事業内容 |
小売、ディベロッパー、金融、サービス、およびそれに関連する事業を営む会社の株式または持分を保有することによる当該会社の事業活動の管理 |
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業種 | 小売、建設・不動産、金融、サービス |
企業規模 |
2001名~ |
導入規模 | 2001名~ |
これまで実施していた自社独自のサーベイは職場環境やコンプライアンス状況のモニタリングを主目的としていたため、エンゲージメントの把握に特化したサーベイを導入したかった。
自社独自のサーベイはグループ内での比較しかできないため、人的資本開示を推進するためにも、他社比較ができるサーベイを導入したかった。
会社・業態別にエンゲージメント状態が明らかになり、通常のホールディングス業務のなかでは把握できない課題を発見できた。
期待度と満足度の2軸で測定することで、明確な根拠に基づいた有効な施策を検討することができた。
2024年2月期の有価証券報告書から、エンゲージメントスコアの開示を始めることができた。
イオンは、純粋持株会社であるイオン株式会社およびお客さまの日々のくらしをサポートする企業群で構成される総合グループです。 309社の連結子会社、25社の持分法適用関連会社により構成され、従業員数は約60.0万人(日給月給制社員 約16.3.万人、時間給制社員 約43.5万人)にのぼります(2024年2月末日時点)。
リンクアンドモチベーションは、人的資本情報の開示方針の立案や、「モチベーションクラウド」を活用したエンゲージメントサーベイの実施をご支援しています。エンゲージメントサーベイは、時間給制社員(パートタイマー)や海外勤務の社員含む、グループ全社約60万人を対象にしており、日本最大級の実施規模です。また、サーベイ実施にあたり、グループ各社への説明会実施や、国内外300社以上のサーベイデータを統合・分析するためのスキーム構築などもご支援しています。
「事業および部署の概要」
片寄氏:イオンは、世界14ヶ国、国内外約300社から成り立つ総合グループ企業で、小売業を中心に金融事業やディベロッパー事業、ヘルス&ウエルネス事業など、9つの事業を展開しています。「すべてはお客さまのために」という視点から、笑顔が広がる未来のくらしを創造するというビジョンを掲げています。イオン株式会社は、ホールディングス会社として、各事業会社の管理や政策などの意思決定を担っています。
人事企画部の役割は、イオングループの従業員が元気に働ける環境づくりを推進することです。ホールディングス会社として各社の実態を把握したうえで、各社に付加価値のある提案をしていくことが我々の重要なミッションです。
浅田氏:当部署は人的資本開示の主管部署としての役割も担っており、従来から各事業会社の人事データの集約や分析、労務リスクの管理等を実施してきました。また、開示にあたっては、イオンの基本理念に基づき、人材に対する考え方をどのように表現するべきかを協議し、独自の重要指標を設計しています。今後も「イオンらしい」人的資本開示と、グループの持続的な成長に向けた施策の推進が重要であると考えています。
「エンゲージメント向上に取り組む背景」
片寄氏:当社がエンゲージメント向上に注力するようになったのは、大きく2つの背景があります。一つは、当社の人に対する考え方です。イオンは基本理念の中で、小売業は「人間産業」であると捉えており、発展力の源泉は「人」であると考えています。従業員こそが、経営戦略を実現していくうえでもっとも根源的な資本になります。その従業員が「日々どのような心持ちで仕事をしているのか?」ということ、言い換えればエンゲージメント状態を把握することは会社として必須であると考えたためです。
もう一つは、労働市場で選ばれる企業になるためです。少子高齢化にともなう労働人口の減少など、ますます厳しさを増す労働市場のなかで、これまで当社は従業員の離職を防ぐために「リテンション」を重視した施策をおこなってきました。しかし、これからは従業員や求職者を惹きつける「アトラクション」を重視した施策によって、労働市場で選ばれる企業になっていきたいという思いがありました。そのためには、エンゲージメント向上に向けた取り組みが不可欠だと考え、今回モチベーションクラウドの導入に至りました。
「モチベーションクラウドを選んだ理由」
浅田氏:これまでは、自社独自のサーベイを年に1回実施していましたが、職場環境やコンプライアンス状況のモニタリングを主目的としたサーベイであり、エンゲージメントの把握に特化したものではありませんでした。どちらかと言えば、負を解消するための仕組みだったと言えます。ですが、今後はより「人」の力を引き出していくため、プラスを創出するような仕組みが必要だと感じていました。
また、自社独自の設問でサーベイを実施していたため、グループ内での比較はできましたが、他社や業界全体など「外部と比べてどうなのか?」という検証はできていませんでした。人的資本開示を進めるなかで、対外的にエンゲージメントを開示していくことを考えると、世間で広く使われており、グループ各社のエンゲージメントを外部と比較できるサーベイを導入する必要がありました。
特に、当グループは国内だけでなく海外にも多数の会社がありますし、業態も小売から金融、ディベロッパーなど多岐にわたります。さらには、職種や雇用形態も多様です。そのため、グループ全体だけでなく、企業や属性ごとにマクロデータと比較し、課題特定できることが重要でした。
様々なサーベイがあるなかでモチベーションクラウドを選んだ大きな理由は、国内のエンゲージメント市場において圧倒的なシェアがあり、膨大なデータベースを活用できることです。課題として捉えていた外部との比較可能性を担保でき、「エンゲージメントスコア」や「エンゲージメント・レーティング」という指標で各社・各属性の現状や課題を把握できることに魅力を感じました。
加えて、御社(リンクアンドモチベーション)には、イオングループの人的資本開示方針の立案に関してもサポートしていただいていました。イオングループが人的資本経営で実現していきたいストーリーを十分にご理解いただいていたため、当社に最適なご提案をいただけました。
「サーベイを実施してみて」
浅田氏:サーベイの結果を見て印象的だったのは、業態別・会社別のエンゲージメントの実態がスコアやレーティングといった指標で如実に現れたことです。これまでもサーベイを実施していましたが、今回初めて「組織状態を可視化できた」という実感があります。
過去のサーベイでも事業会社ごとに差は見られましたが、モチベーションクラウドほど大きな差は確認できませんでした。適切な設問でサーベイをおこなうことで、「これほど詳細に組織状態が明らかになるのか」という驚きがあったと同時に、組織の実態を把握する重要性をあらためて認識させられました。
全体のエンゲージメントスコアは想定に近いものでしたが、今まで大きな問題はないと思っていた会社・業態のスコアが低く出るなど、通常のホールディングス業務の範囲では把握できないような課題を発見することができました。モチベーションクラウドでなければ見えなかった課題だと思います。
また今回のサーベイでは、時間給制社員(パートタイマー)や海外のグループ会社の結果にも注目していました。イオンは時間給制社員の比率が7割以上を占めていますが、日給月給制社員に比べ、時間給制社員は流動性が高いという現状があったため、「雇用形態の違いによってエンゲージメントにどのくらいの差があるのか?」という点は気になっていました。今回一定の結果が見えてきましたが、今後も注視すべきポイントだと思っています。
海外のグループ会社で実施するサーベイは、御社にご支援をいただきながら11言語に翻訳して実施しました。事前に、海外のほうがエンゲージメントスコアが高いというお話を伺っていましたが、想定していた以上に高いスコアが出ましたし、分析内容について海外事業会社のサーベイ担当者からも肯定的なコメントが寄せられました。それ自体は喜ばしいことですが、我々がもっと勉強して、国内の従業員との考え方や価値観の違いなどを理解していかなければと感じました。そのうえで、国内事業会社のスコアの改善につなげていきたいと思っています。
「モチベーションクラウドの価値」
浅田氏:私が把握している限りでは、「期待度」と「満足度」の2軸で測るエンゲージメントサーベイは、御社のモチベーションクラウドしかありません。期待と満足のギャップから、各組織の強み・弱みが明らかになるのは、モチベーションクラウドの大きな価値だと思います。
自社独自のサーベイは満足度しか分からなかったため、「本当にこの施策で従業員が望む改善につながるのだろうか」といった不安がありました。ですが、従業員の期待が可視化されるモチベーションクラウドであれば、明確な根拠に基づいて有効な施策を検討することができます。実際に、今回のサーベイ結果を見た各社は、「この施策は従業員の期待と少しズレていたな」というような気付きを得ることが可能になりました。
また、グループとして人的資本開示を推進するなか、2024年2月期の有価証券報告書より、エンゲージメントスコアの開示を始めることができました(※)。モチベーションクラウドは比較可能性のあるスコアを瞬時に得られるため、今回のスムーズな開示につながりました。
※ イオン株式会社「2024年2月期 有価証券報告書」 37ページ
「モチベーションクラウドの導入にあたって工夫したこと」
浅田氏:国内だけでも130以上の会社があるため、事業別に課題が異なるのはもちろん、エンゲージメントに対する捉え方も各社で差がありました。ホールディングス会社の宿命とも言えることですが、こちらの意図が正しく伝わらないと、事業会社側はどうしても「やらされ感」での対応になってしまいます。そのため、各事業会社にご理解をいただくための説明や事前準備に多くの時間を割きました。
特に、イオングループとして成し遂げたいことや今回の刷新に至った背景を、いかに納得感を持って受け取ってもらえるかが重要でした。そのために、エンゲージメントを改善する重要性や、グループ全体で改善活動に取り組むメリットなどを丁寧に伝えていきました。
また、いかに各社の負担を抑えられるかも重要でした。以前のサーベイの設問数は30問でしたが、モチベーションクラウドは80問以上あります。しかも、相当な人数が対象になり、そのうち40万人近くがパートタイマーです。社内からも、通常業務が圧迫されるなど従業員の負担増に対する懸念が出ていました。
従業員の負担を軽減するため、PC、タブレット、スマートフォンと複数の端末で回答できるようにしたほか、インターフェースにも配慮しました。基本的にはスクロール選択式で回答できるので、早い方であれば15分程度で終わります。サーベイの画面を共有しながら、「意外と簡単なんだ」というように、一つひとつ理解を得ながら導入準備を進めていきました。
「今後、モチベーションクラウドで実現したいこと」
浅田氏:今回、初めて各社のエンゲージメント状態が可視化されましたが、まだまだ各社によってエンゲージメントの捉え方に差があります。今後は、あらためてグループとしてエンゲージメントの捉え方を定義し、各社に伝えていきたいと思います。
スコアが望ましくなかった会社は危機感を持っていただく必要がありますし、我々も「弱みをどのように改善していくのか?」というところまで入り込み、資料を提供するなど、改善活動を推進していきたいと思っています。
片寄氏:今回のサーベイで各社の健康状態が如実に現れました。非常に低いスコアが出た会社もありました。ただ、これは従業員が正直に回答した結果であり、ある意味で「従業員から会社・グループへのメッセージ」だと思っています。だからこそ、真摯にメッセージを受け止めて、今後の改善につなげていかなければいけないという思いを新たにしました。
浅田氏:会社によってエンゲージメントの捉え方に差があると申し上げましたが、エンゲージメントが従業員の定着率や生産性の向上につながる重要な指標であると認識している会社は、モチベーションクラウドの導入を歓迎してくれました。サーベイの結果を受け、個別にリンクアンドモチベーション社と契約をして、エンゲージメント改善の取り組みをスタートする意欲的な会社も出てきています。
また、主に上場企業ですが、我々のところに「人的資本開示の対応を進めたいが、どのように進めていいのか分からない」といった相談が寄せられることも増えました。実際に、リンクアンドモチベーション社のご支援のもと、人的資本開示方針の策定に着手している会社もあります。
このような動きが見られるようになったのは、我々ホールディングス会社として非常に喜ばしいことです。上場会社・非上場会社にかかわらず、このような動きを拡大していくことは、我々の職責の一つであると認識しています。
「今後の展望」
片寄氏:冒頭でお話ししたとおり、イオングループの発展力の源泉は「人」です。お客さま満足を生み出すためには、第一に従業員のエンゲージメントを高めることが不可欠です。「イオングループで働きたいな」と思ってもらえるような様々な取り組みを推進するとともに、従業員を大切にする会社であることを、社内外に発信していきたいと思っています。
浅田氏:今回のサーベイを単なる定点観測で終わらせないようにするには、各社に次のアクションを起こしてもらえるような仕組みづくりが必要です。各社が自社のエンゲージメントに関心を持ち、「どうすればエンゲージメントを高められるか?」を自律的に考えて改善に動けるよう、エンゲージメントに関する取り組みを人事戦略に落とし込むことを検討しています。
このような取り組みこそが、会社と従業員の信頼関係をつくり、理念への共感を醸成し、自社への貢献意欲、ひいてはお客さまへの貢献意欲につながるものであると考えています。グループ全体で60万人の従業員を雇用しているイオンだからこそ、エンゲージメント向上に取り組むことには大きな意義があります。今後も「従業員こそが最大の資産である」という基本理念に基づき、エンゲージメントを重視した経営に取り組んでいきたいと思います。