事業内容 |
東京海上日動火災保険、東京海上日動あんしん生命保険等、 東京海上グループの情報システムの企画・提案・設計・開発・保守・運用 |
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部署の業務内容 |
東京海上日動火災保険の保険料領収・精算に関わるシステムの開発・保守・運用 |
業種 |
情報・通信・広告 |
企業規模 |
1001名~2000名 |
部署規模 |
31名~50名 |
取り組んだ組織課題 |
変革活動 |
約1年間でのエンゲージメント スコアの変遷 |
49.2 ⇨ 59.1 |
パートナー企業との戦略的協業により、定例作業を中心に業務移管を進めてきた一方で、メンバーからは、「自分たちが新たに担う役割のイメージが湧かない」「どのようなキャリアプランを描いていいのか分からない」といった声も上がっていた。
そのような状況下で、会社の中期経営計画の柱の一つ「ミッションSHIFT」として、ユーザーからの更なるITニーズに応えるためのパートナー企業との戦略的協業が掲げられ、不安の声が高まった。
戦略的協業の更なる加速と社員のモチベーションアップを両立させるために、この「漠然とした不安」を払拭する必要があった。
エンゲージメントサーベイ結果の深掘りとメンバーとの対話を行い、真意・本音を探った。
会社の中期経営計画とパートナー企業との戦略的協業との関係を整理して、メンバーにメッセージを発信した。
戦略的協業が進展した後、社員が担う役割を「3つの人材像」としてメンバーに提示し、上司と対話しながら、自らのキャリアプランについて考える機会を設けた。
組織が目指す方向性や求められる人材像が腹落ちし、メンバーが抱えていた漠然とした不安が一定程度払拭された。
その結果、パートナー企業への定型業務の移管率が56.1%から72.2%へと、1年間で大幅に向上した。
「抱えていた課題」
長滝谷氏:我々、ビリングシステムデザイン部(ビリング部)は、より付加価値の高い業務へと足を踏み出していくために、数年前から、特定のITベンダーをパートナーとして、戦略的協業を進めていました。具体的には、従来ビリング部のメンバーが担っていた業務の中でも、定型的な業務を中心に、パートナー企業へ移管するという動きです。
しかしながら、メンバーには複雑な思いがあったようです。それまで自分たちが担ってきた業務を移管することで、余力が生まれるということは想像できるものの、「自分たちが新たに担う役割のイメージが湧かない・・・」「どのようなキャリアプランを描いていいのか分からない・・・」といった声も複数上がっており、漠然とした不安を抱えながら仕事をしている状況でした。
ビリング部は、システムの設計・開発・運用という業務内容ゆえに、職人肌のメンバーも少なくありません。彼らは、どちらかと言うと、新しいことに足を踏み入れていくより、自らの仕事を深堀りして極めていくという志向を持っています。このようなメンバーにとって、協業による業務移管は、自分たちの仕事を奪われるような感覚があったのだと思います。実際に、「じゃあ、自分たちの存在価値は何だろう」というように、モヤモヤした気持ちを抱えるメンバーも少なくありませんでした。
このようなメンバーの気持ちに気付けたのは、モチベーションクラウドのサーベイのおかげでもあります。初回のサーベイでは、エンゲージメントスコアが低かったのですが、その結果を受けて、マネジャー陣でディスカッションをして、「メンバーはこのあたりが引っかかっているのではないか?」などと仮説を立てました。その後、メンバーの話も聞いたほうが良いのではないかということになり、「サーベイの結果を見てどのように感じるか?」「サーベイの設問からどのようなことを思い浮かべて回答したのか?」といったことを聞いてみました。すると、マネジャー陣が立てた仮説とは違う現状が見えてきたのです。
マネジャー陣だけで話しているときは、「この設問項目のスコアが低いということは、○○に原因があるのではないか?」というように、どうしてもサーベイの設問項目起点の議論になっていました。しかし、メンバーに話を聞いたところ、会社や上司に対してフラットに感じていることを、自分なりに設問に紐付けて回答していたことが分かりました。そのとき、設問に表層的に引っ張られるのではなく、回答の裏にあるメンバーの真意や本音を掘り下げなければいけないということに気付いたのです。
私自身、ビリング部の部長を拝命した時期にサーベイの結果が低く出たので、大きな危機感を覚えていました。エンゲージメントの向上に真剣に取り組むことが自分の本業だと考え、メンバーの声を聞きながら、アクションプランを策定していくことにしました。
「改善のためのアクション」
長滝谷氏:弊社では、昨年度、新しい中期経営計画である「SHIFT」がスタートしました。この中期経営計画では、東京海上グループのIT・デジタル戦略を支える柱の一つとして、「ミッションSHIFT」が掲げられました。端的に言えば、事業環境の変化やITの活用領域の拡大に合わせて、社員の役割を変革するということです。
先ほど申し上げたとおり、ビリング部ではメンバーの役割を変えるべく、先んじてパートナー企業との協業を進めていました。そこに、中期経営計画で「ミッションSHIFT」という会社方針が明確に示されたため、ビリング部のメンバーも、今まで以上に協業の動きを加速させていかなければいけないという意識を強く持つようになりました。
ですが、メンバーが、冒頭に挙げたような漠然とした不安を抱えたままでは、どれだけ「ミッションSHIFTだ」と旗を振っても、うまくいくはずはありません。そこで、「メンバーの不安を払拭する」という課題に正面から向き合うことにしたのです。
第一に、会社の中期経営計画とビリング部の協業の取り組みとの関係を整理して、メンバーにメッセージを発信しました。「我々がこれまで進めてきた協業は、中期経営計画に謳われているミッションSHIFTとこういう関係にある」というような話ですね。
さらに、協業が進展した先に「ビリング部のメンバーはどのような役割を担っていくのか?」ということをマネジャー陣で論議し、「3つの人材像」という形でまとめて、メンバーに示しました。端的に言うと、「業務の有識者」「システム開発のプロ」「マネジメントのプロ」の3つです。
そして、この3つの人材像を踏まえ、「今後どのようなキャリアを歩みたいのか?」「誰をロールモデルとして目指していくのか?」ということを、定期面談等の機会を通じて、上司と対話しながら、メンバーに考えてもらいました。
その他、弊社は、2~4年目の社員が、年度末に、1年間の成果を振り返りつつ、今後のありたい姿を考え、レポートにまとめるという慣例があるのですが、このレポートを上司がレビューする際も、3つの人材像に関連付けた筋書きにリードするなど、随所で意識付けをするようにしました。
また、メンバーの不安を軽減するため、「協業による業務移管を推進すると言っても、その領域から社員が完全に手を引くわけではなく、今後も社員の関与が必要と考えられる領域については、パートナー企業と一体となって支え続けていく」という話もしました。これは、主に職人タイプのメンバーに向けたもので、つまり、「業務移管によって、あなたたちの存在意義が失われることはない」というメッセージです。3つの人材像で言うところの「業務の有識者」として、スキル・ノウハウを発揮し続けてもらいたいし、後継者を育成してもらう必要もあるということを明確に伝えました。
「組織の変化ともたらされた成果」
長滝谷氏:このようなアクションプランを実践することで、組織が目指す方向性や求められる人材像が、少しずつメンバーに浸透していきました。実際、何かにつけて3つの人材像が引用されるなど、部内の「共通言語」にもなりつつあり、メンバーと一定の目線合わせができました。その結果、メンバーの不安もある程度は払拭できたのではないかと思っています。
数値的な成果で言うと、パートナー企業への定型業務の移管率は56.1%から72.2%と、1年間で大幅に向上しました。目標としていた61.3%を大きく上回る結果であり、翌年度の目標値を1年前倒しで達成した形になっています。ここまで加速的に業務移管が推進されたのは、ビリング部が目指す将来像が、一人ひとりのメンバーにしっかりと腹落ちしたことが大きかったと考えています。
また、エンゲージメントサーベイのスコアも向上しました。メンバーが抱えていた不安が多少なりとも払拭されたことが、エンゲージメントスコアの向上につながったのではないかと捉えています。これまでの取り組みが、メンバーにも一定程度評価されている結果なのかなと、嬉しく思っています。
モチベーションクラウドは、今回の組織課題の解決の大きなエンジンになってくれました。エンゲージメントの状態がデジタルに見える化・指標化されることで、ある意味「やらなきゃいけない環境」に追い込まれ、メンバーの問題意識や、組織が抱えている潜在的な課題に気付くことができたのが、我々にとってはすごく良かったと思います。メンバーとの対話のきっかけにもなりました。モチベーションクラウドがなかったら、今でも課題が放置されていたままだったかもしれません。
「今後の展望」
長滝谷氏:変化のスピードが早く、不確実性が増している昨今の事業環境においては、パートナー企業との戦略的協業関係を更に発展させて、ビリング部のケイパビリティを拡大することが不可欠です。そのために、ビリング部のメンバーはもちろんのこと、パートナー企業のみなさんにも高いモチベーションを持って業務に取り組んでいただけるような、一体感のある組織をつくっていきたいと思っています。
今回の取り組みを通して、リーダーがビジョンを示す重要性を再認識しました。メンバーが迷いなく前へ進めるようにするには、場当たり的なメッセージに止まらない、「ブレない軸」が絶対に必要であるとあらためて実感しました。