

| 事業内容 | 行政サービス |
|---|---|
| 業種 | その他 |
|
自治体規模 |
2001名~ |
| 導入規模 | 1001名~2000名 |
属性別の詳細分析で課題の所在が明確になった
「宮城県の概要」
吉田氏:宮城県は人口約220万人と、東北地方で最も人口の多い自治体です。政令指定都市の仙台市もありながら、蔵王や三陸の自然も身近にあり、都心にも自然にもほどよく近い土地柄が魅力だと感じています。また、東京へは1時間半ほどで行くことができます。
私は総務部 行政経営企画課 働き方改革推進班の班長を務めています。当課では、県民も職員も満足する持続可能な行政運営を目指し、職員一人ひとりが高いモチベーションと生産性をもって働けるように、さまざまな施策を進めています。
当課が進めるさまざまな施策は、「みやぎ行政運営・働き方改革推進プラン」に基づいています。このプランは、社会情勢の変化に柔軟に対応するため、毎年度見直しを行う「アジャイル型」で運用しています。
具体的には、大きく4つの柱で取り組んでいます。
1つ目は「業務の生産性の向上とプロセスの改善」です。生成AIやノーコードツールを積極的に活用し、業務プロセスの抜本的な効率化を進めています。 2つ目は「働きやすい職場環境の整備」です。エンゲージメントサーベイによる組織状態の可視化や、テレワーク環境の充実に加え、若手職員が主導する「オフィス改革」などを推進しています。
さらに、3つ目の「多様な主体との連携」や、4つ目の「組織力の向上」として、所属を超えて得意分野で貢献する「庁内複業」の推進など、ハード・ソフトの両面から多角的に改革を進めています。
佐藤氏:私は、エンゲージメントサーベイのほか、オフィス改革を担当しています。自分たちの職場をどう良くするかを考え、提案を行い、実際の職場環境に反映される取り組みは、職員のモチベーション向上につながっていると感じています。

「取り組み前に感じていた課題感」
吉田氏:働き方改革において、一部の施策では効果を実感できている一方で、改革を進めるうえでの課題も感じていました。
一つ目が「指標の欠如」です。ペーパーレス化やDX化、在宅勤務などさまざまな施策を進めるなかで、監査委員から「働き方改革の効果を定量的に測る指標をつくってはどうか」という意見を頂いていました。しかし、これまで運用してきた指標の中には、適切な指標が見つけられていない状況でした。
例えば、「職員全体の時間外勤務の削減」は一つの指標にはなりますが、新型コロナウイルス感染症のようなイレギュラーな事象が起これば、職員の時間外勤務が増えることもあります。働き方改革の施策によって、どれくらい時間外勤務が削減できたのかを測定するのは難しく、「指標を設けたいものの、設けられていない」という状況が続いていました。
二つ目が「人材の確保と定着」です。日本全体で人口減少・少子高齢化が進み、人手不足が深刻化しています。こうした変化の中、宮城県庁でも若手職員の離職や休職、職員採用試験における応募者の減少などの課題を抱えていました。
このような状況を受け、公務員の仕事にもっと関心を持っていただき、より多くの若い人達に就職先として選んでいただくため、2024年10月に「職員確保緊急プラン」を策定しました。
「応募者確保」「多様な働き方の実現」「安心できるくらしの支援」という3つの柱が掲げられ、総務部として取り組めることをいろいろと考えていこうという機運が高まっていました。
三つ目が「マネジメント支援の不足」です。働き方改革を推進し、組織を変えていくためには、管理職が取り組みの目的や意義を理解し、職員に対して働きかけていくことが不可欠です。
しかし、これまでの管理職向けのマネジメント支援は、管理職に昇任したタイミングで受講する階層別研修が主なもので、必ずしも十分とは言えないものでした。
実際に、管理職である総括課長補佐や課長の方々に話を聞く中で、多くの方がマネジメントの難しさを感じていることが分かり、管理職に対するマネジメント支援の体制を整える必要があると強く感じるようになりました。
「モチベーションクラウド導入の背景」
吉田氏:これらの課題を解決するためには、まずは組織状態を把握するための”ものさし”を持つことが必要でした。そのための手段として、私たちはエンゲージメントサーベイに注目しました。
多くの民間企業で活用が進んでいることは認識していましたが、調査を進める中で、自治体でもエンゲージメントサーベイを組織改善に活かしている事例があることが分かりました。
このような事例も参考にしながら検討を進める中で、宮城県でもエンゲージメント調査と調査結果に基づく組織改善を実施することとなり、プロポーザル方式による公募を実施しました。
公募の結果、「モチベーションクラウドエンゲージメント」を提供する株式会社リンクアンドモチベーションを選定しました。詳細な評価についてはお伝えできませんが、単なる調査だけでなく、組織課題を分析し、具体的なアクションプランを策定するなど、充実した改善支援を行っていただけるところや、継続的な改善に向けたフォロー体制が充実している点が高く評価されました。
行政組織には、民間企業とは異なる独自の文化や考え方があると思いますが、リンクアンドモチベーションは、兵庫県や札幌市、四條畷市など、先行する自治体での実績もお持ちです。行政組織への深い理解に基づき、課題に対する打ち手の提案から現場でのアクションプランの実行まで一貫して伴走していただける点は、非常にありがたいなと感じています。

「サーベイを実施して見えてきた課題・気づき」
吉田氏:今年度は、実施初年度ということもあり、まずは試行的に総務部と水産林政部の2部、約1,000名の職員を対象に実施しました。総務部は人事課や財政課など、県庁全体を支える部局という位置づけです。水産林政部は事務職だけでなく技術職も多いことに加え、地方公所も多く持つ部局ですので、初めて試行する部局として最適だろうと判断しました。
実際にサーベイを実施してみて一番良かった点は、各組織における課題が可視化できたことです。これまで抽象的だった組織の健康状態が、エンゲージメントスコアや期待度、満足度という具体的な数値で分かるようになりました。さらに、所属別だけでなく、職種や職員区分など属性別でも分析することができるため、「組織のどこに課題があるのか」が詳細に可視化できました。
総務部と水産林政部の部長に、県全体の結果とそれぞれの部の結果を伝えたところ、「この結果は非常に面白い」と評価していました。これまで感覚的に捉えていた部分が、さまざまな切り口で可視化されている点を、好意的に受け止めていると感じています。
部長への説明後は、各所属長に向けて、結果を共有しました。総務部と水産林政部であわせて47所属がありますが、所属ごとに強みや弱みは異なると考えています。各所属でどのような打ち手を打っていくかについては、今後リンクアンドモチベーションとの対話を通して、一緒に考えながら進めていく予定です。
また、2026年2月には2回目のサーベイ実施も予定しています。各職場で改善に向けて取り組んでいることが、どのような変化として表れるのかをとても楽しみにしています。
「今後の展望」
吉田氏:今年度は試行という位置づけですが、取り組みの効果を分析したうえで、2026年度には全庁展開を目指し、全組織・全職員のエンゲージメント向上に取り組んでいきたいと考えています。
今回2つの部で実施しただけでも、強みや弱み、打ち手が部局ごとや所属ごとに明確に違うことが分かりました。一つの組織で効果があった打ち手が、そのまま他の組織に当てはまるとは限りません。全庁でサーベイを実施し、それぞれの組織課題に合わせた打ち手に取り組んでいくことで、県庁全体のエンゲージメントを高めていきたいと思っています。
私と同じ班長職の結果を見てみると、想定していたよりもエンゲージメントスコアがやや低いと感じました。若い職員にとって「班長に憧れる」という感覚は、以前ほど強くないのかもしれませんが、私自身は班長をとてもやりがいのある仕事だと感じています。
日頃から、班長の仕事の意義ややりがいを伝えていくことで、「班長を目指したい」「もっと成長したい」といった機運を少しでも高められるとよいなと考えています。
佐藤氏:私は班長よりも若手に近い立場ですが、仕事をおもしろくしていくためには、受動的に何かを与えられるのを待つだけではなく、能動的におもしろくなるように自分から仕掛けていくことも大事だと考えています。自分の意見を出せる場や、チャレンジできる仕掛けを積極的に作り、「県庁で働くっておもしろいな!」と思えるような環境づくりに取り組んでいきたいです。

吉田氏:長期的には、庁内にエンゲージメントの高い組織を増やすことで、職員の離職率を改善し、労働生産性を向上させたいと考えています。加えて、学生の皆さんにも「宮城県庁で働きたい!」と思ってもらえるような情報発信を行い、採用試験の応募者数を増やしたいとも考えています。最終的には、こうした取り組みを通じて職員の働きがいと働きやすさを高め、その先にある県民サービスの向上につなげていきたいと考えています。
リンクアンドモチベーションには、他自治体での先行事例などの知見を提供していただきながら、より深い分析や具体的かつ効果的な解決策の提示をお願いしたいと思っています。
サーベイを一度実施して終わりにするのではなく、組織改善のサイクルを継続的に回しながら、「選ばれる組織」に向けた挑戦を続けていきます。
