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「考えるクセ」を付けさせる1on1によって
メンバーの自主性が高まり、
新規事業創出への動きが加速した

塚田理研工業株式会社 技術部 技術課

技術部 技術課 課長 市川 潤 氏

事業内容

各種プラスチックのめっき加工、特殊素材のめっき加工、基盤のめっき加工など

部署の業務内容

新たなめっき用途の開発や環境負荷低減のプロセス開発など

業種

機械・エレクトロニクス

企業規模

101~300名

部署規模

~10名

取り組んだ組織課題

支援行動 (上司の業務・成長支援に課題)

約1年間でのエンゲージメント

スコアの変遷

29.9 ⇨ 49.9

抱えていた
課題

  • メンバーは目の前のことを処理するだけで精一杯の状態だった。

  • そもそも課長の役割が分かっておらず、どのようにマネジメントをしていくべきかで悩んでいた

  • 全社的にエンゲージメントが低く、離職者が出ていた

改善のための
アクション

  • 1on1を導入。コミュニケーションの中でメンバーが自ら考え、課題解決できるように支援した。

得られた
成果

  • メンバーは、言われたことをやるだけの姿勢から自主的な働きかけが目立つようになり、新規事業創出に向けて自ら挑戦できるようになった。結果、試作の売上が130%伸長した

  • サーベイでは上司への満足度が上がり、取り組みを開始してから部内で離職者がほぼ出ていない

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課長って何?マネジメントってどうすればいい?

「抱えていた課題」

市川氏:技術部は2019年に改めて組織編制した部署です。再編当時は、機能めっきを新たに事業化するために試作を請け負っていましたが、部署としての売上目標は明確になっていませんでした。現場のメンバーはいろんな仕事を抱えており、目の前のことを処理するだけで精一杯で、お客さんとの関係性も個々の力量に委ねられているケースがほとんどでした。もちろん個々で「ああしたい、こうしたい」ということはあったと思いますが、組織として動いている感じではありませんでした。

僕自身も課長として働いていましたが、課長になったときから、そもそも課長の役割がちゃんと分かっていませんでした。「みんなをまとめていかなきゃいけない」という漠然とした意識があっただけで、その方法は持ち合わせていませんでした。マネジメントと言われても、僕は塚田理研のやり方しか知りません。入社してから上司の背中を見て育ってきましたが、自分自身、力量もないと思っていたので「背中を見て育て」というやり方はできないなと思っていました。

また、当時の塚田理研は「目標を明確にしていこう」という号令がかかり、技術部にも目標設定が求められるようになった時期でした。しかし、「目標を立てなさい」と言われても、「どうやって目標を立てればいいの?」「どんな目標を立てればいいの?」というのが正直なところでした。

当時は、離職者も少なくありませんでした。「環境を変えたい」といった退職理由が多く、僕も「それなら仕方ないか」と考えていましたが、今思えば、環境を変えたいということは組織に魅力がなかったということだと思います。

自ら考えて動ける人を育てるための1on1

「改善のためのアクション」

市川氏:組織改善の第一歩は、「今までの延長線でいい」と考えていた僕自身の行動を変えることでした。まずは「課長って何?」というところからのスタートです。ネットで「課長とは?」と検索し、「自分らしいマネジメントってどんな方法なんだろう?」と考えた結果、まずやってみようと行き着いたのが「1on1」でした。1on1に関するいろんな記事を読みましたが、「一人ひとりの成長が組織の成長につながる」といったフレーズも刺さりましたし、「部下のことを知っていますか?」など、確かにそうだなと思わせられることがたくさんありました。

また、モチベーションクラウドのエンゲージメントサーベイの結果でも、部下への支援は「弱み」として明確に出ていました。自分自身がメンバーのことを理解していなければマネジメントはできないと思いましたし、過去の人間関係からも対話の重要性は認識していましたので、1on1を導入することに決めました。

ただ、実際にやってみると1on1はとても難しく、特に初期の頃は迷走していました。自分が一方的に話してしまうこともありましたし、しっくりきていないメンバーもいたと思います。そんななかでも、「市川さんと話ができて良かったです」と言ってくれたメンバーもいたので、続けていこうと思えました。

回数を重ねていくうちに、徐々に相手に合わせることができるようになりました。1on1を実りあるものにするためには、相手の特徴や業務レベルを踏まえるのはもちろん、そのときの表情や雰囲気、反応などから状態を把握したうえでコミュニケーションを図らなければいけません。ある程度、数をこなさないと1on1で「話を聞く側」はできないなと思いましたし、僕自身も数をこなすことでスキルが磨かれてきたと思います。

僕の1on1は、月に1回、30分を基本にしていましたが、相手によって時間を変えることは多々ありました。人によっては10分で終わることもありますが、「この場で全部発散させたほうがいいだろう」と判断すれば、1時間でも2時間でもやりました。「持ち帰って次回までに考えてきてね」と言うこともありましたが、「今日解決すべき問題だ」と思えば、途中で打ち切らず、「どうしたいのか?」「どうしたらいいのか?」と問い続け、答えが出るまで待ちました。

1on1では、メンバーに「考えるクセ」を付けさせることが重要だと思っています。始めたばかりの頃は、僕が結論を出してしまうこともありましたが、答えを出してしまったら、そこで相手の思考は止まってしまいます。それに気付いてからは、相手に考えさせることを意識するようになりました。

言われたことをやるだけなら、スキルがあれば誰でもできますが、それでは成長できません。自分で課題を解決できるようになるためには、自主的に考えることが不可欠です。ですから、「どうしてそうなったの?」「どうすればいいと思う?」などと問いかけ、自分で考えて答えを出すことを求めました。1on1の最大のキーワードは「自主性」であり、これは今でも大切にしているところです。

新規事業創出への取り組みが活性化し、試作の売上が130%伸長

「組織の変化ともたらされた成果」

市川氏:1on1を通して「仕事の整理ができました」と言ってくれるメンバーはたくさんいました。やはり、自分で考えて、自分の言葉で説明することで、自分の仕事をあらためて整理できるのだと思います。やりたいことや愚痴めいたことも、はっきり伝えてくれるようになりましたし、包み隠さず本音で話してくれるのは嬉しいことです。

1on1の結果として大きいのが、自主的な働きかけが増えたことです。たとえば、メンバーからの提案によって、朝礼後にそれぞれの業務内容を把握するためのミーティングが設定されるようになりました。また、今までであれば、「これって他部署の仕事じゃないですか」といった反発が出そうなことでも、目的や背景をきちんと伝えれば、それを理解して前向きに仕事に向き合ってくれます。さらに、「これはもっとこうしたいです」といった意見も出てきて、「いいじゃん、それやろうよ」と話が発展することもしばしばです。

以前は、僕が言ったことをやるだけでしたが、今は僕が指示したり提案したりしなくても、自発的に考えて、自ら動けるようになりました。これは本当に大きな変化ですし、僕の手から離れていっている感覚もあります。エンゲージメントが高い組織は、きっと「ささやけば伝わる」ような状態なんでしょうね。

「会社のことが嫌い」だと言って辞める寸前だった社員がいたのですが、技術部に異動して、継続的に1on1をおこなうようにしました。その結果、今では技術部に欠かせない主力メンバーになり、昇格が検討されるほど成長しています。

新規事業の創出に向けても積極的な挑戦が見られるようになっており、「まずはやってみる」という会社が大事にしている姿勢を体現できるメンバーが増えました。このような挑戦によって小ロットで機能めっきを量産できるような事例も生まれています。試作の売上が130%伸長しましたが、これも組織改善による成果に他なりません

また、組織改善の取り組みを始めてからは、離職者はほぼ出ていません。エンゲージメントスコアも上がっており、特に上司に関する項目の満足度は顕著に高くなりました。サーベイの結果を見ても、「話を聞くことって大事なんだな」と実感しますし、1on1を続けてきて良かったなと思いますね。

個々のメンバーの特徴を活かし、やりたいことをサポートしてあげるのが課長の役割の一つだと思っています。もちろん、やりたいことが部の目標に沿っているかどうかはジャッジしますが、少しでもリンクしているなら僕は「GO」を出しています。

僕自身、1on1のコツが分かってきたこともあり、今は立ち話レベルでも1on1のような聞き方をしています。メンバーも僕と話しやすくなったのか、コミュニケーションを求めてくるようになりました。このように普段から何でも話せる関係性ができてきたので、これからは必要なときにだけ、1on1の時間を設ける形でもいいのかなと思っています。

お互いにリスペクトし、全員で「輪」になって進んでいける組織へ

「今後の展望」

市川氏:技術部の目標達成のため、一人ひとりが中長期的な視点を持ちながら、「今何をしなければいけないのか?」を考え、みんなで目標に向かっていける組織をつくっていきたいですね。

「全員で輪になって進んでいく」というのが僕の願望であり、自分のリーダーシップのスタイルだと思っています。もちろん一人ひとりのメンバーは違いますし、個々で尖っている部分も必要ですが、根底ではみんながつながっていて、フォローし合えるような組織が理想です。

みんなが他のメンバーのことを理解し、信頼していないとこのような組織にはなれませんので、今後はメンバー間の関係性を強化していきたいと思っています。お互いに理解し合い、お互いにリスペクトし合える関係性をつくって、もっと組織力を高めていけたらいいですね。

※本事例中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。

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