組織診断・組織サーベイとは何か

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働き方改革やコロナ禍によるリモートワークなどの影響から職場のコミュニケーション不足やマネジメント不全が生じ、組織やマネジメントの「見える化」のための組織診断や組織サーベイへの注目が高まっています。ただ、組織診断には様々な種類があり、ツールやサーベイがあれば組織を改善できるわけではありませんない。この記事では、組織診断の考え方や組織改善の落とし穴について説明します。

組織診断ツール・組織サーベイとは?
~組織を見える化し、マネジメントに生かす企業が増加~

インタビューやアンケートで従業員の声を集め、経営に役立たせる手法は以前から行われてきました。ただ、昨今では「エンゲージメント」というテーマと共に、その手法や活用が見直されています。組織の状態を見える化し、事業成果を高めるために有効な組織診断ツール・組織サーベイとはどのようなものでしょうか。

従業員の回答結果を活用する手法は大きく分けて3種類に分かれます。いずれも形式は似ていますが、目的や効果が異なるものです。

①従業員満足度調査 
~制度や待遇に満足してもらうための調査~

多くの日本企業が過去に取り組んできた調査の主流は「従業員満足度調査」と呼ばれるものです。
従業員が「待遇面で求めているもの」を把握し、社員満足を高めるための課題を明確化させることが目的です。会社(雇用側)と従業員(被雇用側)という明確な雇用関係の中での企業経営に役立つものとされてきました。

調査の特徴としては「会社が提供している制度や給与」に関して「満足度」を調査することにあります。給料や制度、福利厚生など「あると嬉しいもの(ないと困るもの)」についての調査なので、対応策を打つことで従業員の満足を引き出すことはできるものの、「あることで生産性が大きく向上するものではない」という点に注意が必要です。この従業員満足度調査は、調査対象が制度や給与であるということから、人事が主管を担うことが多いものでした。

②ストレスチェック(個人認識サーベイ)
~働きやすい環境づくりのための見える化の調査~

2015年に義務化されてから一気に広まったのが、「ストレスチェック」などの個人の認識を把握するサーベイです。労働安全衛生法によって、常時使用する労働者数が50人以上の事業場ではストレスチェックを年に一回実施することが義務化されています。仕事量や職場の人間関係による精神障害による労災請求が増えており、自殺原因・動機の約半数が健康や仕事に関することであることが社会問題となり、従業員の「メンタルヘルス不調の予防」や「高ストレス者のケア・再発の防止」を目的として調査が行われています。

調査の特徴としては「個人がどう感じているか」に注目している点です。定義が難しい「働きがい」や無意識の自身の状態に関しても数値化することができることがメリットで、働きやすい環境かどうかが明確になります。一方で、「どうすれば改善するのか」「改善したことで組織成果が高まるのか」が明確になりづらいため、改善施策が打ちづらいことがデメリットとして挙げられます。調査対象の範囲と情報の秘匿性から、労務が主管を担うことが多い施策となっています。

③エンゲージメント調査(組織調査サーベイ)
~働きがいと組織の生産性を同時に高めるための組織改善の調査~

昨今注目が集まっているのは「エンゲージメント調査」と呼ばれるものです。従業員の貢献意欲(仕事に対する熱意)を引き出すことを目的としています。労働市場の自由化やジョブ型への移行が時代背景にあり、「魅力的な個人を惹きつける組織づくり」や「個性が活かされる生産性の高い組織づくり」を目的として調査が行われています。

会社や職場といった「組織」や上司の「マネジメント」に対する認識を把握し、「何をすれば生産性が高まるか」を見える化できることが特徴です。これまで勘や経験によって改善してきたマネジメントを、課題の見える化や施策の効果測定という側面でアシストすることができます。組織改善に繋がる課題が明確になるというメリットがある一方で、デメリットとしては、あくまで組織全体の状態を調査するため、個人特定は難しくなります。個人特定を仕組みに組み込むことは可能ですが、忖度や批判を恐れて正直な結果が把握できなくなることが多いため、個人を特定しない仕組みの方が、より正確な組織状態の把握に繋がります。組織改善を目的とおいているため、これまでの調査よりも多岐に活用することができ、人事のみならず経営企画や現場の管理職が主管を担うことが多い施策となっています。

組織診断を実施する際の落とし穴とは?
~単なる調査を行うだけでは逆効果?~

上記に記載の通り、組織診断は様々な種類がありますので、まずは目的に沿った診断方法を選択することが必要です。ただ、目的に沿ったツールを選んだとしても、調査の実施や診断ツールの導入だけでは逆効果になることがあります。多くの企業で「組織」を勘や経験で管理してきたことから、「何を変えればいいのか」「何を注意すればよいのか」が分からないという声を多く頂きます。また、実際に取り組んだ結果、「うまくいかなかった」「逆効果だった」という結果が生じてしまうのも組織診断の難しさです。

そこで、組織診断を行う際に注意すべき「落とし穴」をお伝えします。

①「エンゲージメントが下がる回答方法を行う」という落とし穴

組織診断や組織サーベイは、「調査することから始まる」と考えられがちですが、回答者側の目線から考えると、「調査の告知から始まる」と捉えることが重要になります。
調査の意図や目的を伝えず、急に調査を行ってしまうと、「悪い結果をつけたらばれるのではないか」「何のために使われるかわからない」「余計な仕事が増えた」と思われがちです。また、組織改善などの本来の目的を伝えずに調査してしまうと、その後の協力が得られなかったりもします。そうすると調査するだけで、エンゲージメントが下がる、という落とし穴に落ちてしまいます。
事前の告知や意図の説明を丁寧に行い、回答者にとってのメリットを納得してもらってこそ意味のある結果が得られます。

②「組織状態を分かった気になる」という落とし穴

組織診断や組織サーベイを調査すると、「自社内で比較してなんとなくの傾向や状態が分かる」だけで終わりがちですが、「要はどう対応すべきなのか」が分かることが重要になります。
満足度の結果や各項目の偏差値で見ると、「投資が必要なのか?」「数値結果をどのように捉えればいいのか?」という疑問が生まれることも多いです。数値を出すだけだと、状況がなんとなくでしから分からず、結果として改善が行われない、という落とし穴に落ちてしまいます。

他社と比較して改善を行うことはあまり意味がありませんが、過去の知見をもとに「要は何が起きていて」「どのように対応すべきなのか」が明確になる指標を用いることが重要になります。

③「全ての不満に応えようとする」という落とし穴

組織診断や組織サーベイで「満足度」だけを調査すると、「不満に応える」だけで終わってしまいますが、従業員が何を求めているのかという期待度と相対化することで課題が明確になります。
満足度の低いものには、「従業員が満たされていない」ものに加えて、「従業員にとって興味がない」ものも多く含まれます。また、満足度の低いものから対処すると結果的に、会社としての方向性や優先順位を見失う、という落とし穴に落ちてしまいます。

期待度と満足度の二軸をもとに優先順位を確認し、会社として目指したい方向性を踏まえて、戦略的に対応していくことが重要になります。

④「対策の仕方がわからない」という落とし穴

組織診断や組織サーベイの結果が出た後に、現場に改善を促すと、「何を考えたらいいか分からない」という状況に陥りがちですが、大事なのは「まずアクションを起していく」ということです。
診断結果から自由に考えるように促してしまうと、「そもそもこの項目でいいのか」「本当にこのアクションでいいのか」と現場の管理職が悩み、結果として改善が始まるまでに時間がかかる(忘れ去られてしまう)、という落とし穴に落ちてしまいます。

改善しやすく、効果が感じられそうなアクションにまず取り組むことが重要なため、改善の方向性に合わせた簡単なアクションプランの提示がされることが重要です。

⑤「決めたアクションが実行されない」という落とし穴

組織診断や組織サーベイを用いて組織改善をする際には、変化の測定までに時間がかかってしまい、結果が忘れられたり、効果が検証しづらいことが起きがちですが、大事なのはアクションを検証し、PDCAサイクルを回していくことです。
半年や1年に1回の診断だけだと、「アクションプランが実行されないまま放置される」「実行したとしても他の要素もあって検証できない」という状況に陥り、組織改善の実感も得られないため、さらにアクションが実行されない、という落とし穴に落ちてしまいます。

組織全体を把握する精密検査だけではなく、特定の項目に絞って、月次や週次で組織改善の進捗を把握し、効果を検証しながらアクションを進める仕組みが重要になります。

⑥「アクションプランの軌道修正がされない」という落とし穴

組織診断や組織サーベイは気づいたら次の調査のタイミングになってしまっており、効果検証と施策立案を繰り返すだけの状況に陥りがちですが、大事なのは「結果をもとに手を打ち続ける」ということです。
「誰に」「何を」「どのように」を内部で決めていくのには限界もあるため、「決めるのに時間がかかった」「検証していたら時期が過ぎてしまった」という落とし穴に落ちてしまいます。
サーベイや仕組みだけではなく、コンサルタントの適切な助言も活用しながら、組織改善に向けて着実な一歩を歩み続けることが重要です。

組織診断で調査すべき項目とは?
~エンゲージメント調査で大事なポイント~

組織診断の目的や把握したい課題内容によって、設問設計のフレームワークは異なります。
エンゲージメント調査は、従業員の貢献意欲(仕事に対する熱意)を引き出すことを目的としていますが、働く理由(エンゲージメントファクター)は様々です。特に近年は、働く理由がより一層多様化してきており、給与や仕事内容、ポストだけではない様々な要素があります。働く理由を分類すると、入社時に考える「会社に所属する理由」(理念や仕事、給与、風土など)と、実際に働いた際の「上司や職場などの身近な理由」に分かれます。

ここでは、日本最大級の組織のデータベース「モチベーションクラウド」において、働く理由(モチベーションファクター)をどのように分類しているかを説明します。

「会社に所属する理由」

人が入社を決める際に考えるポイントは様々です。具体的には、安定性や理念、仕事内容や組織、人、制度や環境などがあり、モチベーションクラウドでは集団凝集性理論をもとに8つの領域を設計しています。
「会社基盤」・・・顧客基盤が安定しているか、話題性や知名度があるか等
「理念戦略」・・・企業の理念を発信できているか、戦略目的に対して納得感があるか等
「事業内容」・・・社会的意義や貢献感があるか、事業の成長性や将来性があるか等
「仕事内容」・・・自分に裁量があるか、専門能力を獲得できるか等
「組織風土」・・・会社として連帯感があるか、階層間の意思疎通ができているか等
「人的資源」・・・経営者を信頼できるか、魅力的な人材がいるか等
「施設環境」・・・業務環境が十分に整っているか、勤務場所は適しているか等
「制度待遇」・・・評価の仕組みは妥当か、休日の取り方はどうか等

「上司や職場などの身近な理由」

普段の業務の中では、より具体的な周囲の人との関わりによって働く理由がつくられることも多くあります。モチベーションクラウドでは、特に影響の大きい「上司」「職場」に絞り、社会システム論などを背景に、8つの領域で設計しています。

■上司
~上司は、適切にコミュニケーションをとり、組織成果を最大化させる機能を担っているか~
「情報提供」・・・上司が戦略を伝えているか、役割分担や責任を明確にしているか等
「情報収集」・・・上司が部下の強みや持ち味を分かっているか、状況を把握しているか等
「判断行動」・・・上司が判断してくれるか、毅然とした態度を示しているか等
「支援行動」・・・上司が支援してくれているか、傾聴姿勢を持っているか等

■職場
~職場は、運動神経がよく、生産的で未来に向けて変化を起こしているか~
「外部適応」・・・職場として、顧客に優れた提案ができているか、ニーズを理解しているか等
「内部統合」・・・職場として、一体感があるか、業務連携が取れているか等
「変革活動」・・・職場として、環境変化を把握しているか、未来に向けてチャレンジしているか等
「継承活動」・・・職場として、事例を共有できているか、歴史や経緯を知っているか等

働く理由をマーケティングする調査が重要

モチベーションクラウドの調査領域を説明しましたが、全てが満たせている組織は世の中に存在しません。時間や予算も制約があるからこそ、選択と集中を行いながら、多くの従業員が「働く理由が満たされて意欲高く働く」状態を目指す必要があります。その際に重要となるのが「働く理由のマーケティング」です。
従業員が「何に対して満足しているか」だけではなく、「何を求めているのか」「何に期待しているのか」を把握し、適切に手を打っていくことが重要です。「落とし穴」でも記載しましたが、「期待度」を調査することで従業員の考えていることや求めているものを把握することができます。その中で会社として何に投資するのか、何への投資を止めるのかを判断していくことがポイントになります。

組織診断ツール・組織サーベイが現場で活用されるために

組織診断ツールや組織サーベイは、経営陣や人事が活用するだけではなく、現場のマネジメントでも使っていくことで、組織改善の成果を最大化することができます。現場で活用していく上での最大のポイントは「従業員にとってのメリットが伝わっているか」という点です。現場が自分たちでも使いたいと思うために、組織診断ツール・組織サーベイの調査だけではなく、組織で活用するための活用プランを描くことが重要です。

組織診断ツール・組織サーベイの成果を最大化する活用プランの設計

組織診断ツールや組織サーベイは慣れると非常に活用しやすいものですが、慣れるまでは「やることが増えた」「やって意味があるのか」「成績表なのではないか」などと誤解を受けやすいことも事実です。そのため、現場へ浸透させるためには、段階を追って組織を動かす活用プランを描くことが重要になります。組織の状態や風土に合わせてプランを描くことが重要になり、一足飛びでは「最大限使えている状態」にはなりません。活用プランのポイントは大きく分けて3つです。

①トップのコミットをもとに、段階的に広げていく
どの組織も、変わるためにはトップのコミットが欠かせません。ただ、最初からコミットを引き出しづらいこともあります。エンゲージメント調査の有用性や事例などをもとにトップのコミットを引き出していくことがスタートです。
そして、トップのコミットを引き出した上で、階層ごとに段階を踏みながら、現場の管理職に組織改善の責任を手渡していくことが重要です。ただ、責任を渡していったとしても、上位役職者が関わることを止めてはなりません。会社として組織や従業員に向き合う姿勢を示し続けることが重要になります。

②特定の部署で成功事例をつくる
組織改善は一朝一夕では実現しないため、成果が見えづらいことも悩みどころの一つです。だからこそ、最初から全ての組織を変えようとするのではなく、注力部署を絞った上で変革の成功事例を社内につくることが重要です。
特に改善が必要な組織や、改善したかったが停滞していた組織で変化が見られると、ナレッジも溜ままる上に、周囲の組織も「うちの部署も改善したい」と思うようになるため、結果として会社全体の改善に向けた温度感が高まります。

③事業成果と接続する
エンゲージメントを指標化した「ものさし」は企業活動のKPIになるものの、KGIではありません。だからこそ、組織改善が進み、成功事例がいくつか生まれ始めた際には、事業や計数に関わる成果と、組織診断の結果を接続していくことが重要です。
モチベーションクラウドでも、エンゲージメントスコアと事業成果との研究成果として発表していますが、各社や各職場での生産性や利益率などとの相関を検証することで、組織の変化がどのようにビジネスにつながっているかを把握することができます。

おわりに
~ここから世界で勝ち残っていくために必要な組織戦略~

戦後の高度経済成長期を経て、日本は急速に先進国の仲間入りを果たし、1960年代から80年代にかけては「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われるほど、日本企業の経営手法が高く評価されてきました。ただ、直近のグローバルの調査では、エンゲージメントの高い(熱意のある)社員の比率や生産性の高さで日本企業は遅れを取っていると言われています。また、今後一層の労働人口の減少が見込まれる中では、優秀な人材の確保や生産性向上はどの企業でも避けられない課題となっています。

日本企業の特徴は、技術力の高さや個々人の勤勉さ(学習意欲と読書習慣)だと言われてきました。ただ、決まったことを質を高く実施するだけでは勝てない時代に入ってきたことで、技術や個人の強みを掛け合わせる「組織」が重要な要素となっています。

欧米では個人主義が強いため、「個人をつなぎとめるための組織」という観点が過去から強く、エンゲージメントや組織開発に関して日本より10年先を進んでいます。一方で、日本企業はもともと組織社会で、空気を読むような阿吽の呼吸が大事にされてきたからこそ、組織を科学されてきませんでした。

コロナ禍の中、テレワークが普及し、マネジメントの難易度が高まっているという危機感から、組織診断へのニーズが高まっています。これまでの勘と経験を組織の学びにつなげる「組織診断」(エンゲージメントサーベイ)が今後の日本企業の成長の鍵を握ると考えています。

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