事業内容 |
自動車部品、生活環境機器の研究・開発・設計・製造・販売 |
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部署の業務内容 |
ECI生産管理室(国内11生産拠点・海外31生産拠点)における生産管理 |
業種 |
輸送機器 |
企業規模 |
2001名~ |
部署規模 |
51名~100名 |
取り組んだ組織課題 |
仕事内容(仕事内容への共感度合いに課題) |
約1年間でのエンゲージメント スコアの変遷 |
35.7 ⇨ 52.2 |
メンバーが生産に直接寄与するイメージを持ちにくく、受け身の姿勢になりがちで、仕事のやりがいを実感できていなかった。
「キャリア自律」の考え方が希薄なメンバーが多く、自身のキャリアを会社に委ねていた。
幹部のみが参加する月例会議を、全拠点の正社員が自由に聴講できるオープンな形式に変更した。
幹部層と一般社員が直接コミュニケーションを図る機会を増やした。
自部署の役割や責任、目指すべきゴールを部長・リーダーが言語化し、それを個々のメンバーにブレイクダウンする「趣旨・目的活動」をおこなった。
受け身体質から脱却し、「自分ごと」として仕事に向き合うようになり、主体的な行動が増えていった。
「自分だからこそ生み出せる価値は何だろう?」というように、自分が携わることによる付加価値を意識して仕事をするようになった。
他部門と連携した業務改善活動や事例の横展開が増加し、着実に各生産拠点の収益改善に繋がる取組みづくりができている。
「抱えていた課題」
金髙氏:私たちは、国内外にある42の工場を統括して管理する部署です。直接生産に携わる部署ではなく、各工場のデータの収集・集計・資料作成・報告といった受動的な業務が中心なので、どうしても生産に寄与するイメージを持ちにくく、メンバーが受け身の姿勢になりがちでした。それゆえ、仕事を「自分ごと」として捉えられず、どこか「他人ごと」と捉えてしまいがちであったと思います。また、自身の頑張りが業績にどれだけ貢献しているのかが分かりにくいため、仕事のやりがいを実感しにくく、目標達成意欲も低下しがちでした。
キャリア観についても同様に受け身のスタンスに陥りがちでした。いわゆる「キャリア自律」の考え方が希薄で、自身のキャリアを会社に委ねる傾向があったように思います。
松坂氏:ここ数年、会社全体として退職者が出ているなど、個人的には、会社の雰囲気がどんよりしているなという印象を持っていました。退職者が多いような状況では、当然、業績アップも期待できません。
そんなときに、従業員のエンゲージメント状態を可視化できるツールがあるということで、リンクアンドモチベーション社のエンゲージメントサーベイ(モチベーションクラウド)を導入する運びになりました。
1回目のエンゲージメントサーベイでは、私たちの部署のエンゲージメントスコアが37.6、エンゲージメント・レーティングが「DDD」という低い状態で、様々なアクションプランを講じたものの、約1年後におこなった2回目のサーベイではさらにスコアが下がりました。この結果にショックを受け、本腰を入れて組織改善の取り組みに着手したというのが大まかな経緯です。
「改善のためのアクション」
金髙氏:原点に立ち返って組織改善を進めるべく、まずは「エンゲージメント」向上の意義や目的を伝えることから始めました。エンゲージメントとは、端的に言えば「会社と従業員の信頼関係」のことだと捉えていますが、このまま伝えてもメンバーはピンときません。ですから、「自分たちが毎日8時間、週に5日働いている職場なんだから、楽しく働きがいのある場所であったほうがいいよね」というように噛み砕いて話をして、エンゲージメントの重要性について一つずつ丁寧に認識の統一を図っていきました。その際も、全体に向けて一斉に伝えるのではなく、私と田邉が各チームのミーティングに参加して、メンバーの生の声を聞きながら理解を得ていくようにしました。
ただ、メンバーの生の声を聞くと言っても、当時はなかなか意見が出てきませんでした。心の内に思っていることがあっても、「本当に言っていいの?」という雰囲気があったので、まずは全部吐き出してもらおうと心理的安全性を醸成することに努めました。
田邉氏:心理的安全性の醸成という点では、とにかくどんな意見でも受容することを心がけました。みんなの意見を受け止めたうえで、一人ひとりと向き合って対話を重ねていきました。
金髙氏:当初、チームミーティングの反応として多かったのが、「まず会社がアクションを考えるべきものじゃないの?」「職場の風土づくりって上司がやるべきじゃないの?」といった声でした。この様に主語が「自分」ではなく、「他者」になってしまっていました。
主語を他者にしているうちはどんな取り組みも意味をなさないので、まずは主語を「自分」や「自分たち」に変えることが先決でした。ですから、「今、自分ができることは何だろう?」「会社ができなくても、自分たちが始められることはないだろうか?」といった視点で話し合いを促していきました。
田邉氏:様々な組織改善施策をおこないましたが、その一つが「会議のオープン化」です。ECI生産管理室では月例会議がおこなわれていましたが、幹部層 (室長・統括部長) と一部の管理職しか参加しないクローズドな形式でした。この会議を、正社員であれば全拠点の誰もが自由に聴講できるオープンな形式に変えました。
以前は、月例会議を起点として、室長 → 統括部長 → 部長 → リーダー → 一般社員というようにいくつもの階層・会議体を経て情報が伝達されていたため、情報の伝達スピードが遅く、伝達漏れも少なくありませんでした。「あの部署は把握していたけど、うちの部署は聞いていない」といった不満も出ていましたし、役職者の伝え方の相違による解釈のズレも生じていました。階層を縮減して情報伝達をすることで、このような課題を解決することが、会議をオープン化した大きな狙いです。
松坂氏:あとは、コミュニケーションを活性化する施策もおこなっています。幹部層からメンバーに対するコミュニケーションが一方通行になっていたので、幹部層と一般社員が直接コミュニケーションを図る機会を設けました。たとえば、「Gトーーク!」は、室長と各チームでおこなう座談会です。「松坂篤志のすべらない話」は、私がメンバーからの質問に答える企画で、理想の休日の過ごし方など、仕事とはまったく関係のない質問に対してNGなしで答える場です。
金髙氏:「趣旨・目的活動」も力を入れた取り組みの一つです。これは、まず部長やリーダーが自部署の役割や責任、目指すべきゴールを言語化し、それを個々のメンバーにブレイクダウンしていく活動です。最終的には、メンバー全員が自身の役割・責任・目的を言語化して「宣言」をします。この宣言は、個々がIDカードと一緒に携帯しています。
さらに、全員分の宣言をボードに貼り出して、日頃から趣旨・目的に立ち返れるようにしました。
また、「キャリア自律教育・面談」もスタートしました。各メンバーに「1年後、3年後、5年後にこうなっていたい」というキャリアプランを描いてもらい、それを実現するためにどんな経験やスキルが必要なのかを考えてもらいます。そのうえで、一人ひとりとキャリア面談をおこない、キャリアデザインシートに言語化してもらうことで自律的なキャリア形成を促していきました。
松坂氏:会社の強さは、従業員の強さとイコールだと思っています。従業員を強くするためには人材育成が不可欠ですが、前提として、一人ひとりに自ら成長しようとする意欲がなければいけません。そのため、全員に自分でキャリアプランを描いてもらい、上司と1on1をおこない、会社が育成プランを作成する仕組みを整えていきました。
「組織の変化ともたらされた成果」
松坂氏:月例会議をオープンな形式にしたことで、情報の伝達スピードが早くなり、伝達漏れも解消されました。以前は情報が下りてくる過程で、室長の意図とは違った伝わり方をしてしまうこともありましたが、メンバーが室長の話を直接聞けるようになったことで解釈のズレがなくなり、正確にメッセージが届くようになったと思います。
田邉氏:これまでは情報が上から下りてくるのを待つだけだったメンバーに、情報を自ら取りにいく主体性が備わってきたと思います。実際に会議を聴講するメンバーは増えており、「直接トップの話を聞くことで、仕事に対する意欲・やりがいが向上した」といった感想も届いています。
金髙氏:組織改善の取り組みをおこなう前は、自分の役割や目的が不明瞭でしたが、趣旨・目的活動をおこなったことで、一人ひとりが自分の役割や目的を意識して主体的に仕事に取り組むようになりました。「自分ごと」として主体的に仕事に向き合うようになり、「まずは自分たちでやってみよう」という動きも増えてきました。
たとえば、工場に足を運ぶ回数が増えたこと(月1回→月5回))や、他部門と連携した業務改善活動が増えたこと(0件→6件)などは、主体性が醸成されたことによる分かりやすい変化でしょう。これまで1件もなかった事例の横展開は、トータルで55件もおこなわれるようになりました。時間差はありますが、着実に各生産拠点の収益改善に繋がる取組みづくりができていると思います。
また、以前であれば「データを集計して報告するのが自分の仕事」と、淡々と仕事をこなしていたメンバーも、「自分だからこそ生み出せる価値は何だろう?」というように、自分が携わることによって生まれる付加価値を意識して仕事をするようになりました。「各拠点とのコミュニケーションで誰よりも話しやすい環境をつくる」「自分で分析・考察した内容を踏まえて上司に報告する」など、仕事に「自分の色」を乗せる意識が芽生えてきたと思います。
松坂氏:最近は、「工場にできなくて、自分たちにできることは何だろう?」という視点で仕事に取り組むメンバーが増えています。各工場からは見えなくても、グローバルで管理している統括部だから見えることはたくさんあります。そこに注目して、工場同士を比較して強み・弱みを指摘したり、余裕のある工場に困っている工場をサポートさせたりと、一工場だけではできない動きが増えているなと感じています。
また今までは、室長も私も一般社員のことをほとんど知りませんでしたが、「Gトーーク!」などのコミュニケーション施策によって相互理解を深めることができました。その結果、メンバーが自ら意見・要望を出すなど、少しずつ発言しやすい雰囲気ができてきたのかなと思います。
金髙氏:昨期は、若手で資格を取得した人はほとんどいませんでしたが、今期は14人中11人の若手が「資格取得に挑戦したい」と言っています。必ずしも資格を取れば良いわけではありませんが、彼らのなかで気持ちの変化があってチャレンジ精神が芽生えてきたことに間違いはないので、嬉しい変化だなと受け止めています。
「今後の展望」
金髙氏:組織改善活動は、一人ひとりの小さな変化が積み重なったその先に、組織としての大きな成果があると考えています。ですから、まずは「主語が変わった」「取り組む姿勢が変わった」「松坂さんとのコミュニケーションが増えた」といった小さな変化を大切にしていきたいと思います。
冒頭で申し上げたとおり、引き続き、心理的安全性を高めていくことは重要です。心理的安全性が担保されている職場ほど、挑戦やイノベーションが生まれやすくなるはずです。社会や顧客のニーズを的確に捉え、一人ひとりが変化を恐れず、より主体的にチャレンジしていく組織を目指していきたいなと思います。
松坂氏:個々のキャリアプランと会社のベクトルを合わせて、キャリアプランを実現するための人材育成に力を入れていきたいと思っています。今後は、もっとローテーションを活性化させ、様々な仕事を経験してスキルを高めていく取り組みも重要になってくるはずです。
組織改善活動は道半ばですが、私たちが成功事例を生み出し、それを全社に展開することで、全社のエンゲージメント向上を図っていきたいという思いがあります。その結果、従業員の働きがいが高まり、役職者になりたいという人がどんどん出てきて、会社の成長・発展につながっていけば嬉しいですね。