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「組織風土づくりから始める行政経営改革」
現場まで巻き込んだ
エンゲージメントによる取り組み

加東市

まちづくり政策部 部長 藤原 英樹 氏
まちづくり政策部 人事課 課長 阿江 英俊 氏 
まちづくり政策部 人事課 副課長 井上 真紀 氏
事業内容

行政サービス

業種 その他

自治体規模

301名~500名

導入規模

301名~500名

期待

  • 現場主導で組織改善が実現できる状態をつくりたい

  • 受け身で閉塞的な風土から、活発で挑戦的な風土にしていきたい

  • 上下の階層間コミュニケーションを活性化させたい

効果

  • 部長から係長までを対象とした月1回の共有会や改善アクション状況確認を行い、全庁的な改善サイクルが回るようになっている

  • 管理職向けの1on1研修により、「面談の進め方が言語化され、実践しやすくなった」という声が出ている

  • 係長が現場と管理職のコミュニケーションをつなぐ結節点となり、組織改善に主体的に取り組んでいる

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組織風土改革は「選ばれる職場」づくりに向けた一丁目一番地

「加東市の概要と人事課の役割」

井上氏:加東市は、兵庫県の中央部に位置しており、高速道路や国道が通っているため、大阪・神戸・姫路といった大都市にも車で1時間ほどで行ける利便性の高い街です。また、市内には豊かな自然もありながら、病院や様々なお店が揃っています。住みよさを表す4指標について偏差値を算出した「住みよさランキング」では県内2位にもなりました。

加東市役所では、小中一貫教育や都市基盤整備などの政策と並行して、「選ばれる職場」「働き続けたい職場」をつくる組織風土改革に注力しています。

まちづくり政策部としては、組織風土改革に加えて、今年度から本格的に始めた「行政経営改革」も進めながら、加東市役所そのものを変えていこうと取り組んでいます。

阿江氏:私は、人事課長を務めています。人事課の中でも、組織風土改革というのは「選ばれる職場」「働き続けたい職場」に向けた一丁目一番地という心構えで取り組んでおります。

井上氏:私は人事課で副課長を務めています。モチベーションクラウド エンゲージメントを導入した2年目から、組織風土改革の取り組みをメインで担当しており、現在では人事制度の運用や人事評価の担当もしております。

組織の閉塞感・退職者、休職者の増加に対する問題意識があった

「エンゲージメントに注目したきっかけ」

藤原氏:私は元々人事課に所属していましたが、一度他部署への異動を経験したのち、6年前に人事課長として戻ってきました。その際、組織全体に閉塞感が漂っているのを強く感じていました。風通しが必ずしも良いとは言えず、職員がいきいき働けていない、仕事を楽しめていない様子が目についたのです。さらに当時は、若手や管理職手前の層の退職者も増えており、全庁的な課題となっていました。

かつては公務員の定年前の退職は多くありませんでしたが、その頃から若手職員が職場を離れるケースが目立つようになってきました。退職だけでなく、メンタル不調による休職者も増え始めてきて、「このままではいけない」という強い危機感を感じていました。

職員の働きぶりを見ていても、どこか苦しそうな様子があると感じていました。「加東市を良くしたい」という熱意が感じられないような状態になっていたのです。職員一人ひとりが、組織への愛着や仕事への前向きな思いを持てる環境を整えたいと、ずっと考えていました。

人事課として様々な方法を模索していた中で、エンゲージメントという考え方を知りました。組織への愛着度や仕事への熱意を高めるという考え方は、まさに当時の加東市に不足しているものと重なるものでした。丁寧に説明を受けるうちに、「これなら閉塞感や退職者、休職者の増加といった課題に正面から取り組めるかもしれない」と感じるようになり、エンゲージメントサーベイの導入を決めました。

測定だけでなく、改善に向けた伴走支援をできることが魅力的だった

「モチベーションクラウド エンゲージメントを選んだ背景」

藤原氏:当時、組織のエンゲージメントを数値化するサービスはいくつかあり、様々な会社の話を伺ってました。しかし、ほとんどの会社のエンゲージメントサーベイは「数値を出して、改善は自分たちで行う」という印象で、組織状態を把握した後、どのように改善へつなげていくのか、具体像が見えにくいと感じていました。

その点、リンクアンドモチベーションは数値を出して終わりではなく、改善に向けたアクションの実行や改善までのプロセスを示してくださり、伴走しながら支援してくれると感じました。当時の私たちには、エンゲージメントを高めるためのノウハウがほとんどなかったため、「測るだけではなく、一緒に改善まで走ってくれる」という点が導入の大きな決め手となりました。

導入時期がちょうどコロナ禍だったため、オンラインで説明を受けたのですが、担当コンサルタントの方が毎回いきいきと話してくださる姿も非常に印象的でした。「この人たちのように、うちの職員も前向きに働けるようになってほしい」と自然と思えたことも、決め手となった理由の一つです。

挨拶から始まった、地道な組織風土改革

「サーベイ結果を受けて」

藤原氏:初めてのサーベイ結果は、非常に厳しい結果でした。ある程度覚悟はしていたため、「やっぱりそうか」という結果への納得感と、「ここから本当に上げていけるのか」という改善に向けた不安が、同時に湧いてきたのを覚えています。

まずは、部長層を対象に毎月の共有会を開き、「挨拶をきちんとする」「部下を認めて言葉にする」といった、学校の目標のような基本的な取り組みから始めました。正直、「こんなことで変わるのだろうか」という思いもありましたが、当時の組織ではこうした基本的なことが十分にできていなかったのだと思います。

サーベイで組織状態が可視化され、世の中と相対化されたことで、「当たり前のことをきちんとやる」という共通認識が生まれました。その気づきを踏まえ、一人ひとりが日頃の挨拶や部下への承認といった小さな行動を意識的に積み重ねていった結果、部長会の雰囲気がどんどん良くなり、エンゲージメントスコアも少しずつ高まっていきました。大胆な改革を行ったわけではないですが、基本的な部分から一つずつ積み重ねてきたことが、結果に繋がってきていると実感しています。

係長層が「自分たちの手で組織を良くしていける」と前向きに捉えるようになった

「具体的な取り組み」

井上氏:現在では、部長層だけでなく、課長層や係長層も対象に広げ、階層ごとの説明会を実施しています。その場ではリンクアンドモチベーションから、サーベイ結果の解説だけでなく、「今後どのような打ち手が考えられるか」まで丁寧に共有してもらっています。説明会後は、各課・係が2週間以内にモチベーションクラウド エンゲージメント上へ自部署のアクションプランを登録し、月1回、事務局が主催する共有会で進捗を確認しています。1日がかりの運営で事務局にかかる負担は大きいですが、やりっぱなしにせず、全庁で継続していくためには非常に重要な場だと感じています。

結果を共有する対象を係長まで広げたことで、35歳前後の係長層には「新しいことにチャレンジしたい」という意欲を持つ人が多いことが新たに見えてきました。ある係では、それまで実施していなかった係内での定例打ち合わせを行い、職員から出た意見を係長が取りまとめて管理職に伝える仕組みをつくったそうです。「自分たちの手で組織を良くしていける」と前向きに捉え、変わっていく姿を見て、係長層まで対象を広げて本当によかったと感じています。

係長主体で動いてもらうことで、一般職の声が管理職に届きやすくなり、エンゲージメントスコアが大きく改善した係も出てきました。課単位では規模が大きく取り組みづらいテーマでも、係という小さな単位であれば柔軟に動ける。その積み重ねが、着実な組織改善につながっていると実感しています。

階層ごとの課題に応じて、注力する施策を変えていく

「その他の取り組み」

井上氏:係長層への結果共有だけでなく、他にも様々な取り組みを行っています。その1つが、部長と副課長・係長、課長と主査、副課長と主事といったように、間の階層を一つ飛ばした1on1の実施です。普段、直接話す機会が少ない組み合わせだからこそ、お互いの本音が出やすく、貴重なコミュニケーションの場になっていると感じています。

特に、部長と係長の1on1は大きな効果がありました。これまで部長と係長が直接話す機会はほとんどなかったため、係長からは「部長に直接意見を伝えられてよかった」といった前向きな声が多く寄せられています。

阿江氏:また、管理職向けの1on1研修も実施しました。これまで業務進捗を確認するための1on1は行われていたものの、「職員の成長」に焦点を当てた1on1はなかなかありませんでした。

研修では、講師の方から1on1の具体的な進め方や職員に対する問いかけの方法を教えていただきます。進め方が分からない管理職の方は、まずはその手順に沿って実践してみるところから始めています。私自身、受講してみて、これまで感覚的に行っていた部分が言語化され、非常に学びの多い機会になりました。

井上氏:管理職層への取り組みに加え、若手職員のエンゲージメント向上にも取り組んでいます。サーベイ結果を見ると、入庁1年目のエンゲージメントスコアは非常に高い一方で、2年目・3年目になるにつれ大きく下がる傾向が見られました。そこで、働くうえでのスタンスを早い段階でしっかり身につけてもらうことを目的に、新人が入庁した4月にビジネススタンス研修を実施しています。

この研修を始めて2年ほどたちますが、早くもその成果を感じています。研修を受けた後は、1年目の高いスコアが比較的維持されている印象です。入庁して間もない段階で「働くスタンス」を言語化して伝えることが、2年目・3年目のエンゲージメント低下の防止につながっていると考えています。

前向きに仕事に取り組む若手が増え、管理職とのコミュニケーションも変化が見られるようになった

「取り組みを通じて実感している成果」

藤原氏:取り組みを進めてきた中では、エンゲージメントスコアの改善にとどまらず、組織全体の雰囲気が大きく変わってきたと感じています。以前は組織全体に閉塞感が漂っていましたが、最近は若い職員の中でも、元気に、前向きに仕事へ取り組む人が増えてきたと感じています。

また、管理職のスタイルにも変化が表れています。上から引っ張るだけではなく、職員を尊重しながらコミュニケーションを取る姿勢が少しずつ広がってきました。「若手がいきいきしてきた」「上司との会話が変わった」という声は、私自身の肌感覚としても強く感じています。

自分たちだけでは思いつかない視点でのアドバイスが、大きな支えになっている

「リンクアンドモチベーションの価値」

井上氏:結果の見方や打ち手を考える際の観点の提供だけでなく、「階層を飛ばした1on1を実施してみてはどうか」といった具体的なアドバイスもいただいています。自分たちだけでは思いつかない視点をもらえることは大きな支えになっており、非常に心強く感じています。

阿江氏:自治体には特有の組織文化や課題がありますが、そこに踏み込んだ分析をしていただける点も助かっています。また、管理職だけでなく、係長・主査・主事といった幅広い層の行動の変化を後押しするアドバイスもいただいています。

さらに、市役所としての理念浸透やブランドづくり、エンゲージメントを重要な業績評価指標として定着させる仕組みづくりなど、今後一緒に考えていきたいテーマについても相談させていただけている点は、非常にありがたいと思っています。

組織風土改革を土台に、行政経営改革を進展させていきたい

「今後の展望」

井上氏:継続的にエンゲージメントサーベイを実施してきた中で、係長になる直前の主査層が最もエンゲージメントが下がりやすい傾向があると感じています。主査層は入庁して十数年が経ち、周囲からは「何でも一人でできるだろう」と見られ、後輩の指導も担い始める時期です。係長になると自ら組織を動かせる範囲が広がり、仕事の楽しさも増えるのですが、その直前が最も負荷のかかるタイミングでもあります。だからこそ、今後はこの主査層へのアプローチを強め、意欲を持って監督職・管理職へとステップアップしてもらえるよう、取り組みを強化したいと考えています。

藤原氏:私たちの目的は、エンゲージメントスコアを高めることではありません。ゴールは最高の行政サービスを提供できる組織をつくることにあります。そのためにも、これまで進めてきた組織風土改革で培った土台をもとに、現在取り組んでいる行政経営改革を両輪で回していきたいと考えています。

「編集後記」

加東市の皆さまへの取材を通じて印象に残ったのは、組織をより良くしようとする真摯な想いが一貫して流れていることでした。閉塞感や退職者増といった課題に真正面から向き合い、挨拶や承認といった基本の徹底から丁寧に積み重ねてきた歩みは、まさに加東市の改革姿勢そのものです。

その裏側には、事務局が毎月の共有会や進捗確認を主導し、全庁の改善サイクルを着実に回し続けてきた粘り強い支援があります。部長・課長に加えて係長へと対象を広げ、階層を越えた1on1や定例ミーティングの導入など、現場の自発性を引き出す工夫も随所に見られました。特に係長層が主体的に動き始め、若手の前向きさが組織全体へ波及している点は大きな変化の兆しだと感じています。

組織風土改革と行政経営改革の両輪での取り組みを続け、加東市役所が市民へより良い行政サービスを届ける組織へと、今後も着実に歩みを進めていかれることを心より願っております。

※本事例中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。

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