事業内容 |
福岡県久留米市で就労継続支援事業所A型を運営。特別支援学校卒業後に雇用に結びつかなかった方や一般就労を目指す方など、さまざまな障害特性を持つ施設利用者(以下、利用者)の就労訓練・支援を行なう。 |
---|---|
部署の業務内容 | 就労訓練を受ける「利用者」と、就労訓練を提供する「職員(指導員)」が両者とも同一法人にて、被雇用者として共存しているのが特徴。訓練の内容は、定期清掃、家具のリメイク、介護施設での補助業務、動画編集等。 |
業種 |
サービス |
企業規模 | 11名~30名 |
部署規模 | 11名~30名 |
取り組んだ組織課題 |
内部統合(目標達成意欲に課題) |
約1年間でのエンゲージメント スコアの変遷 |
39.5 ⇨ 71.4 |
周囲への不平不満が続出し、利用者・職員ともに離職率が高い状態だった。
ノルマをこなすことに必死で、利用者の多様性を活かさない仕事の進め方になっていた。
利用者・職員の全員が関わって組織運営や事業計画について決めていく方針にした。
毎日の作業を利用者本人に選択・決定してもらい、意志を持って働けるようにした。
チーム全体で経験やノウハウを共有することで作業効率が向上し、自治体から支給される報酬が昨対比180%に伸長した。
モチベーションが向上した利用者が新たな利用者を呼び込む好循環が生まれ、利用者数が昨対比180%に伸長した。
「抱えていた課題」
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で事業転換を迫られ、利益が出にくい仕事をメインに請け負うようになりました。利用者 (就労訓練を受ける施設利用者) が時間内に終えられなかった仕事を職員(就労訓練を提供する指導員) が代わりにおこなうような状況が続いたこともあり、「誰かが怠けているのではないか?」「できない人のせいで自分が大変・・・」といった周囲への不平不満が続出していたのが当時の状況です。利用者も職員も定着せず、次々と離職者が出ていました。
利用者は一人ひとり、作業量やスピードなどに差があり、必要とするサポートも異なりますが、当時はノルマをこなすことに必死で、多様性を無視した仕事の進め方になっていたと思います。
就労支援の本来の在り方は、利用者がサービスをうまく活用しながら仕事の訓練を積んだり、自分らしい生活を送ったりするサポートをすることです。しかし、職員にはどこか「できないことはやってあげることが良いことだ」という考えがあり、「利用者は、これができないのではないか?」「これをしてしまったら、利用者が悩むのではないか?」など、「できるかどうか」「悩むかどうか」を利用者本人ではなく、職員主体で考えた結果、過剰な支援をして自立を妨げているようなところもありました。
「改善のためのアクション」
改善のための取り組みの軸にしたのが、利用者に「権利」と「責任」を持たせることです。
「権利」を持たせる取り組みとしては、利用者に入社前の経験やノウハウ、やりたいことなどをシェアしてもらい、利用者・職員全員が関わって組織運営や事業計画について決めていく方針に変えました。これは、利用者や職員が相互理解を深めることで、誤解や不一致をなくすことができると考えていたからです。それにともない、職員会議は廃止し、利用者・職員の全員が参加するミーティングに変更しました。
また、従来は利用者の特性を考慮して職員が作業を割り振っていましたが、利用者からは「やらされている」「指導してくれないと分からない」といった、他責にする発言が目立ちました。そのため、作業内容を利用者本人に選択・決定してもらうことにしたんです。これは、自分自身の選択に対して「責任」を持ってもらう狙いがありました。
当時の仕事は、利用者に最低賃金を支払うのも大変なレベルでしたが、利用者は自分の作業がいくらになるのかも知らないまま、日々仕事をしていました。「どれだけ仕事をすれば採算が取れるのか?」なんて考えられていなかったですし、職員も「それは会社の考えることでしょう」というスタンスでした。
仕事を「自分ごと」として実感してもらいたいと考え、「あなたのお給料から逆算して、この作業は何分で終わらせる必要があるのか」といったことを、全部、表を作って計算してもらいました。そのうえで、「この仕事に使える時間・人数はこれだけですが、できますか?」と尋ね、利用者に決めてもらうようにしたんです。
職員に対しても同じです。利用者にやってもらう仕事は職員が獲得してくるのですが、当時は、どんなに安い仕事でも交渉することなく安請け合いしていました。ですから、「この仕事を引き受けたらこれだけ赤字になりますよ。これで、あなたのお給料を払えますか?」とはっきり伝えるようにしました。
「組織の変化ともたらされた成果」
自治体から支給される障害福祉サービス等報酬は、昨対比180%という結果になりました。これは、チーム全体で経験やノウハウを共有することで作業効率が向上した結果だと考えています。
利用者は、自分の意志を表明したり、自分で仕事内容を決定したりすることで、モチベーションの高い状態を保てるようになりました。その結果、利用者が新たな利用者を呼び込むという好循環が生まれ、利用者数も昨対比で180%と伸長しています。職員の離職率も非常に高い状態が続いていましたが、取り組みを開始してからは一人も辞めていません。
利用者も職員も関係なく、みんなが発言する機会が増えたことによって組織に活気が生まれ、意見やアイデアを出しやすくなりました。問題に対しても、今はチーム全体で解決していこうという雰囲気があります。昔はみんな「こうでなければならない」という思考にとらわれていましたが、今は「こうしたい」「やってみよう」という姿勢に変わり、積極的に挑戦できる風土が生まれつつあります。
モチベーションクラウドのサーベイでは、ずっと「顧客基盤の安定性」が弱みとして出ていました。それを受け、「これからどうやって顧客基盤を強固にしていこうか?」と、みんなでアイデアを出し合った結果、クラフトビール醸造所や給食センターの運営という大きな事業に取り組むことが決まりました。
このような成果が生まれたのも、利用者や職員が「給料が出るのが当たり前」という感覚でなく、「給料は自分で稼ぐもの」という意識に変わったのが大きいのかなと思っています。会社の仕組みや、利益・経費など経営のことを全部オープンにした結果、当事者意識が芽生え、自分たちで考え、率先して仕事を進めてくれるようになりました。
組織改善の取り組みのなかで印象に残っているのが、これまで全然話さなかった利用者から、「愛優子さんが来て、ファステラはすごく変わりました」と言われたことです。「経営のことをこんなに丁寧に教えてもらうことは今までなかったし、やりなさいと言われたことをやるのが仕事だと思っていました」「自分がやりたいことを考えるのは、最初は苦しかったけど今はすごく楽しくて、自分の状態も良くなりました」というようなことを言われたんです。この言葉は本当に嬉しかったですね。たしかに、以前は常に入院している利用者が一定数いましたが、今は一人もいません。入院率が0%になったのも、取り組みの大きな成果だと捉えています。
以前の利用者は、自分のやりたいことを考える機会もなく、ただ言われたことをやるだけの「パワーレス」な状態でした。今は、「こうしたい」「やってみたい」がどんどん出てくる状態です。他の事業所だったら、「あの利用者はわがままだ」と言われるかもしれませんが、私にとっては「やりたい」と言ってもらえるのがいちばん嬉しいことです。
自分がやりたいことなら責任を持って取り組めますし、楽しみながらできますよね。ですから、私は「失敗してもいいから、やりたいんだったらやりなさい」というスタンスです。「それで失敗しても、誰かが死ぬわけじゃないんだから」が口癖になっていますね。ただ、「ちゃんと計算して、ペイできるか考えてね。会社なんだから」とは言っています(笑)。
組織改善を進めるうえで、モチベーションクラウドは欠かせないツールでした。サーベイを取ると「今こういう組織状態で、ここが強い・ここが弱い」というのが明確に分かります。ですから、「じゃあ、次はいつまでに何をしよう」という目標も設定しやすいですし、行動したことを評価しやすいのも良いですね。ファステラは小さな会社ですが、大企業も含めた偏差値が出てくるので、「小さい会社だけど負けないぞ」とモチベーションも上がります。
「今後の展望」
利用者は一般就労が目標なので、利用者数が減るのは必ずしも悪いことではありません。一般就労ができれば、それは「卒業」ですからね。
もちろん、利用者が他のA型事業所に移るケースもあると思います。そのときに、「あの人が嫌いだから」「ファステラが嫌だから」という理由で移ってしまうのは残念です。「ファステラでやりたいことを見つけたから、そのために別の事業所に行く」という形であってほしいですね。ポジティブな離職であれば、どんどん増えてほしいと思っています。
逆に言うと、もしファステラで我慢している利用者がいるのであれば、その人の気持ちを整理して、「どう生きたいか?」「何をやりたいのか?」を見つける支援をしなければいけません。利用者に限らず職員もそうですが、ファステラが「どう生きたいか?」を考えるきっかけになり、その人のキャリアを支援することができれば、それがいちばんいいなと思います。