には集計されるものから数か月かかるものまでさまざまある。
これはサービスによって異なるため、導入を検討する際には結果集計にどの程度時間がかかるかを確認することが良いだろう。
「会社プロフィール」から分析
従業員満足度を分析する際に陥ってしまいがちなことがある。それは従業員満足度調査の結果分析から始めてしまうことだ。では具体的にはどのように分析をするのだろうか。
リンクアンドモチベーション社の従業員満足度調査では、エンゲージメントスコアという組織の偏差値、そして、それを構成する要素として会社や仕事に対する総合満足度や各項目の期待度、満足度というものが出てくる。
新入社員がよく陥る失敗は項目間の比較や強み弱みといった各論の分析から入ることである。これが分析をする際には大きな誤りとなる。では何から始めればいいのか。全体から分析をしていくというものである。
リンクアンドモチベーション社では従業員満足度を分析する際には「会社プロフィール」から分析をするということだ。売上や利益といった業績、どのようなビジネスモデルなのかという事業内容、従業員一人当たりの売上や利益という生産性などだ。
会社の中での組織での分析でも同様のことが言える。売上や利益といった業績の達成率はどのようになっているのかなどを見ることだ。
これらのものを見ることによって先述した組織モードがどのようになっているのかということを明確にし、陥りがちなことに対する仮説を持つことが重要である。
会社プロフィールから組織モードに対する仮説を持った後は、いよいよ従業員満足度調査の分析に入る。従業員満足度調査の分析に入る際に注意しなければいけないことは全体像から入るということだ。
リンクアンドモチベーション社の従業員満足度調査でいえば、組織の偏差値を示すエンゲージメントスコアを最初に見ることによって組織の状態がどのような状態なのかを仮説を立てることができる。
例えば、相互信頼関係ができており様々な施策を試行錯誤できる状態なのか、信頼関係が崩壊しており上位役職者の関与が不可欠なのか、などだ。これら全体像を捉えてからはいよいよ項目ごとの詳細の分析に入っていく。
このように従業員満足度調査の分析をする際には会社プロフィールや組織プロフィールをまずとらえ、全体像から分析することを意識してほしい。
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従業員満足度を向上させるための方法
リンクアンドモチベーション社では、どのような施策を行っている企業の従業員満足度が向上しているのかを分析した。しかし、施策内容を基軸とした分析では、従業員満足度を向上させるための共通点は見出せなかった。
人事制度の刷新・浸透が従業員満足度向上に寄与している企業もあれば、ミドルマネジャー強化がキーとなって従業員満足度が向上している企業もあるなど、企業の置かれている状況や組織状態によって、有効な施策が異なるためだ。
この分析では、「これを実施すれば従業員満足度が向上する」という施策を見つけることはできなかった。
短期スパンでのサーベイ実施
施策の「内容」ではなく「頻度」に着目して分析を行ったところある傾向が見られた。その結果が、下記のグラフだ。
過去にリンクアンドモチベーション社が、従業員満足度調査を複数回行った、延べ381社のデータを分析した結果だ。縦軸が「1年間に向上したエンゲージメントスコア(企業と個人の相思相愛度合いを示す偏差値)」の平均値、横軸が「サーベイ再実施までの期間」を表している。
サーベイの再実施までの期間が2年以上開いてしまっている企業では、エンゲージメントスコアがほとんど改善していない一方で、半年以内にサーベイを再実施している企業では、平均7ポイント以上向上していることがわかる。
この結果から、「従業員満足度調査を短期スパンで実施することが、スコア向上の秘訣である」と言える。
周囲からのフィードバック
心理学の一つである行動分析学では、適切な行動を継続させるためには「行動した結果に対して、すぐにフィードバックがあること」と「 行動を引き起こすきっかけがあること」の二点が必要だと言われている。
短期スパンで組織サーベイを実施する企業では、マネジャーが改善活動を行ったことがすぐに、次回のサーベイ結果へ反映されるだけでなく、数値が向上した際に、経営層や人事部から褒められたり表彰されたりといったポジティブなフィードバックを得られている。
一方で、行動を行わずに数値が低下すると、経営層や人事部への説明が必要になるなど、ネガティブなフィードバックが発生している。ポジティブ・ネガティブにかかわらず、このようにフィードバックを繰り返すことで、組織サーベイの実施自体が改善活動を引き起こすきっかけになっていると考えられる。
しかし、長期スパンで組織サーベイを実施する企業では、行動の結果に対してフィードバックがないために、活動が継続されない環境になっている。さらには、サーベイ結果が開示されないために、行動を引き起こすきっかけにさえなっていないようだ。
以上から、従業員満足度を高めるためには、頻度高く組織サーベイを実施するだけでなく、サーベイ結果を経営指標として取り入れ、経営層だけではなく現場のマネジャーが一緒になって従業員満足度向上に当事者意識を持つことが重要だと考えられる。
エンゲージメントの概念が浸透している欧米では、週次や月次で実施する高頻度のサーベイを「パルスサーベイ」と呼び、導入する企業が年々増えている。人材獲得競争が過熱の一途をたどる今、近い将来、日本でも頻度高くアンケート調査を行うことが常識となってくるだろう。
評価制度の見直し
従業員満足度を向上させる方法の一つになり得るのが評価制度の見直しだ。
評価制度がずさんなものだったり、曖昧なものだったりすると、従業員は「どうしてこの評価なのか?」「なぜ○○が昇進して、自分は昇進できないのか?」といった不満を覚えがちで、従業員満足度の低下から離職に至る場合も少なくない。
一方で、透明性・公平性が担保された評価制度であれば、従業員は明確な目標設定ができ、目標達成に向けてモチベーションを高めることができる。
コミュニケーションの活性化
従業員満足度を向上させる方法として、コミュニケーションの活性化は重要である。
コミュニケーションが活発な職場では、従業員が「風通しが良い」「自分の意見や提案が尊重されている」と感じるため、従業員満足度が向上しやすくなる。
また、コミュニケーションが活性化することで協力や連携が生まれやすくなり、連帯感が高まることで職場の雰囲気が良くなっていく。
その結果、人間関係が円滑になり従業員満足度の向上が見込めるだろう。
理念・ビジョンの浸透
従業員満足度を向上させる方法として効果的なのが、理念・ビジョンを浸透させることだ。
自社の理念やビジョンに共感している従業員はモチベーションや満足度が高まり、自分の仕事に誇りを持って働くことができる。
多くの従業員が理念・ビジョンを共有していると、みなが同じ価値観のもと、同じ方向を向いて業務に取り組み、職場に一体感が醸成される。
それによって、さらに士気が高まり、従業員満足度が向上するという好循環が生まれる。
従業員満足度を高めている企業の事例
ここでは従業員満足度を向上させた企業の例として、CRM(Customer Relationship Management)のシステムを全世界で提供しているリーディングカンパニーであるセールスフォース・ドットコム社の取り組みを紹介する。
セールスフォース・ドットコム社では、リンクアンドモチベーション社の従業員満足度調査を行ったところ、モチベーション低下の要因は、「仕事のやりがいが見つけにくい状態に陥る」ということだった。
マネジメント側は、別の部署へと異動する前のタイミングで、ハードルの高さに思い悩むのではないかと想定していたが、そのもっと前にモチベーション低下のタイミングがあることが明確になった。
そこで、数字管理が多い状態をやめ、若手が仕事を楽しくするために、2つのことを変えた。
1つ目は数字進捗の管理の話が多かったコミュニケーションに対して、1on1の実施に注力し、個々人のキャリア相談や達成するための戦略をしっかり入れる。メンバーが考えていること、個人として大切にしていることを可視化する取り組みを行った。
そして月4回やるマネジャーとの1on1のうち2回はキャリア相談や仕事の目的などの話に振り切る。これはだいぶ効果があったと担当者は話している。
2つ目は組織のビジョンの変更だ。英語の長文でわかりにくかった以前のものから、3つのシンプルな言葉に変えた。元々はとても長くわかりづらかったものを、「Frontier spirits」「Grit」「FEPP」という短くシンプルなものに変えた。
「Frontier spirits」はすでに浸透していたが、チャレンジしていって新しいものをどんどん見つけていこうという精神。「Grit」はやり抜く力、目標達成に対してどこまでやれるのか、地道に努力することを示す。
「FEPP」はFun・Enjoy・Positive・Passionをくっつけて作った言葉。それぞれ、わかりやすく、合言葉のように社員全員が覚えられるようにしている。
このような2つの取り組みを行った結果、ワースト1だったチームが商談件数トップになった。このチームは全員記名でマネジャーに改善して欲しいところを出すなど、とことん腹を割って話し合ったていた。
その結果、商談数が急上昇し、翌月には7名ものメンバーが初めて目標達成した。それに刺激されて隣のチームでも同じことを実施し、結果として商談金額が一気に跳ね上がった。
今後は数字だけでなく人を育てることにコミットしていきたいと考え、ノウハウをリレーする伝道師として、いろんなキャリアプランを作っていき、人の「The Model」を掲げて取り組んでいるという。
また、現場の声を聞きながらキャリアパスを構成しようとしている。スペシャリスト育成からゼネラリスト育成へというのが今のテーマとして取り組まれている。
まとめ
従業員満足度を高めることは、組織の持続的な成長にとって不可欠だ。
従業員満足度を高めることで離職率が下がり、優秀な人材を引き寄せやすくなる。
多くの企業が理念・ビジョンの浸透やコミュニケーションの活性化、評価制度の見直しなどによって従業員満足度の向上を図っていくことを望んでいる。
従業員エンゲージメントを可視化・改善するモチベーションクラウドはこちら
※参考文献
「小野譲司,1995,サービス・エンカウンターにおける顧客満足と従業員満足の関係, 消費者行動研究」
「鈴木 研一, 松岡 孝介,2014, 従業員満足度,顧客満足度,財務業績の関係ーホスピタリティ産業における検証一, 日本管理会計学会誌」