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「ささやけば、自ら考え動き出す組織」へ
札幌市が進める、全庁横断の組織改善

札幌市

総務局 行政部改革推進室推進課 総括係長 小形 友志 氏
総務局 行政部改革推進室推進課 推進担当係長 松下 龍大 氏 
総務局 行政部改革推進室推進課 平山 奨 氏 

事業内容 行政サービス
業種 その他

自治体規模

2001名~

導入規模

2001名~

期待

  • 若手層と中堅層の退職増加や採用倍率低下の原因を可視化したい

  • 管理職のマネジメント力を向上させたい

  • 部署ごとの改善や全庁横断の制度改革に取り組んでいきたい

効果

  • 人材危機に対する打ち手とその効果をモニタリングできる基盤作りが順調に進んでいる
  • 各種施策を通じて、管理職を中心に行動変容が進んでいる

  • 新しい人事制度が立ち上がり、活用が進んでいる

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北海道内人口の約4割が集まる中心都市

「札幌市の概要と改革推進室の役割」

小形氏:札幌市は人口約197万人、道内人口の約4割が集まる北海道の行政・経済・文化の中心地であり、行政需要も大きいです。広域自治体でもあるため、市内には区役所が10区点在しています。一方、平均年間降雪量は約5メートルにも及ぶなど、世界の都市の中でも珍しい豪雪都市という特徴があります。そのため、雪対策は市民の最大の関心事の一つであり、除雪費用は財政面でも大きな割合を占めています。私は総務局 行政部改革推進室推進課の総括係長を務めています。私たちは、市役所全体の組織改革や 行政サービスの変革を担っています。最近は退職者の増加や採用倍率の低下もあり、市民サービスの変革と同時に「選ばれる職場」「働き続けたい職場」づくりも大きなテーマになっています。

松下氏:私は改革推進室推進課で推進担当係長を務めています。「札幌市人材マネジメント方針」における取組の一つにもなっているエンゲージメント事業を担当しています。

平山氏:私も改革推進室に所属しており、エンゲージメント事業を担当しております。現場の職員やリンクアンドモチベーションとのコミュニケーションを担う窓口としての役割を担っています。

若手・中堅の退職と採用倍率の低下に対する打ち手を探していた

エンゲージメントに注目したきっかけ」

小形氏:私たちがエンゲージメントに注目した理由は2つあります。1つ目は、若手職員や中堅職員による退職者の増加です。元々、若手職員の退職に対しては課題意識がありましたが、最近では30代や係長級の職員など、これからの札幌市の中核を担っていってほしい方々の退職も目立つようになってきました。2つ目が採用倍率の低下です。元々、札幌市においては、大卒・事務職の採用倍率が10倍以上を記録していました。しかし、人口減少や少子高齢化の影響を受け、今では事務職の倍率は3倍近くまで低下している状況です。応募者の減少だけでなく、内定辞退も目立つ傾向にあり、「このままでは人が確保できず、今の行政サービスを維持できなくなる」という危機感がありました。

平山氏:エンゲージメントサーベイの導入前は応募者が減り、退職者がじわじわ増えている状態が続いているのにも関わらず、決定的な打ち手がありませんでした。また、自分たちで考えた打ち手も、効果につながっているのかどうかも分かっておらず、何から手を付ければ良いのかわからないという状況でした。

小形氏:こうした状況の中、改革推進室内の職員が「民間企業では、エンゲージメントを中心に組織づくりを行っている」という情報を共有してくれました。そして様々な情報を集めるうちに、国としても注目度が高い指標であることや民間企業の事例なども調べる中で、「札幌市でもエンゲージメント向上に取り組んでみよう」と判断しました。    

"辞めさせないためのサービス"ではなく"選ばれる組織を実現できるサービス"が欲しかった

「モチベーションクラウド エンゲージメントを選んだ決め手」

松下氏:人や組織に関するサービスにはさまざまな種類があります。個人のコンディションを日々チェックして退職リスクの高い職員を検知するようなサービスや、組織状態を可視化するようなサービスなどがあります。私たちが目指していたのは、職員が辞めないようにフォローしていくことよりも、職員が働きがいを感じながら、「ここで働き続けたい」と思えるような組織づくりを行うことでした。目指す姿を実現するためには、エンゲージメントサーベイの導入が最適だと感じ、プロポーザル方式での公募を行いました。

小形氏:プロポーザルの結果、リンクアンドモチベーションの「モチベーションクラウドエンゲージメント」が導入されることとなりました。リンクアンドモチベーションの民間企業における支援実績や組織人事に関する知見の深さ、組織改善に向けたコンサルティング能力の高さなどがプロポーザルでは高く評価され、契約となりました。我々としても、サーベイ結果を軸にしながら、いかに改善に向けたアクションを取れるかが重要になってくる中で、改善に向けた打ち手を一緒になって考え、伴走してくれるリンクアンドモチベーションにとても助けられています。

松下氏:エンゲージメントサーベイの導入にあたっては、組織全体が活力にあふれ、職員がやりがいを感じながら自律的に動ける職場をつくっていきたいと考えていました。そのためには「辞めさせないためのサービス」ではなく、「選ばれる組織づくりを実現できるサービス」が必要でした。その点では、モチベーションクラウド エンゲージメントは、やりたかったことを実現できるサービスであると感じています。

市長・副市長が参加する報告会

「改善に向けた取組」

松下氏:サーベイの結果が出て、最初に行うのが市長・副市長の経営層及び人事管理部門への報告です。リンクアンドモチベーションのコンサルタントの方と一緒に結果を共有し、分析や改善に向けた意見交換を実施しています。

小形氏:意見交換の場では、毎回活発な議論が繰り広げられています。市長や副市長から様々な質問が寄せられ、より良い組織づくりに向けた前向きな議論の場になっていると感じています。

松下氏:リンクアンドモチベーションとの意見交換は想定以上に盛り上がり、時間の制限がなければまだまだ議論が続けられたと思えるほどで、経営層の関心の高さが伺えました。

また、報告会の後には、管理職を主な対象としたセミナーを開催しています。結果共有に加え、その年ごとのテーマを設定し、リンクアンドモチベーションからご講演いただいています。参加者アンケートでは、99%が「満足」と回答したほか、「エンゲージメントサーベイを始めてから、上司がマネジメントを気にしているのが実感できた」という声もありました。初年度約200人だった参加者数は、オンライン同時配信も始めた3年目である令和7年には約450人まで増加するなど、管理職のエンゲージメントに対する理解が広がっていると感じています。

平山氏:今年度は、新たに若手職員向けのセミナーも開催しました。若手職員から「何のためにサーベイに回答するのか分からない」という声も聞こえていたことから、エンゲージメントの意義を理解してもらうために開催したもので、若手自身が職場のエンゲージメントを高める視点を持ち、自分たちの働き方を主体的に考えるきっかけになったと感じています。

松下氏:また、部署別のセミナーや個別相談会も行っています。各部課の管理職が参加し、「自部署のスコアを踏まえてこのような組織目標を立てているが、これで良いのか」など、各組織の課題に応じた相談ができる機会を設けています。試行錯誤しながらも「自分の部署を良くしたい」と真剣に悩む管理職の姿をたくさん目にしました。そうした姿を間近で見ることで、「管理職もここまで考えているんだ」と私たち事務局にとって大きな励みになっています。

対話の積み重ねによって、挑戦する姿勢が伝わった

「その他の取組」

平山氏:今年度からは、各課にエンゲージメント向上のためのアクションプランを設定してもらい、その内容を一般職員にも共有してもらうよう働きかけを行いました。管理職のみが結果を見て終わるのではなく、「組織として何を変えていくのか」をメンバーが認識し、行動変容につなげていくことが狙いです。

小形氏:他にも、市としては局・部・課ごとに「組織目標」を策定して掲げる取組を進めてきました。サーベイ結果からは、目の前の業務が組織全体とどうつながっているのかを実感しづらい、という課題が見えてきたためです。そこでまず、総務局で部・課単位の組織目標を先行して策定。さらにその目標を、個人の目標へと落とし込んでいく取組を開始しました。

松下氏:総務局での取組や改善事例を足がかりに、現在では全庁で課単位にまで「組織目標」を掲げる動きが広がっています。こうした積み重ねを通じて、組織全体が良い方向に向かっている実感があります。

平山氏:エンゲージメント向上の一環として、人事部門と連携しながら「庁内インターンシップ」や「ジョブチャレンジ」といった制度も立ち上げました。庁内に異動希望や新しいチャレンジの機会を生み出すことで、実際にそれらを活用する職員も増えてきています。トライアンドエラーを重ねつつ、制度面からも“選ばれる職場づくり”を進めているところです。

小形氏:職員からも「最近、改革推進室や職員部がいろいろ改革しているよね」という声も聞かれるようになりました。 こうした変化の背景には、サーベイを通じて課題が見える化したことや、リンクアンドモチベーションのコンサルティングを通じて施策の検討を進めやすくなったことが大きいと感じています。  

共感度の高い人を巻き込みながら、小さな成功事例を作っていく

「実感している成果」

小形氏:単に報告会を実施するだけでなく、事務局・人事部門・経営層との打ち合わせの様子を庁内ホームページなどを通じて積極的に発信してきました。そのおかげで、エンゲージメントという概念、エンゲージメント向上に対する関心が少しずつ庁内に広がってきたと実感しています。

松下氏:今では、会議の中で「その施策をやると、エンゲージメントが高まりそうだね」という会話が自然に交わされるようになっており、エンゲージメントが組織状態を語るための「共通言語」として浸透しつつあると感じています。エンゲージメントだけでなく、どんな取組に対しても捉え方・考え方は人それぞれだと思います。ただ、どんな取組にも共感してくれる人は一定数いるはずなので、まずは取組に賛同してくれる人、意欲のある人を巻き込んで一歩踏み出す、スモールスタートが重要だと思います。自分の周りに「エンゲージメント」という言葉を使う人が増え、組織をより良くしていこうとする人が見えてくればくるほど、この取組の捉え方がポジティブになる人も増えてくるはずです。

小形氏:導入初年度のエンゲージメントスコアは全国平均を下回っており、スタート時点では「思っていたより低い数値だな」というのが率直な印象でした。そこから少しずつ改善に向けた取組を積み重ねた結果、現在では3年連続でスコアが上昇し、全国平均を上回る水準にまで高まっています。

エンゲージメント向上に取り組む中で日々実感しているのは、「きちんと伝えれば、人は変わってくれる」ということです。市役所ではジョブローテーションが多く、係長職の昇任試験も、主に筆記試験や面接試験等になっています。そのため、日々の業務を通じてマネジメント能力を高める部分は、本人の努力に委ねられていたところがありました。

しかし、リンクアンドモチベーションから、日々のマネジメントで活用できる考え方やフレームワークを学び、それを管理職の方々に共有すると、皆さんすぐに実践へ移してくれました。行動が変わり、その変化が組織全体に波及していくことで、エンゲージメントが着実に高まっていく。そのプロセスを目の当たりにできたことは、とても印象に残っています。

平山氏:この3年間取り組んできた中で、課題に応じた打ち手を講じれば、エンゲージメントは着実に高まるという手応えを強く感じています。もちろん、まだまだ伸びしろはありますが、組織状態に合わせて適切な仕掛けを行えば、きちんと結果に表れる。直近のスコアの変化を見ても、その感覚は一層大きくなっています。

「ささやけば、自ら考え動き出す組織」を目指したい

「目指す組織像」

平山氏:札幌市の大きな課題は、係長職のエンゲージメントが低いことです。係長は管理職と一般職の間に位置する役職で、負荷もかかるポジションですが、本来は非常にやりがいのある役割だと思っています。「係長は楽しくチャレンジできる仕事だ!」と皆が思えるように、人事部門とも共通認識を持って取り組んでいきたいと考えています。

松下氏:改革推進室のエンゲージメントスコアは非常に高いスコアで推移していて、実際に私自身もとても楽しく働けています。普段からコミュニケーションが活発で、日常の雑談から出たアイデアが実際の施策に反映されることも非常に多いです。同じようにエンゲージメントの高い組織を、市役所全体に広げていきたいと思っています。

小形氏:私たちが目指したいのは「ささやけば、自ら考え動き出す組織」です。大声で指示しなくても、組織の目的や意義がしっかり行き渡り、声をかけるだけで各組織が自律的に動き出す状態を目標にしています。

松下氏:そのためにも、今の取組を単発で終わらせず、サーベイ結果を見ながら「次は何を試そうか」と継続的に新しい打ち手を模索し続けることが重要だと考えています。リンクアンドモチベーションにこれからも新しい視点や事例を提供していただきながら、一緒に札幌市役所の未来の姿をデザインしていけると嬉しいです。

 

「編集後記」
今回のインタビューを通じて、札幌市役所の皆さまが「この組織を本気で良くしたい」という強い意志をもって組織改革に取り組んでいることを、ひしひしと感じました。市長・副市長参加の報告会、管理職向けセミナー、各課でのアクションプラン策定、さらにはジョブチャレンジ制度の立ち上げに至るまで、エンゲージメントを起点とした取組がこれほどまでに広がり、深まりを見せているのは、事務局の皆さまの揺るぎない姿勢があってこそだと思います。

「ささやけば、自ら考え動き出す組織」へ。札幌市役所はまさに今、変革の只中にあると感じます。

本取組が、より良い行政サービスと札幌市役所で働く喜びが両立する未来につながっていくことを心より願っております。

※本事例中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。

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