事業内容 | 中国(深セン)における、エプソンの生産拠点 商業・産業用インクジェットプリンター、オフィス・ホーム用インクジェットプリンター、液晶プロジェクター、産業用ロボットの製造組立、またインクジェットプリントヘッド・回路基板・金型・その他関連要素部品(プラスチック、メタル)を製造する。 |
---|---|
業種 | 機械・エレクトロニクス |
企業規模 |
2001名~ |
導入規模 | 2001名~ |
中国でも仕事に対する意識が変わりつつあるなかで、風通しの良い組織風土をつくっていきたかった。
環境変化を捉え、競争力を維持するためには組織風土変革が必要だった。
エンゲージメントが高い組織になるために必要な「ビジョン・戦略への納得と共感」と「良好な働く環境」について客観的指標でモニタリングしたかった。
事業部単位、部門単位、役職単位など、様々なセグメントでデータを見ることで、今まで曖昧だった組織課題の解像度を向上していける。
組織課題や、それに対するアクションを具体的に把握することができるので、忙しい管理職の大きな助けにしたい。
「事業内容」
内田氏:セイコーエプソンは、中国、インドネシア、フィリピンなどに大規模な生産拠点を構えています。そのうちの一つで、私たちESL(Epson Engineering (Shenzhen) Ltd.)は中国で一番大きな生産拠点です。こちらでは主に商業・産業用インクジェットプリンターやプリンターのメインパーツであるインクジェットプリントヘッド、液晶プロジェクター、産業用ロボットなどを生産しています。
そのなかで、私は董事長兼総経理(※)として、この生産拠点のオペレーションに対し統括的責任を担っています。
※中国において代表取締役会長兼社長に相当する役職
蔵本氏:この拠点では、約7,000人の従業員が働いています。そのなかには、日本からの出向者が40人ほどいます。私は彼らに関する人事業務や生活の支援を含めた総務業務に軸足を置きながら、現地での人事課題に対処する役割を担っています。
「モチベーションクラウド導入の背景」
内田氏:日本の本社では、社長の小川が就任以来、自由闊達なコミュニケーションがおこなわれる風通しの良い組織風土を目指し、モチベーションクラウドを活用しながら組織風土改革に取り組んでいます(※)。私自身、中国に来る前は、日本で事業部長として約3年、組織風土改革の活動に取り組んできました。
※ 参考:セイコーエプソン株式会社 導入事例
中国に来てみると、日本の本社が組織風土改革に着手したときの状況と近いものがあると感じました。日本と同じように、中国でも働き方改革の動きが見られるようになり、働く人の仕事に対する意識が変わりつつあるなかで、風通しの良い組織風土をつくっていく必要があると考えました。
そのためには、第一に現在の組織状態を正しく認識する必要があります。日本の本社でモチベーションクラウドの運用実績があり、効果も出ていましたので、そのまま中国で使えるならそれが一番だと考えました。ですから、迷うことなくリンクアンドモチベーション社に相談させていただいたというのが簡単な経緯になります。
今後、会社を新たなフェーズに進めるためには、従業員のマインドセットも含め、組織風土変革が非常に重要だと考えています。というのは、中国という国も、深センという場所も、非常に環境変化が早いからです。
環境変化をしっかりと捉え、それに適応するために変わっていかなければ、企業として競争力を維持することはできません。例えば、かつて当社は、「いいものをつくれば売れる」という信念に基づき、スペックを追い求めていた時期がありました。ですが、今はスペックだけでは差が付きにくい時代です。
にもかかわらず、従業員が昔のマインドセットのまま、昔と同じ対応をしていたら市場に取り残されてしまうでしょう。一人ひとりの従業員も外部環境からの刺激を受けて、「このままではダメだ」「もっとこうしていかなければ」といった意識を持たなければいけません。
たとえば、優秀な人材を確保するときも、サプライヤーとパートナーシップを組むときも、我々が環境変化をしっかり捉え、時代に合わせた対応・施策をしていかないとうまくいきませんし、問題も起きやすいと思います。
また、中国は人件費が上がっており、東南アジアなどと比べたとき、大規模な労働集約型の生産拠点であり続けることは難しい状況になってきています。こうした状況のなかで、「価値を発揮できる拠点になるにはどうしたらいいか?」と考えたとき、たどり着くのはやはり、従業員が変革のマインドセットを持つことです。そのためには、組織風土改革が必要であり、モチベーションクラウドの導入に至ったというのが大まかな背景です。
蔵本氏:2020年から開始した内製サーベイでは、同時期の日本の本社よりもスコアが高く出る傾向が見られ、さらにはスコアが毎年上がっている状態でした。結果を確認してみると、不満がない項目については満点をつけている人が多かったとわかりました。このまま調査を続けていても、ぼんやりとした課題認識から脱却できないと考え、このタイミングでグローバルで実績のある外部のサーベイを導入して、客観性の高いデータを得たいという狙いもありました。
「モチベーションクラウドの価値」
内田氏:モチベーションクラウドは、日本にいた頃から使わせていただいており、「第三者視点で定点観測ができるシステム」として、非常に有意義なものだと実感しています。
サーベイのデータを事業部単位で見たときと、部門単位で見たとき、役職単位で見たときでは、やはり結果が違っています。こうして様々なセグメントでデータを見ることで、今までボンヤリとしか見えていなかった課題の解像度が上がるので、それに対する打ち手も明確に見えてきます。
サーベイによって現状認識ができ、課題認識ができ、その課題に対して的確な取り組み方針を立てることができます。こうした一連のPDCAを回しながら、同じ視点で定点観測ができるのは、モチベーションクラウドの大きな価値ではないでしょうか。
蔵本氏:モチベーションクラウドでは、大別すると16領域で期待度と満足度を測るため、これまで抽象的に捉えていた組織課題を具体化・言語化できるというメリットがあると考えています。たくさんの仕事を抱えている現代の管理職にとって、組織課題の優先順位を定め、従業員と積極的にコミュニケーションをとるための大きな助けになっていると思います。
一方で、実施する国と地域に合った設問の表現は、まだまだ工夫できる余地があるとも考えています。設問によっては、現地の従業員が回答する際にイメージしにくいものがあることが分かりましたので、そのあたりは現地の人事総務メンバーが主体となって、設問の意図を理解してもらえるような活動も始めています。
「今後、モチベーションクラウドで実現したいこと」
内田氏:私は常々、「この会社をエンゲージメントの高い組織にしたい」と言っています。エンゲージメントの高い組織というのは噛み砕いて言えば、従業員一人ひとりが会社のビジョン・戦略を適切に理解し、自発的に自らの力を発揮して貢献しようとする意識・意欲が高い組織です。
こうした組織をつくるためには、まずビジョン・戦略が必要です。当社ESLには、これまで明確なビジョン・戦略がなかったので、昨年度にそれを策定しました。加えて、働きやすい環境が整っていることも重要です。この2つ、つまり「ビジョン・戦略に対する納得と共感」と「良好な働く環境」がどのくらいできているのか、あるいは、どのくらいできていないのかをモニタリングできるのがモチベーションクラウドだと思います。
今後も、モチベーションクラウドを活用して、エンゲージメントの高い組織をつくっていきたいと思っています。
蔵本氏:昨今、管理職に求められることが非常に増えています。特徴的なこととしては、ビジネスのマネジメントだけでなく、従業員一人ひとりと向き合い、部下の育成、支援なども担うことが求められるようになりました。また、管理職だけでなく、私たち人事部門も、従来の人事管理や労務管理だけでなく、人的資本経営やダイバーシティなども含め、仕事の範囲が広がっていきます。管理職・人事部門ともに、これまでの成功体験が通用しない時代になってきていると思います。
こうしたなかで、従業員がより働きやすい環境、より意欲的に働ける環境をつくっていくためには、従業員の声から会社の状態を的確に把握し、それらを施策に結びつけていくことが不可欠です。まずは、職場へ大きな影響力を発揮する管理職に対して、組織マネジメントに関する困りごとを軽減できるような施策を講じていきたいと思っています。
内田氏:「日本では会社に就職するのに対し、中国では職に就職する」と、言われることがあります。これは私も感じるところであり、実際に、当社の従業員は、この会社が好きだからという理由で入ってきた人は少ないと思いますし、会社への帰属意識は日本の従業員に比べて低い傾向があると思います。
同じ「職」ができる場所は他にもたくさんあります。だからこそ、入社した後、いかに「この会社で仕事を続けたい」「ずっとここで働きたい」と思ってもらえるかが重要です。優秀な人材に長く働いてもらうためには、その人がやりたい職種であることを大前提にしながら、賃金だけでなく、環境も良くしていかなければいけませんし、会社への誇りや思い入れをつくっていかなければいけません。
当社の従業員の能力・パフォーマンスは、エプソングループの他拠点と比べても全く引けを取らないし、むしろ優れている点が多いと思っています。セイコーエプソンが深センに拠点を置いた当初の目的は、人件費を抑えて生産量を増やすことでしたが、人件費が高騰する今、深センではその目的を達成できなくなりつつあります。そうなると、より人件費が安いインドネシアやフィリピンの拠点が重視されるようになるかもしれません。
しかし、それではせっかく当社がこれまで培ってきた技術を生かし切れなくなってしまいます。それは非常にもったいないことですし、セイコーエプソングループ全体にとっても良いことではないはずです。
そうならないようにするには、私たち経営陣だけでなく、従業員も意識や行動を変えていく必要があります。本社に指示されたことだけを愚直にやるのではなく、新しいことにチャレンジしたり、新技術を導入したりしていかなければいけません。こうした実績を積むことで、本社に対して「深センなら、日本ではできないこういうことができますよ」といった提案をすることができます。そうなったら、「深センにどんどん活躍してもらおう」「もっと任せてみよう」と思ってもらえるかもしれません。こうした変革を促していくことが、私の重要な役割の一つだと思っています。