事業内容 |
自動車ディーラー |
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部署の業務内容 |
ショールームでの顧客対応。カーライフサポートをする営業部隊。 |
業種 |
小売 |
企業規模 |
101名~300名 |
部署規模 |
~10名 |
取り組んだ組織課題 |
組織風土 |
約1年間でのエンゲージメント スコアの変遷 |
73.6 ⇨ 82.0 |
セールス部門は、トップセールス以外の目標達成意欲が低下し、チームの目標達成率も下がっていた。
受付スタッフは「お客様を怒らせなければ大丈夫」という低い基準になっていた。
スタッフの仕事ぶりを動画にして家族に届ける「社員VTR」を制作した。
リーダーが毎朝5分、他部署のメンバーに業務外の話をする「5分間トーク」をおこなった。
「指摘」という言葉を使うのをやめて、「アドバイス」と言うようにした。
トップセールスが異動した穴を最小限に抑え、一人あたりの販売台数が40.3台から41.6台に増加した。
「上意下達」の雰囲気が和らいでコミュニケーションが円滑になり、スタッフからの提案など主体的な動きが増えた。
イベントに積極的に参加するなど、会社への帰属意識や参画意識が高まった。
「抱えていた課題」
谷口氏:弊社はいわゆる「カーディーラー」で、営業部門と、受付や整備などのサービス部門の大きく2つの組織で構成されています。
私は、3年半ほど前に奈良店の店長に着任したのですが、当時は業績重視の風潮が強く、トップセールスと呼ばれる人と、そうでない人の間に大きな差がありました。組織として「こういうふうにやろう」というルールはあったのですが、みんなが個人プレーをしていて、特にトップセールスの人たちはやり方が属人化していたと思います。
トップセールス以外の目標達成意欲が低くなってしまっていたのも大きな課題でした。トップセールスは目標達成に向かって仕事をしていますが、その他の人は「そもそも、今月の目標って何台でしたっけ?」という状態でした。目標を意識していないわけですから、当然、達成率も低くなります。
トップを目指すのではなく最下位でなければ良いだろうという考え方が横行し、未達成でも仕方がないというスタンスのメンバーも多くいました。言い換えれば、「赤信号みんなで渡れば怖くない」というような組織状態だったと思います。
サービスの受付スタッフも、他店のスタッフとは基準が違っていました。私は以前、他の店舗で店長をしていたことがあったのですが、他の店舗の受付スタッフはお客様を喜ばせるという目的意識で仕事ができていました。
ですが、当時の奈良店のスタッフからは、お客様対応のロールプレイングをしているときに、「今、うまいことかわせたな」というような感想が出てきたんです。「なぜ、そういう感想が出てくるんだろう?」と考えたのですが、「お客様を怒らせなければ良いだろう」というスタンスで働いていたからだと思ったんです。このような基準の低さも大きな課題でした。
そのようななかで、年間80台ほどを販売するトップセールスの異動があり、新車販売の目標達成率が大きく下がりました。これは組織を変えなければいけないと、組織変革に着手したのがスタートでした。
「改善のためのアクション」
谷口氏:私が奈良店に来たときに感じたのが、スタッフのコミュニケーションが希薄だということです。特に、プライベートな話を全然しないんだなと思いました。他の店舗にいた頃は、みんな家族の話をしますし、スタッフの家族がお店に遊びに来ることもあり、それが当たり前だと思っていました。ですが、奈良店ではむしろ「家族の話はタブー」くらいの雰囲気がありました。
弊社は「企業活動を通じての幸せの実現」という理念を掲げているのですが、僕は、人の幸せは家族に関わる要素も大きいのではないかと思っています。そこで、会社とスタッフの家族の距離感をもっと近くできないだろうかと考えて企画したのが「社員VTR」でした。これは、スタッフの仕事ぶりや職場の様子を動画にして、家族に届ける企画です。
内容としては、整備士であれば工具を持って整備をしている様子、営業であればお客様対応をしている様子など、普段働いているシーンのほか、全社員大会の様子や、同僚からのメッセージ、家族への感謝のメッセージなどを収めました。
もう一つ、「5分間トーク」という取り組みもおこないました。私は仕事に直接関わらない会話も大切なコミュニケーションだと考えています。仕事の会話は誰でも普通にしますが、それだけではお互いへの理解が深まらないですし、接点が限られてしまうと思いました。
そこで6名のリーダーに「毎朝5分でいいから誰かに声をかけて、仕事とは関係のない話をしてみない?」という提案をしたんです。奈良店は比較的規模の大きい店舗で、営業部門とサービス部門の接点があまりありませんでした。常々、部署間連携を深めたいと思っていましたので、「5分間トーク」の相手は他部署のスタッフにしました。
組織改革を進めるなかで大変だったのは、やはり意識の部分でした。奈良店は「このお店以外は知りません」というスタッフが多く、「自分には自分のやり方があるので」という頑固さがありました。このような意識の改革がいちばん苦労しましたね。
ここに関しては、地道に対話を重ねるしかありません。個別に面談をするのではなく、ロールプレイングやお客様対応、トラブル対応など、OJTのように日々の仕事のなかで目的や基準を説明をしたり理解を求めたりしながら、意識を変えられるよう努めていました。
「組織の変化ともたらされた成果」
谷口氏:「社員VTR」をスタッフの家族に届けた結果、なかには「奥さんが涙ぐんで喜んでくれた」というスタッフもいて、やって良かったなと思えました。それ以降は、「最近、うちの子が~」とか、「冬休みは家族でどこか行くの?」とか、徐々に家族の話も生まれるようになりました。家族の話をきっかけにスタッフ間に親近感が生まれ、仕事のコミュニケーションも円滑になりました。
「5分間トーク」は、趣味の話や他のスタッフの他己紹介が中心になりましたが、コミュニケーションによって相互理解が深まり、みんなが愛着を持って接するようになったと思います。コミュニケーションが少なかった頃は、上司に「ちょっといいか?」と言われたら、「怒られるのでは・・・?」「何かトラブルが発生したのでは・・・?」というようにマイナスにしか考えられませんでしたが、少なくともそういう雰囲気はなくなりましたね。
雑談やプライベートな話も含め、コミュニケーションが活発になったことで、スタッフからの提案など主体的な動きが増えてきました。たとえば、リーダーからは「お客様に自分たちを紹介するツールをつくりたい」という提案がありました。「今日の整備は私が担当しました」というメッセージに顔写真やプロフィールを添えるのですが、これはすぐに作成して掲示するようにしました。
特に変わったなと思うのが、女性のスタッフです。以前の奈良店には、「上の人に意見をするものではない」「店長に言われたことは全部YESで答える」というような古い体質が残っていました。そのような雰囲気のなか、女性のスタッフは仕事を「やらされていた」ので楽しくなかったと思いますし、実際にモチベーションクラウドのスコアも低いものでした。
ですが、徐々にスタッフに主体性が芽生え、リーダーシップを持って仕事をするようになったんです。たとえば、「今日のお客様はどのような要件で来店しているのか」を把握できるツールを、自らの発案で作成してくれたスタッフもいました。
ミーティングひとつとっても、以前は「ミーティングがあるから参加する」というスタンスでしたが、今は「○○の問題を解決したいので、○日の○時に集まってください」というように、自主的に部門を超えたミーティングを開いて、取り仕切るようになりました。
また、組織改革を進めるなかで、「指摘」という言葉を使うのをやめて、「アドバイス」と言うようにしていました。これだけの効果ではありませんが、以前までの「上意下達」の雰囲気が和らいで、後輩から先輩に対する発言や相談が増えましたし、先輩も上から否定するような話し方をしなくなったと思います。
会社への帰属意識、参画意識にも変化が見られました。実は今度、「ファミリー感謝デー」というスタッフの家族向けのイベントを予定しています。このイベントの企画・運営を有志で募ったのですが、手を挙げてくれたスタッフが思った以上に多く、7割くらいが「やりたいです!」と言ってくれたんです。これは本当に嬉しかったですね。
以前の組織だったら、多くのスタッフは「自分は関係ない」という姿勢だったでしょう。このように、会社への帰属意識や参画意識が高まっているのは、非常に大きな成果だと思います。イベント自体の参加予定者も現時点で60~70人と想定以上です。ここまで多くの人が申し込んでくれているのは、「社員VTR」の効果もあったのかなと思っています。
営業部門で言えば、個人の目標はもちろん、店舗の目標を意識して業務に取り組むようになりました。新車販売台数は微減という状況ですが、トップセールスが異動した穴を最小限に抑えることができています。一人あたりの販売台数は40.3台から41.6台と、わずかではありますが上昇しています。
「今後の展望」
谷口氏:スタッフやスタッフの家族と、もっと距離感が近い店舗にしていきたいです。幸せって、仕事をしている時間も仕事以外の時間も含めて醸成されるものだと思いますので、仕事もプライベートも話せる「家族のような人間関係」をつくれたらいいなと思っています。リタイア・退職した後も、ずっと付き合いが続いていくような組織が理想です。
私自身、「本気で取り組むこと」をスローガンにしており、奈良店も「本気で仕事に取り組む戦う集団」というスローガンを掲げています。本気で取り組むからこそ、楽しさやそこから得られる幸せの度合いが大きくなると思いますので、そのような状態を実現できる組織をつくっていきたいですね。